ある日、が泣きながら帰ってきた。
その傍らには同じく泣きそうな顔をした悟空。
とても申し訳なさそうで、それでいて悔しそうに拳を握っていた。
玄関に佇む2人を見据え、とりあえず、出迎えた三蔵はワケを聞き出すことにしたのである。
「で、一体何があった?」
「それが…」
未だ泣き止まぬを抱きかかえながら、状況説明が出来る悟空に問う三蔵。
別に三蔵は腹を立てているわけではないのだが、しかし、悟空は口ごもりとても言い難そうに目をそらした。
一体、悟空がを連れて遊びに出かけた時に何があったと言うのだろうか。
こんな事は初めてで三蔵でも皆目検討がつかないと言った様子だ。
三蔵の腕の中でしゃくり上げて泣くは、三蔵のシャツを強く握り泣き止みそうもない。
もうお手上げ状態である。さすがの三蔵でも原因が分らなければ対処しようも無い現状だった。
「お前が泣かしたワケじゃねぇんだろ。だったら言える筈だろうが」
「そう、だけど…俺の力が足りなかったと言うか…っごめん!三蔵!」
「ハァ…別に謝って欲しいわけじゃねぇ。ワケを話せと言ってんだ」
「だから、その…っあー!思い出しただけでもムカツク!!」
突然喚き始めた悟空は頭を抱え、天井を仰いだ。
発狂寸前の悟空に心底ため息を吐きたい三蔵。だが、悟空から話を聞くと、腸がにえくりかえった。
「そのガキをぶっ殺してやる…!!!」
「待てって三蔵!落ち着けよ!!」
「落ち着いてやれるかっ!よりによってを…。殺す。ぜってぇ殺してやる…!」
「それは犯罪だってー!!」
完全に頭に血が上った三蔵は今にも駆け出しそうな勢いである。
が落ちないように悟空は支えつつ、三蔵を宥めかすがこれは相当危険な状態だ。
早急にこの完全にぶちギレた三蔵を止めなくては犯罪を犯してしまいそうである。
前科持ちの父親なんて、が可愛そうだ。それだけは阻止しなくてはならない。
悟空はこの場に八戒が居ない事をこれほど無く後悔したとか。
「なんでが泣かされなきゃいけねぇんだ!」
「最初は、ただ普通に遊んでただけなんだって!」
「じゃあなんでっ」
「あっちがいきなりしかけてきたんだよ!俺だってワケわかんねーし!!!」
既に取っ組み合いの喧嘩よろしくの2人はそっちのけでなおも続ける。いい年こいた大人が何を。
我を忘れて怒鳴る三蔵を押さえ込みながらも悟空は必死に止めようと押さえつけるのが精一杯だった。
「まさか、を殴るなんて思ってもみなかった、んだって!!」
「何故貴様はその場に居て止めなかったんだっ!!」
「いきなりだったから、俺も吃驚したんだ、よっ!!!」
「言い訳はいい!!はなせこの馬鹿猿!!」
「今離したらぜってー、後悔するし!!!!」
「るっせえ!!!ぶっ殺すぞ!!!」
「もーハリセンでもなんでも、うけるから兎に角、落ち着けって!が落ちちゃうだろ!!」
ピタリ。
悟空が発した事実により、三蔵は急に暴れるのをやめた。それに心底安堵する悟空。なんとか抑えることはできたようだ。
問題は必死にしがみついているである。こんな状況でも落ちなかった事が奇跡に近いと言えよう。
三蔵は我に返ると、縋りつくを抱きかかえななおした。
「悪かった…」
「うぅ…グス…喧嘩も、ヒック…駄目ぇ…ふぇ…」
「ハァ…も災難だよなぁ…こんな直ぐキレる父親を持ってさ」
「殺されてぇのか貴様」
「ホントの事じゃんか。そっちのけで何やってんだよ!」
「・・・・・・だから、悪かったって言ってんだろうが」
「まずはを宥めるのが先だろ!」
悟空の言い分も最もである。いくら理由がアレだからと言って我を忘れて犯罪に手を伸ばそうとするなんて。
しかし、これが親と言うもの。三蔵は大事な大事な娘を殴られて冷静で居られる筈が無いのだ。
しかもは、『殴られる』と言うことが1番タブーとされている事。
それを知っているからこそ、三蔵は憤り、悟空は後悔の念に囚われているのである。
