やはりお祭りとはいいものだ。

は今回欠席の担任そっちのけで普段では考えられないほどの喧騒の中、浮かれていた。

根っからのお祭り好きなのだから仕方ない。思う存分楽しむ事にしたのである。やけくそとも言う。



「うへへ…!祭りじゃ祭りじゃー!!」


「普段のさんからは想像できないほどの浮かれ様ですね…」

「三蔵サマが居ないってのにこの浮かれ様は流石、と言ったところか…」

「よっしゃー!次ぎは射的行こうぜ!!」



周りには人、人。所謂人混み。三蔵が最も嫌うこの祭り。

ある意味彼が居ないほうがよかったのでは、と思わずには言られない八戒と悟浄。

しかし彼らは数日後、と三蔵が2人っきりでこういう人混みの中を行くことを知らない。



「うーん取れねぇなぁ」

「もっとよく的を見なきゃ駄目ですよ悟空先生」

「だあああ!三蔵なら一発なのになぁー!」



三蔵は射的が得意、と言うことを知らないは意外だと驚くのだ。

そして、背後に立つ人物にまた驚かされることとなる。



「貸せ、馬鹿猿」



アレ?この声はまさか。

そんな馬鹿な。

ココに居るはずのない人物は、背後に居た。



「さ、三蔵!ナイスタイミング!」


「ちょ、なんで居るんですか!!」


「警備と言っても一箇所に居るワケねぇだろ」


「そーいう問題なのかな…?」



左腕に『警備』と書かれた腕章を携え、何をしているか一目瞭然のこの担任。

そんな人が堂々と射的に勤しんでいいものか、と思われるがこの鬼に向かって指摘できる人物など八戒を除いて居るはずがない。

それに何を言われようが三蔵にしてみれば無意味なのである。俺様街道まっしぐらさ!


「何がいいんだ」

「え?取ってくれるんですか!えっと、じゃあ、あの仮面ライd「それ以上の発言は俺が許さん」

「…嘘ですよ!」

「実はかなり本気だったり?」

「うっ…」


悟空に図星をつかれつつ(いや、近所の子供が好きなんですって!)は渋々と言った様子で他の物を要求した。


「難題じゃね?」

「え?何言ってるんですか悟空先生。三蔵は何でも取ってくれるって言ってくれましたし?」

「上等だ…」


が要求したものはちょっとでかくてちょっと重たそうなガラスの風鈴。

風鈴くらい屋台で売ってるだろうに、しかしはその柄が好みだったのである。

なんとしてでも欲しい。その欲が抑えられないだった。


「取ってくれますよねー?」

「造作もねぇ事だ」


三蔵は期待に答えるべく、手馴れた手つきで空気銃にコルクをつめ、ファイアリング・ピンもどきをひく。

そして狙いを定め見事な余裕っぷりで引き金を引いた。


ガウンッ


なんて重苦しい音などあたりまえだが出るはずも無く、パンッと言う軽快な音と共に風鈴に当たるコルク弾。

見事命中。ものの数秒もしない内にお目当ての風鈴は台の下に落ちたのであった。



「すごい…これが鬼の本性なのね…!」

「やらんぞ」

「すみませんごめんなさいもういいませんから!!」

「ったく。余計な事を言わなけりゃいいものを…」

「えっへへ〜ありがとうございまーすv」



屋台のおっちゃんから受け取った風鈴を大事そうに抱え、は満面の笑みを浮かべた。

三蔵からのプレゼント。聊かオーバーな気もするがにとってそれ程嬉しい事なのである。


「なぁ…あれってホント、バカップル?」

「そうでもないですよ?ホラ、見てごらんなさい」


ん?と疑問に感じつつ八戒の指差すほうへ視線を向ける悟空。

そこには盛り上ると三蔵に話しかける屋台のおっちゃんが。




「おぅおぅ彼女のお父さんかい?娘思いでいい男じゃないか!おじさんサービスでお父さんにジッポあげちゃうよ!」



「お父…さん…?」

「ぶっ…!!おじさん…お、お父さんはちょっと…プクク…」



「じゃあ何か?お兄さんかい?そりゃー失礼したねぇ〜!」



なるほど。と、悟空は何かを悟った!

