あの子の言動はどういう理由から来るものなのか。

また、どういうつもりで私にちょっかいを出してくるのか。

私はあの子に何かしてしまったとか考えたけれど思い当たる節は全く持って皆無。

一方的に暴言を吐かれ、一方的にこの仕打ち。

何がどうなっているのか今の私には情報不足で、精神的にも疲れ果て全てが悪循環だ。

頭痛い・・・兎に角、この状況をどう打破するか。話はソレからだと思う。











「三蔵センセー?ソコノ公式間違ッテルヨー!」

「・・・あ?・・・・・・あぁ。そうか」

「シッカリシテ下サイヨー、三蔵センセー!」


新学期が始まり春の暖かさが教室内を充満する今日この頃。
の反抗期フェアは完全に無くなり、忘れられはしないが何事も無く生徒たちは日々を過ごしていた。
どんなに新しい朝が来ようとも、登校してみれば相変わらずな面々と顔を合わせ同じような毎日を繰り返す。
そんないつもと変わらぬ風景に飽き飽きしてきた、午後の授業。


「担任が間違えるとかっ・・・ありえねぇーしっギャハハ!!!」

「幸子さーん!?それ以上は止めた方が・・・」



「あぁ、すまんな」



『っえぇええええええ!?』


いや、間違えた事に謝罪するのは至極当たり前の事なのだろう。だが、この担任の口から聞けるとは。


「貴様ら、俺をなんだと思ってやがんだ」


「鬼畜」
「冷酷」
「生臭」
「ハゲ」
「傍若無人」
「無慈悲」
「極悪非道(主に顔が)」
「・・・鬼」


「よし、全員廊下に立ってろ。特に最後に言った奴」


「・・・」


「しらばっくれんな、お前だ」


「地獄耳・・・」


「課題4割増しな」


「ですよねー!!!」


無情にも、授業の終りを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。


「で。なんで私だけ呼び出しなんですか・・・」

「何事も責任を取らなければならん奴はいる」

「言いだしっぺは私じゃないしっ!何その会社の責任を全部押し付けられたみたいなノリ!窓際族なめんなー!!」

「適役だろ」

「全リストラされたリーマンに謝れ。特に窓際族の人に」


理不尽な(自業自得だろ)責任を全て背負わされた、哀れなんだかざまぁみろなんだか分らないは担任の怒りを買い数学準備室に呼び出され今に至る。
ぶすくれるは椅子に座る担任の横に立たされ、下からものすごい威圧感をひしひしと受けながら目のやりどころを必死に探していた。
後ろめたさ、などと言うものは無くいつものスキンシップよろしくな発言にこうも仕打ちを受ける理由が分らないといった様子だ。
だがの予想を裏切り担任は目つきは悪いものの、内心怒ってなどいない。むしろこの状況に持ってこれた事に喜びを感じているのだろう。
子供染みているとは分っているものの、アレから全くと言っていいほど交流をしていなかった三蔵にしてみればまたとない絶好のチャンスなのだ。
それを分っているのかいないのか、は2人っきりだという状況に気がついていないのか定かではないが聊か不服そうであるのは何故なのか。

「こんな回りくどいやり方しなくたって・・・いいじゃん」

「しょうがねぇだろ。いつもなら会える時間も色んな奴の所為で削られてんだからな」

「じゃあ、昼休みとか、メアリーと一緒に居なきゃいいじゃん!」

「・・・アイツはアメリカから来てまだ日が浅いんだ。世話は担任の役目と言われたら断れん」

「むぅ・・・わかってるよ、わかってるんだからそんな事・・・」

「今だけだ。我慢しろ」

不服の理由は呼び出しされた事ではなさそうだ。
の発言から分る様に毎日うんざりするほど一緒に昼食や、放課後を共にしていた2人は今、すれ違っているらしい。
原因は言わずと知れたメアリーであり、2人を悩ます最大の敵だと言っても過言ではないだろう。
三蔵は口ではきつい事を言うが本当の所、どう思っているのか。先ほどの言動を考えれば一目瞭然なのだが、それも気に食わないらしい。は。

