夜中に突然、目が覚めた。

ぼんやりだけど、はっきりと見えた暗闇の中に浮かぶ天井。
もそもそと布団を退かし、起き上がった私はふと、夢の中での出来事を思い出していた。

夢の内容はすすぐ忘れたけど、なんだか幸せだった事は覚えてる。
その記憶もうっすらと消えかかって、もう一度見たいと思い再び布団の中に。

「駄目だ・・・やっぱり無理だよ・・・」

レム睡眠だかなんだか知らないけれど、凄くいい目覚めをしてしまったらしい。
全く寝れる気がしない瞼をぱちくりと瞬きし、項垂れた。何故冷めてしまうんだ、私。
体は未だにだるいものの頭は活発に動き回り、そう大きくない脳みそが活動し始めた。

暗い部屋で耳元の携帯電話が光る。思案に耽って気付くのが遅れたけど光の眩しさに目を眇め、手を伸ばした。
光に慣れていない眼に力が入り、おもうように見えない。手をまさぐり漸く感触が伝わる。
あ、あった。パカリと開けば、どうやら着信の様で画面に表示された名前はめったにお目にかかれない名前。
珍しい事もあったものだ。向こうから電話がくるとは夢にも思わない私は、もしかしてこれが夢なのだろうかと思い、やめた。 早く出ないと『おせぇ』って言われるんだよきっと。容易に想像がつく着信元の人物に苦笑が漏れる。




「こんばんはー。」


『おせぇ。』




ホラ、やっぱり。予想通りの反応に、こんな夜遅くに掛けて来た方が悪いと思うけど黙っておく事にする。




「どうしたんですかー先生ー。」


『・・・起こしたか?』


「いいえー、今さっき偶然にも起きた所でーす。」




まだ起きてあまり時間が経っていないため、呂律が回りきれない私は間延びした声になってしまう。
呂律が回りきれないのは寝起きだからだけではあるまい。だって、口元が上がりすぎてるんだもん。
笑いながら喋るのは難しいと、知った。




『・・・・・・』


「?・・・あ、もしかして先生も起きちゃった口ですか?奇遇ですねー、私もなんですよ。」


『・・・そうか。』


「そうそう、私、すっごく幸せな夢を見たんです。」


『夢?』


「うーん。内容は覚えてないんですけど、先生が出てきたんです。だから、幸せー。」


『・・・アホか。』


「今、この時が夢じゃなかったら・・・やっぱ幸せー。」


『・・・そうかよ。変な奴だな、お前は。』


「先生だからですよー。うふふー。」



自分は今、何を喋っているんだろうか。きっと浮かれてるんだ。そういう事にしておいてくれたまへ。

電話越しの先生が、かすかに笑ったような気がした。この真夜中の会話は、寝起きじゃなかったらどんなによかったか。 そしたらこの朧気な意識の中、鮮明に記憶できるのに。


あはは。いつの間にか、朝になっていました。


「あれ・・・?ん?・・・おかしいなぁ・・・なんか、幸せな夢を見ていたような・・・?」

気付けばカーテンの隙間から太陽の光が降り注いでいて、さっきのは夢だとわかった。
夢の中でそうしたように、起き上がった私はボーっと宙を眺め、はにかむ。
良い夢だった。自然と口元を綻ばし、今度はちょっと不確かに、だけど鮮明に覚えている幸せな一時を思い浮かべる。

まさかあの先生から電話が掛かってくるなんて、夢以外の何者でもないんだろう。
と言うか、やっぱり夢だよね。ちょっと残念だ。

「もう7時半とか・・・学校行かなくちゃ。」

こりゃあ、いつもの様にまた時間ギリギリになっちゃうんだろうなぁ、と思いつつベットから這いずり出る私。
そこであることに気がついた。

「?」

布団をどかし、床に足を着けベットに手を着いて立ち上がろうとしたその時。
自分の手に、携帯が握り締められていた。

と、言う事は?夢・・・じゃなかった?

嫌な汗が流れてくる。いや、あの一時は幸せだったんだけど、何故か。そう、何故か嫌な予感しか浮かんでこなかったのだ。
その嫌な予感を決定付ける声が、未だに通話中のままだった携帯から聞こえてきた。



『随分とゆっくりなお目覚めだな。』


「あれ・・・?」


『それと、独り言が多いぞ。ちなみに言っておくが夢じゃねぇ。』


「・・・ぬ、ぬあああああああ!!!!!!」



どうやらアレは夢じゃなくて、あろう事か私は通話中にいつの間にか眠ってしまったらしい。
その間、ずっと携帯は握り締め、通話もしっぱなしで・・・先生、電話代大丈夫ですか?
いやいや、そんな事を気にしている場合ではないぞ、。



「もしかして、全部聞こえてました・・・?」


『一句一文字全部な。』


「なんてこったい。」


『・・・兎に角、さっさと仕度して学校に行け!この馬鹿娘ぇ!!』


「ごめんなさーい!!!」



携帯から怒声が響き渡り、思わず耳を放す私は、謝罪をするとすぐさま通話を切った。
これ以上先生の電話代が馬鹿になるのを避ける為と、なにより私の気力が持たない。
どうせ学校に行ったらすぐ会えるんだし、きっとこのまま会話を続けてたら『早くしろ』と言われ続けるに違いない。
朝から幸せなんだか不幸なんだかわからないケド、とりあえず仕度を済ませた私は家を出て全力疾走だ。

あと10分。・・・明らか間に合わない。

これはマジで怒られるな、と諦めそうになった私は、走ってる直ぐ横に見慣れた車が停まったのを確認した。







夢から覚めた朝は


(もしかして起きるのを待っていましたか!?)
(・・・るせぇ。ただの寝坊だ、ただのな!いいからさっさと乗れ!)







ATOGAKI
 なんか書こうと思ってぼちぼち書いてたんですが、意味不明なモノが出来上がってしまいました。
時期的には夏季篇が終わって新学期を迎えた周辺。まだ三蔵先生の名前を呼ぶのが恥ずかしい・・・アレ?矛盾?笑
まぁいいや。とりあえずありがちなネタを。SS並みに短いなぁ。名前変更少なくて申し訳ない。兎に角ほのぼの!