それは一つの手紙からはじまった。









いつも通りの放課後。

私は補習を終え、まだ昼下がりだと言うのにどこか不気味なコントラストをかもし出す昇降口に着いた。

見慣れた下駄箱の中ほどまで進み、扉も何も無いお粗末な自分の靴が入っている其れに向き合う。

と、手を伸ばす前に不自然な物を見つけた。普段何気なく使っている下駄箱は私の靴が入っていてなんら変哲も無い。

だがそれは『不自然』な物により、いつもと違い靴を取るのに邪魔をする白い”何か”によって変えられていた。

そう、そこには手紙。カサリと音を立て、手に持つと宛名もなく、差出人の名前も何も無い。


「なんだろ・・・」


不思議に思った私は徐に封筒を開け、中身を取り出した。

中には――。























花の女子高生迷探偵!? 〜開演の幕開け篇〜





















は何故か、車に揺られていた。

窓の外を見ると生い茂った緑が物凄い速さで通り過ぎ、しかし果てしなく続き途切れる様子もない緑色。
考えなくともわかるその緑の正体は、道の脇に、その奥にも植えてある木々である。
見渡す限りの木。と言うか森に近いそこは、どうやら山道を走っているようだ。
何でこうなったんだろう、と思いをめぐらすはとある一つの結論に辿り着いた。

そうだ。確かあの手紙を見て・・・。


「漸くお目覚めか、この馬鹿娘」

「あぁ・・・おはよう、三蔵」


どうやらいつの間にか眠ってしまっていた様だ。起きて直ぐ、隣で車を運転する己の担任であり恋人でもある三蔵が声を掛けてきた。
聊か不機嫌であり、でもどこか感情を押さえつけているようにもとれる声音は剣呑に響き、の鼓膜を揺らす。
本当は嬉しいくせに、とは言わず、この何も無い所でほっぽり出されるのが怖い為、余計な言葉は自重する。
言葉の代わりに隠せないニマニマと我ながらに悪趣味だと思う微笑を浮かべ、ドアに寄りかかっていた体を起こした。


「しかし何も無いねー。」

「お前が行きたいってごねったんだろうが・・・。」

「まさかこんな山奥だとは思わなかったんだもーん。ってかごねった覚えはゴザイマセン。」

「ったく・・・もうそろそろ着くぞ。」


曲がりくねった坂道を登り、が押さえつけないと手荒な運転をしそうな三蔵は、それでも若干浮かれているようにも見えて。
初心者のを乗せてドリフトをするなんて洒落にならんぞ。かといって帰り道で・・・そんな不安が過ぎりつつ肝を冷やす。
ヒルクライムでもダウンヒルでも夜中に1人で挑戦してくれ。と、心底思う。


「あ、三蔵オートマじゃん」

「言っておくが、オートマでも出来るぞ。少しコツがいるけどな」

「・・・そんな事知りたくなかった」


寿命が縮む・・・生きた心地がしないのは気のせいではあるまい。

そんなこんなで山の奥の山のそれまた奥。そして山頂。微妙な矛盾は見逃して欲しい所だ。
たちは三蔵が運転する車で漸く目的地へと無事に辿り着く事に成功し、清々しい自然の空気を吸いながら地面に足をつけた。
目の前に聳え立つのは、一見お城にも見える建物。兎に角、豪華絢爛。森に迷い込んだ気分になる。

外見が素晴らしいこの建物(屋敷と言うべきか)の中はこれまた凄いに違いない。期待に胸を躍らせつつは扉の前に立つ。
後ろには三蔵がいつもの如くめんどくさそうに立っており、早く開けろと言わんばかりに目に見えぬ圧力を掛けてくるのをどうにかしてほしい。
そしていざ、は大きな扉に手を伸ばした――。


「う、うわぁ・・・ああぁ・・・・・・アレ?」

「・・・・・・素直に驚いとけ。」

「それ無理。いや、普通に。」


開け放たれた扉の奥には、これ程にない大きな空間が広がっていた。やはり外装も内装も豪華である。
昔は色々な人を呼んで舞踏会でも開き、賑わっていたに違いない。そのオーラが時を経ても感じられる程の素晴らしさだ。

――所々蜘蛛の巣やら埃が被っているのを除けば、だが。


「ちょいちょいちょい、聞いてないよー!!なんでこんな・・・お化け屋敷!?

