地を蹴り全身を使ってモップで突きを仕掛けてくるメアリー。
身を捩り肩に担いでいたモップを滑らせ受け流す。

両者のモップが絡み合い、反動で弾かれた。

2人はすぐさま体勢を立て直し弾かれた衝撃で傾いた重心を利用し更に打ち込む。
交差するように体の前で2人のモップが小気味良い音を立て交じり合った。
時が止まったかのように睨み合うとメアリーの力は互角。
ジリジリと押し付けるモップを握る手が緊張からか汗ばみ、だが気を抜いてはいられない。

「鬼神も大した事ないネー?ちゃんっ」

「龍神もどーって事無いんじゃない?メアリーちゃんよぉ・・・!」

互いの力が相殺し後ろに飛びのき、モップをもう一度構えなおす2人は一瞬たりとも視線を外さないままだ。
何処で覚えたんだと聞きたくなるような2人の身のこなしに見物していた3人は唖然とするばかり。
音を立てて打ち込んでいく2人は、まるで使い慣れた己の相棒を扱うように自由自在にモップで技を繰り出していった。


「すっ・・・げー・・・剣道部も吃驚だワ」

「極限まで高められた精神は本能を呼び起こした・・・って所ですかね」

「アホか。あいつ等はそんな即席の腕じゃねぇよ」

「ナニよ。2人ともなんかやってたのか?」


「メアリーは現役フェンシングの選手だ。は・・・喧嘩殺法?」


「なるほど・・・それでこんな壮絶な戦いができるんですね」

「いや待て。最後疑問系とかおかしいだろ。チャンあきらか自己流の域だろ。しかも俺とかぶってるし!!」


綺麗な一閃がのわき腹をかすった。メアリーの鍛え上げられたフェンシングの腕は的確にの急所を突いて来る。
片手で持ったモップはまるでサーベルの如くメアリーが扱う事によって、しなやかに龍が流れ動きまわる幻覚が見えてしまうかの様な軌跡を描く。
一方は自然に身に着けた(と思われる)喧嘩殺法でモップを窓ガラスを割っていった時と同じく鬼神さながら振り回していく。
メアリーの攻撃を軽い身のこなしで避け瞬時に打ち込む。その無駄のない動きにはキレがあり、先日とか打って変わって本格的な喧嘩を見ているかの様だ。

「隙ありっ」

わき腹を掠った事により一瞬気を取られたは、その隙を突かれ米神に鋭い衝撃を受けた。

「――っ!」

反射的に眼を瞑ったが眼を開けると目の前に血がこびりついたモップの柄が見え、素早く首を捻る。
眼を狙ったと思われる攻撃を紙一重で避け、視線を向けた。すると今度はメアリーが突いたモップを薙ぎ払う。
咄嗟に屈みメアリーの足を蹴ったは転んだメアリーを見下ろしモップを突き刺す。が、間際で体を捻り転がるようにメアリーは避けた。

「痛い・・・」

目線はメアリーに向けたままは米神に手を当てる。
次第に傷口は激しい痛みを伴いドクドクと生暖かいソレが左瞼の上を滴り落ち、思わず眼を瞑った。
こうべを振るうと意識が飛んでいきそうだ。そうでなくとも激しく動いているのだからぐらぐらする。


「さんっ」

「落ち着け八戒。横槍を入れてやんなって」

「しかし、」


見守っていた八戒が身を乗り出し思わず暫し大きな声が出てしまう。
悟浄が八戒の前に腕を出しソレを止め、声は幸いにも2人に聞こえて居ないようだ。
納得がいかない八戒は尚も食い下がるが三蔵に遮られた。

「アイツは真剣勝負をしてんだ。今飛び出してみろ、見境なく攻撃されて死ぬぞ」

「あーたって人は・・・其処まで言うか、普通?」

「確かに恐ろしいですからね・・・でも血が流れているんですよ!?止めなくては・・・!」

女同士の戦いとは言え、見過ごすわけには行かないだろう。これ以上怪我をさせて見ているだけだなんて教師以前に人間としてどうだろうか。
昨日は冗談でも血肉沸き踊る戦いだなんて言ったが本当になるとは誰が予想しただろうか(いや、わかってただろーが)
ソレをわかっているのかいないのか、悟浄は八戒を横目で見てそして三蔵を見る。
どういう事だ。悟浄が意味するものがわからない八戒は首をかしげ、だが悟浄の言葉で理解できた。

