trigger  Act:58

















「!!逃げろ!!!」








銃の標準を眉間に突きつけられていたを見た三蔵は、全身の血の気が一気に引いた。

完全に座り込んでいる彼女は両手に拳銃を握り締め、諦めたかのように瞳を閉じていて。

何でココにが居るのかとか、何故トイに拳銃を突きつけられているのかとか考える間もなく、叫んでいた。


「三、蔵?」


ゆっくり、瞳を開け振り返るはで。死を突きつけられているにも関わらず、三蔵を見て微笑んだ。


「っ」


何も考えられなかった。ただただ愛しい、かけがえの無い存在が目の前に居ることだけが全てだった。

階段を駆け上り、銃口から守るように抱きしめる。その拍子で倒れても気にしてられない。

たった数時間しか離れていなかったけれど、腕に抱え込んだ彼女の温もりは数日、数年も離れていたような気にさえさせて。

抱きしめる腕に一層力が篭った。


「三蔵、!」


後ろで銃声が聞こえた。その後に続くトイの唸り声。どうやら八戒が撃ったようだ。

同時に何かが倒れる音。そして一層きつくなる鉄臭さ。

ソレさえも遮断するかのように三蔵は苦しいほどにを抱き込む。苦しいとがサインするまでずっと。


「く、苦しい…三蔵ぅ」


プロレスの降参よろしくに力なく三蔵を叩くは、やっとの事で開放されプハァと一気に空気を取り込んだ。

鉄臭さが気になったが今はそれど頃ではない。目の前に、三蔵が居るのだ。やっと、会えた。



「三蔵っ」





スパーン!





「この馬鹿娘ぇ!何で貴様がここに居る!!!」



怒られた。



「まぁまぁ三蔵…折角の再会なのにそう怒鳴らなくても」

「うるせぇ!…、お前はココが何処だかわかってんのか?さっきの状況が理解できているのか!?」

「うぅ…三蔵、ごめんな、さい……グス」


多分、ココに来た時の中で1番怖かったのは、三蔵の怒鳴り声だったに違いない。には断言できる自身があった。

目の前に銃口を向けられても涙は出なかったのに、三蔵が怒って…でも、この存在感がとても安心できた。

だから途端に涙が溢れてきた。何よりも、三蔵が居るだけで良い。


「ハァ…。わかってんなら、泣くな。馬鹿娘」


ポンポンと頭を撫でる三蔵の手が一層涙腺を刺激する。また彼の腕なのかに収まることになった。

三蔵は三蔵で、腕の中で泣きじゃくるこの小さな存在が、先ほど死を突きつけられて覚悟を決めていた姿と同一だとは信じられなかった。

あの光景を見て、己がどんなにキ肝を冷やしたことか。この馬鹿娘はわかっているのだろうか。

一瞬でも、が死ぬ姿を想像してしまった自分を殴りつけたい。


「無事で何よりです。お2人とも」


八戒は抱き合う2人を見て、この微笑ましい光景をこの先一生見ることになるなんて。ちょっとゲッソリする反面、嬉しいと思った。

きっと、真実を知っても崩れることなんて無いと思う。そう思わせるほどこの2人の絆は深いと。


「あのね、今、ホールとかにみんな居るよ。悟空と悟浄は途中で逸れちゃったけど、大丈夫だと思う」

「あいつ等…を守ってねぇのか。殺す」

「まぁ僕等が言えた義理じゃないですけどね」


八戒の言葉は最もなのだけれども。が居るとは誰が予想でたのだろうか。イや、そんな事はどうでもいい。

無事だったんだ。それに、会う時が早まっただけの事。そう割り切ることにする。


「帰りましょうか。サイレンの音も聞こえますし、この事件は一件落着という事でv」

「そうだね!…三蔵、帰ったらご馳走あるからね!一生懸命に腕を振るわせて頂きました!」

「そうかよ。じゃあ帰ったらまず食事か…。行くぞ」


未だ床に座り込んでいたと三蔵は立ち上がると、八戒の横に並ぶ。この階段を上って、一先ず帰り道を探さなくては。

実はこの3人。知っての通り迷って来てしまったのである。帰り道がわからない。

その事に気がつかない一行は、軽快に階段を一歩、踏みしめた。


が、しかし。


ズブリ。そんな不吉な音が、足元で聞こえた。







「っ…!」







の横に居た存在が、崩れ落ちた。


「っ三蔵!」


何が、起こった?


「どうして、ナイフが…?」


三蔵の真っ白なズボンが紅く染まる。その色は白の中で一段と映えた。


「殺して、殺して、ころ、して…やる」


その原因は、まだ生きていたトイが握る、一本の銀色のナイフだった。


「この、糞がっ!」


三蔵はすばやく銃を取り出すとトイの眉間に標準を合わせ一気に引き金を引いた。


ガウンッ―!


一瞬で息絶えたトイのナイフを握った手が滑り落ちる。肉塊になったトイは一生起き上がることも、息をすることも無いだろう。

これで全てが終わったのに、なんで、三蔵が刺された?