「俺が仕返ししたって、親もいたし、加減できそうになかったし…
を抱きかかえて帰ってくるしかなかったんだ。ずっげー情けねぇ話だけどさ…」
「胸糞悪ィ…そのガキの親は何にも言わなかったのか?」
「それがさー…見てみぬ振りって言うか、なんかこっちが悪者扱いされるし」
「糞以下だな…」
「許せねぇ…!マジでムカツク!!」
「一発殴っておいても良いところだ」
「その事、俺も後悔してんだ…なんなんだよ、一体さ」
子も子で親も親である。一体どういう神経しているのだろうか。
如何見てもあっちに非があると言うのに、そんなにわが子が可愛いか。
悪いことをした子供を怒ろうともしないで、ましてや庇うなんて、どうかしてる。
思い出したらまた湧き上がってくる怒り。悟空は膝の上で握った拳に一層力を込めた。
「兎に角、遊んでいた所に行くぞ。まだ居るかもしれんからな」
「ど、どうすんだよ三蔵?まさか本当に殺すなんて…」
「言わねぇよ。ただ、落とし前はつけて貰わにゃならんからな…」
「・・・・・・」
恐ろしい。これ程になく恐ろしい三蔵の様子に悟空は身を竦めた。
静かに怒る三蔵。不気味だ。一体あの親子はどうなることやら。想像しただけでも震え上がるほどの怖さ。
子を思う親の情念とは末恐ろしいと学んだ悟空であった。
そして。いつの間にか泣き止み、眠ってしまっているを再度抱きなおす三蔵は徐に立ち上がる。
それに着いていく悟空は、これから起きる事に少々不安になったとか。
まぁあの親子にそてみれば、自業自得なのである。
「ココか?」
「そうだよ。あ!アレが例の親子!」
「人の娘を泣かしといて飄々と遊んでやがんのか…やっぱり殺して、」
「それだけは駄目だって!絶対!」
「分ってんだよそんくらい」
「いや、今にも殺りかねない空気纏って何言ってんだって」
問題の公園に着いた3人。喉かに時を刻むこの場所で、が泣かされた。
その事実だけが三蔵と悟空を突き動かすには十分すぎるくらいで。
2人は問題の親子に歩み寄ると早々に口を開いた。
「貴様のガキが、を泣かしたんだってな」
突然現れた三蔵に、母親は怪訝な様子で振り返る。
しかし、いかにも金持ちですーって感じの母親は三蔵を見た途端、目の色を変えた。
なんともまぁ、アレですね。
「しかも貴様は自分のガキが悪くないとほざき、あろうことかを悪者扱いするなんざ…沸いてんのか」
幼い子供を抱きかかえると言う、この男の見た目からして不釣合いな図なのだがそこがまた、恐怖を煽る。
しかし母親はと言うと、恐怖ではなく、違う感情を抱いているようなのだが…。
悟空は内心あきれ返った。正直者は表情にも出ているのだが母親は気付いていない様子だ。
「まぁ…そんな事ありませんでしたわよ?」
「嘘付くな!俺ちゃんと見てたんだからな!そっちがを虐めたところを!」
「人聞きの悪い事を仰らないでください。うちの息子がそんな野蛮な好意をすると思って?」
「現にしたからは泣いてんだ」
「証拠は無いでしょうに。いい加減にしないと訴えますわよ!」
「訴えたけりゃすればいいだろうが」
「他の人だって見てたんだからな!」
「そう…。ねぇ皆さん?私の息子があの子を殴ったと言う所を見ましたか?」
母親は自信満々に周りに居た保護者達に言い放った。
その1つ1つの仕草が気に障る悟空。金持ちとはみんなこうなのであろうか。
多分この母親は近所の保護者の中で1番偉い存在らしい。周りに居た保護者は目を反らしたのだ。
だが、母親は重大なミスに気がついていない。最初から三蔵に勝てる見込みなんてこれっぽっちも無かったのである。
「俺はいつ、娘が殴られたと言った?」
「なっ…!」
「やっぱ見てたんじゃん。嘘は駄目だぜおばさん!」
「おばっ!?」
慌てふためく母親。ボロがでて言い訳できなくなった姿はとっても滑稽だった。
