守れなかった人が居ます

それは、とても大切な人で

私にとってかけがえの無い存在でした


何者にも囚われず 縛られず

あるがままに生きる

とても強い人でした


あの業火の中でも私を守ってくれて

生かしてくれた命の恩人


数えれば両手が塞がるくらい

私は何度も何度も助けられました

それなのに

私には何一つ恩を返すことさえも

守ると宣言したにもかかわらずその身を盾にすることさえ

できませんでした


何も残らなかった

跡形も無く 居なくなってしまった


でも 私は信じています

彼は

どこかで生きていると…

























   trigger  Act:59 最終話



























「お父さま、ご飯ができましたよ!」

「そうですか〜いやぁさんの作る手料理は絶品ですから楽しみですよv」

「そんな事いっちゃって、何もでませんよー」

「ソレは残念」

「…お父さまぁ?」




正午の日差しが降り注ぐ、マンションの庭先。シンプルな椅子と机が並ぶ幹下で光明はお茶を優雅に堪能していた。

アレから1年。世界はあんな大事件なんて忘れていつも通りの生活を送っていた。

薄汚れた都会の空気も、治安の悪い街も、何もかも平常で。桃源郷の仕事もいつも通り舞い込んでくる。

マフィアと言う存在も、もう影は薄いが確かに身を潜め、いつも通り活動している。

が勤めていた会社もなんとか建て直し、再びは通勤していた。

同じ部署の部長が実はリカの夫と言うことを聞いたとき心底吃驚した。


みんなみんな、いつも通り、笑顔で、元気で、時を過ごしている。

何か抜け落ちた表情で。



ピンポーン



が光明を呼んでキッチンに戻った時、呼び鈴が鳴った。

これも、いつも通りの静かないい響きのもの。


「よー、ちゃーんv言われた通りの材料買ってきたぜ」

「こんにちは。お邪魔しますね」

「へへ!の手料理ってば久し振りだからすっげー楽しみだって!」


「いらっしゃーい!八戒、悟空。それに悟浄。ちょっと狭いけど我慢してね?」

「ナニ?俺はついでかよ?」


玄関の扉を開けると其処にはいつもの面子、上から悟浄、八戒、悟空だ。

は3人を呼んでついでに買い物を頼み、一緒に食事会を開くことにしたのだった。

数分して観音と焔も来て、本来1人部屋の筈な部屋はもう店員オーバーだ。

だけど余計な物がないお陰で何とかみんな納まることができた。うん。計画通り。

テーブルに次々と料理を八戒と手分けして並べるとまずは悟空、そして悟浄がチャチャをいれて食事会の始まりだ。

一気に騒がしくなった室内。1年前と変わらない喧騒はこれまた変わらない部屋に響き渡った。


そう思えばこれまでこんなに人が集まったのはいつ振りだろうか。

2人が一緒に暮らし始めて最初の訪問者は八戒だった。あれ?この部屋に入った最大人数は3人?

