例えば。


私はA君が好きだとする。

と言うか好きなのだ。

でも、例えば。本当に例えばの話だよ?

A君が好きなのは事実だけれども、それとは別に気になる人が居る。

とか言ったら、なんていわれるかな。

どっちがどっちって選べないうちはこっちだ、って特定できないし。

かと言ってこのまま何もせずには居られないんだ。

両方ってわけにも行かないしなんかシーソーしているみたい。

ぐらぐら行き来して、なんて優柔不断な私。


本命はどっちなんだろうね。
















誰もが通る道、だと思いたい。















彼はサッカー少年だ。いつもキラキラしてて女子達には注目の的。

私が彼を好きなんだと思ったのは結構前からで、友達に誘われて見に行った大会がそもそもの発端だ。

一目ぼれ、だったんだと思う。ううん。完全完璧一目ぼれだ。

仲間達と楽しそうにそして輝いてる姿を見て、ハートにズッキュン。

でも敵は多い。そう簡単にこの恋が実るはずも無く、グダグダと引き伸ばしているのが現状なのです。

あぁ、なんで私はこんなに引っ込み思案で女々しいのかしら。

他の子たちみたいに積極的に声も掛けられない始末で、我ながらに情けなくなってくる。


しかし。そんな私に転機が訪れた。


「、話があるんだけど…」


昼休み、態々私が居る教室に来て突然の呼び出し。しかも場所は屋上と、もしかして…!なシチュエーション指定。

あわわわ。これはひょっとするとひょっとするのかな!