「簡単に言ってくれるよね。手が届きそうなのに届かないこのもどかしさ・・・あぁ無情。あぁ非道」

「詩人かお前は。・・・兎に角、今なら誰もココには来れんだろう。説教の真っ最中と思われてるだろうから簡単には近づけん」

「みんな先生の説教には巻き込まれたくないもんね?」

「どの口が言ってんだ・・・この馬鹿娘」

ギシリと廃れた椅子が音を立てる。立ち上がった三蔵は徐にの頬に手を沿え、微笑むその唇に己のを押し当てた。
随分とこうやって時間を共にするのはなかった気がする。今だけだと、過ぎ行く時を止めるかのように深く2人は求め合う。

――胸のうちに秘めた想いが、全部伝わればいいのに。

「・・・この嫉妬は醜いですか?」

「すくなくとも、あの反抗期はな」

「もうあんな事になったりしないもん」

「はっ、そうかよ・・・暴走する前に、俺に言え。溜め込むんじゃねぇぞ」

「うんっ」

反抗期は嫉妬半分、怒り半分と言った所か。一度枷が外れた理性はそう簡単に治りはしない。の場合、戻れなくなって更に暴走してしまった。
見た目によらず(?)繊細なハートを持ったは雑言を言われ、終いには目の前であんな光景を見てしまったのだ。
爆発するなと言うほうがおかしい。餓鬼だなんだと罵ればいいさ。それほどが三蔵を思う気持ちは大きくて。

「まだ、吐く気にはならねぇか」

「・・・もう少しだけ、待ってて」

全部終わったら、ちゃんと洗いざらい話すから。それまでは――

シャツを掴む力が強くなり、それに気付いた三蔵はこわばるの力を抜こうと、再度口付ける。
腰を引き寄せ優しく体を包み込むように抱きこみそのまま・・・キスしようとした。しようとした、のだが。


「ヤッホー!三蔵センセー!!オ説教ハ終ワリマシ、」


スパーンッ――・・・


「・・・・・・・これは酷い」

「正直すまんかった」


突然のメアリー乱入により、2度目のキスをあえなく断念させられた2人。メアリーが入ってくると共にこの数学準備室にはハリセンの音が高らかに響き渡った。







――あぁ無情。あぁ、非道。


















「折角の、2人の、空間っ!何故アイツに邪魔されなきゃいけないんだ!!!しかもハリセンで叩かれたし!なんて理不尽!!」


ズカズカと廊下を歩くは表情を般若の如く変え、すれ違う生徒たちに威圧感を振りまいていた。


「こうなったら決闘だ!可愛い顔して裏ではどす黒いものを隠してるメアリーと!」


挑戦状。
 私は貴方に決闘を申し込む。
 私になんの恨みがあるか知らないけれど、いい加減我慢の限界だ。
 姑息な手口で嫌がらせはお終いにして私と決闘しろ!
 アンタなんて、アンタなんて・・・私の敵じゃない!!


「私は逃げも隠れもしない!正々堂々と、勝負なさい!!」


まるで自分が悪者になった気分なは、達筆に挑戦状と書いた封筒をメアリーの下駄箱に叩きつける。
日時は明日、正午。簡単に言うとお昼休み、屋上で。
なんで自分がこんな事を書かなくてはならないのかと不平不満を口にするだが、先ほどの一件で漸く決心がついた。

コレはもう、白黒はっきりさせないと埒が明かない。
何故私にちょっかいを出すのか、何故三蔵に執拗以上にまとわり着くのか。
明日の決闘で全て吐かせてやる、と志高くは帰路に着いた。




「さんも決闘だなんて、粋な事をしますねぇ」

「挑戦状ってあーた・・・いつの時代よ?」

「僕は好きですよ、決闘」

「いや、嫌いじゃねーが・・・まるで悪役だな。しかもヘタレな」

「でも、コレで時代劇の常識は覆されますね。『ヘタレ悪役、正義に打ち勝つ!』なんてキャッチフレーズつきで」

「ははっ!違いねぇ。でもま、正義は最初から」

「「だし」」



正義か悪か、なんて枠に嵌るようなちんけな言葉で表現しきれないかもしれないが、恋と言うのは決闘が付き物だ。
1人の男をめぐって女の醜くも美しい争奪戦は、見ていて楽しい。悟浄は呑気にそんな事を呟いた。