「雰囲気が出てて結構な事じゃねぇか。ホラ、さっさと入れ、邪魔なんだよ。」

「うっそーん!無理無理無理!!私こんな所に泊まりとぉない!いやぁぁぁぁ!!!違う意味で驚きだよー!!!!」

「るせぇ。仕方ねぇだろうが。」


ぐいぐいと背中を押す三蔵が一番ビビッて居るのではないかと思ったが、ココは。まだ命が惜しいので黙る事にする。

それより、だ。

一体なんなんだ、この屋敷は。お化けが出てきそうな雰囲気は兎も角として、いくらなんでも掃除はしておいて欲しい所である。
招待した張本人は、今頃高笑いをしているに違いない。ハメられた。は瞬時に理解した。


「誰か、いませんかー・・・いや、出てこられても困るけど」

「そうだな。こういう場合はそういう系の執事かなんかがベタだろう」

「変な考察はいらないから!もう帰ろうよー!!ママーン!!!」


どっかの某国民的アニメのメインキャラ、ス●オみたいな泣き言を漏らすを差し置いて、三蔵はずいずいと奥に進む。
先ほどの言葉は撤回しよう。いや、の手を握っている時点で却下なのだが。

広々とした大広間、玄関前には食卓が鎮座し、横を見れば辛うじて作動している古時計。
振り子の音がなんとも言えない演出をかもし出している。
そして食卓を過ぎるとかなりの距離を進み、左右両側に伸びるように設置されている階段。
斜め上正面を見上げれば大きな額縁。其処には当時の当主であろう、お爺さんの絵が飾られていた。

食卓や古時計の他には何もない。あるとすれば2階まで吹き抜けになっている天井に取り付けてあるシャンデリアぐらいか。
それと階段から繋がるギャラリー席の様な廊下。部屋は両側あわせて4個。その扉を開けば更に廊下が繋がっているに違いない。
気が遠くなる程広々とした空間に壮観だ、と漏らすの瞳はホラーな演出を最も作り出しているといっても過言ではない埃やらなんやらに向いているのだが。

兎も角、こんな所に放り込んだ主に一言でも文句を言いたいところである。
だが携帯は圏外なので何の意味を果たさない事に悪態つくは、忌々しそうに眉を釣りあがらせた。


「あー、あのニヒルに笑う顔をぶん殴りたい。」

「同感だ。」


こうなったのも、全部アノ人の所為だ。いや、この時だけは『アイツ』と言ってもバチはあたらないだろう。
そう、ことの発端となる人物とは、の叔母である桃源高校の校長、観音その人である。



『ん・・・?なんだこりゃ。』

カサリと音を立て、手に持った封筒は宛名も差出人も不明な白いソレ。
何かただ寄らぬ悪寒が走っただが、興味本位であけてしまう。これが後に後悔する事となるのは皆まで言わず。
封も何も手を施していない封筒を開け、中から出てきたのはこれまた白い紙。
紙に書かれた執筆は時折見たことはあるが、それはもう随分と昔の事だ。なので直ぐにわからないのも頷ける。

一体誰なんだろう。それは手紙の内容を読み進めるにあたって、だんだんの記憶からとある人物の顔が浮かんできた。きてしまった。
書かれていた内容は以下の通りだ。


『親愛なる我が愛娘、へ』


最初の一文から既にお分かりであろう。


『 今回、高校生活最後の夏休みとあって俺からお前にプレゼントだ。

  どうせ補習で嫌気が差してんだろ?丁度いい。とある人物から俺が貸してもらった別荘がある。

  それを誰とでもいい、お前の好きな人選で一緒に避暑でもしてこい。

  聊か不便な所でもあるが、旅行には最適だ。多分。俺も実物まで拝んだ事はねぇからよ。

  後で感想を教えろよ。じゃ、精々楽しんで来い。     育ての親 観音より 』



『なん・・・だと・・・?』


まさかあの叔母からプレゼントとは。はこの時気付いてればよかったのだ。
何が『聊か不便』だと?ふざけるなと一発かましてやりたい。は華やかさに混じり、何処か愁いを帯びた食卓の前で拳を振わせた。