「アレだ。もうそろそろちゃん達の王子様が出陣なさるそーよ?」

「・・・なるほど。今まで我慢していたんですねぇ」

「チッ」

煙草をコンクリートに押し付け立ち上がる三蔵は、本当は今すぐにでも止めに入りたいのだろう。
そうしないのはの決意を見届ける為。そう思っていたのだがそんなに気長ではない三蔵は徐に舌打ちを一つ。
それを見上げていた2人は互いに顔を見合わせ小さく噴き出した。そして3人はたちが未だ激戦を繰り広げているであろう後ろを向き直る。

「・・・・・・・結構わかってきましたね。謎が」

そこで繰り広げられている戦いは先ほどと変わらない。が、会話の内容は今までのとメアリーの間にあった事情を物語っていた。


ガッツン ガッ


激しい打ち合いもそろそろ終盤を迎え、体力的にも体が悲鳴を上げ始めた。
米神に痛みを携えたは聊か押され気味に屋上の端へと追い込まれていく。
攻撃はされたがイマイチ危害を加えられない。この小心的な自分を呪いたい。
それに、反撃できる余裕が無いのだ。やはりココは現役フェンシング選手。鍛え上げられた肉体と精神は一ミリたりとも揺るがない。

「逃げてばっかりじゃ、何も変わらないヨ?ちゃん」

「うるっさい!」

サーベル捌きは超一流。避けるだけで精一杯になってきたは片目が使えないと言うハンデ諸共苦戦を強いられる。
モップはもうボロボロだ。コレが釘バットだったら・・・と苦虫を噛み潰した様に顔を歪めるは止め処なく浴びせられる攻撃を必死に避けた。

「さぁ、潔く負けを認めて!早く三蔵をメアリーに返すって言いなヨ!!」

一段と力強い攻撃がモップを両手で横に持った手に衝撃が伝わる。痺れる腕に必死に力を込め上からの重量感に耐え続けた。

「それは無理な注文だね!!私が勝って、そんで三蔵は渡さないもーん!!!」

「勝つのはメアリーだわ!!君みたいなplain-looking womanに三蔵は不釣合いなのヨ!!」

「また言ったー!!あのねぇ私は顔はブスかもしれないけど、アンタは性格ブスなんですー!!」

上から押さえつけられていたメアリーのモップを振り払い勢いつけて立ち上がる。
よろめいたメアリーは性格ブスと言う単語に憤怒し、
「メアリーの何処が性格ブスですって!?」
顔を真っ赤にして怒鳴った。

「古典的なイジメをするところとか!汚い単語を言う所とか!悪どい言動の数々!!どう見たって性格ブスとしかいい様が無いじゃん!!」

は洗いざらい吐き出した。実は数学準備室での出来事はも見ていたのだ。妖美に微笑むメアリーの顔を。
それに無くなったペン、埋められた靴、隠された体操着、紛失した教科書、仕掛けられた黒板消し・・・

「アレは三蔵も引っかかって私が怒られたんだから!!」

「ざまぁないネー!」
「あんたねぇ!!」


「三蔵・・・?」
「あーたね・・・」
「正直すまんかった」


今度はがメアリーに攻撃する番である。


「それに!私と三蔵のラブラブすぃーんを邪魔しくさってからに・・・!!絶対わざとでしょ?!」

「当たり前ヨー!2人っきりのシュチュエーションなんて絶対メアリーが阻止するんだから!!」


「三蔵・・・?貴方って人は学校でそんな・・・」
「職権乱用はイケナイねー?」
「もう勘弁してくれ・・・」


醜い・・・否、乙女心に純真な戦いが続く中、給水タンクの隣に立つ3人に全く気付かないとメアリーはいろんな意味で強烈だ。
足や腕に擦り傷ができ、見えないが痣も所々にあることだろう。青春してはりますなー。

息を切らし疲れが見えてきた2人を見てそろそろか、とたちが争うコンクリートの上に飛び降りようとした三蔵は、異変に気がついた。
再び屋上の端に追いやられる。そしてメアリーの目が尋常ではないほど狂気染みていて。
モップで激しく打ち合う2人の先にはフェンスの扉。フェンス越しにはコンクリートは続かず見えるのは景色だけだ。

――扉が開いている?

