学校に戻り、担任に泣きついた私はその後、教師一同に揃って怒られた。

こってり絞られ、窓ガラス代は校長観音が受け持つ事になり、その場は一旦落ち着き帰宅命令が出た私。

それに伴い謹慎処分も言い渡され、今度は1週間学校に来なくていいらしい。

なんだかそれが救いに思えてくる私はこの上なく、重症だ。

三蔵も療養と言う名目で1週間の安静が言い渡された。

本当に、コレでいいのだろうか。

考えても答えが出ない問いに、私は悩まされる事となる。

でも、コレはまだまだ序章に過ぎなくて、問題は後から後から舞い込んでくる。

私は償いの時間と、頭を冷やす期間を大いに昇華しようと、まず先に課題に取り組む事にする。


三蔵のお見舞いに行くのは、それからだ。




































「全く・・・には苦労をかけさせられるな」

「それでも可愛い教え子なんですよね、渡囲先生」

「ふん。でも、アイツのしたことは退学ものだ。なのに・・・」

「まぁまぁ、思春期にはよくある話ですよ。それに、さんは普段の素行が良い生徒ですから、直ぐ元通りになりますよ」

「そうだといいがな・・・」


翌日の放課後。三蔵が不在の今、急遽開かれた職員会議での一コマ。
八戒と渡囲は隣同士と言うのもあり、話を講じていた。
予想外にも、職員の反応は穏やかなものであり、そこまで問題視はされて居ない様子。
それに驚きはしたものの、安心した八戒は根回し然り、言葉巧みに話を展開させるのだ。さすがである。

「では、会議を始めましょう。議題はみなさんご存知のとおり、3年A組の昨日の問題であります」

教頭である次郎さんが司会進行を勤め、静寂を守っていた職員室はそれを崩さず、そのまま続行されてゆく。
まだ事態を飲み込めて居ないと言うのもありそれもその筈、昨日1日で色んなことがありすぎたのだ。混乱するのも仕方が無いだろう。

「生徒、は窓ガラスを計20枚割り、担任を全治1週間の怪我をさせ今謹慎中です。それと同時に彼女自身も怪我を負って療養中との事」

「一体、何が彼女をココまで駆り立てたのか・・・興味深いですね」

「真実は彼女自身にしか未だ分っておりませぬ。告白するのを待つか、否か・・・」

「はははっ!まるで数年前の不良男児を思い出しますなぁ・・・」

「ホントだぜ。全く・・・あん時は俺もひやひやさせられたもんだ」

「校長、当時も貴方が弁償を名乗り出てましたよね。2度目の感想は?」

「怒りはねぇが、嬉しくもねぇな」

「でしょうね」

昔話に花を咲かせ、この学園の古株たちはまるで昨日の事の様だ、と心なしか嬉しそうに語り合う。
まだこの学園に着たばかりの教師は知るはずも無く、不思議そうに首を傾げるばかり。
一体なんの事だ。その問いは、校長直々の回答により明らかになる。

「お前らはしんねぇよなぁ・・・まぁ昔の話だがどっかのクソガキがよ、数年前にも同じような事件を起こしたんだぜ」

「クソガキ・・・一体誰の事です?」

「ククク・・・時期に分るさ」

「・・・?」

あれ、ちゃんと答えてくれない。教えてくれると思っていた校長、観音は喉の奥から搾り出す様に笑うだけ。
大方予想はつくものの、謎は解けぬまま職員会議はアッサリ終わってしまったのである。

「何よ、俺らの杞憂だったワケ?」

「そのようですねぇ…それにしても、『クソガキ』と言うのは誰なんでしょうか」

「その事なんだがよ、まさか・・・って事はねぇよな?」

「まさかそんな・・・・・・・・・十分ありえるから恐ろしいです」

「はははっ・・・なぁ?『クソガキ』っつーのがアイツだなんて」

「あはははは・・・まさか・・・」

「「まさか・な(ね)」」

















 +++

















「へっくしょぃっ!!」





「ど、どうしたの?三蔵・・・まさかまた、風邪?」

「・・・いや、誰か俺の噂してやがんだ、コレは」

「一回だけだから碌なことじゃないね」

「ふん。胸糞悪ぃ・・・」


謹慎1日目の夕方。全体的に白で統一された室内は、窓の外から照らす夕焼けによって赤く染められ青春のシンボルは眩しいくらい2人の影を伸ばす。
シャリシャリとりんごの皮を剥く音が大きなくしゃみと共に一旦止まり、再び再開された。

