辺りは寝静まり、完全に夜の帳が降りきった深夜。

田舎と言うのもあり、お寺で道から高い位置にあると言うのもあってか見渡す限り真っ暗な部屋。

そんな中、私は布団から上半身を起き上がらせ隣で爆睡ぶっこいている三蔵を忌々しく思いながらも叩き起こす事にした。

何せ私の尿意が迫ってきているからね!非常事態なのだよ諸君!!

自分の尿意の為ならば、隣で惰眠…いや、ただの睡眠を貪っている呑気な男を起こすのは造作も無いことで。

・・・後々こっ酷く怒られるのは百も承知の上でございます。

と、言うワケで内心ビクビクしながらも三蔵の肩に手を伸ばした。怒らないでね、いくら寝起きが悪いからってさ!



「三蔵?三蔵ってば…!」


「んぁ…?」


「トイレ行きたいんだけど」


「1人で…行って、ろ…zzz」



寝起きってか寝ぼけてる三蔵は、ぶっちゃけ可愛い。でも目つきは悪い。

いやいやいや、こんな事本人の目の前で言ったらハリセン物だろうケド。

もう少し見ていたい気もする三蔵の寝顔に心和ませ、

しかし尿意が先ほどより格段と威力を増していることに恐れを成した私は揺さぶるピッチを早め、小声の大声で声を掛けた。



「怖いんだもん!真っ暗なんだよ!?行けない!1人じゃ絶対行けないよ!起ーきーてーよー!三蔵サマぁぁぁ!!!」


「〜〜〜!うるせぇって言ってんだろうが!!!」



スパーン!!



酷いよ酷いよ!曲がりなりにも彼女に向かって暴力ですかー!!ハリセンだけど!!

そんな男だとは思わなかったよ三蔵のバーカ!!

それに『うるせぇ』ってまだ一回しか言ってなかったもん!!!


予想通り怒鳴られた私は自分の下っ腹に危機が迫る事をいち早く察し、このまま怒鳴られて居たんじゃ危ないと思った。

こんな仕打ちを受けても何で1人で行こうとしないのか、だって?

それはあーた、アレですよアレ。

ここ、お寺。即ち、怖い。

そうですよ!私は怖いんですよ!!お父さんの実家なら慣れてるからまだしも、今日初めて来て

しかも難易度最高値であるお寺+田舎―INAKA―と言うダブルパンチ状態に居るんですよ!?やだやだやだ!怖いよママーン!!



「さんぞー…!お、お願いしますぅぅぅ!漏らすよ?今ココで漏らしちゃうよ!?」


「・・・漏らせば、いいだろうが・・・zzz」


バッシーン!!


「できるかー!!!!」


「っ!――いってぇなこの馬鹿娘ぇ!!」


「三蔵が悪いんだ!起きてくれない三蔵が悪いんだよー!!」


「だからって叩く事ねぇだろうが!!張り倒すぞ!!」


「三蔵が変態発言するからいけないんだってー!!」


「誰が変態だ誰が!!」


「自分で言ったこと覚えてないの?!最低!三蔵なんてずっと寝て脳みそ溶けちゃえばいいんだ!!」


「脳みそ無いお前に言われたかねぇよ!!」


「何をー!!もう怒ったもんね!ちゃんは怒っちゃったよ!!」


「あー怒れ怒れ!勝手に不貞腐れてろ!!」


「うぅ・・・非道い・・・三蔵の、馬鹿ァ!!」


「ふん。こちとら睡眠妨害されて頭に来てんだ!馬鹿はお前だ!!」



言いすぎだよ!それは言いすぎだこの野郎!!