安全確認を怠った自分を今ココで呪いたい。そして、三蔵は駆け出した。


「お邪魔虫は、死んじゃえばいいのヨ!!」


 ガッ ツンッ


「なっ――」


背中越しに伝わるはずのフェンスの感触が一瞬感じただけで、後は不思議な浮遊感がを襲う。
メアリーが織り成す渾身の一撃に耐えられなかったはその衝撃で後退して――。
なんか今回はこんなんばっかだなぁ、と何処か場違いな事を頭の端っこで思った。それと。


――走馬灯って、初めて見ました。


天を仰ぎ見る形になったはスローモーションよろしく目の前に通り過ぎるフェンスの淵を見て、屋上から落ちるのだとわかった。
また、メアリーの凶悪な顔がこびりついて、でも。実際に思い浮かんだのは愛しい存在ただ1人。
あぁ。目の前に居る。・・・居る?



「っ!!」



 ガシッ



何度も聞いた心地よい筈の低音は焦りを含み遠くに飛んでいきそうだった意識を呼び戻した。
途端に手首と肩が脱臼しそうになりそうな痛みが走る。幸いにも、足は宙に浮いていなかった。片足は。



「イタタタタタッ!痛い!痛いから三蔵!!」


「この馬鹿娘ぇ!!こっちだって痛ぇんだよ!!」


「じゃあ離して・・・ってダメッ!ぜったい!!死ぬ!落ちる!!下からパンツ丸見えー!!」


「こんな時になんの心配してやがんだお前は!!」


「乙女の死活問題ですー!今日は縞パンだから!勝負下着じゃないから!!」


「・・・いいセンスしてんじゃねぇか」


「死ね!アンタは死ね!!このむっつり!!!」


「離すぞ」


「スミマセンデシタ」



傷む肩の方でフェンスを掴み、反対の手での腕を掴む三蔵。
は片足を屋上の外に投げ出し、もう片方の足はギリギリ淵に掛けている状態だ。
しゃがんでいる為容易には立ち上がれないで居る。
そこで交わす会話は後ろであたふたしている3人の気を抜かすには効果抜群だ!


「あーたらね・・・そのまま一生口論してなさいヨ」

「何呑気にしているんですか!?生死の問題なんですよ!!」

「チャンっ」


八戒と悟浄はすぐさま駆けつけ非常に危険な状態の2人に手を貸す。
その横でメアリーは足を震わせ眼には涙を溜めうろたえていた。


「先生ー肩大丈夫ですか、私と一緒に大空を飛びますか?」

「天国でも行く気か?地に落ちるだけだろ」

「じゃあ地獄へ逃避行ってどーですか」

「・・・あと60年後ぐらいならいいかもな」


笑いあう2人は差し出された悟浄と八戒の手を掴み、漸く救出された。
コンクリートの上に寝転がり、緊張の糸がプツリと切れ、深く息を吐き出してぐったりと力が抜ける。

――あぁ、全身がきしむ様に、痛い。












+++












授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。屋外に居る5人の鼓膜に鮮明に届き、5時間目は揃ってサボリ決定だ。
幸いにも教師3人は空き時間なので心配はいらない。だが、問題はこの生徒2人である。
メアリーは意気消沈気味に俯き、コンクリートに水溜りを作っていた。
吃驚させやがって、と悪態つく悟浄は仰向きに寝転がり流れ行く雲を眺め、八戒は何か言いたそうに笑顔だ。
きっと説教を言いたいのだろう。だが、目の前の三蔵との様子を見ると口噤む他なかった。


「・・・ったく、少しは女らしくしてろって言ってんだよ・・・全然変わってねぇじゃねぇか」

「・・・・・・」

「この分じゃ、肩の怪我も悪化したな・・・」

「・・・・・・っ・・・」

「お前も怪我なんぞ新たに作りやがって・・・其処だけ将来ハゲるぞ」

「ハゲッ・・・は、さんぞーだっもん・・・!」

「誰がハゲだ誰が」

「うぅっ・・・グスッ・・・!ひっく・・・ごべんばざ、いっ・・・!!」

「人語も喋れんようになったか・・・お前が言わなきゃならんのは謝罪じゃねぇだろうが」

「・・うんっ・・・・あ、りがっとう・・・!ざんぞー!!うわああああん!!!」


堰を切った様に泣き出すを、三蔵は愛おしそうに眼を細め見つめた。
どうやら、洗い立てのYシャツは鼻水と涙でグッショリになってしまった様だ。
・・・ついでにネクタイも。