「ところで、だ。、課題は終わったのか?」

「うん。大体・・・後は反省文だけだよ」

「珍しい事もあったもんだな。お前が課題を即終わらすなんぞ・・・」

「失礼な。私だってやる気になればちょちょいのちょいですー」

「そうか。いつもはやる気がねぇんだな」

「ぬぁ!!そういう事じゃなくて・・・」

新学期早々、謹慎を言い渡されてしまったは(まぁ今回ばかりは自業自得なのだが)珍しく、朝早起きをして課題に取り掛かったらしい。
学校の時だってそんなに早起きなんぞした事はあまりない癖に、こういう時だけはしっかりしている。そんなに三蔵は複雑な気分だ。
例え見舞いに来る為のものだとしても。しかし素直に嬉しいと思ってしまう三蔵は、担任以前に恋人としての感情の方が勝るのであった。

「あーぁ。春休みが終わったと思ったら・・・一足お先に連休かー。しかも皆より多い!いやぁ悪いですねー!」

「お前と言う奴は・・・少しは反省しろ。怪我させた本人の前なんだからな」

「あぁ!そう言えば、三蔵って血が流れててよかったんじゃない?」

「あ?」

「それにー、学生時代のツケが回ってきたと思えばオールオッケー!」

「・・・誰から聞きやがった」

「うふふ。内緒だよー!」

全くもって反省の色がみえないにため息を吐くものの、しかし意味ありげな一言に三蔵は怪訝そうに眉をしかめた。

(何故コイツが俺の過去を知っているんだ・・・)

思い当たる節は何人か居るのだが、三蔵には皆目検討もつかない。もしかしたら、と思案するがその人物はと合っているはずが無いのだから尚の事。
昨日、三蔵が寝ている間に何かあったのだろう。そう考えを巡らすが、どうも納得がいかない三蔵である。

「それは兎も角、明日には退院できるんでしょ?今度は三蔵の家にも行かなきゃなぁ・・・」

「お前は悪までも謹慎中の身分の筈だが」

「そう硬い事言いなさんなってー!それにホラ、もう手遅れ?」

一応大事をとって、病院で療養中の三蔵。そこに謹慎中にも関わらず訪れたには、もう何を言っても無駄だろう。
彼女は彼女なりに償いをしているのかもしれない。表面上では明るく振舞っては居るものの、心の奥深くでは申し訳なさで一杯だと思われる。
それにしても表面上明るく振舞う立場は逆だろうと。三蔵は本日何度目になるか分らないため息を、深く深く吐くのである。

「じゃーん!うさぎさんの出来上がり!!」

「さっきまで皮を剥いてただろ・・・」

「桂剥きは魚住さんがしてくれるからいいのさ・・・」

「お前このシリーズでは某バスケ漫画の影響受けてるな」

「俺・・・バスケがしたいです」

「ファンに謝れ」

山より高く、海より深くお詫び申し上げます。(ちーん)

そんなこんなで、外も暗くなり始め面会時間の終りが刻一刻と近づいてきた。
暗くなる前に帰れと言いたい所だが、随分と話し込んでしまったらしい。これも愛のパワー・・・と、は胸を張って言うのだろう。
三蔵はまさかの訪問に驚いたのは言うまでも無い。

「そろそろ帰ろうかなー。でももうちょっと三蔵と居たいしなー」

「そういうのは心の内に秘めておけ。態々口に出して言うな」


――引き止めたく、なるだろうが。


「三蔵は怪我人だし。良いんですよ?わがまま言ったって。まぁいつもわがままですがな」

「アホか。うるせぇから、さっさと帰れ馬鹿娘」

「冷たいなぁ〜!折角引き止めたくなるような事言ったのに」

コイツの掌の上で踊る気は無い、と三蔵は悪態吐く。なんてったって、リードするのは三蔵の役目だからさ。

「ワザとかよ。・・・引き止めてやっても良いが、どうやって帰んだよお前は」

内心動揺が窺える三蔵は、目を逸らす事で悟られぬよう注意する、のだがバレバレである。
葛藤が頭の中で生まれ、如何にか話を逸らす事にした。しかし、の返答で全部吹き飛ぶ事となる。

「うふふ。もうそろそろお見えになるどっかの誰かさんとは正反対の、心優しきあるお方が是非ともって」

「あ?」

「その方とはね・・・」

一体、誰だと言うのか。の母親は免許を持って居ないはずだ。
だとしたら教師軍のあの3人の誰かだろうか。いや、あいつ等は確か残業があるとかなんとか言っていたような。
残るは、の叔母である校長?それは駄目だ。謹慎中なのに外出するなんて事知られたら・・・どうにもならんだろうがな。

ぐるぐると脳内で疑問が散開してゆく三蔵は血の量が足りない所為なのか、うまく考えがまとまらない。
そして、タイミングよくこの病室に現れた人物を見て、更にわけが分らなくなってしまうのである。
その人物とは。


