「・・・先生。」


規則正しい寝息だけ聞こえる数学準備室。辺りは静まり返り私の声はそれに飲み込まれた。
夕焼けが差し込む室内で、先生はソファに横になり寝ている。


 「大好き。」


生徒と教師という壁はやけに大きく感じられる瞬間。それでも、私は口に出し続ける言葉があった。
先生は言ってくれない言葉を。今は聞こえて居ない本人を目の前にして、好き勝手口ずさむ。


 「・・・大好き。本当に。心の底から、好きなの。」


なんでこんなに遠いんだろう。机を1個挟んだ距離に居る筈なのに。


 「遊びでもなんでもない。若気の至りでもなんでもないんだよ。」


この思いは本物だ。年上だから、カッコイイから、先生だから。――そんなんじゃない。
生徒と教師という危険な関係に快感を得ている訳でもない。私はそんな、器用な人間じゃないんだ。

ただ、好き。それだけ。それ以外に理由が必要なのだろうか。


 「先生だから、三蔵だから。好きなの。他の教師なんてどうでもいい、三蔵だからこそ。」


だからこそ、この感情が生まれてくる。それは三蔵以外に当てはまる訳もなく。


 「信じて。」


愛に絶対は無い。それは重々承知だ。けれど、それさえも吹き飛ばす程、目の前の先生が好き。
尊大な態度も、横暴で唯我独尊な性格も、全部ひっくるめて好き。


 「私はいつまで、待てばいいの?」


いくら態度で示してくれたって、時には言葉が欲しいんだ。でも、そんなの夢のまた夢。
わかってる。わかってるんだ。例え『好き』という言葉が一方通行でも、三蔵はそれに見合った行動を起してくれるから。


 「待ってるよ。・・・違う、待っててね。」


せめて私が、卒業するまでは。



















 ♂♀




















の気配が消えた室内で、俺は大きく嘆息した。
アイツが居るのに、寝ているわけが無い。所謂狸寝入りと言う奴で、全部まる聞こえ。


 「・・・馬鹿が。」


何度起き上がり、抱こうとした事か。あんな泣きそうな面で好き勝手言いやがって。
何度、『好き』だと、言葉を紡ごうとした事か。


 「俺、か・・・。」


待っててやるよ。たった数年、そんなの楽勝だ。それほどまで俺はアイツに。


 「・・・だせぇ。」


待てる気がしない。いつか我慢の限界が来たならば、俺はアイツに、に何らかのアクションを起してしまうかもしれない。
愛想を尽かす訳ではない。ただ、ただ。


 「いっその事、駆け落ちしちまうか。」


ただの戯言。されど半分本気。自分に耐久力と言うものが無いのかと自己嫌悪。
たった数年。正確には後、1年半くらい。短い。果たして本当に短いと断言できる長さなのだろうか。
わからない。だが、今はただアイツの憂いを取り除く事が先決だというのはわかっている。


 「・・・ハァ・・・・・・。」


もう一度、嘆息。いつの間にか夕焼けは半分以上、夜に覆われ室内が暗くなり始めていた。
そろそろテストの採点の続きをしなくてはならないようだ。

ソファから起き上がり、俺は数学準備室の電気を点けた。
そして徐に携帯へ手を伸ばす。自転車ならそろそろ自宅に着いている頃だろう、それを見越して電話を掛ける。

ふと横を見れば、が座っていたソファの上に置き忘れたノートが鎮座していた。
















 ガラにもなく

(言葉を求め、存在を求める)












ATOGAKI
 短い。そして2人とも独り言しか言ってないですね!
うわー書き途中の三蔵先生シリーズ(仮)が何個も放置されて増えてゆく今日この頃。