「見せ付けちゃってくれるねーお二人さんっ」

「悟浄・・・僕の怒りは何処に向ければ良いと思いますか?」

「そりゃあ、あーた・・・もうそろそろ来る猿にでもどーぞ」

「モチロン、赤いゴキブリにもですよね」

「あ、やっぱり?」


三蔵に縋り涙を流すは、じわじわと迫り来る恐怖に全身を震わせていた。
ソレもその筈、今まさに生と死の境界線に足を踏み入れていたのだから。
衝撃的な状況下で忘れていた体中の痛みと共に実感させられる死の恐怖。


「本当に、世話の焼かせる馬鹿娘だな・・・」


自分の胸元に顔をうめるの頭を撫ぜつつ、天を仰ぎ深く嘆息。
終わりよければ全てよし。だが、後でしっかりお灸をすえねばならんようだ。


「大丈夫かよ!?俺下から見てたんだって!!」

「よぉ猿ー。グッドなのかバットなのか兎に角タイミングやべぇぞ」

「え!?って八戒・・・怖っいやいやいやなんでもねぇって!!」

「あははー。さて、悟空、悟浄。僕等はそろそろ行きましょうか。・・・ねぇ?」

「「ハイ」」


なんて理不尽。八戒ら教師3人はメアリーを連れて保健室へと屋上を後にした。
余談だが悟空の眼にはシッカリとの縞パンが鮮明に焼きついて・・・こちらも後でお灸を添えられるのは確定事項である。



そよそよと桜の香りを乗せた風が屋上を吹きぬける。
残された2人の間にはのすすり泣く声だけが響き、ソレは次第に納まっていった。
今の時間は確か紅孩児の歴史だったか。後で何か言われたら適当に誤魔化しておこう。
泣き止んでも尚動かない甘えん坊のを抱き寄せたまま、三蔵は人知れず笑みを浮かべた。


「・・・前にもね、同じ様なことやっちゃっいました」

「・・・・・・」

「その時はあんまし良く覚えてないのですが、暴れて・・・散々迷惑掛けてしまって・・・」

「・・・・・・」

「本当、ご迷惑をお掛けしました。あまつさえこんな事態を招いてしまって申し訳ないです」

「わかってんならいい。・・・反省してんだろ?悔やむ事が出来てんなら、それでいいんだよ」

「お父さまと同じこと言うね、三蔵」

「・・・・・・マジでか」


そのままの状態でくすくすと笑うの息遣いがくすぐったかった。


「後で先生全員にお饅頭持って行かなくちゃ・・・許してくれるかなぁ」

「大丈夫だろ。元からそんな怒っちゃいねぇよ」

「渡囲先生とか2回目だもんね。どっかの誰かさんの方がもっと酷かったって言うし」

「オイコラ。それ誰から聞きやがった」

「反抗期ってやみつきになりそうだよ」

「聞け。人の質問に答えろ。・・・もうこりごりだ」

「ガラス代って高いだろうね・・・学校のは特注品って言うし」

「結構安かったから気にすんな」

「経験者は語る」

「初任給で払えた。しかし全額は厳しかった・・・って何言わしやがる」

「うるせぇやい、クソガキ」

「引っ叩くぞ」

「ごめんなさい」

「お前あの渡囲に高血圧って言っただろ」

「うん。もしかして三蔵も言った口?」

「・・・マジらしいぞ」

「な、なんだってー!?」


他愛もない話。時間は刻一刻と放課後へ進んでゆく中、そろそろ5時間目も終わる頃だろうとグラウンドで集合する生徒たちの群れを見て思った。
腕の中に居る存在は震えも収まり、鼻声ではあるがもう平気だろう。けれど離さない。
今までの分と、これからの事を考えると離せるワケがないのだ。今までの分には足りない。かと言ってこれからの分を先払いになんて出来ない。
いくら抱き寄せても全部足りないくらいなのだ。