「ああ、こんばんわ。江流。それに、さん」


「なっ・・・!」


「昨日ぶりです!お父さまっ!」


三蔵の父、光明であった。
彼はそ知らぬ顔で病室に入ってくると、が空けた席に極々普通に座る。
そしてすぐさまが『うさぎさん』を持ってくると、コレまた普通に食するのである。
そのりんごは見舞いの品なのに。そんな場違いな事を、三蔵は頭の隅で思った。

「いやぁお上手ですねぇこのうさぎさん。もう一ついいですか?」

「はい、まだまだありますのでいっぱい食べてくださいね!」


 「な・・・」


「お料理が出来る女性はいいですねぇ・・・素敵なお嫁さんになれますよ」

「そんな〜、もったいないお言葉・・・ありがたき幸せっ!」


 「何故・・・」


「是非一度、私にも何か作ってくださいな」

「もちろん喜んで作らさせていただきます!」


 「何故、貴方がここに居るんですかっ!」


「おや?どうしたんです、いきなり大声を出して・・・」

「ここ病院だよ三蔵?静かにしないと看護師さんに怒られちゃうよー」

「んなこたぁ知ってる!それより・・・父さん、俺は何も聞いてませんが」

「メール見てないんですか?昨日の夜連絡入れたと朱泱が・・・」

「きっと慌しかったから見てないんですよ、お父さま」

「まぁ、それでは仕方ありませんねぇ」


何故は人事なんだ、と思ったがソレより光明の突然の訪問でそれどころではない三蔵。
そして、全部繋がる疑問の数々。全ての答えはこの1人によって張り巡らされた謎から始まったのだ。

は昨日、三蔵が寝ている間に誰かと会ったと思われる。そこで過去の事を聞かされたり、慰めてもらったり、と。
昨日ぶりですと本人が言っているので間違いないだろう。
最後に、来訪するという人物、送って行ってもらえると嬉しそうに話す。


「全部・・・貴方でしたか・・・・・・」

「ご名答。偶然なんですけどね、偶々訪れた所にさんが居たんですよ」

「そうなのさ!お父さまのお陰では立ち直れる事ができました。本当にありがとうございます!」

「それはそれは、良かったです」


だが、もう一つの疑問が未だ明らかになって居ない。どうしてと昨日出会い、通常なら実家に居る筈の光明が今ここに居るのか。


「答えは簡単です。私はね、江流。前々から貴方のお家に泊まりに行こうと思っていたんですよ」


そして偶然と出会い、連絡は遅れたが泊まりに来た為現在に至る、というワケである。
それをサラリと言ってのけてしまう光明は悪びれた様子もなく、にこやかに笑うだけで。
泊まりに来るのはいい。だが、連絡が遅いにも程がある、と三蔵は嘆息するのであった。

「さて。そろそろお暇しましょうか、さん。江流とは後でゆっくりお話できる事ですし」

「そうですね。明日には退院できるみたいですから、親子水入らずゆっくり出来ますよ」

「もちろん、さんもご一緒に…家族同然ですからねぇ」

「えぇ?!そそそそそんなぁ!!私が居たら確実にお邪魔虫ですよ!」

「そんな事はありませんよ。そうだ、江流の退院祝いにご馳走でも振舞ってもらいましょうか」

「えっと、その・・・本当に良いんですか?」

「もちろんですとも」

「あ、ありがとうございます!!」

勝手に話を進めるな、と言いたい所だが横で様子を見ていた三蔵は満更でもない様で。
それに、暫くは使えないだろう右肩の事もあってか、むしろ助かるのも事実。
喜び満面の笑みを浮かべた、にこやかに微笑む光明を見て、三蔵は人知れず苦笑した。

「じゃあ三蔵、また明日ね!」

「堂々と公言すんな。謹慎娘」

「新しいあだ名が・・・!!」

「まぁまぁ、そうださん。今夜夕飯をご一緒にいかがですか?」

「え!いいんですか!?是非喜んでお供させて頂きます!!」

「では早速、朱泱に言って美味しいお店に寄ってもらいましょう。どこかおすすめはありますか?」

「うーんとですねぇ・・・」



「オイコラ。病人食しか食えねぇ俺の前で話をするな」


三蔵の言葉虚しく、無情にも話で盛り上る2人は病室を後にした。
当たり前だが病室に残された三蔵は閉まるドアを見つめ、腹の底からため息が漏れる。
まぁ、明日はの手料理が食べられる事もあってか、不思議と怒りは湧いてこない。どちらかと言うと呆れが少々。

それよりだ。


「どっちが病人かわからんな」


の体の至る所に見える、怪我の多さ。治療するのは遅かったらしいから、痕が残ってしまうかもしれない。
しかもガラスの破片で傷ついたのだ。自業自得なのは分るが、コレは結構な痛手だろう。
きっと教師達はそれを危惧していたに違いない。モチロン、三蔵もその中の1人だ。