今朝、意気揚々と避暑に向かうべく三蔵とラブラブドライブ(?)に浮かれていたのだが、ソレは摩訶不思議ホラーツアーへと変貌を遂げてしまった。
楽しむも何も無いではないか。こんな事になるんだったら・・・と悔やんでも悔やみきれないは後の祭りだと気付くのも遅かったのである。

と、言うワケで。

薄汚い――といったら失礼だろうか。でもこの有様を見てしまったら言ってしまうのも無理はない――屋敷を見渡し、思わず溜め息が漏れてしまう。
繋がれた掌だけが唯一の救いか。未だ握られたままの部分から温もりが・・・若干汗ばんでいるのはこの際見逃してしんぜよう。
部屋はどうするか、と悩むは当分離してくれそうにない手を引っ張りつつ屋敷の中を探検する事にした。


「ねぇ、三蔵・・・本当に、何も、出ないよね?」

「・・・さぁな。呼べば出てくんじゃねぇか?」

「なんて呼ぶのさ。何を呼ぶのさ。」

「そりゃ、アレだ。とりあえず執事だ。掃除要員の。」

「それはナイスアイディア・・・ってそんな都合よく出てくるか!!」

「物は試しだ。よし、呼んでみろ、」

「自分で呼べー!!」


まずは階段を左に上り、一番奥(正面玄関から手前)のドアを開ける。其処には想像していた通り、長い廊下が姿を現した。
一番奥の突き当たりの壁にはドデカイ鏡。目がいいが一瞬びびったのは皆まで言わず。
廊下の左側には果てしなく続く窓。カーテンはボロボロになっており、役目を果たせていない。
そして右側を見ると、これまた扉の数々。と言っても2部屋しか無いのは1部屋1部屋がそれ相応に広いと言うことか。

まずは手前から。恐る恐るが背後の三蔵に促されながら開けると、中は天蓋つきのベットが備え付けられており予想した通りの広い部屋であった。
三面鏡やら奥に壁一面のクローゼット。その他サイドテーブルやら丸いテーブルとセットに2つの椅子。
どれもこれも豪華としかいい様が無い高級品(であろう)物ばかりである。
まぁ、お分かりの通り長年放置されていたであろう、独特の誇りっぽさはご健在であるが。


「なんかお姫様の部屋みたい・・・これが綺麗だったらどんなに・・・!!」

「まだ1部屋目だろ。決めるのは後回しだ」


そして手前の部屋をでて廊下奥の部屋。これまた豪華な一室であったのは言うまでも無い。
ここも女性が使っていたのであろう、そういう雰囲気があり、どうやらココの一角は女性専用らしい。

そんでもって廊下を出て階段を左に上がった手前(正面玄関奥)も同じ様なつくりになっており、窓と部屋の左右が真逆になっている。
ココも2部屋しかなく、雰囲気的には男性用と言ったところか。天蓋つきベットは変わらず誇りっぽさも変わらない。
少し違うと言えば、前途で述べたように男性用っぽい。

次に向かうは階段を右側に上がった所。奥(正面玄関手前)は男性用の部屋が2部屋。
そして手前(正面玄関奥)はバスルームやら生活に必要な部屋が3部屋程度。男女トイレが別れているのが金持ちらしい。(偏見だが)

と、そこでは不自然な点を見つけた。


「アレ・・・?1階が無いような・・・?」

そう、正面玄関を入ったところには食卓と古時計とかしか無く、かといって2階に上がったら部屋しかない。
何が言いたいかと申すと、その女性用でも男性用でも生活の場でも、その部屋の下に位置する部屋に通ずる階段が何処を見渡しても無いのだ。
もちろん食卓がある大広間にも無い。これといった扉も無ければそれっぽいものも何一つ見当たらない。
来て早々、謎にぶち当たったである。