人間性が2上がった!

しかし笑いが収まらない!

あ、鬼が近づいてきた!


ゴンッ


悟空は致命傷を負った。




「殺す…!」

「まぁまぁお父さんよー?そんなにムキになるなっての」

「貴様っ!!」

「そうよお兄ちゃん。暴力はいけないわー」

「まで…」

「さて。お目当ての物も取れましたし、今度は何処に行きますか?」



傍から見れば恋人同士に見えても、屋台のおっちゃんには親子に見えたと三蔵であった。



「じゃあ、三蔵。またどっかてばったり会えたらいいねー!」

「ふん」

「拗ねない拗ねない。実はさんに会えて嬉しかったくせに」

「まぁ親子に間違えられるっつー不運もあったけどナ」

「ホント、今日は厄日なんじゃねーのー?」



言いたい事をズバズバとお構いなしに言う3人に一睨みして、三蔵は人混みの中に戻ってゆく。

姿が見えなくなるまで見ていたはちょっと残念そうに微笑むのである。

やはり一緒にお祭りを堪能したい思いが強いのだろう。仕方ないと割り切っても残念なのは残念なのだ。

は三蔵に取って貰った風鈴を大事そうに抱えなおし、3人と共に三蔵とは逆方向に進む。





























本当はね、すっごく会えてうれしかったんだよ?でも三蔵は警備のお仕事があるから我慢するんだ。
でも、ばったり会うのも運命ぽくていいかもね。そんなことを思う、今日この頃。
人混みを掻き分けて進む度に、三蔵を探してる自分が滑稽でならないよ。




































「今度は金魚つり!その前に飯ぃ!」

「ホーント、お猿ちゃんは呑気でいいこった」

「悟空先生、屋台は逃げませんよー?」

「一通り周ったことですし、食べ物を買ったらそこら辺で一休みしましょうか」


三蔵とばったり出くわしてから1時間は経っただろうか。
たちは程よくお祭りを満喫し、丁度良く空いていたベンチに腰掛ける。
食べ物買ってくるから、と言ってさっきまでいっぱい食べていた悟空はまだ食うかといわんばかりの勢いで人混みに紛れていった。
それに呆れながらも着いていく悟浄。残されたと八戒は静かになったベンチで一休みだ。


「さん…お祭りは楽しいですか?」

「はい。八戒先生達が居るし、すっごく楽しいです!」

「それはよかったですv・・でも、無理してません?」

「あっははは…八戒先生にはお見通しですか。申し訳ないです」

「いえいえ、こちらこそ気を使わせてしまってすみません」

「何言っているんですか!気を使わせてしまっているのはこっちですよ!」

「さんの寂しさを紛らわせてあげたいんです。2人を見守る側としては、ね」

「そのお心遣いだけで、十分ですv」


暗くなってはイケナイ。折角のお祭りなんだから盛り上らないと。
そんな思いがひしひしと伝わってくるの様子。
八戒は前向きなに驚かされながらも、彼女らしいと微笑を零した。


「では、僕ちょっと2人の様子を見に言ってきますね。金遣い荒いコンビですから心配です」

「はい。私は大丈夫ですから、いってらっしゃいませー」


意味あり気な笑みを浮かべながら2人同様人混みに紛れていく八戒。
は1人になった開放感とホンのわずかな寂しさを堪え、綿飴を頬張った。

と、その時。




「…だーれだ」




目元を覆いつくす大きな掌。そしてひっくい声。
またか。また、なのか。



「そんなテンション低い声で言われても…」

「うるせぇ」

「慣れない事はするもんじゃないですよ、先生…」

「・・・」


やはり気恥ずかしいのか、黙り込む三蔵。
1時間前に会ったばっかりの人物は、またもや神出鬼没にの背後に居た。
でも、視界を遮られたままのは嬉しさを隠そうともせず、にやけてしまう。