「ねぇ、私ってブスかな?」

「・・・・・・」

「何故そこで黙る」

「貧相な体してんな」

「ちょ、コノヤロー!喧嘩売ってんのォォォ!?」

「安心しろ。性格はブスじゃねぇから。それに・・・センスは良いな」

「縞パンでしょ?縞パンの事だよね?それと水着はワンピースだっけ?ロリコン?ロリコンなの?」

「・・・お前だから良いんだろうが」

「っ!?・・・あ、あーぁわかっちゃったよー!そう言って自分の性癖を誤魔化そうって魂胆でっ――」


下を向いていたは顎に手が添えられたと思いきや、急に視界が一転し、呆れ顔の担任の顔に切り替わった。
不覚にも顔を上げられた形になり、眼と鼻の先にある顔を凝視すると共に、三蔵が一言。


「・・・お世辞にも今の顔は可愛いとは言えねぇな」


「ぬああああ!!!」


泣きはらした顔を見られたくなかったのに。不意打ちで強制的に向かされた顔は見なくてもわかる。すごく、不細工だ。
顔を背けようにも顎が固定されて動けない。・・・何と言う羞恥プレイだろうか。とことんSっ気ムンムンな目の前の男が憎たらしい。


「やーめーて〜私のライフはもうゼロですー!」

「ククッ・・・おもしれー顔」

「鬼畜ハゲー!馬鹿ぁー!」

「うるせぇ。少しは黙れってんだ」

「んっ――!?」


騒ぐ目の前の女を黙らせて、噛み付くようにその口を塞いだ。
可愛くねぇなんざ嘘に決まってる。俺が惚れた女は――。


「・・・不細工」


「まだ言うか!!」



清々しい程の青空の下、煙草を吸わなくて如何する。春の息吹は紫煙を攫って同時に桜の花びらを舞い上がらせた。
三蔵は後ろに手を着き若干湿ったソフトケースから煙草を一本出しそれを咥える。
火を点けようとライターに手を伸ばすがによって阻まれ、いつの間にか目の前に火を突きつけられた。
この分じゃホステスにはなれまい。不器用に突きつけられた火で煙草に点すと大きく吸い込んだ。


「あのね・・・私、散々三蔵に迷惑かけちゃったじゃん・・・?怪我もさせちゃったし、悪化もさせた」

「・・・あぁ、そうだな」

「それでもっ・・・こ、恋人で居て、くれる・・・?」

「・・・・・・」


コイツは・・・と、三蔵は嘆息した。キスした後に言う台詞かよ、とツッコミかかったがあまりにも真剣に言うを見たら何も言えなくて。
変わりにもう一度、答えを行動で示した。まだ口では言えないから、せめてもの愛情表現さ。


「償いはしなくていい。この怪我は今回の原因のツケだ」

「事の発端は三蔵だもんね?」

「るせぇ。・・・悪かったな」

「謝罪じゃないでしょー?」

「『アリガトウ』」

「心篭ってない!」


本当はね、三蔵が謝る事なんて何一つ無いんだよ?
初めて聞いた感謝の言葉は天然記念物並みに凄い事だけど、本当に言わなきゃいけないのは私の方だ。
きっと今回、自分の所為で、とか柄にも無い事を思ってるんだろうね。何もしてやれなかったとか悔いてるんだろうね。
でもね、三蔵は私に勇気とか与えてくれてる。わかってるよ、ちゃんと。三蔵が居なかったら私、どーなってたんだろうって想像するだけでもぞっとするよ。


「ありがとう、三蔵」

「・・・ふん。そう言えば、何処行くか決まったのか?」

「あ、そうだ!えっとね、ちょっと遅くなったけどお花見しに行こうよ!お弁当持ってー、水筒持ってー・・・」

「昼と夜どっちにすんだ」

「・・・あわよくば、両方!!」

「言うとは思っていたが・・・ったく、好きにしろ」

「わぁーい!!」


少し遅めのお花見に心躍らせ、喜色満面に笑みを浮かべる目の前の少女を見ていると、自然に自ずと口元が緩むのがわかった。
先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えないくらい、無垢で純粋な彼女。忘れていたが米神に怪我をしているのである。
もう固まったが、三蔵の白いYシャツには赤い後も結構付いていた。でもそんなの気にせず、2人は保健室に行く為屋上を後にする。
三蔵の肩の怪我も悪化したことだし、担任と生徒揃ってまた包帯星人へと逆戻りか。



