新学期。
私の最後の高校生活になるこの1年間の始まりを迎える今日、まさにこの日。
予期せぬ事態が起こった。いや、厳密に言うと『今日から』起きるのだ、その事態は。
私は意気揚々と校門を潜り、なんだか入学式を思い立たせる桜の木と、生徒たちで溢れかえる校舎へと続く道を
風にスカートを靡かせられながらもその歩調を止める事無く行きなれた教室へ向かう。
昨日は新学期の準備やらなんやらに追われ、三蔵と会う暇は無かった。昨日でだけではなく、ここ1週間まともに顔を合わせてない。
やはり腐っても担任は担任なのだろう、その前に今年も三蔵が私の担任のままなのだろうか。
まぁ3年間クラス替えも何もないと言う私の叔母様・・・もとい校長サマの保障つきなので心配には及ばない、筈。
もしかしたら本当は変わるのだけど三蔵がワザと教えなかったと言う事も在り得る、のだが不思議と不安にはならなかった。
コレも愛のパワー。私と三蔵には何か縁がある、と自負しておりますゆえ私は心躍らせ意味も無いクラス表がある昇降口に足を踏み入れるのである。
目の前に張り出された巨大な紙を見て私は思う。ホラ、やっぱりと。
『3年A組 担任:玄奘三蔵』
見知ったクラスメート達の嘆きの声が聞こえるけど、その声色には嬉しさも混ざっていて。
ぞろぞろと挨拶を交わしつつ宛がわれた教室へと向かってゆくその姿は、まだ最高学年と言う自覚はまだ無いようで、しかし表情はとてもいきいきとしていた。
私も遅れないように上履きに履き替え後に着く。途中でえりに会い談笑しながら最後の1年間お世話になる己のクラスへと歩を進めた。
そして入った事も無かった3年A組の教室に着き、名前が書かれた紙が置いてある机に腰を下ろしまず一息。
これから1年間、よろしくおねがいします。きっと教壇の目の前に行く羽目になるであろう、私の机。
これはまだまだ序章に過ぎなかったのだと、前に同じような事を言ったがそれとはまた違ったニュアンスを含むのです。
私の高校生活最後の1年間、何事も無く終わって欲しいと願うも、それは音を立てて崩れ去るのはカミサマの仕業か、なんなのか。
もしかしたら『禁断の恋』と言う魅惑気なキャッチフレーズを背負った罪深き私たちへの試練か、はたまた妨害か。
神のみぞ知る。
「やーっぱり、クラス替えも担任替えも無かったよね・・・隣のクラスは担任変わったって言うのに」
「あぁ、担任変わるほうが異例なんだって校長が言ってたよ」
「じゃあ私たちもその『異例』のクラスだったらどんなに良いか・・・」
「そんなに鬼クラスは嫌か」
「あはは。みんな内心喜んでると思うよ?口では色々言ってるケドね」
教室に着くと、今学期最初に遭遇した友人えりと話に花を咲かせ、あまり最高学年になったと言う自覚が芽生えなかった。
ソレもその筈、1年から今まで全員見知った顔で、今まで通りなのだから。
「幸子遅いねー。もしかして朝会はスルー?」
「きっと化粧に磨きをかけてんのよ、あいつは」
「ありえるから怖い。ってか絶対そうだよね」
教室内は各々好きなように行動していて、たちもその中の1つだ。数分後には全員揃って着席するのだろうが、今はまだその時ではない。
幸か不幸か担任紹介は始業式で発表される為、ソレまで会えず、は待ち遠しいといわんばかりに内心テンションが上がっていた。
そんな事を知らないえりはいつもの様に鬼が担任になる事を確信しつつ、あまり変化が無い教室内でたむろう。
「なんか目新しい展開は無いのかね」
「転校生が来るとか?ははっありえないね。ココって編入試験すごく難しいんでしょ?」
「らしいね。まぁ・・・入ってこれたとしても、このクラスはまず無いと思うけど」
「一応特進クラスだもんねー・・・」
言い忘れていたが、が在籍するクラス、3年A組は特進クラスである。と言うか、A組は全学年特進クラスなのである。
は遅刻癖がなんとも言えないが、頭だけは良い。それに母子家庭だけど奨学金が出るので、遅刻で怒られようが勉強だけは唯一の救いか。
まぁ目に見えぬ壮大な権力が動いている様な気もしないでもないが、はで自力でココまでこれたのは言うまでも無い。
そしてHRの時間。担任の三蔵と変わって今年もまた副担を受け持つらしい焔が教室に入ってきた。