私は先ほどまで限界に達しようとしていた尿意の事を忘れ、1階で三蔵のお父さまが寝ている事も完全に頭から消失させ

怒鳴り散らす三蔵に対抗しようと更に声を張り上げた。



「あーもう!トイレに着いて行ってくれるくらい良いじゃん!彼女に気を使ってあげても良いじゃんか!!」


「高がトイレに行く位1人で何とかする事をまず先に考えろ!ガキかテメェは!!」


「去れどトイレだよ!ガキでいいもん!ってかガキだし!!怖いのと尿意で考える暇も無いよ無理だよー!!」


「女が堂々と下ネタ言ってんじゃねぇ!恥ずかしいと思わんのか!!」


「下ネタじゃないもん!そう受け取っちゃう三蔵の方が恥ずかしいもん!!三蔵のえっち!!!」


「んだと…?俺だって男だ!」


「知ってるよ!耳にタコができるくらい聞いたってば!!」



誰か、この幼稚的な言い争いに終止符を打ってくれそうな人はいないのだろうか。

なんともまぁ…不毛な争いですね。今更ながらそう思いました。



「何で一緒に着いてってくれないの?!悲しい!漏らす!!」


「俺は眠てぇんだよ!そんくらいわかんだろうがこの馬鹿娘ぇ!!」


「だからって酷い!酷すぎるよこの鬼畜生臭野郎!!」


「もっぺん言ってみろ!その減らず口、ぜってぇ叩けねぇようにしてやる…!」


「やれるもんならやってみ、うっ…!!」



ヤバイ。マジで、ヤバイ。

今まで何処吹く風だった尿意さん、否、尿意様が再臨なされました…!

ちょっとこのタイミングはないんじゃないの!?ねぇ、私布団からさえも出てないよ!!

もー女捨てても良い!!だから、だからトイレに行かせてください神様仏様ァァァァァ!!!!



「お、おい・・大丈夫か?」


「・・・・・・駄目。も、無・・理・・・」


「待て、待ってくれ!!今連れてってやるからそれまで我慢しろ!!!」


「うぅーそこ、お腹押さないでぇー…漏れる、担がれた体勢のまま漏らすよ・・・」


「諦めんな!諦めたらハリセン1発じゃ許さんからな!!」


「それは・・・勘弁・・・あぁ、目の前にトイレぐぁ・・・」


「それは夢だ!夢だから起きろ!!目を覚ませ!!!」


「ハッ…!まだ?トイレは未だなの?!早くして頂戴…!尿意様は待ってはくれないわ!」


「何処のキャラだ!――っじゃねぇよ!!とりあえず落ち着け!着いたぞ!!!」


「ありがたや〜トイレ様様だんべぇ〜カミサマからのお恵みぞあれぇ〜」


「意味わかんねぇ事言ってねぇで早く脱げ!下着汚すぞ!!」


「う、うん!今下ろす!下ろすからさっさと出て行ってよ三蔵!!」


「あ、ワリィ」



そんな感じで終始どたばたしつつ、私の尿意様は勢い良く出て行った。

あぁ、幸せ。

開放感に身を委ね、終わってから冷静になった私はふと思う。



「最初から駆け込めば平気だったんじゃ・・・?」



そうだ。暗いからとか怖いからとか。そんなの取っ払ってトイレまで走れば怖さなんて吹っ飛んでいたに違いない。

何で気付かなかったのかな…!うん。そうだ、私は尿意と恐怖で頭が回らなかったんだよ!うん!!



「何、今更な事言ってやがんだ…人を散々巻き込んでおいて」


「三蔵が素直に着いてってくれないのが悪いんですー。自業自得なんですー」


「随分な物言いだなこの野郎…!」


「うるせぇやい!間に合ったから良い物の、本当に漏らしちゃったら如何するつもりよ!?」


「・・・世の中にはそういうプレイ、」


「あああああああああ聞こえない!耳聞こえないよ私!!」


「今更純情ぶるんじゃねぇよ」


「私は端から純情乙女ですぅー!ってかなんで三蔵はいっつもそっちに走るの?!思春期真っ盛りの男子高校生かあーたは!!」


「ふん。男はいつだってそういう事を考えながら生きてんだよ」


「・・・さっき言ったセリフは、そういう夢を見て出てきた言葉だったんですね」


「安心しろ。夢の中でも相手はお前だ」


「しね」







・・

・・・

・・・・





こうして、真夜中の騒動は幕を閉じた。

きっと寝ぼけていたんだろう、この低血圧の男は布団に就くなりものの数分もしない内に夢の中へ、イッツ・ア・ショータイム!だ。

私はと言うと先ほどの騒動の所為で完全に目が覚めてしまっていて眠れない。・・・忌々しい。

一応もしもの時の為、爆睡している隣の男と距離をとって寝転がっているが…あぁ、駄目だ。やっぱり眠れない。

こんな真夏の夜にくっついて眠るのも暑苦しい気もするが、このお寺は自然に囲まれているので比較的夜は涼しい。

聊か肌寒いぐらいである。タオルケットを2人で1枚は流石に足りないと思うんですけど・・・?ねぇ、お父さま。



「・・・くしゅんっ、ずぴぃ」


「・・・」



私に背中を向けている三蔵は、タオルケットの半分以上を持って行き…と言うか私が近づけば良い話であって、別に三蔵が悪いワケではない。

のだが、やはり先ほどの会話が私を躊躇わせ、それに伴いなんだか無意味な負けず嫌いの部分もしゃしゃり出てくる始末だ。

コレでは朝までこのままで風邪をひきそうである。・・・夏風邪は馬鹿がひくってか。

確かに今の状況を見たら私が馬鹿なのは一目瞭然だけどもね?