それにしても何故己は、早く止めに入らなかったのだろうか。


「まぁ、いざとなったら俺が嫁に貰って・・・いや、なんでもねぇ。何を言ってやがんだ俺は・・・」


らしくもない、と自負する三蔵は脳裏に過ぎった考えを振り払う様に頭を振る。
血が足りない所為かそれだけでも貧血で意識が遠のく。きっとこんな事を考えてしまうのは血が足りない所為だ。そうに違いない。


「ほんの僅かでも、本気で考えた・・・なんて死んでも言えねぇな」


もっと傷をつけて、弱った所を掻っ攫う。それは歪み狂気にも似た、愛情。
何処にも嫁げない程にしてやりたい。もちろん、最終的には。


「抑えろ・・・まだ、その時じゃねぇ」


三蔵は邪念を振り払う様にベットに横たわった。伸びをしようとしたら手が壁にぶつかり、その痛覚が眼を覚まさせてくれた様で。
大きく深呼吸をすると、やけに病院特有の匂いが鼻につく。考えるのは止めだ。鉄分でも採るか。


「そんな事より・・・」


昨日の一件の事。話は全て保健室で、大方の事を把握しているであろう八戒に聞いた。
出張中に一度悟浄から電話を受けたがその時は詳しく聞いていない。
またが遅刻かなんかしたのかと高を括っていたが、帰ってくるなり全く違う展開が待ち受けていた事に正直驚いた三蔵。
あんなは見たことが無かった。もしかしてアレが本性か?とも思ったがに限ってソレはありえないと断言できる。
何かあんなに豹変する引き金があったのだろう。それを引いてしまったのは言わずと知れた。


さっきは何にも触れなかったが、メアリーが関係していると八戒も悟浄も言っていたのだ。
話を聞いていくうちに薄々感づいてきたのは良いが、実際本人が真実を口にするまでわからないのも事実。
きっと、まだ聞いてはいけないのだろう。がそれを望んで居ないから。


いつか自分から言う時がくる筈だ。その時まで待ってやるよ、この大馬鹿娘。


心底、己はに甘いなと自嘲の笑みを浮かべた三蔵は、聊か独り言が多き気もしたがこれ以上気にしたら負けだと考るのを止める。
――病室で、しかも大部屋の筈なのに1人っきりと言うのは、寂しいものなのだ。


「寂しくねぇ。断じて」











+++










「あぁお腹一杯になったことですし、このまま江流のお家で眠りましょう」

「光明サマ・・・何日くらい滞在する気ですか」

「気が済むまで、ですかね。・・・それにしても、さんは面白い方ですよねぇ、朱泱?」

「そうですね。俺も初めて見ましたがでも、彼女は・・・」

「それ以上は禁句ですよ」

「しかし、」

「禁断の恋だなんて・・・とっても魅力的な響きですよねぇ」

「江流はロリコンの称号を手に入れた」

「それは兎も角、檀家の方々は今何処に?」

「はぁ・・・それがアメリカから帰って来て半年ほど娘さんを日本の高校に編入させるとかさせたとかなんとか」

「やはり、そう来ましたか。こっちに来て休めるわけでもないんですねぇ・・・」

「散々逃げ回って来たワリには、なんだか楽しそうですよ?」

「そうですか?・・・ふふふ。久し振りにさんにあえて嬉しいだけですよ」

「息子差し置いて彼女の方ですか。貴方も大概、ロリk」

「外はまだ寒いので風邪を引かないよう気をつけて寝てくださいね」

「このまま後部座席目掛けて事故ってもいいですか?」

「弁償は高くつきますよ」

「・・・かなわねぇなぁ・・・光明サマにはよ」

「あぁそうだ」

「なんでしょうか?」



「江流に、家の鍵貰うの忘れてました」



「そうですか・・・ってえええええええええええええ?!」






















粗茶ですが

(職員室で職務を真っ当する皆様、病室に1人寂しく居る方、息子さんの家に居座る貴方。ご苦労様でございます。ごゆっくりどうぞ)













ATOGAKI
三蔵狂った!この愛は歪んでいる!こんなはずでは・・・!(またか)

ちょとづつ、話が繋がってきたと思います。そう思いたいです。笑
そして、初めて朱泱を参戦させてみました。コレが初陣。あぁキャラ大丈夫?!ちゃんと朱泱になってますか皆さん!!!
管理人はキャラ崩壊させるのがお好きのようで、イメージ崩した!とか苦情大歓迎ですのでいつでもどうぞ遊ばせ←
ごめんなさい。