あっはは。おかしいな。なーんて苦笑するは時たま桃源郷本社にいりびだったり、その時に手料理を八戒と振舞うことだってあった。

だから、この部屋にこんな人数は初めてで。……1人のときより数倍、楽しかった。


でも、いつも通りの風景なはずなのに物足りなさを感じているのは明白で。


「あれからもう…1年、ですか。時が過ぎるのは早いものですね」

「ナニよ?八戒ってば光明さんみたいに年寄りくせーぞ」

「失礼ですねぇ。これでもナウなヤングに負けないように努力しているんですよ?」

「光明、そんな死語使う奴を信じられるかよ」

「ふふふ。みんないつも通り過ぎちゃって、なんだか自然だね」

「…」


 自然すぎるよ。みんなみんな。気を使ってるのバレバレなんだから、さ。


「。お前は何故、泣かない?」

「泣かないよ。涙はもう出し切っちゃったから」


だから、泣かない。泣けない。そう言って笑ったの笑顔は、とても儚くて。

声に出さないがきっと、みんなみんな、信じられないのだと思う。

いつも一緒に居る筈の、もう1人の存在の事を。






















――



















が投げ出された後、体力の消耗もあってか、地面に頭を打ったは意識を手放した。

そして意識が戻ったのは数日後の病院のベットだ。

前のように、手を掴んでくれる存在なんて最初から居なかったのかのように一面の白は、眩しかった。

そして、白といえば、最後に見たあの服。紅い紅い染みで真っ赤に染まった、あの白を思い出させて。

同時に金色の光が窓から差し込む。これも、あの色。

腕に刺さった点滴を無理矢理引き抜くと連想される紅。そして、炎。

何もかも、何もかも愛しい存在の記憶が、溢れてくる。同時に涙も滴り落ちた。


居ない。居ない。 何処にも、居ない。

こんなに、鮮明に思い出せるのに、実物は何処にも存在しないのだ。


見舞いに来た誰もが口を閉じ、かけがえの無い存在は端から居なかったと言われている様な気がして。

全部みんなが気遣ってくれた事なのに、苦しかった。ただ、苦しかったのだ。


「桃源郷の奴等は、我々が協力を仰いだと言うことにしてある。だから捕まる心配もない」

「あの強大な裏組織を一斉駆除できた事は、とても感謝しています。…だけどっ」

「なんでだよ。なんで、」


暫くしてお見舞いに来てくれた警察の3人。綺麗な花束が添えられ、の両手は可憐に咲き誇る花たちでイッパイだった。

だから、八百鼡が涙を流そうとも手を差し伸べられなかった。そんなの言い訳に過ぎないけど、でも。


「私は信じています。だから、そう泣かないで八百鼡さん」

「さんっ!でも、」

「そうだよ!なんでそんなにお前は笑ってられるんだ?」

「独角児さんもそんな険しい顔なんてしないで、笑ってください。ね、みなさん?」

「…今回の件は我々の責任だと思っている。お前の家族も…」


真実を聞かされたのはこの時だ。最初は何のことを言っているのかサッパリだったはクビを傾げ、でも、微笑んだ。

全部聞かされて理解できた。でも、微笑んだのだ。問題なんて何処にもないと言う風に、自然に。

驚かされたのは3人の方だった。まさかこんな反応が返ってくるとは思ってみなかった。どっちが真実を突きつけられたのかわからない。

は微笑を崩さないまま、言った。それはいとおしむ様に、自然で、いつも通りに。


「もう驚くことなんて何もないですよ。あんな体験をしたんですからね」


 それに、私は誰をどう恨めばいいのか。恨まなきゃイケナイ人物なんて、最初から居なかったではないか。


「…まぁ、信じる事も大切だ。現に今、アノ場所にアイツの亡骸など見つかって居ない」




――ホラ、貴方はまだ、


「だから、最初から死んでなど居ないって言ったじゃないですか」


――生きている。




「いつ、そんな事いったよ?」

「いつでしたっけねぇ…忘れちゃいました!」

「さん…私も信じます。彼はまだ、」


「そうしてあげて。勝手に死んじゃったなんて言ってたらハリセンの餌食になるだけだからね!」


「そうだな。あのハリセンは確かに痛そうだ」

「経験者は語る。あのハリセンはモーレツに痛い」

「…苦労したんだなお前も」

「彼女を殴る男なんて…!」


「彼女、かぁ…」



実際のところ、どうなんだろうか。まだプロポーズしか受け取ってないし、ってことはまだ彼女でいいのか。

あっはは。自分だけ先走ってどうすんだろ。ばかだなぁ。ホント、大馬鹿者だよ。


