だけれども、寝ぼけてんのかわからないが極めて危険な存在に今、近づいたらどうなる事やら・・・。



「・・・さむい。三蔵のバーカ」


「・・・・・・」



爆睡しているのを良い事に言いたい放題の私。先ほどの事と言い、今までの屈辱の数々!!

こんな些細な事ですっきりすると言う、なんともお手軽な子なんだからこのくらい許して貰えるよね?まぁ相手は起きてないケド。



「三蔵のうんこ野郎ー、変態、主従プレイ好きー、脳内お花畑ー」


「・・・・・・・・・」



ウシシシ…寝てる寝てる!こりゃあいいぜ!

私は普段溜まりに溜まったストレスと不満をぶちまける様に次々と悪口を口にする。

もうココまで言ったのなら怖いものなんてございませんv

出てくる出てくるこの達者なお口から色々とー。しかし。

――私は調子に乗りすぎて気がつかなかったんだ。この鬼が実は起きていると言うことを。



「金髪ーはげー鬼畜ー鬼教師ー生ぐ、」


「そんなにぶっ殺されてぇのか」


「ぬぁぁっぁあああ!!って起きてる?!いつから!ってなんか白いのみえる、見えちゃってるから!!!」



殴らないでくださいホントスミマセンデシタごめんなさいいいい!!

私に背中を向けて寝ている三蔵の向こう側からチラリと見える白い、ハリセン。

音も立てずってか動きもせず、どうやって手に取ってんでしょうか、そのハリセン。

そのままこちらに向き直り、手を掲げて振り落とされるのか。そう予想していた私は三蔵が動くと共に反射的に目を瞑った。



「――!」


「・・・ハァ」



が、しかし。待っても待っても一向に衝撃が来ない。

それに心なしか三蔵のため息がものすごい近距離で聞こえてくるような・・・まっさかー。

不審に思った私は恐る恐る瞼を持ち上げる。手は頭をガードしたままで、だ。



「はひ・・・?」


「馬鹿かお前は」



目の前に広がる光景とは。あっははは。暗いんだけど、ある意味眩しいとです。

その骨ばった鎖骨、とかね。もうね。



「三蔵、サマぁ・・・?」


「寒いなら来ればいいだろうが…その所為で俺が動く破目になったじゃねぇかよ」



さっきの言葉は聞いてない事にしてやる。しかし2度目はねぇ、と不吉な言葉が頭上から聞こえてきたがこの際シカトだ。

それ所ではない。断じて無いのである。何、この状況。みすみす敵の手の中に落ちた人質みたいな感じ。

そんなロマンティックの欠片も無い事を想いながら、私の心臓は口から出る勢いでございます。

あはは。先生、寝ぼけているんだったら今すぐ目を覚ましてください。変態プレイはお好みじゃないです。



「誰も寝ぼけてなんざいねぇよ。さっきは若干やばかったがな」


「自覚してる人程、性質が悪いものはございませんよ」


「もう平常だ。安心しろ」


「何にに安心すればいいんですかね」



寝ぼけて居ないのなら、寝起きと言う事か。いつもは、はっきりしている美声は掠れていて。

その普段お目に掛かれないような掠れ声に、胸の高鳴りを覚えたです。

あぁ、大人の色気といいますか。三蔵だからこその魅力を目の当たりにした私は硬直して頭が驚きの白さ!である。

背中に回された腕の温もりが夢の中に誘うのですが、やはりそれ所じゃない。

これから、未だ頭を抱えている体勢を崩しその腕をそのまま三蔵の背中に回せる時が来るのだろうか。

否、できる訳が無い。今の腕は死後硬直よろしくなまでに動かないんですもの。



「お前な・・・腕をどかせ。空気を読め」


「三蔵こそ・・・腕をどかして。離れてください」



若干掠れていたのが治ってきて、やはりいつもよりちょっと低めの声。

そろそろお怒りかな〜なんて思いつつ、心臓が持ちそうにない自分を気遣って言葉を発すると背に回された腕に一層力がこもった。

そして渾身の一撃。



「誰が離すかよ」



凄く、この人は意地悪だ。そして何より鬼畜である。

こういう事に慣れてない私の様子を見て楽しんでいるに違いない。自分は慣れてるからって、酷いよー!

