そんなこんなで、ハリセンフルボッコ劇は綺麗に幕を閉じた。
ついでに私の容疑も、後輩のイジメも解決し、一件落着と言った所である。
今は場所を変え、校長室でサッカー少年共々話し合いだ。
容疑も晴れて関係が無くなった私は暇を持て余し、我関せず体制の三蔵の隣で事態を見守っていた。
イジメの管轄は八戒先生だ。今はサッカー少年と向き合って話している。
漸く学園の風紀も良くなり、人一倍生徒の事を考えている八戒先生も安心したと思う。
「君には確かにPTA会長のお母さんが居ます。しかしだからと言ってイジメをするなんて許される事ではありません」
真剣に言う八戒先生は心なしか憤りを抑えているようでもあった。
静かに怒る様子は正直、見ていて怖い。
「まーアレだ。親の立場を利用して悪事を働くなんてよ…悪ガキにはお約束だワナ」
「あーあ。親も甘やかしちゃったとか、そんなんだろ?」
私たちと並ぶように立って壁に寄りかかる悟浄先生と悟空先生は興味なさ気に呟いた。
今はもう学ランから着替えて通常の服装に戻っている。ハリセンはモチロン三蔵に返していた。
そんな2人を見て、私は思った。イジメ云々、家庭云々。色々考えているうちに何が正しいのかとか、わからなくなってくる。
不良になってしまったあの爽やかサッカー少年も何か事情があったのだろう。
でも、だからと言ってイジメをして良いわけではないだろうに。荒んだ子供の心は親が癒してあげなきゃ、大人になっても成長はしない。
ううん。そういうことじゃない。
「弱者を虐める強者なんて、そんなの本当の強者なんかじゃない。むしろ弱者より何倍も臆病な人間だよ」
彼は、本当の強者になりたかったのかな。
仲間を集めて、悪いことして。ちっぽけな自分を隠したかったのかも知れない。
「強者っつーのはよ、ちゃん。俺らの事を言うんだぜ」
「貴様はただのエロガッパだろうが」
「強者も弱者も良くわかんねーけど、仲良くすりゃ良いじゃん」
「その通りですね。でも、子供と言うのは制御が出来ないといいますか」
「悔しかったんだろうね。エースを1年に取られてさ」
サッカー少年は虐めていたあの後輩にエースを取られたそうな。
1年君に勝てなかった自分が、弱者だと思ってしまったんだろうね。
相手は1年生で、自分は2年生。プライドを傷つけられた彼は、荒んで行き不良になった。
そして親の立場を利用して好き勝手し放題さ。
自分をもっともっとちっぽけにするだけなのに、その事に気付けなかったんだ。
「まぁー家の子が何かしてしまったみたいで!」
「あぁ、保護者の方ですか」
「私の子が悪いことなんて嘘ですわよね!?」
慌しく校長室に入ってきたのはサッカー少年の親だった。それに軽く対応する校長、観音。
既に話し合いは終わっていて、立っていた私たち5人は観音に目を向けた。
…どうすんのさ。
「母さん…俺、」
「少し悪ふざけが過ぎた。説教はこっちでしておいたから問題はないだろう」
サッカー少年が何か言おうと口を開いた時、割って入ったのは珍しくも鬼教師、三蔵だった。
この親は自分の息子を悪くても認めず庇うタイプだろう。
三蔵の発言は、このサッカー少年が悪いことをした事実をつきつける口ぶりである。
果たして母親、PTA会長様はどう受け取るか。
「んまぁ、三蔵先生!やだわーこの子ったら先生の手を煩わしてしまってすみませんねぇ〜」
「な、母さん!この鬼は俺が殴られてる所を平然と見てた、」
「コラ!早くアンタも謝りなさい!!三蔵先生はとってもいい先生なのよ!いい加減になさいな!!」
なるほど。
「なんで今まで教育委員会が何も言ってこなかったのか、わかった気がする」
「奇遇だなちゃん。俺は知りたくなかったケドよ」
「まさか会長様まで見方につけていたとは…三蔵、どんな手を使ったんでしょうか」
「って事は…PTA総なめ?マジで!?」
いやぁ、ママさん方は御目がよろしいようで。
見た目だけなら良い男の三蔵の虜…ってワケですかそうですか。これがあるから口を開いたんですね。
見損なったぜ、三蔵。
「待て、勝手に話を進めるな」
「先生モテモテでいいですねー」
「、」
「あーあ。三蔵サマったら熟女趣味だったのねんv」
「年上キラーって奴ですか。よかったじゃないですか三蔵」
「なんだよ。心配して損した気分だって」
「おい、貴様等!!」
いい先生ではなくいい男。その言葉がよく似合うよ、三蔵。
「ま、俺の愛娘に手をつけた罰だな」
「―――!!」
ちーん
こうして、私を巻き込んだ事件は綺麗サッパリ終わった。
その後、後輩は部活のエースの座に今までどおり座り、華麗に活躍し続けた。
元サッカー少年はと言うと、改心して不良をやめ普通の生徒に戻り部活にも出て晴れて部長に就任したそうな。
そんな周りの変化に疎い私はと言うと。
「はうあー!ジャムパンだー!私のジャムパンんんん!!」
「うるせぇ。静かに食えねぇのか馬鹿娘」
昼休み、いつもの様に担任と仲良く昼食です。
目の前には愛しのジャムパン。それしか目に入りません!