心臓がバクバクいっているのを何とか押さえつけ、即答する私。

放課後って、今昼休みだから後3時間くらい?…すっごい緊張してきた。

クラスの注目の的になっていることさえ気付かずに私はなんとか平常を装うだけで大変だ。

友達も冷かしてくるわで、実感できなかった事実が徐々にしみこんでくる。

本当に大変だ。



昼休みが終わる。私はまだクラスのみんなからヒューヒュー言われ、予鈴が鳴ってもそれは続いた。

それに激怒した担任が一言。そして無言の圧力。

恐怖の底に陥れられたからその場は納まったけれど小声で冷やかしの言葉はなかなか収まらない。

小声がどんどんエスカレートして終いには我慢できなくなったのか喚き始めるクラスの人々。

あぁ、そんなに騒いだらまた担任が。この担任はめっさ恐ろしいのです。


一喝。


それは先ほどと違って大声で、怒声と言ってもいいだろう。

今度こそ静まり返る教室。ビクリとみんながみんな身を竦めて小心者の私は涙目だ。

担任はそんなクラスのみんなを見て嘆息し、本鈴と共に授業を何事も無かったかのように開始した。

もうヒソヒソ話は聞こえない。みんな担任の恐ろしさを知っているからだ。

だったら初めから大人しくしてればいいのに、なんて臆病な私は心の中で呟くだけで授業は進む。

きっとあてつけだろう、授業中に指された私は答えれる筈も無く担任に叱られた。

浮かれてるから答えられないんだ、みたいな事を言われた私は仰るとおりです、としか言いようが無い。

もう彼に呼び出された事なんて忘れて(本当は忘れられるはずも無いんだけど)授業に集中することとなった。






そんなこんなで本日最後の授業が終わる。鐘が鳴って、さぁ大変。

みんな昼休みの事を飽きもせずまくし立て始め、デバガメ行くか、とかそんな声がちらほら。

喧騒が飛び交う中、私は大慌てで教室を抜け問題の呼び出された場所へと早足に向かった。

途中で担任とすれ違い、なんか睨まれたけどそんなものは効かないのです。

だってこれから起こる事はきっと私の人生を大きく一転する幸運が舞い落ちてくる、と思われるから。

こんなチャンス滅多にってか生涯無いのだ。きっと。きっと。

暴れまわる心臓を落ち着かせながら私は屋上へと続く階段を軽快に駆け上る。


何も、知らないまま。無力な私を今ココで呪いたい。






ギィィ。不穏な音を立てながら開いた扉。

これは今から始まる事の始まりの合図だったに違いない。

もしかしてそれはもっと前から始まっていたのかもしれない。

でも担任に言われていた通り、浮かれていた私は気付かず、物語を進むのだ。

ただ兎を追いかけて、何も知らずこれから起こることさえわからず、穴に落ちていくアリスの様に。


「よぉ。来てくれて嬉しいよ」


彼は屋上のフェンスに寄りかかり、顔だけ振り返ってにこやかに、爽やか過ぎるほどの笑顔を浮かべた。

私結構急いできたんだけど送れて来ちゃったみたいだ。これは彼に対して失礼なんじゃないのかな。

でも彼は何とでもないように笑い、私が隣に行くと向き合うように体をこちらに向けてきた。

あぁ、ドクドクといつもより数倍速い心臓の音が煩い。

聞こえてしまうんじゃないかって不安になりながら、私は彼の言葉を待った。


「あの、さ。俺、実は…」


来た。来た来た来た。

心臓がピークに達する瞬間。もう私の頭の中は真っ白だ。どうしよどうしよどうしよ。

平面上は冷静を装い、しかし内面上では慌てふためく私が居る。


「俺、お前の事が、」


と、その時。

ついさっき聞いた不穏な音が耳に入ってきた。

なんだろう。もう風の音さえも聞こえなかった筈の聴覚がその音だけやけに耳についたのだ。

彼の声だけしか耳に入れたくないのに、なんでだろう。

同じ事を繰り返し疑問に思いつつ、私はその発信源に振り替えった。


見なきゃよかった。それが私の第一に思った事だ。


目線の先には金髪の、いかにも不機嫌ですオーラを纏った、担任の姿。

うげぇ、と身を竦めた彼はヤバイ、と言う様に顔をこわばらせる。それ以外になんとなく、嫌悪の表情が垣間見れた。

何故そんなに怖がるんだろう。

と、その担任の恐ろしさを知っている私はただ屋上に居たってだけで起こられるわけでもないし、なんて場違いな事を考える。

少なくとも私は何も後ろめたいことはないし、どちらかと言うと告白現場(多分)を見られて恥ずかしい!みたいな。そんな感じ。

けれど違った。先生は剣呑に顔を歪め、普段優等生な私には無縁だった筈の真実を言ったのだ。



「貴様等、屋上に生徒は立ち入り禁止だった筈だが?」



そうだったのか。だから彼はこんなに慌てて真っ青だったんだ。と、頭の隅で理解する私。

さらに担任は尊大な態度で歩み寄ってきて、彼をにらみつけた。

さっき直で喰らったあの鋭い眼光は正気だととても怖いんです。

あの時の私は浮かれに浮かれまくっていたから綺麗に流せたけれど、今彼に突き刺さる視線は、正直怖い。

見下ろされる形になる彼は今現在進行形で喰らっているから隣で傍観している私よりとても怖いに違いないだろう。

うふふ。第三者的な立場に居ると思ったら大間違いなのです。私。


「、貴様もだ」


うふふ。とうとう矛先が私にも降りかかってきました。ご愁傷様です。私。

後ろの屋上と階段を隔てるドアは開きっぱなしでなんか人が転がっているのを横目で見て、私は視線を合わせない事だけに集中した。

この集中力を授業で活かせと言いたい。けれど今はそんな場合ではないのだよ。

と言うか、担任、昼休みの時見てたくせに今更邪魔しないで欲しいぜ。


「さっさと行け。殺すぞ」


うわぁ。この教師らしからぬ発言こそ、問題ではないのか。そんな悠長な事を考えつつ私は彼に習ってドアに向かう。

隣の彼はさすがサッカー少年。骨髄反射でも早すぎはしないかと言う位の素早さで私を振り返る事無く屋上を後にした。

なんて無情な。脱兎の如くナントヤラだ。ってかこんな人でなしだとはあの輝く笑顔からは想像できない。

思いを寄せる相手を間違えたかと考えを改めさせてくれる瞬間がココに。

そして驚くことに私の片腕を痛いくらいに掴む手の感触が伝わってきた。なんだろう。ってか、何で私はこんなに冷静なんだ?