ソレを合図に一同着席し、一気に室内は静寂に変わる。ソレを確認した焔は去年度とあまり変わらない顔ぶれと雰囲気に聊か拍子抜けである。
「では出席を行う。席替えは始業式が終わってからだからソレまで我慢しろよ」
焔はスーツを着こなし(まぁいつもの事だが)春休み前ぶりの生徒達の顔を一人ひとり確認しつつ、出席を行う。
そこでふと思う。と言うか気付いてしまう。そうだ、誰か1人居ない。いつも騒がしく、特進クラスと相容れぬ風貌の女子1名が足りないのである。
遅刻はの専売特許ともいえる事なのだが、本人は珍しく・・・と言ったら失礼極まりないのだが、普通に席に着いている。
場所は違えど、それが無性に寂しかったり。何故、出席番号順だと一般的な一番良い席なのか。の席は窓際の一番後ろであった。
「おっはようございまーっす!今日はーの代わりに私が遅刻してみたって感じ?ギャハハ!!」
「やっと来たよ・・・ってか私の代わりはいらないから。ギャハハじゃないから」
「今年も鬼クラスっしょ?バッチリ準備は整ってるよ!」
「秋菜・・・化粧がいつもより濃い気がするんだが・・・」
堂々と遅刻して登場したの友人B幸子は元から派手だったがそれに一層磨きが掛かっていた。
の予感的中である。幸子は化粧やらなんやらに時間を喰って遅刻したらしい。
これも特進クラス故か、あまり注意はされないのである。それでいいのか、特進クラス。
「では、気を取り直して・・・始業式に行くぞ、お前ら」
焔の一言で一同は体育館へと足を運んだ。
「今日は担任紹介と、あともう一つ、お前らにサプライズを用意したから心して挑めよ」
「ごめん、何に挑めばいいんでしょうか」
「言葉の綾だ。気にするな、」
と言うワケで、体育館に着いたA組は皆が揃う生徒達の間に並び、着席した。
横を見ればお馴染みの担任、司会者の八戒、その他諸々、そうそうたる面々が集っている。
気だるげに壁に寄りかかっていた三蔵はに気付くとチラ見し、直ぐ視線は逸らされた。
愛のパワーと自負するはそれだけでニヤニヤが止まらない。数日振りの三蔵はとても輝かしかった。以上のビジョンより引用。
『ではみなさん、お待ちかねの担任紹介に行きましょうか』
いえ、誰も待っていませんとはいわず、司会者八戒の進行を聞く生徒たち。
B組は誰が担任になるか今か今かと心待ちにしていて、他のクラスの生徒たちより表情が活き活きとしているような気もしないでもない。
しかし、A組も負けず劣らず期待に胸を膨らましている。先ほど焔が言った『サプライズ』が気になっているのだ。
『ではD組から・・・』
それに続き、C組、B組となんでA組からじゃないんだという疑問はさておき、次々に紹介されてゆく担任。
2、3年生は一クラスを覗いてあまり反応は無く、かといって落胆した様子は見受けられないのだから、各々満足しているのであろう。
そして問題の3年B組。
『3年B組・・・渡囲先生』
本日始めて、阿鼻叫喚の声が体育館に響きわたった。
「ドンマイB組・・・そしてサラバB組青春の1ページ」
「、睨まれてる睨まれてる」
「ギャハハ!!だっせー!!あの渡囲だってよ!!」
「もっと非道いのが居た」
まさか某3年B組教師が来るはずも無く、あの厳格と恐れられた渡囲に印籠を渡された気分なB組諸君は抜け殻状態まで追い詰められていたり。
そして残ったのはご存知のとおり、玄奘三蔵ただ1人。主役は最後に登場とはまた違ったニュアンスで紹介される事となる。
「また貴様らか」
「今年も、ご指導ご鞭撻のほどよろしくおねがいしますよー」
「ギャハハ!鬼クラス最高!!」
「幸子、ご愁傷様」
そんなこんなで、ピンと張り詰めた空気に漸く最高学年の実感が沸いた一同は教室へ戻り、最後の関門?サプライズを今か今かと待ちわびる現状に至る。
新しい教室、特に新しくも無い顔ぶれ。今しがた紹介された担任は体育館で見た生徒たちの表情の変わりように少し目を見張る。
やはり始業式とかは実感を沸かせる効果があるのかと、関心した。
兎に角、また1年間共にする生徒たちに、やっぱりいつも通り気だるそうに挨拶をし適当に注意事項など話し、あとは副担である焔にバトンタッチである。
「あれ?って出席番号順でもど真ん中の一番前だった気がするんだけど・・・」(※逃げ道参照)
「それもそうだよね。何で?」
「さぁ?」
そう言われて見れば、と言うようには首をかしげた。いつもの指定席には変わりに空席が一つ。