「俺も取り合ってくれねぇかなー」

「・・・望みは高く」

「どーいう意味ヨ、八戒さん?」

「さて。僕等は明日、最高の傍観席で見学と行きましょうか。審判は・・・やっぱ三蔵ですかね」

「けっ。ちょーっと不公平なんじゃねーの?」

「では動けなくなった方が負け、という事で」

「どんだけ壮絶な戦いを想像してんだよ」

「血肉沸き踊る殴り合い・・・楽しみです・・・!」

「んなおっかねーもんやらせられるか!!」

それは冗談だが、結果は明日のお昼休み。全ての決着が決まろうとしている前日の放課後。
果たして勝つのはどちらか。デスマッチよろしくなルールの下、みな明日に備えて興奮を抑える。

如何転んでも、見届けなくてはならない。




「ン?チャン、面白イネー。望む所だよ」




達筆な文字にも関わらず糸も簡単に読むメアリーは、本性を表すかのように妖美に微笑んだ。





「三蔵センセー・・・ううん。三蔵は私の王子様なんだから、なんかに渡さない」























+++


















「・・・はい・・・・はい。すみません、光明さまは私にも行方がつかめなくて・・・はい、すみません」


携帯の電源を切って、朱泱は深くため息をついた。
隣で呑気にお茶を啜っている光明を横目に、悪態しか出てこない。
彼らは、あれからずっと三蔵の家に居候・・・もとい、様子見という事で泊まり続けていた。

「檀家の皆さんは何て?」

「一度ご挨拶がしたいと待っておりますよ」

「ハァ・・・そろそろ潮時ですかねぇ」

「最初から逃げずに向き合えばいいものを、貴方という人は・・・」

理由はなにやら、お寺関係らしい。檀家と言っているので、間違いないだろう。
では何故本来受け入れなければならない檀家から逃げているのか。


「だって・・・会うたびにメアリーと江流を結婚させろとか、お見合いさせろだなんて言われたら誰だって逃げ出したくもなりますよ」


それは初めて問題の檀家と顔を合わせたときに始まったのだという。

アレは三蔵がまだ教員学校に通う夏の季節。
久し振りに実家に帰ってきた三蔵と偶然居合わせ、葬式間近に迫った檀家の娘メアリーとの出会い。
そこから全ては始まったのだった。

所謂一目ぼれをしたメアリーは6歳上の三蔵に胸躍らせ、それに便乗した両親は執拗に光明などに話を持ちかけ始めたらしい。
それからと言うものの、毎年頻繁にアメリカからはるばる日本くんだりまで足を運ぶ檀家一家は身勝手な言い分を並べ、
毎回光明は優しく断りを入れるものの諦めない。そしていい加減嫌になった光明は逃げたのである。

「なら正直にキッパリと断ればいいじゃないですか。逃げるから追い続けてくるんです、あちらは」

「そうですね・・・まさか江流の学校に編入させるとは思いませんでした」

「執念深いといいますか・・・強硬手段に出てきましたね」

これは予想外の展開だった。何故そこまでして三蔵に執着するのか・・・メアリーの一途さには目を見張るものがある。
最初から全部隠してきた光明は、三蔵の仕事の邪魔をしなたくなかった。その為三蔵は全く気付いておらず、今に至る。

「兎に角ですよ?私は江流に無理強いはしたくありません。それに、あの子にはさんがいらっしゃいます」

「光明サマが困ってると言えば嫌々でもアイツはお見合いぐらいしますよ?」

「そこからさんといざこざがあっては顔向けできません。別にさんの心が狭いとかそういうのではありませんよ?ただ・・・」

そろそろ言っておいた方がいいのかもしれない。だが、言葉通り光明は余計な事を言いたくはないのだ。
しかし今の現状からすると、自分だけで食い止めるには限界がある。

「私達の問題を巻き込みたくはないのです。と言っても、もう手遅れだとは思いますが」

明日には光明たちの心配は杞憂に変わるのだが、今はまだ知らない。


「・・・ただいま帰りました」

「おや、江流。お帰りなさい」


神妙な顔つきで話してした2人は三蔵が帰ってきた事により一旦止めた。
疲れた様子で帰ってきた我が子はと言うと、早々に自室に入って行く。
やはり言わないほうが良いのかと危惧する光明は迷う。そこに朱泱が一言。

