夏の終わり、ヒグラシが日暮れと共に泣き始める頃。
暑中お見舞いを吹っ飛ばし、残暑の中で私はだらしない顔を更に緩め夕方の涼しい風に当たっていた。
「あー・・・夏休みももう終わりですかそうですか。また鬼担任が待ち受ける学校に通い始めるだなんて苦痛以外の何者でもない」
普段、本人を目の前にして言えない事をスラリと言ってのける彼女、は余程のチキンといえる。
しかし内心は嬉しいと思っているに違いない。天邪鬼、ココに極めたり。
それは兎も角、が座っている場所、それは縁側である。
もちろんの家にはそんなベエストプレイスなんぞありゃしません。
では何処の縁側だというのか。答えは今お見えになったとある人物がそれである。
「おやおや、さん。とても良いところに座っていますね。私もご一緒させてもらってもよろしいですか?」
「はうわ!おおおおお父さま!どうぞどうぞむしろ私なんかが陣取っていてすみませんっ!」
お父さま、と呼ばれた男、光明はゆっくりとした動作での横に腰掛けた。
「ふふふ・・・そんなに畏まらなくても良いんですよ?自分の家だと思って寛いでくださいね」
「ありがたき、幸せ・・・!!」
の妙な言動に動じていない光明は、お茶をずずずいと飲むと一息つく。
庭園には見事なまでの絶景が佇んでおり、毎日こんな素敵な光景を見れるだなんて、と心底羨ましく思うだ。
「そうだ、さん。学校の方は楽しいですか?」
暫く静かな時間を堪能していた光明が唐突に言った。
「あ、はい。とても楽しくて、青春を謳歌しているんだなーって思います。充実している、と言っていいのか分りませんが・・・」
は思い出に浸るかの様にはにかみながら質問に答える。
「そうですか。てっきりあの子が恐ろしいあまり、学校に行くことが苦痛かと心配してたんですよ」
「あはは・・・最初こそそう思ってましたケド、見た目に寄らず優しいところとか、生徒思いなところを見てからは楽しいと思える様になりました」
本人の親を目の前にしてこう言うのもなんだが、それでもは正直に胸の内を打ち明ける。
確かに教壇の目の前だし、鬼の剣幕が直に来るし、席替えしても変わらないしで、良い事は無かった。
けれど、サッカー少年の件や、その他にも色々あって少しずつ印象が変わってきた事により、前よりは怖くなくなっていったのである。
今となっては笑い話。それ以前に、関係が関係だ。入学当初には夢にも思わなかった現状が、不思議でならない。
「・・・正直安心しました。話すときのさんの顔は幸せそうで、本心なのだと伝わってきますからね」
光明は空になった湯飲みを床に置き、はそれにお茶を注ぎながら照れくさそうに微笑んだ。
散ってゆく木枯らしが風に誘われ、庭園を浮遊する。すこし肌寒くなった外は、秋の訪れを知らせているようで。
穏やかな空間。葉がさざめき合う音だけが、この空間を支配していた。
それからというものの、達は世間話や他愛もない話に花を咲かせては互いに笑いあう。
それが夕日が沈みきるまで続き、所用を済ませた三蔵が戻ってきた事により、名残惜しくもお開きになった。
「帰るぞ、」
「あ、うん。ではお父さま・・・」
「また、いつでも来て下さいね」
さっさと先に言ってしまう三蔵に置いて行かれないようにと駆け足になりつつ、光明に最後の挨拶を済ませ2人はお寺を後にした。
辺りはもう既に暗くなっており、片道3時間かかる道のりの中、三蔵が運転する車は順調に帰り道を走行する。
そこでふと、三蔵が口を開いた。
「・・・ところで、縁側で何を話してたんだ?」
「んーとねー、学校の事とかー三蔵の事とか?とりとめ他愛もないお話かな」
「そうか・・・学校の事・・・・・・学校だと?」
「うん!三蔵はちゃんと教師をしているのかーとか色々・・・・・・あ」
「・・・・・・」
何か、気付いてはいけない事を気付いてしまった気がする2人。
そう、光明には話してはいけない話を。
「お前って奴は・・・!あれほど学校での関係を話すなと言っただろうが!」
「だってだってー!お父さまがナチュラルに話を持ちかけて来てくださったんだもん!そりゃー私も自然と話し込んじゃって・・・」
「『大』が着くほどの馬鹿だなお前は!!」
「なんですとー!?三蔵だってあのお父さまの話術を目の前にしたら普通に話しちゃうよ!!きっとさ!!!」
「それは否定しないでもないがっ!よりにもよって・・・ハァ・・・」
「でもさ、お父さまってば、普通に知ってたみたいだよ?私達の関係を」
「あぁ、お前が大事件起した時、居たな。そういや」
「既にバレバレーってね。・・・今度会ったらちゃんと白状しようね、三蔵」
「・・・そうだな」
遅くなりまして
(残暑おみまい申し上げます)
ATOGAKI
本当に遅すぎですね。残暑もとっくに過ぎています。皆様、よい冬を。