先ほどまで無かったような気もしないでも無いようなソレに生徒たちは揃って疑問を持った。
だが、それは焔曰くサプライズによって明らかになる。
「では、お前らにとっておきのサプライズを発表するぞ。しちゃうぞ」
「早く進めろ」
「三蔵先生は黙っていろ」
「るせぇ。のろま」
「なんだと!!俺の何処がっ」
「喧嘩は他所でしてください」
担任の喧嘩勃発寸前でが止めなければ延々と繰り広げられていただろう。それに我に返る焔は咳を一つ。
気を取り直して、と焔は自称サプライズの内容を意気揚々と言い放った。
「この学園に世にも珍しい編入生、所謂転校生がこのクラスに来る事になった」
一同騒然。まさか、そんな馬鹿な。
またしてもたちの予想が当たった事に驚きを隠せない生徒たち。
新入生ならまだしも、難関と言われた編入試験を通ってきたと言うのか。しかもこの特進クラスに。驚愕の真実に騒ぎ始める生徒たち。主に男子。
まだ女子と決まって居ないのだが純粋且つ健全な男子故、否、思春期の野郎にとってはこれは確信に近い。むしろココまで来たら願望だ。
一気に士気が高まった生徒たちは合図をした焔に続き、開かれたドアの向こうに釘付けである。
「えーでは、自己紹介をしてもらおう」
生徒達の目の前に現れたのは、とても可愛らしい前の学校のであろう制服を着た、女子。
それに男子は心躍らせ舞い踊る勢いである。なんともまぁ、この殺生無しが、とあきれ返る女子も転校生に見とれていた。
ぎこちなく、されど元気に教壇の横に立った転校生は、大きな瞳を瞬きさせ転校と言う不安は何処かに嬉々として自己紹介をし始めた。
「Hello.My name is Meary.Nice to meet you!」
ざわ・・・ざわ・・・。
彼女は栗色の少しウェーブを携えた碧眼の外国人であった。
いきなり英語での自己紹介。見た目からすれば当たり前なのだが、あまりの唐突さにざわめき立つ室内。
まさか、そんな。先ほどと違ったイントネーションで驚く生徒たちは、美人な外国人を2度見したとか、なんとか。
「えと、彼女はメアリーさん。半年しか一緒に居れないが仲良くしてやってくれ」
焔がつかさずフォローに入り、なんとか落ち着きを取り戻したと思われる。
その中の1人であるはと言うと、なんだか冷や汗を垂らしそして思う。
(英語・・・苦手なんだけどな・・・)
特進クラスの癖して英語が聊か苦手なであった。
「じゃあ。彼女にみんなの自己紹介の見本として挨拶してみてくれ」
「私が英語苦手だって知ってて焔にぃコノヤロー!!!」
「丁度いい勉強だと思うんだ、。さぁ早く」
「うっ・・・くそぉ・・・」
顔をひくつかせ、おずおずと前に出るは、近くで見ると更に可愛らしいメアリーに慄きながらも右手を差し出した。
「へい!まいねーむ いず 。ないすとぅーみとぅーとぅー!」
「ぶっ!」
「ボヘっ!!」
「がはっ!!」
「ギャハハー!!!」
本当に、英語が苦手なであった。ちーん。
「笑うなあああああああああああああああ!!!!」
余談だが、ちなみに一番上が三蔵で一番最後が幸子である。
この時はまだ世にも珍しい転校生と、珍しい外人さんのダブルパンチにただ驚くしかなかった。
けれど、これが最悪の事態を招くだなんて、誰が予想したでしょうか。ってか、メアリーって教科書の人物かなんかですか。
そんな英語の見本となるメアリーとの壮絶な戦いの火蓋は切って落とされるのである。
Hello!New face!!
(碧眼少女はただ笑う)
ATOGAKI
管理人然り。苦手な英語を組み込むとは・・・俺は馬鹿か(そうです)
今回長丁場という事で、新キャラ登場。李鈴にするかオリキャラにするか迷いましたが、話の展開的にメアリー導入。
また1人オリキャラが増えてしまった・・・本当に申し訳ない。
メアリーのモデルは、やっぱ教科書。何処からともなく引っ張り出してきて名づけました。教科書以外にも個人的なネタの名前でもありますぐぁ。
オリジナル要素が色濃くなってきましたが、見捨てないでやってくれると嬉しいです。
ってかこの展開とかなんかどっかで見たような(※青春ストーリー参照)被らないように内容を変える努力に勤しむとします。
ではでは、何話になるかわからんとですがよろしくお願いします。