後ろにつんのめりそうになる私を特に如何することも無く、その力強い手の握力はそのままに時は止まる。

今更だが、風が冷たいのね。興奮で体温が上昇してた私は正気に戻ると共に痛い腕に神経を集中させる。

いまの現状は吹きっ晒しの屋上で、しかも出て行け的な事を言った張本人に引き止められている、であってるよね?


「現行犯逮捕だ」


待ってくれ。いや、待ってください担任様、違うとっても美丈夫で鬼畜な玄奘三蔵先生サマ。すみません。不適切な単語は訂正します。

だから、だから何で。


「何で、私だけ…?」


ポツリと洩らしてしまった言葉は当然、目の前の担任の耳にも入って、しかも受諾されてしまったようだ。

まぁその方が話が早いのは明白なんですが、違うって。そうじゃない。


「だから何度も言わせるな。現行犯逮捕だ」


同じ事を言い聞かすように言う担任は手をそのままに向き直る。正直腕が痛い。

そんな私の訴え虚しく(言葉に出してないケド)よく考えれば答えになっていない返答。

だから、何でさ。


「アイツは逃げ足が速かったからな。捕まえ損ねた」


うっそだー。だって文武両道な担任サマサマはあんな一介の少年なんぞ引けをとらない運動神経をお持ち…な筈。

それに捕まえるチャンスはいっぱあったはずでしょうが。なんて口に出来たら幸せ!

やっぱり怒られるのか。しかも私だけ。いや私は被害者のような気がする。だって呼び出されただけだし。これってなんて理不尽なのかしら。


「その場で注意してくれたらよかった、じゃないですか…」


そうだそうだ。なんであの場で言ってくれなかったんだ。ホント矛盾してないだろうか。


「馬鹿か貴様は。現場を押さえたほうが手っ取り早いだろ。もしあの場で注意してもどうせ二度手間だ」


そうでした。この人究極のめんどくさがり屋でしたね。

簡単に言えば、あの場で注意する。でも彼はきっと聞かない。

即ちこれだけで面倒なのに、屋上も出向かなくては行けないと言う…あぁもう!こんがらがってきた!

馬鹿だなんだって罵ればいいよ。実際言われたけどね。


「そう、ですか…」


諦めました。人間諦めが肝心なのだよ諸君。はっはっは。

もうそろそろこの手を離してくれてもいいんじゃないかと思ったけど、さっきより全然力が篭ってないからよしとして。

問題はココからだ。早く帰りたくなってきたよ。でもこの状況に満更でもない自分が居たりして、なんとも不謹慎なものである。

もう。折角の告白現場が、などとどうでもいい事のようになってきた。

でもちょっともったいない気がする。だって滅多にないシチュエーションなのだから。


「本当に貴様は馬鹿だな。気づけ」


なんか『馬鹿』の部分を強調した気がするけど見逃してやんよ。

その前に気づけとは。はて。私なにかしましたか…?


「お前はハメられたんだよ。簡単に言うと、これはドッキリだ」


「え…?」


なんと。なんとなんと。なんとまぁ、かなりの爆弾発言かましてくれちゃって…って、え?マジで!?

要するに、これはドッキリで。私はまんまとハメられた、ってこれは担任が言ったね。

自分でも気付かないうちに動揺してたようだ。危ない危ない。落ち着け、私。

私は知らず知らずの内にあのサッカー少年とそのグルに酒の肴にされるところだったと。そういうことですか。

後ろのドアの奥に転がっている一団はその1部、と言うワケですね。把握しました。

まさに危機一髪?でも黙って、知らないままの方がよかったかもね。


「何処まで能天気なんだ。沸いてんのか」

「いやぁ、一生の一度あるかないかの出来事だったんで、それがまさかそんな…ははは…」


あーヤバイです。何かが、こう、こみ上げて、


「ったく。遅刻魔なお前に春なんざ来るわけねぇだろ。少しは物事をよく考えて行動しろってんだ」


仰るとおりです。って、何で言葉に出来ないんだろ。声が、出ないのはこの嗚咽の所為ですね。

きっと、キッツイ言葉の割には優しい音色を含んだこの担任の声が悪いんですよ。(そうだそうだー)