――



















「婚約を1年も死守し続けるのもおかしな話だよね!」

「既に1年…愛は本物ですね。こうまでして愛を試すなんて、ホント鬼畜生臭野郎ですよ」


 ――それに、あんな尻の拭い方なんて、らしくないじゃないですか。


「俺のを1年も待たせるなど…!、俺と結k」

「却下」

「だーははははは!!!失恋2度目最高!!!!」

「焔だっせー!!!!しかも最後まで言わせてもらえねぇでやんの!!!!」

「お前ら、俺への日ごろの恨みを晴らそうとしてるんじゃない!…グス」

「コラコラ、そんなに焔を虐めてやんなよ。ご愁傷様と合掌しとけ。きっと失恋の神様だぜコイツは」

「私もさんの相手は家の息子じゃなきゃ許しませんよ。ねぇ?私の可愛い娘v」

「はい!お父さまv」
































少し肌寒くなった今日この頃。室内はそんな寒さを吹き飛ばすぐらい、暖かかった。

ねぇ、早く帰っておいでよ。外はスッゴイ寒いんだよ?





私ね。前より全然怖いもの無くなったし、トラウマも克服できたんだ。

銀色のナイフだって、包丁と同じだと思えば全然苦でもない。

血だって私結構おっちょこちょいだから怪我すれば自然に流れてくる。

炎だって、みんなで焚き木してお芋を焼けるんだ。

だからね。ちゃんと大丈夫なんだよって所を早く見に来てよ。



お父さんも、お母さんも。

お墓参りしてお花を添えて、私ね早く、紹介したいんだ。

並んで、ちゃんと2人で挨拶しようよ。



ねぇ、まだまだ色々やることがたくさんあるんだよ?



1年前の今日、何の日だか知ってる?覚えてる?

私、一日たりとも忘れたこと無かったよ。

愛の言葉も全然言ってくれなかったけど、あの言葉はいきなりすぎて強烈で

忘れるって方がむりなんだよ。



早く、帰ってきてよ。

すっごい

待ってるんだよ。




だってホラ、私たちの出会いは運命じゃなくて、必然。

そうでしょ?

だから、さ。ずっとずっと一緒に生きていこうよ。








折角平和になったのに、貴方が居ないと全てが怖くなる。





































賑やかな室内を、太陽の日差しが照らし出す。

今まさに焔と馬鹿コンビが乱闘を繰り広げられようとしたその時。

玄関のドアが乱雑に開け放たれた。

一同騒然。暖かな室内に外の冷気が一気に舞い込んでくる。




――お帰りなさい





そして、は徐に立ち上がり、一目散に玄関へと駆け抜ける。


思いっきり飛び込んだその先に居たのは。

























「結婚すんだろ。」

















「うん!一生、幸せにしてください。三蔵!」









































――1年なんてこんなに短いんだ。だから、私はこの時を心待ちにしていたんだよ?遅すぎだこの野郎!



――短いんじゃなかったのかよ。…待たせて悪かったなこの馬鹿女。









































T H E  E N D








































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ATOGAKI 最後

ココまでお付き合いいただき誠にありがとうございました!漸くこの『trigger』が完結いたしました。無駄に長かったですねぇ。

最後はなんだか詰め込みすぎ、展開速すぎでついて行けなったと思います。現に私はまだ心が着いて聞けてません笑←

色々伏線とか回収しきってない中途半端に泣けてきます。あっははははh(ry

うん。なんか当初の目的とかなりかけ離れたような…いろんな意味で。読み返して見るとホントお恥ずかしい…!orz

あーこんな最終回をだれが予想できたでしょか!当初の設定ではまだまだ続く予定でry

うん。長くなりそうなので自重するとして、ホント、最後に感謝とお詫びを申し上げます!三蔵サマ最後だけ!爆笑←

今までありがとうございました!そしてベタでありがちな展開でごめんなさい!でも管理人はこんなベタが大好きです←

ではでは。最後まで読んで下さった方に感謝と敬意を。違う作品でお会いしましょう。 管理人:海見でした!