桜が舞う。地面に落ちた花びらは、次第に量を増やし、まるで。
――まるで、血が滴り落ちるように地面を染め上げた。
「三蔵はどうです?まだ意識は戻らないんですか・・・」
「一応救急車呼んだけどよ・・・血がとまらねぇんだ」
「そうですか・・・モロに喰らいましたからね。そう簡単には行かないでしょう」
「ちゃん、大丈夫かねぇ」
「気に病まなければいいんですけど、無理でしょうね」
「だぁー!俺が三蔵にあんな事いわなけりゃあなぁ・・・」
「何を言ったんです?」
「『いっぺん死んで来い』」
「・・・・・・・・・」
騒動が納まり始め、八戒と悟浄は保健室前で深刻な表情を浮かべたまま、そこにおち合った。
アレから直ぐはどこかへ逃走。三蔵は首筋に怪我を負い保健室へと運ばれ今に至る。
今しがた八戒はの捜索に出ていて戻ってきた所だ。散乱した窓ガラス等は他の教員が後始末を開始しており、悟空は未だの捜索に出ていた。
もかなりの出血をしているはずだ。三蔵もそうだが、一刻も早く彼女も手当てが必要であるのは明白。
あんな血だらけな制服を着た生徒が居たら、誰でも通報するだろう。けれどいてもたっても居られない全員は分担し各々行動する。
「先ほどの答えを言いましょう」
静かに、八戒は口を開いた。それはが呼び出しされた事により後回しになっていた話。
まずは原点に戻り、そこから活路を見出そうとしているのだろう。
それに対して悟浄は煙草をくわえながら耳を傾けた。
「ちゃんご乱心の?」
「そうです。まず僕が気付いたのは昼休み直前の保健室、さんが絶賛反抗期フェア開催の真っ只中のその時です」
「反抗期って可愛いもんじゃなかったけどな。まぁ、見てて可愛いのは認める」
「貴方が反抗期と言うなら殴りたくなりますもんね。あ、万年反抗期でしたっけ?」
確かにの反抗期は、ちょっと性質が悪いがそこまで手をつけられないほど酷くは無かった。
子を見守る親みたいにそれはそれは可愛らしい反抗期。だが、こんな事になろうとは誰が予想しただろうか。
「あのな・・・。話を続けてくれや」
「はい。保健室であった事は、最初は本当、ただの反抗期に粋がっていたさんでした。けれど、とある人物が現れて一変したんです」
「・・・メアリーちゃんね」
「おや?知っていたんですか」
「まーな。それでそれで?」
「そして、確信に変わったのは数学準備室でのアレです」
「抱きついたメアリーちゃん。それに涙するちゃんってか。だけどなんでちゃんはメアリーちゃんに過剰反応するワケ?」
「ソレが僕にも分らないんです・・・まだ会って間もない2人の間にいざこざがあるわけないと思うんですが・・・」
やはり重大な所が分らない2人。最大の論点とも言える確かな部分。
しかし原因は多分ココだと確信できる。大した事ではなかったとしても、の乱心は異常だ。
悟浄は事の発端である、些細だが情報を提供する。
「知ってっか?メアリーちゃんってば、ちゃんが出て行った後、すんげー妖美に微笑んだんだぜ?計画通りって顔してよ」
「なんと・・・!可愛い顔して恐ろしいですねぇ」
「女ってのは男にゃわからない顔を持ってるからな・・・振り払わない三蔵も三蔵だぜ。自業自得だよ」
女の執念は恐ろしいと聞く。まぁはそういう類のものじゃないのだけれども。
でも、真実の一部であることは確かだ。
「それにしても、さんの豹変振りには目を見張るものがありましたねぇ」
「戦う女ってあんなに魅力的なのネ。ありゃプロの犯行だぜ」
「さんが限界に達した時、口調が変わるのと関係があるんでしょうか」
「ある様な気もするが・・・コレばっかりは俺たちにゃ、知る術が無い」
「困りましたねぇ。さんが行く場所とか知りませんし・・・何もわからないじゃないですか」
「八方塞ってか?でも、希望はあんじゃねーの」
「三蔵、ですか」
「それしか思いつかねぇワナ」
今はまだ意識が戻らない三蔵を思い浮かべ、2人は他力本願然り、彼に委ねるしか無いのだろうと落胆する。
どうか、最悪の事態にならなければいい。誰でもいい。を、そして全員をハッピーエンドに導いてくれる希望の光が欲しいのだ、と。
怒涛の1日が、既に終わろうとしているこの時間。朝日を拝む時は果たして、どうなっているのか。
+++
「私が?殴った。殺した?違う」
私は無我夢中で走り、いつの間にか見知らぬ神社に来ていた。
問いかける自分。答える自分。自問自答にわけが分らなくり、その場に蹲る。
そういえば、私ってば血だらけだ。固まって黒く変色したソレを見て、ふと思い出すのは担任の、崩れ去る姿。
「あれは私の血じゃなかった。いっぱい出てて、それで?」
私は窓を割ろうとしていた筈だ。だけど、実際に殴ったのは三蔵の肩。
ものすごい音がした。きっと骨は折れたんじゃないかな。三蔵、大丈夫・・・かな?