「そう言えば台所とかも無いよね。ってかトイレは階段を上り下りしないと行けないの?なんて不便。」

「どっかに隠し扉でもあんじゃねぇのか?食卓の場には邪魔だったとかな」

「でも上を見たら扉があるんだから同じ事じゃない?大広間に扉があろうとも・・・。」

「とにかくもう一度捜してみりゃいいじゃねぇか。」

「そうだね。からくり屋敷を探検するなんて一生に一度もないチャンスだし!」

「さっきまで脅えていたお前はどうした・・・。」


お前が言うな、と言いたい所だが、どうやら探検すると言う事に好奇心と探究心を刺激されたは、三蔵の言葉は聞こえて居ないようだ。
順応するのが早すぎる。誰が見てもわかるくらい心躍らすに、やれやれ、と肩を竦めた三蔵は手を離さないままに引っ張られ後を着いていく。
だが、が階段の途中で急に立ち止まる事により、思わず転びそうになった。
何故止まるんだ、と怪訝そうな表情を浮かべた三蔵は、の視線の先を見て心臓が飛び出そうになってしまう。


「お待ちしておりました、お2人とも。いやぁ、少々準備に手間取りまして直接お迎えできなかった事はお許し下さいですね」


聊か聞きなれない言葉遣いをする、執事服を身に纏った男。こういう役がかなりしっくり来るその男はペコリと軽くお辞儀をし、背筋を伸ばす。
あぁ、なんかあるとは思っていたがまさかこんな展開になるとは誰が思っただろうか・・・いやいや、想像は容易につくけれど。


「マジでか」

「八戒貴様・・・なんでココに居やがんだ」


その執事になりきった男とは何を隠そう、桃源高校古典担当の八戒である。
八戒は片手に布を掛け、四方八方拝見しても執事そのものであった。


「おや?執事を呼んだのはお2方自身ではありませんか。もしかして僕は不要でしたか?」

「いや、不要ではないけど・・・ねぇ。どうせなら掃除は私達が到着する前にして欲しかったかなぁ、と。」

「これはこれは申し訳ございません、お嬢様。ワタクシ共は今朝に突然聞いて駆けつけたばかりなのでご了承願いたい所です・・・。」

「お、お嬢・・・様・・・?」


若干『お嬢様』と言う単語に惹かれたであったが、ココはどこぞの萌えーな喫茶店ですか?と聞かざるえない。
その前に、『ワタクシ ”共” ?』


「おー、やっと来たかあーたら。随分ごゆっくりなこって羨ましい事だワ。」

「待ちくたびれた・・・ってかそんな事考える余裕なかったケドな!」


八戒と同じく執事の格好をした、見慣れた赤髪と茶髪の男らもご登場だ。ビシッと着こなす八戒とは違い、若干着崩しているのが彼等らしい。
何も隠さずともわかるであろう、桃源高校英語担当の悟浄と同じく体育(男子)担当の悟空である。
飄々と出てきた執事らしからぬ言葉遣いの彼等は、所々執事服が薄汚れており、多分どこかにあるでろうキッチンの掃除をしていたに違いない。
と言うか、どっから出てきたんだ?この教師(今は執事だが)達は。


「さっき2階から見たときは居なかったのに・・・階段下りてる途中で何処からともなく現れたよね・・・?え?如何いう事!?」

「あははは。さて、問題です。僕達は何処から出てきたでしょうか。」

「へっへーん。俺も最初わかんなかったケドさ、ココの仕組みは結構簡単だぜ?」

「ま、ヒントを一つ。俺様優しー!この大広間のどっかに”隠し扉”が数個あるワケなんだワ。見つけて御覧なさい?」


いや、隠し扉なのは言わなくともわかっている。と言う事は悟浄の自称お優しいヒントは意味が無いワケで。
更に頭を抱えてしまうは何がなんだか状況も掴めない。こんがらがる一方である。
だがその時、若干空気になりつつあった三蔵がいとも簡単に謎を解く発言をした。