「笑ってんじゃねぇよ」

「バレました?」

「バレバレだ、この馬鹿娘」


嬉しいのだから仕方ない。は目元を覆う暖かい掌に自分の手を添えた。
このまま何も見えなくて、三蔵の温もりに包まれていたい。そんな思いが膨らむ。
我ながらにばかだなぁと自覚しつつ、でも三蔵を見たいと思い、掌をどけよとした。が。


「ぬわっ」

「口元に綿飴付いてんぞ」


急に目が見えないまま、真上に向けさせられる顔。そして三蔵が言葉を発したと思ったら瞬時に塞がれる唇。
何事かと理解した時、は硬直した。心の準備さえもさせてくれない唯我独尊っぷりの三蔵が、好きだ。

ここは賑やかで明るい場所から少々離れていて、見ている人は誰も居ない。と思っても恥ずかしいものは恥ずかしくて。
聊か長い口付けに三蔵も今回は我慢していたのだと悟った。嬉しいぞ、この野郎。
最後に口元に付いた綿飴に舌を這わせ、三蔵は視界を覆っていた掌と己の顔を離した。そして一言。



「甘ぇ」


「…バカちん」


「ふん。そういうお前は茹蛸だろ」



満足そうな三蔵は何事も無かったかのように隣に腰掛けた。未だ顔が赤いは反論できるはずも無く、そっぽを向く。
そして両手で顔を覆い、悶えるのである。


「あああああもう!不意打ちは卑怯だって!」

「隙だらけのお前が悪い」

「んなー!!」

「アイツも余計な気を使ったみたいだからな。思う存分やらせてもらう事にする」

「八戒先生の笑みにはそんな裏が…!」


嬉しさ満点。申し訳なさ満天。は複雑な表情をしつつ、やはり本音は嬉しいのである。
口元の緩みが取れない様で終始ニヤケっぱなしだ。それを見かねてか三蔵は煙草に火をつけ嘆息した。
それに反応したは忌々しげに睨むのだが、ある事に気がつく。


「ってか先生、腕章は?」


「取った」


「駄目じゃないですか!!ちゃんとやらないと…覆面警官も真っ青だわ」

「もう役目は果たしたんだからいいだろうが」

「そんなんでいいのでしょうか…」

「警備と言っても祭りの時間全部やるワケねぇだろ。言われたのはこの一帯を3週するだけだからな」

「でも早すぎやしません…?」

「無駄がないんだよ。お前と違ってな」

「なにおー!」


こう軽口を叩いているが、三蔵はちゃんと職務を真っ当していたりする。
飲酒、喫煙していた学園の生徒、その他未成年者、酔っ払いなどなど目についた輩は全て検挙。
実は検挙率最高値を誇る三蔵であった。あの凄みで睨まれたらたまったもんじゃありません。


「モチロン、秋菜もな」

「あ、やっぱり」

「そろそろ謹慎処分にしてもいいよな」

「それは可哀想…いや、なんでもありません」

「ったく…警察沙汰にならんだけマシだがあの酒癖は将来やべぇだろ」

「困ったものですねー幸子は。一緒にえりも居ただろうに…」

「いや、終始他人の振りしてたぞ」

「あ、やっぱり」


友達を心配しているのかそうじゃないのかわからない所だが、まぁ自業自得だと押し切るほかないのである。
それはともかくそろそろ戻ってくるであろう、否もう戻って来ない気もする他の3人を待つか待たないか考える2人。

バックレ?上等?よし来た。

と三蔵は揃ってベンチを後にしたのであった。




「まぁ、最後ぐらいは2人っきりにさせてあげてもいいよな?」

「そうですね。お邪魔虫は退散するに限ります」

「あー、と焼きそば早食い競争したかったのになー」

「結局はちゃんの分も全部自分で食っちまうんだろーが」

「バレた?」

「まるっとお見通しですよ、悟空」



コソコソと影で会話する3人はと三蔵の様子を終始見ていたのだが、まぁ、後でどうなるかは神のみぞしる。



「ばっちりキスシーンも写真に収めましたv」



八戒、恐るべし。




「なんか寒気がっ」

「気にしたら死ぬぞ、確実に」























ちりーん。

























そろそろ人もまばらになってきた頃。祭りの最後を飾る今日一番の見世物もスルーして、三蔵とは帰路につく。
送っていくと言う三蔵の言葉に甘えて涼しくなり始めた道を2人で歩いた。もうお祭りはこりごりだ。
そんな悪態をつきつつ、祭りの出口であるお寺の門前を潜ろうとした。その時だ。会ってはいけない人物達と出くわしてしまったのは。