「どうせ私は馬鹿娘だ。大好きな、先生を殴る、最低の・・・女だ」
『A plain-looking woman.』
「私は、性格までブスになっちゃったのかな」
『このブス。アンタなんて――』
「『邪魔なだけだよ』、か」
あの話には続きがあった。英語で言われた言葉の後に続く、紛れも無く流暢な日本語で紡がれた、言葉。
そうだよ、私はとても邪魔な存在なんだ。私が生きているから、みんな、みんな離れていっちゃうんだ。
「そんなの分ってる。わかってるよ」
誰の所為?それは紛う事なき、自分自身の所為。
「コレで2回目だ・・・また、やっちゃったんだ・・・」
以前、一度今回と同じような事になったことがある。
今よりもっともっと精神的にも幼かった私は理性なんてものは直ぐ吹き飛び随分暴走してしまった。
みんなに迷惑をかけ、あまつさえ蔑ろにし破壊の限りを尽くして、気付いた時にはぐちゃぐちゃで。
必死に謝罪したのを覚えてる。何度土下座したことか・・・。今回も同じパターンらしい。
色々あったけど、高校は誰も同中の人が居ない叔母が校長を務めるこの高校に入学したんだ。
それなのに。自分なりのケジメをつけようと決心して変われると思ったんだけど、無理だったんだ。
「ごめん、なさい」
「ごめんなさい」
「ごめんな・・・さ・・・・っ」
こみ上げる涙は自分の重みを軽くするだけだ。でも、それじゃ駄目なんだ。
甘んじていてはイケナイ。なのに、なんで。なんで。
「こんな所に女性が1人、危ないですよ?」
背後から突然、声を掛けられたは振り返るとそこに居た人物にこの上なく眼を見開いた。
「――お父・・・さん?」
「おや、さんでしたか。泣いているのですか?それはそれは・・・傷もすごいですし、これをどうぞ」
綺麗なハンカチを手渡され、迷っていると優しく包み込んでくれる手。その暖かさに一層、涙が溢れてくる。
その暖かな温もりの持ち主とは紛れも無く三蔵の父、光明であった。
「どうして、ココに?」
「いやぁ、今日は江流のお家に逃げ・・・泊まりに来たのですがねぇ、神社にお参りに来ました」
「理由になってないと思うんですけど・・・」
「そうですか?困りましたねぇ・・・でも、さんに会えたので全部よしとしましょう」
「はぁ・・・」
若干ずれている光明の申し分に呆気に取られる。滅茶苦茶な事になっているが、光明が浮かべる暖かな笑顔になんとなく納得することにした。
そして、そんな光明には必然とも言える言葉を口にする。
「ごめん、なさい・・・」
謝らなければならないと思った。もしかしたらソレは懺悔に近い、思いだったのかもしれない。
この人なら許してくれる。そんな自分が益々嫌いになった。
「何がです?」
「私、三蔵を殴っちゃって・・・血が、いっぱいで、それでっ」
「おやおや。あの子も血が流れているんですか。それはよかった」
「・・・へ?」
息子を血の海に沈めてしまった事を怒るわけでもなく、むしろ安堵する光明に思わずマヌケな声が出てしまった。
予想外すぎる話の展開には懺悔どころの話ではなくなってしまう。
「いやぁあの子、冷酷無慈悲の非道な子じゃないですか。だから血が流れているか心配だったんですよ」
「・・・・・・」
「さんが殴って確認してくれたんでしょう?ありがとうございます」
「えと、ん?え?ちがくて、ですね、あの・・・」
「あの子はね。強い子です。貴方も強い方です。あの日暴れまわる程にね」
「それは、それとは・・・違う気が・・・」
「考えてみもみてください。いつもあの子は血を流させるそれはそれは恐ろしい子でした」
「・・・反抗期?」
「喧嘩ばかりしていましたね。まぁ、今までのツケが回ってきたんでしょう」
「それは・・・なんか納得できるような・・・?」
あの鬼の元はコレか、と妙に納得してしまう。まさか三蔵にそんな過去があったとは誰が予想できようか。