「大方、そこの柱の繋ぎ目にでもあんだろ。外見はただの壁。押せば開き内側には取っ手が付いてるって所か。」

「なーんだよ三蔵サマ?あーたが答えちゃ意味ねぇっつーのっ」

「なんでぃなんでぃ!俺達はに聞いたのにさー!」

「似非名探偵三蔵の出来上がりですかね。でも、まったく・・・」



「なんか非難浴びてますけど・・・先生?」

「・・・・・・・・・・・・・・殺すぞ貴様ら」


見事に謎を解いて見せた三蔵に降りかかるのは、あろう事か非難の声であった。何故だ。
それはともかく、三蔵が言った通りは隠し扉があるらしい壁を押すと、本当に開いた。
中は全体的にシンクになっており、悟浄と悟空の苦労の成果によって綺麗になっている。

道理で個室まで手が行き届かなかったワケだ。アレだ。キッチンも凄く広い。
階段を右に上がった部分1階全てがキッチンになっているのだと、奥は見えないが確信できる。
こんな無駄にただっぴろいキッチン全てを掃除しただなんて・・・哀れを通り越して笑うほか無い。我ながらに酷いとは思うが笑っておく。

と、言う事は。反対側の壁にも同じような隠し扉が存在するのだろうか。


「あ、さん!そっちは駄目です危ない!!」


気になって徐に反対側の壁も同じ様に押す。それを見た八戒が慌てて声を荒げるが、時既に遅し。


「ぬあぁぁっぁああ!!!」


間一髪の所を未だに手を繋いだままの三蔵が引っ張り、大事には至らなかったのだがの心臓は爆発寸前だ。


「な、なんじゃこりゃー!!」


どっかの某有名ドラマの登場人物よろしくな台詞を叫んだは、目の前に現れた狂気の混じったブツを見つつ三蔵にしがみつく。
何が起こったのか頭の整理が追いつかない。何故、こんな所に短剣が・・・?


「ココは以前の持ち主である当主さんが、遊び心で仕掛けた罠があるんですよ・・・言うのが遅れてしまって申し訳ありません・・・。」

「いや、勝手に行動した私が悪かったんです。ってか遊び心ってレベルじゃないよ!!!明らか殺意篭ってるでしょ!!??」


無数に飛び出た短剣、そしてサーベルやら棘付きの塊やら金棒やらなんやら・・・以前の当主は遊び心で殺人を楽しむ性格だったのだろうかと疑わざるえない。
となると、名づければココは『殺人屋敷』・・・?そんないわくつきの別荘だなんてごめん被る!
これ程になく引っ張ってくれた三蔵が心強いと思ったのは初めてだ。それはちょっと大袈裟かな。
とりあえず命の恩人であろう三蔵に感謝すると共には興奮冷めやらぬまま立ち上がる。
はて。もしかしてこの壁一面はトラップだらけのおぞましい隠し扉だらけなのだろうか。
誤まって手を突いたら即死亡だなんて、洒落にならんぞ。


「大丈夫です。見取り図を見たらトラップがあるのはココだけみたいですのでどうぞご安心を。」

「でもよ、間違ったら串刺しだろ?あんまこっち側はつかわねぇ方がいいんでね?」

「それもそうですね。でも、一応お教えしておきましょう。謎のままだと気になりますもんね?」

「さっすが八戒先生。よくわかっていらっしゃる。」

「照れますねぇ。ふふふ・・・ではお教えいたしましょう。このトラップの直ぐ真横に、ホラ。もう一つ扉があるんですよ。」

「真横にあるってのが以前の当主の意地の悪さが滲み出てますね・・・。」

「そして古時計を挟み3歩進んだ所に最後の隠し扉があるって言うワケです。これで全部出揃いました。」


まずトラップすぐ横の扉の奥にはこれまたただっぴろい部屋が一つ。2階と違い2部屋分の広さをかねそろえている。
そして3歩進んだ(正面玄関手前)隠し扉を開ければ、音楽室・・・だろうか。埃を被ったグランドピアノ、そして様々な楽器が置かれていた。
入って左側には大きなガラス張りの窓。外の庭に繋がる出入り口でもある。


