「ぼ、僕は本当に、ただ現場を見ただけで…!」
「そうですか。長々とお話してくださってありがとうございます」
進路指導室で、八戒は問題の男子生徒を呼び話し合い…もとい事情聴取をしていた。
涙ながらに訴えてくる男子生徒は、頑としての容疑を是認するばかりである。
これでは埒が明かないと思った八戒は一息つき、男子生徒を解放する事にした。
「ったくよ…。まぁ、本当の事を言うわけねぇか」
「困りましたね…」
「嘘吐くなんてさ、なんでだろうな」
思うように進まない調査は難航を極めた。事の発端である張本人が口を割らないのであればお手上げなのである。
小難しい顔をした3人は屋上へと歩みを進め、休憩することにした。
「まぁ本当の事を話したら自分の悪事がばれてしまいますからね」
「万引きする度胸はあんのになんでかねー」
いくら考えても答えは出ない。その歯がゆさがなんとも言えない塊になってつっかえる。
フェンス越しに空を見上げてもただ無情に雲が流れるだけだ。
とその時、後方にある扉が音を立てて開いた。振り返ると太陽の光に反射して輝く金髪。
不機嫌さを隠そうともせず煙草を取り出しながらの担任、三蔵が来た。
「あ、三蔵…」
「ったく…こんな所で油売ってたのか貴様等は」
2人は神妙な顔つきで俯き、悟空が声を掛けると三蔵はつけたばかりの煙草の煙を吐き出す。
先ほどまでの家に行っていた彼は何故こんな所に居るのだろうか。
口が滑っても、己の担当する教科の授業の有無を間違えたなど言えまい。
「すみません…見た目によらず頑固なので、手間取ってるんです」
「そう簡単にはいかねぇか…」
3人の様子を見れば結果は手に取るようにわかる。決して諦めているワケでは無いのだが、空気が重い。
屋上はこんなに開放感で溢れているのに全く正反対な3人。吹き抜ける風が全てを取り払ってくれればいいのに。
「なぁちゃんは?会って来たんだろ?」
行き詰ったままではイケナイ。そう思い、悟浄が突発的に話題を振ってきた。
の名前を出しただけで空気が軽くなった気がするのは気のせいではあるまい。
「まだ1時限も時間があんのに早いな三蔵」
痛いところをつかれた。自分も気にしている事を悟空は無邪気な様子で問いかける。
まぁ都合の悪い事は伏せればいいだろう。
「無駄に元気だった」
「ははっ。ちゃんらしいわな」
「元気ならよかったー」
「彼女も案外タフなんですねぇ」
聊か簡潔すぎるが、3人には伝わったようだ。
安堵するみんな。彼女が元気ならばそれでいい。その元気さを無下にしない為にも意欲が沸いてくる。
「絶対自分は負けねぇって張り切ってたぞ」
「そうでなくちゃ三蔵サマの相手はできねぇだろうよっ!」
「流石と言った所ですねv」
「苦労してんのかなーもさ」
「貴様等な…」
とりあえず、安心だ。
「で、他に情報は入ったのか?」
話題をそらそうと試みた三蔵。だが、空気はまた重くなるのであった。
地雷を踏んだのである。
「まだ3時間目だぜ?これから昼休みと放課後を使って探ってみるつもりなのよ」
「あまり公に行動できませんからね…」
また沈む3人は嘆息した。そんな目の前の3人を見て、三蔵もため息を吐く。
1番憤りを抱えているであろう三蔵は飽きれた様に朗報を伝えるのであった。
「貴様等…少しは頭を使え頭を」
「あん?三蔵サマは何かわかったのかよ」
「ふん。生徒が駄目なら教師に聞き込みすればいいだろうが」
「…その手がありましたか」
「え?何なに?」
わけがわからない悟空。三蔵が言った言葉に目を見開く2人を見てはハテナを飛ばす。
そんな悟空にわかりやすいように八戒は説明した。
「僕達は生徒だけしか見ていなかったんです。
…この学園には教師も居るんですから情報を持っていても不思議では無いということですよ」
完全に見落としていた事。別に生徒だけに絞らなくとも、学園には様々な人が居る。
どうしてそれに気付けなかったのか不思議でならない。
「で、三蔵サマはどんな情報を入手したってワケ?」
「養護の八百鼡から聞いたんだが、あの男子生徒はワケありだそうだ」
学校に帰ってきた三蔵は時間割を確認し、授業が無いと知ると再びの所に戻るワケにもいかず悩んだそうで。
とりあえず暇そうな保健室に入り、八百鼡に聞き込みをしたらしい。
養護教員なら生徒のたまり場にもなっている事だし、何か聞けると思い立ったのだ。
その機転が功を成し、見事情報を手に入れたと言うわけである。
「こういう時は、生徒に最も近い存在にってワケですか」
「それでそれで?」
「あの生徒は…イジメを受けているらしい」
驚愕の真実。多分八百鼡だけが知っている事なのではないだろうか。
保険医は1人しか居ず尚且つ人気で多忙だった八百鼡は言うタイミングを逃したという。
それに虐められている生徒の事を軽率に言えるワケが無い。