それより、どんな経緯で教師になったのかがとても気になった。
それは兎も角、やけにテンポを狂わす光明。たどたどしくなったは路線がずれ始めている事に気がつきながらも、落ち着きを取り戻していた。
「さん、貴方はあの子に怪我をさせてしまったことに後悔しているのでしょう?」
「はい」
「なら、それでいいではありませんか。悔いる事が出来るのはとても偉いことです」
「でもっ私は、暴れて、殴って・・・とても、非道いことを・・・」
「あの子はなんとも思っていませんよ。だから、こんな所に座っているだけでは何も変わりません」
「・・・はい」
「学校まで送ってさしあげます。さぁ、貴方の心の内に秘めた思いを、告白しておいでなさい」
「――!・・・ありがとう、ございます!!」
「そうです。謝られるより、感謝されるほうが私としては嬉しいですよ。きっとあの子も」
「はい!本当に、ありがとうございました・・・!」
その人は、優しい光を抱いたとても眩しい人だった。何もかも見通した様に微笑み、欲しい言葉をくれて。
この人に懺悔するなんて、お門違いも程がある。そう、この人は全てを包み込んでくれる、優しいお人。
「三蔵!!」
は光明が送っていってくれた事に感謝し、早々に保健室へと駆け込んだ。
何人か教師に声を掛けられたが、謝罪は後だ。まずは、早く三蔵に会いたい。その思いがを突き動かすには十分で。
勢い良くドアを開けると、そこには驚いた様子の八戒、それに悟浄が居て、ベットには。
「なんだ、騒々しい」
いつもの様に尊大な態度で、の担任であり、同時に恋人でもある三蔵が座っていた。
「三、蔵ぉ・・・」
「情けねぇ顔してんじゃねぇよ、この不良娘」
「ごめん、なさい・・・!私、あの、そのっ・・・」
「ハッキリしろ。鬱陶しい」
「う・・・うわぁぁぁあああぁん!!さんぞー!!」
「泣くな!・・・ホラ、来いよ。」
「ごべんばざーい!ざんぞー!!」
「人語喋れってんだ・・・」
手を差し伸べてくれるのが、とても嬉しかった。反対に、私がした過ちが身に沁みた。
今更気付いても仕方ないけれど、謝罪は後だ。今私が言うのはただひとつ。
「ありがとっう・・・三蔵ぉ!」
「ったく・・・本当に世話の焼ける馬鹿娘だ」
膝元で蹲り、泣きじゃくるの頭を撫ぜながら、三蔵は思いっきり嘆息した。
その顔には普段お目にかかれない微笑が浮かび、怒るどころかどこか安堵していて。
包帯が痛々しいものの、結構平気そうで何よりである。
「はぁ〜・・・漸く、ってか?」
「あはは。普段のさんに戻ってよかったですねぇ」
「でも、コレからが本当に地獄ってな」
「手厳しい事を・・・今はまだ、その時ではない様ですよ?」
「そりゃそうだワナ。兎に角、2人きりにしといてやろーぜ」
「そうですね。話は後です」
とりあえず、この場は一応納まった様だ。八戒と悟浄は安心すると共に、これからの事が気がかりで仕方が無い。
それほどのしてしまった事はとても大変な事であり、そう簡単に許されるとは思えない。
例え校長観音の後ろ盾があるとしても、まだまだ波乱は続きそうである。
どうか、ハッピーエンドを。皆が笑顔で終われる最後にして欲しいと切に願う八戒であった。
地面を染め上げる桜の花びらは、光を反射して、綺麗に輝いた。
傷だらけ
(いてぇ。でも、もっといてぇのは俺じゃない)
ATOGAKI
おう。簡単に納まったぞ。笑
聊か早い気もしますが、最終章間際にして長すぎるとイケナイので、こんな形にしました。いや、決まってなかったんだけどね!
まさかの光明サマ参戦に管理人も吃驚デス。あまり深く考えたら負けです。管理人は結構楽しんで書いてますんで。あぁひとでなしとはこの事か。
ハッピーエンドに導いてくれる存在は果たして光明サマなのか。過程を作ってくれたのは紛れも無く光明サマでした。