「欲を言えばココに出入りしたい所です・・・。」

「まぁ、此方ならトラップに遠いですし、明るい内なら出入りを許可しましょう。楽器の整備なら僕に任せて下さい。」

「お前はまず先に寝泊りする部屋を掃除してくれ。」

「俺もう掃除は嫌だぜ!?キッチンでお手上げだってー!」

「俺も同感だワ。つーワケで八戒、後は頼んだ。」

「たかがキッチンだけで情けないですねぇ。」

「「普通にひでぇ!!」」


そんなこんなで各々決められた分担をこなす為、散開する一行は課せられた問題に毒づくのをそこそこに屋敷内に消えていった。

八戒は寝泊りする部屋の掃除(所謂全部屋にあたる)をしに。
悟浄はやはり八戒の剣幕に抗う事は出来ず、水周り(トイレ、お風呂)の掃除。
悟空もやっぱり(以下略)八戒と共にシーツやらの洗濯などなど。

苦労している3人を横目に三蔵とは優雅に庭でお茶会である。

音楽室を抜け庭にでた2人は、其処に備え付けられた椅子に腰掛け、が入れた紅茶を飲みつつ見事なまでの庭園に見入った。
綺麗に咲き誇る薔薇、手入れの行き届いた芝生、その他諸々。
何故庭だけは綺麗なのか不思議に思うが、よくよく見れば芝生は人工の物。薔薇は手入れをしなくとも綺麗・・・と言う事は造花である。
一気に白ける2人だが、見た目は美しいのでなんとか落ち着く事ができたのであった。


「それにしても、凄いねぇー。避暑って言うか暑さ凌ぎ通り越して寒い。お化け屋敷怖い。」

「・・・そうだな。」

「先行き不安?折角2人きりかと思ったら・・・でも、お化け屋敷なら2人より大勢の方が良いに決まってる。」

「・・・・・・そうだな。」

「ねぇ、ちゃんと聞いてる!?先生??」

「・・・・・・・・・そうだな。」

「もぅ!この金髪ハゲ!!」

「誰がハゲだ誰が。」

「なんで悪意の篭った単語は拾うの!?やんなっちゃうわぁまったくっ」


上を見上げ心ココにあらず、な三蔵に憤慨するだが、傍に居るだけでいいと思ってしまうのは何故だろうか。
答えは決まりきった事なのだが、聊か三蔵の反応に怒りがこみ上げてくる。
もしかしてこの屋敷は呪われていて、こんな風に暗くなってしまうのは呪いの所為?
ありもしない事を考えるは自分の思考がとうとう狂ってしまったのかと嘆くばかりである。

山頂と言う事もあってか、空気は美味しいし、見晴らしもよく夏の生い茂った木々は見ていて飽きない。
しかし背後にはお化け屋敷なので清々しい気分は一気に興醒めだ。
もっと他に良い物件があっただろうに・・・あぁ忌々しい。帰ったら速攻文句を言ってやる、と胸に誓うであった。

と、そんな時。稲垣で見えはしないものの、音だけは反響する庭で訪問者が来た事がわかった。
重そうな扉が開く音、そして閉まる音。扉とは正面玄関を指している。


「誰だろ・・・ちょっと見てくるね!」

「・・・あぁ。」


とたとたと軽快に足音を鳴らし音楽室へと入っていくの背を、漸く見上げていた視線を戻し視界に入れた三蔵は人知れず溜め息を吐いた。

「ったく・・・どんどくせぇ。」

それは誰に向けた言葉なのか。今の段階では皆目見当もつかない。


「こんにちは、さん。」

「昨日の補習ぶりだな、。」

「ー!!お兄ちゃんだぞ!!無事か!?」


「こんにちは八百鼡先生、紅孩児先生。・・・ってか、どうしてお2人がココに・・・?」


どっかの誰かさんはシカトする方針で進めるは、珍しい人物に心底驚いた。
何故、桃源高校養護教員である八百鼡と同じく歴史兼生活指導の紅孩児が・・・?ついでに親戚である副担任焔も。