そのことを知った3人は思いもしなかった事実に少しずつ、真相のパーツが揃っていくのがわかった。
「なるほど…万引きも、威されていたんですね」
「自分が万引きしたと言ったらそのバックに居る存在も明らかになりかねないワナ」
打ち明けたとしてもまた虐められてしまう。それは虐められる側にとっては恐怖以外の何者でのない。
逆恨みで何かしら攻撃をしてくる可能性は最もありえる事なのだ。
「イジメって…!すんげー許せねぇよ!!」
「何処にだって学校には着きもんだ」
「それを解決できない所がまた、悔しいですね…」
「する側もされる側もしょうもねぇなー」
これでの容疑も晴れるのだろうか。しかしこれを解決しても問題は出てくるわけで。
解決の糸口は見つからないまま、時は過ぎていく。
何か、何かないのだろうか。
きーんこーんかーんこーん
3時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響く。10分の休憩を挟んで4時間目に備えなくてはならない時が来たようだ。
運が悪いのかなんなのか、4時間目に授業を抱えている4人は一先ずお開きになった。
「では、今度は昼休みにまた生徒に聞いてみましょう。」
「イジメの問題もあるから、誰にも悟られる事無くやれよ」
「拉致るか」
「任せとけって!」
「お手柔らかにお願いしますよ?」
聊か問題な発言だが、彼らには何を言っても無駄であろう。冗談も混じっているのだろうケド、目がマジである。
先行き不安な感じもするがそれより心強く思えるのは彼らならでは、だ。
八方塞り?そんなの問題ではない。目の前に壁が立ち塞がるのならぶち壊せば良い。
「この学園のイジメも解決できれば、校長も色々と見逃してくれそうですし?」
「そー言えば俺、この前サッカーやってたらガラス割っちゃったんだよな…」
「あ、俺備品壊したワ…」
「しょーもねぇのは貴様等だ…」
4時間目のチャイムが遠くの方で聞こえた気がした。
〜♪〜〜♪〜♪♪
ピッ
あ、もしもし三蔵?どうしたのいきなり…え?明日から登校できるの?!
やったー!退屈だったから嬉しいよ!
ん?今日は家から出るな?買出しがあるなら三蔵代わりに行ってくれるの?
なんだかわからないけど、お母さんに頼まれてたから丁度いいね!
(って事は…また夜に会えるのかな)
えっとねージャガイモと、人参、玉葱とー(以下略)
そう!今日はちゃん特製カレーなの!三蔵食べてく?
え!無理なのー…?残念。
(忙しいもんね。仕方ないか…)
何々その代わりにいい事あるって?なんだろー気になるー!
わかった。ちゃんと大人しく家に居ますよーだ。
(我慢我慢)
私が学校に行けるって事は、容疑が晴れたの?
まだかー。ま、いいや!授業の遅れを取り戻さないとね!
え・・・やっぱり、ですか・・・・・・課題出してくださるんですねお優しいですわー先生ー。
棒読みなんかじゃないですよー!
マジですか!!全教科ぁ?!そりゃないぜせんせー!!
あーもう理不尽すぎる!!この際叔母様に文句言ってやろうかな!!!
『俺が着きっきりで教えてやるから』
嬉しいやら悲しいやら…え?いやいやいや何も言ってませんってばっ!
(そりゃー嬉しいけどさ…相手は鬼だよ?恐ろしい!)
うん。じゃあまた今夜ね。待ってるから…。
寂しいのはそっちでしょーに!あっははは!!
うん…うん…わかった。三蔵も、残りの授業頑張ってね!
(忙しいのに電話掛けてくれたんだよね。嬉しいなぁ)
あ!そうだ!!!
三蔵…時間割間違えたでしょ?情報元は八戒先せ…あははははははははなんでもないですごめんなさい。
(口が滑ったああああああああ!!)
ちょっと、後ろでチャイム鳴ってるんですけどー!授業遅れちゃうよ?
え?もう教室に居る?
授業中に携帯使うなー!!それにバレたりしたら大変な事に…。
相変わらず唯我独尊でいいですね…。
うん。じゃあ今度こそ…うん…いやだからそれはっ――
向こうは授業中だって言うのに長々と話し込んじゃったのは言わずと知れた…ってね。
やっぱり1人って言うのは寂しいのかな。三蔵の不器用な優しさに泣けてくるよ。
顔で笑い心で泣く
(私は何言ってんだろうね。もう少しの辛抱だ!)
ATOGAKI
事件の真相が明らかに…?中途半端のような気がしてならない。笑
サプライズは次回に回させていただきます。4人のやりとりが予想以上に長引いてしまって…汗
ってか課題大好きだな管理人は。はっはっは!
ヒロインは心の奥底では悲しんでいる…んだと思います。でも表には出さないで元気に振舞う。
健気だ…!まぁ元気なのは嘘ではないけれど。それを知っていて三蔵先生はわかり辛い優しさでだね…。
しかし授業中に電話するのはやめましょうね!良いこの皆は絶対真似しちゃいけません!(貴www様wwwwww)
電話の内容はご想像にお任せしますです。
では。次回に続く。