「逃げちゃおっか…」
半分冗談で言った言葉だった。
このまま学校と言う名の鎖に縛られるだけなのなら、いっそのこと。
「そうだな」
「あはははっ…一体何処に?」
「さぁ、な」
全てのしがらみが重く、私の心を蝕んでいった。
先生と生徒と言う関係から来る後ろめたさ。私はとうとう、重く圧し掛かるプレッシャーに絶えられなかったんだ。
「ねぇ。三蔵…私、このままじゃ耐えられないよ…!」
逃げたい。
全てから。
「ねぇ三蔵。何処でもいい。何処でもいいから私をつれてって」
不意に痛いほどに掴まれた腕は熱く、彼の心情を物語っていた。
三蔵も同じ思いだったのだろうか。
「何処までもつれてってやるよ。お前を苦しめる全てから、開放してやる」
「お願いっだよ…!」
私たちは逃げた。何処までも。
目的地はない。あるのはその先の未来。絶望か、はたまた。
ひかれる腕はまだ痛くて、でもその痛みが私の心を留めていてくれるかのようだった。
もう、嫌だ。
何もかも、嫌だ。
私が求めるのは三蔵だけ。それだけでいい。
他は何もイラナイから、だから。
私から三蔵を奪わないで。
「好きっ…!大好きなの、三蔵!」
「あぁ。俺もだ、」
その時の表情は見えなかったけれど、きっと三蔵も悲痛で歪んだ表情をしていたに違いない。
私は溢れる涙をそのままに、手を引く三蔵の跡に続いて走った。
導かれるように。何かに追われる様に。
頭の中では分ってる。
逃げちゃ駄目だって。ただ徒に立場を悪化させるだけだと。
それでも。全てのしがらみから開放されるのならば。
「何処まで行くの?」
「とりあえず・・・ガソリン切れになるまでだな」
「無計画すぎるー」
「うるせぇ」
ガソリンが切れたら、本当に帰れなくなっちゃうよ?
「…ごめんなさい」
この時、既に三蔵は先の事が分ってたんだと思う。
逃げれないことを。
もしかして、最初から帰ると分ってたのかな。
「うわー田んぼばっかり。自然最高ー!」
「落ちるなよ」
「大丈夫ですー」
稲がさわさわとゆれる。
水がはった田んぼにはアメンボがスイスイと泳ぐ…って言うのかな?
まぁいいや。
空がこんなに青いのも、木々がいきいきと緑色なのも。
花々が花蓮に咲き誇り、風が程よく仰ぐ。
命の源は、全てこの母なる地球なのだ。万物は巡り、森羅万象を唱える。
「自由…になった気分」
「・・・そうだな」
少しばかり小高い位置にある、アスファルトで固められた田舎道。
不釣合いな気がするけど、なんかヒッチハイクが出来そうでこれはこれで様になってる気がする。
太陽の光を反射して熱を持ったアスファルトは、私たちの行為を戒めるかの様に熱かった。
「ねぇ、三蔵」
「なんだ」
「なんで三蔵は教師で、私はその生徒なのかな」
「さぁ、な」
短い言葉だったけど、きっと三蔵は分ってる。
何もかも知ってる三蔵は大人で、大好きな先生。
私は遅刻魔の問題児だけど、先生が好きになった。なってしまった。
お互いいつバレてしまうか分らない節操間と戦いながらもこの関係を続けてきたんだ。
終止符を、打つか。否か。
「終りになんか、させねぇよ」
答えは出ない。でも、それで良いとさえ思ってしまう。
「三蔵は、良いの?私で。三蔵が受け持つクラスの生徒、で」
何を、言ってるんだろうね。今更な事聞いて満足したいのかな。
三蔵は車に寄りかかっていた身を起こし、真っ直ぐ私を射抜いた。
安心させるように、あの天然記念物並みの笑顔を薄っすら携えて。
それでもう、私たちに言葉はいらなかった。
嬉しくて、自然に笑顔になった私は照れくさくて足元に視線を向ける。
綺麗な紫暗の瞳を直視するのが気恥ずかしくて、これこそ今更なのに背けた。
私の視界には自分の足。履き慣れたローファーがちょっと履き過ぎて擦れていて。
買い替え時かなーなんてどうでもいい事を考えていると、視界に飛び込んできた他の靴。
それは見間違える筈もない、三蔵の靴で。
私のローファーと違って綺麗に磨かれた革靴は新品じゃないのかってくらい綺麗だった。
そんな所も三蔵らしくて、大人だなぁと実感させられる。
「苦しいよ、三蔵」
「黙っていろ」
三蔵の革靴が私のローファーに並ぶのを見る前に、遮られた視界。
同時に照りつける太陽より暖かい温もりが私の全身を包んだ。
安心する。三蔵の心臓の音が、すぐ近くで脈を打っていた。
なんでそんなに穏やかなのさ。やっぱり大人、なんだなぁ。
私なんて口から出てきそうな勢いでバクバクいってるって言うのに。慣れてるんでしょ。
「あぁ。お前を抱くのは慣れてる」
「誤解されるような言い方をしないでくださいよー」
「誰も居ねぇんだからいいだろうが」
「それもそうですね」
ずっと、このままで居られればいいのに。
「そろそろ・・・潮時か」
「そう、ですね」
何時間そうしていたんだろうか。
離れたくない一心でしがみついていた私は、涙を堪えて震えていた。
背に回す腕の力に答えるように、三蔵も強く、抱きしめていてくれて。
幸せだった。もう他のものは、イラナイ。イラナイのに。
「お2人とも。皆が心配していますよ」
「あぁ」
鈴虫の鳴く声を遠くで聞きながら、それに混じって聞こえる車が停車する音。
もう、何もかもお終い。
この幸せの時間も、2人っきりの時間も、全部。
タイムオーバーって、奴かな。
「さん、家までお送りします」
「じゃあ、また明日学校でな。」
私は何も言えないまま、三蔵の車ではなく八戒先生の車に乗る。
何事も無かったかのように振舞う三蔵が少し、憎たらしかった。
でも、明日また会えると思ったら名残惜しくはあるけれど潔く導かれるままに帰路につく。
そう。それが、大人・・・なのかな。
ううん。違うよ。私はまだ高校生で、受験間近に迫った受験生なんだよ。
本当は、まだまだ離れたくなかったし、三蔵と一緒に居たかった。
平気そうな三蔵のようには、なれないんだよ。
「三、蔵っ…」
貴方は今、どんな気持ちですか?
届かない
(大人にも程遠い。貴方の場所までも、遠い距離)
ATOGAKI
切ねー!そんな感じを出したかった。が、見事玉砕☆←。意味不明すぎるorz
設定的にはヒロイン高校3年、受験前の夏の終り頃。いや、秋に入ったばっかりかな。うん。
管理人が田舎のお婆ちゃん家に行ったときふと思いついたネタで、表現し切れなかった事が悔やまれる一品です。笑
本当は1泊くらいの時間が欲しかったけれど、悩んだ末にだした結果がこれですよ。
学校サボっちゃいかんよお二人さん。それと八戒にはとってもかわいそうな役をやって貰って・・・ごめんよー笑←
偶には切なく。でも管理人の中ではハッピーエンド。うん。続きは皆様の想像にお任せします。全部言い切っちゃったら嫌だなぁと思いまして。
では。もうギャグに戻るよ。もう切ないのはこりごりだw