「あぁ、俺も事態を飲み込めないままなんだが、校長先生から直々に指令があってな。」

「それはなんともまぁ、あの叔母様の我が侭に振り回されて・・・ご愁傷様です。」

「それは言うな、・・・お互い様だろう。」

「あははは・・・でも、素晴らしいお屋敷ですね。こんな所に泊まらせて頂けるなんて、貴重ですわ。」

「お兄ちゃんはな、!お前と一緒に旅行だなんて涙で前が見えなくなるくらい嬉しいぞ!!」


どうやら被害者らしい。哀れ、あぁ哀れ。
ん?待てよ。この2人が来たと言う事は、だね諸君。


(三蔵と、ラブラブ・・・できない!?)


とことん邪魔が入るのこの不運さを誰か呪ってはくれまいか。いや、これもこのお化け屋敷の呪いなのだろうか。
確実に叔母の悪意と意地の悪さが目に見えているのだが。


「まさか他にも来るって事、無いですよねー・・・?」

「それならもうそろそろ3人が来る・・・」


の不安、見事的中。紅孩児の話を遮り、新たな訪問者が勢い良く扉を開け放ち、声高々にご挨拶だ。


「たのもー!!幸子様とえりが来たのよ!遠慮せず丁重にお出迎えしなさい!!さぁ喜べギャハハハー!!!」

「こ、こんにちは〜お邪魔しまーす・・・。」

「チョット幸子チャーン?メアリーの事忘レテルワヨ!本当ニ貴方ハ失礼ナ子ネ!!」


「ちょ、待てよ・・・マジでか」


の親友である幸子、えり、ついでに厄介者の外国人編入生、メアリーが来た事により、一気に騒がしく・・・華やかになったのであった。


「ってかメアリーは夏休み前に故郷に帰ったはずじゃあ無いの!?」

「何言ッテルノォー、チャン?三蔵センセーを独り占めしようったってそうは問屋が降ろさないわよ。」

「片言。片言忘れてるカラ。ッテ言ウカ難シイ日本語お上手ネー」

「、あんたが片言になってるよ。」

「ギャハハハー!!だーれもお出迎えしてくれないとか!マジ虚しいんですけどー!!!」


まぁ、なんだ。・・・とりあえずお帰り頂きたい。コレ切実。
今回はオールスターでお送りいたします。(言うの遅い!)


「八百鼡・・・あいつ等(生徒)は何も知らないのか?」
「そうみたいですね。校長先生のシナリオにはあの子達は入っていませんし。でも”出演者”である事は聞いています。」
「そうか。まぁ、あの校長先生が考える事だ。俺達はただ”道化”になるしかないみたいだな。」
「心苦しい事ではありますが・・・私達は楽しんでもらえるよう精一杯頑張りましょうね、紅孩児先生。」
「あぁ。面倒だが、致し方なかろう。俺も全力を尽くす。」


なにやらそこそこ話している2人の教師は置いといて、女子生徒達の言い争いが響くこの大広間。
色々な思惑(?)やらなんやらが交差する物語。

全ては校長、観音の掌の上。何を企んでいるのか皆目検討もつかない(嘘吐けやぃ)この避暑旅行の本当の目的とは。

つーワケでぇ、次回に続く。











謎が謎を呼ぶサスペンス

(これは序章に過ぎない。ってか、三蔵とのラブラブ旅行はいずこへー!!)











ATOGAKI
 ボツです。書いたのは今年の1月ですが、途中放棄・・・もとい所謂ネタ詰まり。哀しいことです。笑
修正など至らない部分もありますが、ボツですので・・・お見逃しを・・・(汗)
兎に角サルベージ第一弾。まだボツネタは多々存在している保存ファイルを忌々しく思う今日この頃でありました。

 続きません。