「あっれー?ジャン!何?担任も?なんで?」

「こんばんわー、先生」



それはクラスメートでもあり、の親友でもあるギャル真っ盛りの幸子と大人しげなえりであった。
2人は浴衣に身を包み、放課後を誘ったが断られた為、2人でお祭りを満喫していた様だ。
その2人の出現によりヤバイと血の気が引く。隣の三蔵はいたって平常である。


「他に八戒先生達もいるよっ」


必死にフォローするは不審者っぽいが、気にする人は三蔵意外に誰も居ない。
結構鈍感な親友2人で助かった。


「そーなんだー誘ってくれればいいのにぃー。私なんてブサ面の男しか居なくてつまんない思いしてたんだよ!?」

「それ以外でもナンパされてたじゃない、幸子…」

「えり!あんたの目は節穴!?あんなキモイ奴等なんて私に声かけるだけでもおこがましいってのに!それに比べてと来たら…」


軽いヒステリックを起こす幸子は親友のから見ても引ける程、荒れていた。
それを宥めるえりは少々疲れ気味である。これは確実に祭りではしゃいだレベルではない。


「?ナンパ、最高ォー」


生まれてこの方ナンパなんて体験した事ないは片言で親指を立てた。グッ。
それに憤怒する幸子。理由はまぁ、ごめんなさいとしか言いようのない内容で。


「ナンパはどーでもいいの!、なんでアンタはカッコイイ先生達を引き連れてんのよ!羨ましいったらありゃしない!!」

「お前な…酔っ払いはさっさと帰れ、馬鹿者」

「げっ!担任…大丈夫、もう飲んでませんから!!」

「私がちゃんと見張ってましたから大丈夫です。グッ」


他人の振りをしていたのは何処の誰だ、と言いたい所だがまぁ許してあげましょう。
それより、この状況を見られてハラハラするは酷いような気もするが早くどっか行ってくれ、と切に思ったのである。


「じゃーねー!また明日学校でー」

「さようなら、先生」

「ばいばーい」

「ハァ…」


元気に手を振って帰っていく2人は本当に嵐だった。しかも特大の、だ。
やっぱ厄日か、と三蔵もゲンナリした様子である。
ともあれようやく静かになった事だし帰る歩調を再開した2人。


「最後の最後で疲れがどっときました」

「奇遇だな。俺もだ」


朝から不運に見舞われた三蔵と若干巻き込まれた形になるは最後まで不運続きだ。
しかし何事も無く終れた事は唯一の救いだろうか。

だが、この後も学園の生徒やら家族サービスで祭りをのうのうと満喫した渡囲やら近所の人達に出くわし終始不運で終わるのも、彼ららしい終り方である。




「やっぱ今日は厄日か…」


「先生、明日はいいことあるさ…」



















余興の余韻は遙か彼方へ


(終わりよければ全てよし。で片付かないのは、やっぱ厄日の先生が疫病神みたいですね)






ATOGAKI
あぁ考えがまとまらない。コレ、ちゃんと書けてましたでしょうか。祭り篇の後篇でした。
やっと書きたいことが書けたと思ったら最後の最後で…やっぱこうなるんですねわかります。笑
この不運の埋め合わせは次回の花火大会で必ず・・・!全く自信ない管理人ですが、うん。なんとかなるさ☆←

やっぱね。甘は入れないといけないかなーと思った私は頑張って入れましたとも、えぇ!!
少しでも皆様が萌えて貰えたらいいなぁと。常日頃思って書いています。まぁ管理人の妄想爆発してますがね。笑
では。次回きっと本題だろうと思われる花火大会篇。乞うご期待!!←