――だが、それでいい。



「ほらよ、ジャムパンだ」

「本当に買ってきてくれたんだね!ありがとう、三蔵!」








その後、私は有言実行ってことでお饅頭を持って各教員に配り歩いた。みんな笑って受け取ってくれたので心底ほっとしたのは言うまでも無い。
もう反抗期は無いと言い切れ・・・ないけど、極力抑えますホントごめんなさい。
それと、八戒先生いはお説教と小言を延々と貰いました。助けてくれた悟浄先生と悟空先生も巻き添えになったことが悔やまれます。ご愁傷様。


「いいですか?もうあんな無茶な事はしないと約束してください」
「はい。肝に銘じておきます」
「まーまー、無事だったんだからオールグリーンだってー」
「お前はどっかに出撃すんのかヨ?」


最近『女らしくしてろ』と言う担任の言葉通り、おしとやかな日々を過ごす私は告白される回数が格段に増えました。
ねぇ、前にあんな出来事があったって言うのにこの変化はなんざんしょ。ウフフ。モッテモテ最高!!


「鬼神の如く暴れまわる貴方に惚れました!!好きです!付き合って下さい!!!」

「ごめんなさい(とってもその好意はもったいないけど!)」


この場面を三蔵が目撃して何故か私が怒られるのですが、きっと嫉妬から来るものなので大喜びです。私ってばM・・・だね。
そんなドSな三蔵は肩も完治し、元気にハリセンをぶっ放しています。やはり聞き手だと威力が若干違うんですね!

そして、問題のメアリーはと言うと。


「チャーン!一緒ニゴ飯食ベヨウ?」

「ちょ、私と先生のラブラブランチタイムを邪魔すんなー!!」

「メアリー聞こえなーい」

「片言は如何した片言は」


めっさ反省した様子のメアリーに何も言えないと言いますか、端から何も言う気は無かった。
もう終わってみればどーでも良くなった(とは言い切れない)ので全部水に流すツモリだ。一応だけど。
それに、蓋を開けてみれば同じ穴の狢。三蔵に恋する乙女と言うのは変わらない。よきライバル・・・なわけあるか!!



そんなこんなで、漸く指定席に戻ってきた私は1ヶ月遅れながらも目の前の教壇に座る担任にご挨拶だ。


「1年間よろしくお願いします!三蔵先生ー!!」

「あぁ・・・とりあえず課題8割増しな」

「ですよねー!!!」


あんなに欲した席順も、もう元通りだ。それだけで高校生活に華が咲く。校庭に咲く桜の様にピンク色!
色々謹慎分とか生活態度分とか午後の授業サボった分だとか喧嘩した分とか色々つまった課題8割増しは少々痛手だけど、気にしないもん!

だって目の前に、この手の届く範囲には三蔵が居る。私の愛しい愛しい鬼担任サマサマがね!!



「あーぁ。春ももう、終盤かー・・・」




でも、私の中では――












春一番


(私の春は指定席と共に)








ATOGAKI
長い間(?)お付き合いいただき誠に感謝。春一番篇、ココで漸く簡潔です。まだまだ教師三蔵先生(仮)シリーズは続きますのでご安心を!

なんか初っ端から戦闘(?)シーン・・・いつからバトル物になったんでしょうね!躍動感のへったくれもありゃしねぇ。笑
久し振りに戦闘シーン(もどき)を書いた気がします。あ、良く読んではだめですよ?状況がこんがらがっちゃいますからね!書いてる本人も意味不明です←

メアリーを監視する為〜云々言いましたが、フハハ。やっちまったぁぁぁ/(^o^)\こじつけとかも出来ず仕舞いでしたorz
騙し騙しやってきましたが・・・本当はいつもより最後を考えないで最後まで完走しちゃった感じです。ごめんなさぁぁぁぁい!!!
最後のほうとか詰め込みすぎーで流れ早すぎーので管理人が一番こんがらがっております。伏線とか回収しきれなった/(^o^)\
まぁソレは追々・・・次回はお花見篇(短篇)を予定しておりますので、そこで色々まとめようと思います。できれば・・・!←
なんか脳内イメージでは三蔵先生・・・白衣着とる!/(^o^)\この話を書いてる途中でふと浮かんできました。如何いう事?笑

人にライターで煙草に火をつけてあげる正しい方法
 目の前で火を出しちゃいけません。ちょっと離れて点けてからゆっくり近づけてあげましょう。

管理人はおじちゃんから教わりました(*´∀`*)ホステスにはならないよ!笑


ではでは。いままでお疲れ様でした!