こうも簡単に引っかかるとは…聊か拍子抜けである。所詮、金持ちでも一介の人間と言うこと。
この鬼畜生臭金髪に勝てる訳がない。
それを証拠に、不本意ではあるが三蔵の容姿に心奪われたママさん方は次々と真実を告げたのであった。
「ガキをココに連れて来い。同じ痛みを味合わせてやる…もちろん倍返しだ」
「ちょ、三蔵!それは駄目だって!」
「こうでもせんと気が治まらん」
「それは俺だってそうだけどさ…子供に手を上げる親なんて、悲しむだろ?」
それもそうだ。
特に『殴る』と言った行動が駄目ななのだから、
1番信頼する三蔵がその行為をしたと知ったら愛想を尽かしてしまうかもしれない。
最悪の場合嫌われてしまう可能性だって十分にあるのだ。
それが分らない三蔵ではない。なので、不完全燃焼な憤りを抑えることにした。
「チッ…次ぎはねぇからな。他のガキもだ」
「ホント、コイツおっかねーから気をつけた方が良いぜ!特にの事となるとな!」
事件は解決した、と思う。ので、三蔵と悟空は未だ爆睡中のを気遣い、早々に帰ることにした。
ママさん方は口惜しそうに言葉を投げかけると例の母親そっちのけで2人を見送ったのであった。
金持ちだからと威張り散らしているのは気に食わない。が、ちょっと哀れに思えた瞬間である。
3人は公園を後にすると帰路についた。
「一言余計だ馬鹿猿」
「ホントの事じゃんかー」
「うるせぇ。とっとと返るぞ」
「腹減ったー。今日は三蔵の家で飯くってこっと!にも謝りてぇし」
「またうるせぇのが増えるのか…」
今晩の献立は何かとか、のご飯食べるところを手伝いたいとか。
意気揚々と喋る悟空は心底楽しそうで。
背中で眠るといい、ご飯がお好きで何よりです。
「ぱぱぁ…きょーは、カレー…」
「お!が寝言いってる!しかもカレーかぁ…決まりだな三蔵!」
「ったく…貴様が騒いでるからだろうが。買出し行って来い、猿」
「えぇ!?俺だけかよー!も一緒に行こうぜ!」
「起こすな馬鹿猿!いいからさっさと行って来い」
「ちぇー。じゃあ、後でな!」
「静かに行け!!」
カードを持たせ悟空の背中を見送り、三蔵はため息を吐いた。
そうすると一気に静かになる帰り道。夕暮れ時の道は人気も少なく、すやすやと眠るの寝息が耳についた。
三蔵はを抱きなおし、自宅へと向かう。心地よい重量感と暖かさがとても、愛おしくて。
今夜は腕によりをかけてカレーをつくろうとか、最低でも10人前は用意しなくては、とか考えた。
「ったく…めんどくせぇな」
口元を僅かに緩ませ、呟いた。
「ぱぱぁ…大好きぃ…」
「人の気もしらねぇで…この馬鹿娘」
――泣きながら帰ってきたは何かを訴えているようで、聞いてるこちらとしては凄く胸が締め付けられる思いだった。
生まれてきて理不尽なものこさえて、それでいて気丈に振舞おうとするわが子。
シャツを握り締める手は震えていて力強く、しかし反対に脆く感じた。
守りたいと、思った。絶対に離さないと誓った。ずっと一緒にと、願った。
「お前が怖がるモノ全て、全部俺がぶち壊してやるから」
ありのままのお前を 俺によこせ。
こち率て来
(を泣かせる奴がいたら、今すぐつれて来い。ぶっ殺してやる)
ATOGAKI
うちの子を泣かせるなんて…!って思ってくれたらいいなぁ。そしたら既に夢小説じゃなくなく気がするけど。笑
それにしても…三蔵サマの怒り具合が尋常じゃない。怖すぎる!ちょっと内容的には不完全燃焼。あうあう。
花(ヒロインの事)を幼稚園に入れてないの?って言う疑問は、アレだ。まだ入れてないそうです。
入れたほうが良いのは分っているけれど、そばに置いておきたいんですね三蔵サマは。
そうでなくたってトラウマこさえているんですから心配にもなるワケであります。
親ばか…その通りなんですが、まぁ傷が少しでも癒えてきたらと言う事でお願いします。はい。
お題提供元:構成物質 様