なにより、頭に感じる重量感と、暖かい、その掌の所為…お陰だこの野郎ー。

粋なことしやがって。担任めぇ。グスッ。ヒック。


「この分じゃ当分…マジで春なんざこねぇな」

「仰る、通りでっグス…ごぜぇ、ま、すヒック…」

「何いってっかわかんねぇよ。人語喋れ人語」

「うぅ…ふぇっ…せん、せぇ…」

「チッ。何だよ、泣くんじゃねぇ…この馬鹿娘」

「ありが、どう…ござい、」

「礼なら後でたっぷり聞いてやる。煙草1箱な。マルボロの赤、ソフトだ」




学生は煙草買えません!




























私はあの後、ふと、一歩先行く担任の後姿を見て、思った。この一件の事だ。

担任は口で言うという手間より、この現場を押さえると言うどちらかと言うと後者の方が如何見ても面倒な事をした。

と言うことは、私が肴にされる前に態々これを止めに来てくれたなんてしちゃったり……考えすぎかな。

自分で自己解決しちゃったケド、そう思うと正直、嬉しいなこの野郎!

それも、あの担任がよ?めんどくさがりで有名な教師らしからぬ担任サマ直々に、さ!

いいとこあるではないか。まぁ私の想像上の話だけど、喜ばしいことこの上ないですね。

私の自惚れも入ってるけど気にしない。自然とにやける口元が抑えられないんだからこの衝動も抑えられないんだ。絶対に。


「ていやぁ!」

「んなっ!」


私がちょっと立ち止まって、その大きな背中にダイブすると先生は怒りながらも振り払う事無く、そのままでいてくれた。

これは優しさだけなのだろうか。なーんて買い被っちゃう私はもう救いようの無い大馬鹿者です。

思った以上に暖かくて、安心するその背中は、後々考えれば真正面からの方がよかったんじゃないかって思わせるけどいいんだ。

だって担任はとってもめんどくさがりで、無駄なことが大嫌いな人なんだよ?でも受け止めてくれた。それだけで満足さ!


「貴様…1箱追加な。忘れるんじゃねぇぞ。そして間違えるなよ。マルボロの赤、」

「『ソフトだ』、ですよね?わかってますよー!」

「…ふん」


満更でもない様子ですね。そんなに煙草が好きなんですかっ!むしろ買えないのかな。金銭的な意味で。なんちゃって。






















アリスの最後はハッピーエンドだし、これから起こる一生に一度とない出来事には変わりない。

事実、今後の人生が大きく、そして戻ることの出来ない一転を迎えたワケで。

そんな、私にとって不幸なのかはたまた幸運なのかわからない一日は終わった。

……それにしても、担任のウェストは細かったな。こんちくしょう。











出発地点

(きっとココからが私達の始まり)














ATOGAKI
いや、ただね。最初の前振りを思いついて書いてただけなんだけど、何故か筆が進んでこんなんになってしまったんだ。(ちょ、おまww)
ちょっと矛盾が生じてしまったけれど気にしない。むしろ気にしたら負けだと思ってるから性質悪いよこの管理人。笑

気持ち、前の『捨てたもんじゃ〜』と同一設定になっております。多分気付けないほど設定が狂ってると思う。はっはっは。←
前作より、過去であり、まだ入学したばかりみたいな裏設定もあったり、なかったり。(どっちだよ)
入学したばっかなのに遅刻常習犯なんですねこのヒロイン。まるで管理人そのものです。こんな設定でごめんよヒロイン。
ってか苗字だし、三蔵サマは1回しか名前出てないしーの夢小説なのかわからなくなりましたが、言い張ります。これは夢小せry笑

ではでは。マジでシリーズ化ってか専用のお部屋が出来そうな勢いの教師、三蔵先生。増えるぞ。増える。←
ではこのへんで。読んで下さった方、ありがとうございました。またどうぞー!!ノシ