でも、三蔵にもっと包まれ、温もりが体を支配すると共に自然と私の腕が三蔵の背中に回った。

えっと・・・?

三蔵の香りが体内に充満していき、抱きしめられる感覚…!・・・ヤバイ。コレはヤバイっす。

非常に危険な状態です。私の峠は今夜だったんですね。



「・・・」


「さん、ぞう・・・?」



そんな色っぺー声で呼ばないで!私まだ高校生で、なんていうか未経験だし、それにそれに・・・。

色々な事が頭の中を駆け巡り、軽くパニックに陥る私。もう顔は茹蛸状態で硬直具合も半端無い。

我ながらに初心な反応だわ。しかし。しかしだね。

こんな色男に声掛けられたらどうしますか?もちろん着いていくさ!

――っじゃなくて!!

どうしようどうしようどうしよう!

だんまりを決める三蔵は、何さ。私の返答を待っているの!?

そそそそそそ、そんな無茶な!本当になんでこんなに鬼畜なの?!育てた親は何処の誰?!

あぁ下で眠っていますごめんなさいお父さま!!


慌てれば慌てるほどど壷に嵌っていく底なし沼の如く、私の緊張状態も破裂寸前である。

こうなったら意を決して、いざ。いざいざいざ!!



「あ、あのね・・・三蔵、私まだ心の準備が・・・!」


「・・・・・・・・・・・・」



あっれー?おっかしいなぁ。返事が無い、ただの屍の様だ。状態になってるよ?

もしかして?もしかしちゃったり・・・するんだろうね。この場合。



「おーい。三蔵ー?鬼教師サマー?」


「zzz…」


「だと思ったよ!期待を裏切らないねぇこの男は!!!」


「る、せぇ・・・」


「寝言はしっかりしてるし!むきー!!私の心拍数を返せ!この鬼教師ー!!」












そんなこんなで、何故か三蔵の実家に泊まった私は布団を一組しか敷かれずあたふたしていると飄々と寝る体勢に入る三蔵を横目に四苦八苦。

でもでも何故か余裕の三蔵に引き込まれ一旦寝るも尿意サマ降臨のお陰で目が覚めてしまった。

それで冒頭に戻り、その後の事は言わずと知れた・・・と言う所ですかね。終始ドキマギしてしまった私は、寝不足決定。

朝、低血圧だけども時間通りに起きる三蔵を恨めしく想いながら一緒に起床。あぁ眠い。こりゃあ帰りの車内で爆睡間違いなしですわ。



「おい・・・こっちだって夜中起こされて寝不足なんだ。隣で呑気に寝るんじゃねぇ…!」


「う、るさ・・・い・・・zzz・・・」


「(今、運転荒くしたらどうなるだろうか)」


「zzz・・・」


「・・・・・・チッ」








眠れる森の少女



(寝てる時だけは・・・)









ATOGAKI
三蔵サマ、寝ているところを叩き起こされてかなり不機嫌の様です(笑)そして変に起きたからおかしい事になった←
こういう話題が苦手、嫌い、とかの方、すみませんでした。花火大会篇のおまけと言う事で小話にしようと思ったら
最後に甘を入れて長くなってしまいました。コレも話をまとめられない管理人の文章力の無さが生み出した結果です。あぁ、忌々しい。笑

こういうアホ具合が管理人の真骨頂なのだと、思いました。筆が進む進む←

布団の中+抱きしめ=こんな事慣れてませんwあまり経験した事が無いです!と言うことなんです。そうなんです。笑
それにーへんな発言も聞きましたしねー。三蔵サマ、あーたどんな夢を見ているんですか。(安心してください、その発言の時は寝ぼけてました)
ちなみに管理人もコレ書いている時、寝ぼけていました。←

ってか、おまけの癖に長いいいいいいい!!光明サマ全然出てきてないいいいいい!!orz