「おじいちゃん…ぱぱは?」
「ぱぱは、今日は残業だそうです…」
「ざん、ぎょう?おそくなるの…?」
「えぇそうです。だからおじいちゃんと一緒に待ちましょう」
「うん」
日が沈み、辺りは真っ暗になった頃。とそのお爺ちゃん、光明は縁側でお月見をしていた。
いつもならこの時間帯になると迎えに来る筈の存在が来ない。
そのことに疑問を持ったは静かに問う。苦笑する光明はその健気な姿に心打たれた。
「…寒くないですか?」
「うん。へいきだよ」
「寂しい、ですか…?」
「ううん。ぜんぜんへいきなのー」
「偉いですね、は」
先ほど掛かってきた電話。それは『急な残業が出来た』との事。
詳しい理由は聞いていないが今か今かと待つを背に、光明は胸が締め付けられるような感覚に陥った。
こんな小さな子に、しかも人一倍愛に飢えているに寂しい思いをさせてしまうのだ。
いくら光明が一緒だとは言え、はやはり三蔵が1番恋しいのだろう。
平気だと言い張り強がるはとても賢く、脆い。
それを誰よりもわかっているのは三蔵で、彼もまた苦しんでいるに違いない。
(あの子はに溺愛ですからねぇ…しょうがない子です)
一日中ずっと一緒に居る時間が少ないのに、さらに少なくなってしまった。
それはに、三蔵にもとって少なからず大きな打撃を与えているのだろう。
「ね、ぱぱが来たらおつかれさまって言うの!ぱぱ『ざんぎょう』で疲れてると思うから」
「そうですね。ぱぱはきっと喜びますよ」
「うん!だからね、寝ないでまってるの!」
「でも、あまりにも遅くなってしまった場合はちゃんと寝んねしないと、駄目ですよ?」
「へいき!はぱぱをまつのー!」
「はいはい。はぱぱが大好きなんですね」
「うん!ぱぱ大好きー!」
を引き取ってから初めての残業。はどう捉えているのだろうか。
置いていかれてしまったと悲しむだろうか。捨てられたと、泣いてしまうのではないだろうか。
時間が経てば経つにつれ光明の中で不安は大きくなっていった。
「こうして桃太郎は見事鬼を退治して帰りましたとさ…。おや?寝てしまいましたか」
「寝て、ない…よ」
「案外しぶといんですねは。そこら辺は江流そっくりですよ」
「ぱぱの、子だもん」
「もちろんですv」
ぱぱは?と聞いてきたのは最初の1回だけ。それを意味するものとは。
光明はそれに気がつくと、先ほどの不安が嘘のように無くなった。
この子は、
(なんて偉いんでしょうか)
きっと寂しさを押し殺して、涙を堪えているに違いない。
しかしそれを表には出さず、光明に心配かけまいとしている姿が、とても。とても。
感心せずにはいられない。こっちが逆に泣いてしまいそうだ。
「早く、お迎えに来るといいですね…」
愛情の深さを知った。親子愛と言う名の絆は実の親子ではなくても、深く千切れることを知らない。
まだ出逢って1年もしないのにまるで本当の親子のように、否、本当の親子より強いのではないのだろうか。
「今度は本当に、寝てしまったようですね」
隠しても隠し切れない表情は不安の色を示し、眠る事によってそれはハッキリと読み取れた。
どうか泣かないで欲しい。悪い夢など見ないで欲しい。二度と、悲しい思いなんて抱えないように暮らして欲しい。
光明が強く願った。願うことしか出来ない己を忌々しく思った。不甲斐ない。
でも、三蔵の代わりにはなれないから、だから。
「すみません、遅れましたっ!」
「江流…遅かったじゃないですか。も待ちくたびれて寝ちゃいましたよ?」
「…」
慌てて入ってきた三蔵は息を切らし若干汗ばんでいて、どのくらい急いでいたかを見て取れた。
それを見て光明は安堵の息を漏らす。やっと来たわが子は父親の顔をしていて。
しかしを待たせたことは許し難い。仕事だと分っているのだけれども。
「父さん、ありがとうございました」
「貴方も残業ご苦労様です。お茶でもどうです?先日観音から貰った物で、おいしいですよ」
「あの糞バ…俺が用意します」
「すみませんねぇ、お疲れのところを」
「・・・・・・」
聊か言動に棘がある様な気がしてならないのだが、三蔵は何か物を言える立場では無いのである。
早々に用意し終えると改めて光明とに向き合った。
「は、大丈夫でしたか?」
「……はね、さっきまでぱぱを待ってるって言い張って起きていたんです。
寂しく無いかと聞いても、『平気だよ』の一点張りで、私も目を見張る思いでした」
「……」
「それが強がりだと直ぐに分りました。もう、そんな思いはさせてはいけませんよ、江流」
「肝に銘じておきます」
光明が三蔵を見る眼も、三蔵がを見る眼も、愛おしい我が子を見つめる眼。
優しく説く光明は、2人を心底心配していて、それでいて見守る姿勢を見せた。
「は江流が大好きって言ってましたよ」
傍に居られない分、愛情をこれ程になく注いでいるのだろう。
それは2人を見ていれば十分伝わってくる。微笑ましい限りだと光明は微笑んだ。
そして、三蔵が来たことを分ったのだろうか、は先程の表情と一変して幸せそうな顔つきになった気がする。
そんなの頭を撫ぜて、少々後ろ髪を惹かれる思いで2人が帰るのを見送った。
「ぱぱ…おつかれ、さま…」
「あぁ。ただいま、」
三蔵の背で眠るは何の夢を見ているのだろうか。その寝顔を見る限り、きっと三蔵の夢を見ているに違いない。
今宵も儚き夢を
(そんなもの、見させない。寂しい思いをさせてしまったから、夢だけは良いものをみていて欲しいと願う)
ATOGAKI
悲しい夢など見ず、どうか幸せな夢を見てますように。
サブタイトル:おじいちゃんと一緒!それかおじいちゃんとお留守番!どっちでもいいよ!笑
光明サマがおじいちゃんってとっても羨ましいんですけど。いいなぁ・・・。
三蔵サマ、花に寂しい思いをさせてしまったようです。けしからん!笑
今回は前に言っていた様に、残業で迎えが遅くなるでした。きっと部下がなんかやらかしちゃったんでしょうね。
部下の尻拭いも上司の役目です。ははは。日本語が分らないんですが、『急な残業が出来た』と『急な残業が入った』どちらでしょう。(うましかw)
ってか花は強い子ですね。ぐずりもせず、なんて健気な!
アレ…?夢ネタって…(気にしたら負けだ)
お題配布元 : 構成物質様