「浮気者は黙っててもらえませんこと?」
「俺がいつどこで浮気したんだ」
「そういうことだったのね…三蔵が告白の言葉も愛の言葉も囁いてくれなかったのは…年上好みっ」
「おい、だからそれは誤解だって…言ってんだろうが!!!!」
スパーン
でた・・・!久し振りのハリセン!
酷いよ酷いよ!自分の立場が悪くなったらハリセン出すなんて卑怯すぎるぞ大人げ無い!
「お前が何度言ってもわからねぇからだろうがっ」
「だって、だってー!先生何にも言ってくれないじゃないですか!私たち本当に付き合ってるんですか!?
ちゃんと言ってくれないとわからない事だってあるんです…!」
「ガキか、お前は」
「ガキだもん!先生にとっちゃ、ガキ以外のなんでもないんでしょ!!!!」
言ってしまった。後悔しても時既に遅し。
私は結構なコンプレックスだった自分のガキっぽさをさらけ出し、あろうことか泣いてしまった。
わかってるのに。先生は大人だし、6歳も年上だし、先生と生徒の関係だって、わかってるんだよ。
だけど。
「俺が言った事を忘れたのか、お前は」
「…?」
「年なんざ関係ねぇ。精神年齢だって本当はどうでもいいと思ってる」
「先生、」
「俺はお前の彼氏だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。お前はそこまで頭が悪いわけでもあるまい」
「…わかってるよ。先生が、私と付き合ってくれてるのも、愛があるからだよね?」
「あぁ。そうじゃなきゃ一緒に飯食ったり、停学中に毎日家に通うこともねぇ」
それは先生なりの愛情表現だった。
何も言ってくれない?ううん、先生はいつだって態度で示してくれた。
なんて、私はわがままなんだろうか。
「言葉なんぞ言わなくとも、伝わってるもんじゃねぇのかよ」
帰り際のキスだって、包み込んでくれる腕だって、撫ぜてくれる手だって。
全部全部伝わってるよ。伝わってるから、私は嬉しくなるんだ。
「不器用…」
「あぁ?」
「鬼畜、ハゲ、生臭教師、馬鹿、金髪、タレ目っ・・・・・・・・・んなぁ!」
「うるせぇっつってんだろうが。その口塞ぐぞ」
「言う前にやるなっこのエロ教師いいいいいいいい!!!!」
わかってるよ。全部、全部。
私だって、好きなんだよ。伝わってるってば!
「ったく…言っておくが、年上は専門外だ」
「ロリコン」
「ぶっ殺すぞ」
やっと食べられたジャムパンは甘くて、果実特有のすっぱさが口の中に広がった。
別にジャムパンなんてそこら辺で売ってるものだけど、先生と2人で食べるとなったら別物なのだ。
やっと、昼休みに2人で食べられたね。
ジャムパン
(甘ぇ)(自分で食べたくせに)(お前の口移しでな)(それは言わなくていいよ!!)
ATOGAKI
はい。長い間お疲れ様でした。ジャムパン篇、ここにて完結。
最後の2話は楽しくぶっ通しで書かせていただきました。
ジャムパンのように甘く、アッサリ終わらせる事が出来たと思います(何、綺麗にまとめてんのさ)
いやはや。もう何も言うまい。いえまい。もーなんだかなああああああ!!!笑
うん。ホント、全部読み返してみれば分かると思いますが、ホントーに愛の言葉なんぞ囁いてないよこの三蔵サマ!!
マジで思った。打った覚えもございませんwwwww可哀想だろ!!笑←
いやいや、行動で示す。それがこの教師三蔵先生(仮)シリーズのモットーです(おい)
違うんだ、違うんだってば諸君!三蔵先生は何か違うワケがあるようです。それは追々話を書いていきたいと思います。
ではでは。ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
夏季、そしてジャムパン篇と2話連続ちょっと長めの連載(?)でしたが、次からは暫く短篇中心になると思います。
ちなみに、ヒロイン高校2年生時は三蔵先生は23歳設定になっております。6歳差。これぞ至高←
ではまたのお話であいまみえましょう!