「このままじゃ埒が明かない事ですし、正直に打ち明けた方がいいと思いますよ、俺は」

「まぁ、若いんですからどうにかしてくれますよね」



〜〜♪〜♪〜♪♪


ピッ

「どうした?なんかあったのか」

『ううん。なんとなく・・・あ、そうだ。言いたいことがあったんだった』

「なんなんだお前は・・・」

『あのね、私勝つから。絶対勝ってみせるから!だから・・・ジャムパン用意しといてね』

「・・・?自分で買いに行けばいいだろうが」

『それがさー、明日のお昼休み用事があるんだよねー。だからご飯買いにいけないの!』

「勝つとか、それが関係してんのか?」

『そう!だからお願い!一緒にご飯食べられなくても、我慢するから!!』

「話が全く見えないんだが・・・わかった」

『ありがとう!今なら一回ハグしてくれるだけでいいよ!』

「何言ってんだお前」

『兎に角!・・・ちょっと焔にぃ!人の部屋入ってこないで!・・・じゃなくて、絶対用意しといてよね!』

「ちょっと待てコラ。家に焔が居んのか?」

『・・・うん。お母さんが夕飯一緒にって無理言ってさー・・・あはは・・・はは・・・』

「今すぐ追い出せ」

『そうしたいのは山々なんだけどね!多分、夕飯食べ終わったら帰ると思うよ!』

「ハァ・・・後でぶっ殺す」

『私の分もお願いします』

「で、話はそれだけか」

『え?何、もっとお話して欲しいの、先生は?』

「・・・・・・」

『嘘ですごめんなさいその無言の圧力やめてええええ!!』

「ったく・・・」

『先生お疲れ?じゃあもう切るね・・・』

「・・・別にいい」

「そっか。なら、そうだ!あのね聞いてよ三蔵〜・・・・・・」


ネクタイを緩め、デスクに腰掛けた三蔵は延々と話続けるに適当に相槌を打つ。
彼女の長話はまるで寂しさを紛らわすかのように、今までの分を取り戻すかのように続いた。
それに心底安堵する自分が居る、と三蔵はガラにもなく思う。
握り締めた携帯からは止め処なくの声が聞こえ、珍しく長話に付き合うのも悪くは無い。

勝つとか云々、最初に言っていたが大方検討がつく三蔵はソレに対して何も言わない事にした。
きっとは望んでいないから。反抗期の理由と同様、自分から言い出すまでは聞かないと心に誓った三蔵。
薄情とか、そういう事ではない。見守り、最後に受け止めるのも愛情だ。

だが、ソレだけでは物足りないのも事実。
傲慢にもに貪欲な三蔵だからこそ、この気長ではない性格故がうずく。
しかし、きっと手出ししたらは怒るのだろう。の思いを尊重したいと思う三蔵はこの衝動を抑えねばならないのである。


「そうだな・・・ひと段落したら、どっか行くか」

『本当!?じゃあちょっと遠出したいなぁ〜なんて・・・』

「考えておけよ。その前にお前は課題をどうにかしろ」

『ですよねー!頑張るから、覚えておいてよね!』

「あぁ。課題提出すんのが遅くならなかったらな」


何処か、休みの日にでも出かけよう。全部事が済んだら、居候中の光明も、纏わりついてくるメアリーも居なくなると思うから。











そうだな。今はまだ春だ。春といえば――





























叩きつけられた、思い


(勝つ。私は勝たねばならんのだ)









ATOGAKI
甘いシーンは久し振りなもので・・・とかいいつつ終わったけどな。なんだ途中のメアリーのラブストーリ(笑)
あぁ手こずった。こんな事で苦戦してるなんて・・・私もまだまだですね!どれだけ甘を書いていないのかという事がわかってしまいますね!
次回はクライマックスだといいな。ってか、挑戦状の内容がおかしい。笑