「三蔵!止血しなきゃ、三蔵!」


パニくるは急いでハンカチを出し三蔵の足に巻きつけた。

八戒も手で傷口を押さえる。


「こんなの、かすり傷だろうが」


トイの腕の重さで抜きかけたナイフを引き抜くと三蔵は徐に立ち上がった。


「駄目です三蔵!まずは止血しないと、」

「大丈夫だといっているだろうが。こんなんで死んでたまるかよ」

「でも三蔵!血が、血が出てるっ…血が」


――大切な者を失った時、目の前には何が見えた?


「血が」


直ぐ傍には銀色に煌めくナイフ。そして大量の血溜まりが。


「…大丈夫だ。俺は死なん」


――トラウマを消してやる?何言ってやがんだ俺は。現に今こうして、そのトラウマを一気に見せているだけじゃねぇか。


「」


「三蔵…」


安心させるようにの肩に腕を回すと、三蔵は寄りかかった。もちろん軽く。

その重さには何故か安心感が溢れてきた。大丈夫、三蔵は生きている。死なないよ。

血溜まりができた階段を滑りそうになりながら3人で上った。と八戒に支えられて三蔵は足を引きずっている。

道がわからなくても、きっとなんとかなるだろう。だって近くから馬鹿2人の声が聞こえる。


これで、終わったのだ。何もかも。

漸く家に帰れるよ。



「おーい!よかったー無事だったんだな!って三蔵!怪我してんじゃん!」

「ざまぁねけな。三蔵サマv」

「貴様等は殺す、後でぜってー殺してやる」

「三蔵、どこかの狂ったボスみたいになってますよ?」

「その姿じゃボスでも合ってるね!」


白いスーツは所々汚れていて、ズボンには真っ赤な血が鮮明にしみこんでいる。

でも、彼は生きている。そして、みんなも。


「八戒!早々に色々話さなきゃなんねぇからって社長が呼んでるぜ!」

「わかりました…でも三蔵が」

「ソレは俺に任せとけって。野郎を支えるなんざ嫌だけどよ?」

「俺だって御免だ。触るな赤ゴキブリ」

「三蔵は私が支えてるから大丈夫だよ!」

「イヤイヤ、女の子1人に無理させるのも駄目だって」

「全く…手負いのケモノじゃないんですから、素直に悟浄に従ってください。僕も御免ですけどね」

「そりゃないぜ…」


一気に気が抜けた5人は騒がしいほどに、しかしソレは心地よい物で全てが終わったのだと、実感させてくれた。

いつものような光景に、八戒とは柔らかに笑う。それに抗論を始めた世話がかかる3人。

もう何も起こる事は何も無いだろうと、八戒は悟空に続き観音たちが居るホールへと足を進めた。

悟空は嬉しそうに、三蔵を心配しながら八戒を先導する。悟浄は後ろを気にしながら八戒の後に続く。

最後尾の三蔵とはより沿いながらゆっくりと3人の後を追うのだ。そして廊下にある窓の外が白み始めている。

朝だ。この長い長い夜は戦いの終焉とともに明け、朝が来た。





兎に角、今日は帰ったらの言うご馳走とやらを食べて十分に休息を取る。それだけだ。

きっとまる1日寝て、起きて、サッパリして、この数日間時間が取れなかった分をとの時間に費やして、いつも通りの日常が来る。



――そうだ。帰ったらに、言うことがある。


   暫し早いかもしれないが、俺なりのケジメの付け方だ。





















ズウゥン…ッ














突然、地下からものすごい爆音が轟いた。

地上に居る彼らに振動を与えるくらい、大きな爆発。

地面は震えなんとか倒れずに済んだ前方の3人だが、後方の2人は違った。

不覚にも足が縺れてしまった三蔵はごと床に倒れてしまったのだ。

顔面衝突はが支えてくれたお陰で免れたが傷を負った足を捻ってしまったのでその場にしゃがみ込む形になった。

心配に声を掛けるに安心するよう答え立ち上がる三蔵。正直痛い。

見ているだけでも痛々しいのだから本人はかなりの激痛を伴っているのに違いない。


咄嗟に少し離れていた悟浄が駆け寄ろうとする。が、更なる悲劇が5人を襲った。


「なっ!ココも爆発かよ!?」


悟浄と三蔵達の間にも爆風が巻き起こる。目の前に広がる、炎。

天井が崩れ落ち、行く手を阻まれてしまった三蔵と。そして炎の向こう側から聞こえる悟浄達の怒鳴り声。


「おい!三蔵!!!大丈夫か!!」


気の遠くなるような灼熱の中、声が聞こえ難い。でも少しは聞き取れた。

だからなんとか答え返す。ぶっちゃけ後ろにも火の手は上がっている。囲まれているのだ。


「大丈夫、だと思う!悟浄たちは早く逃げて!!」

「コレが大丈夫って言えるなんざ…大した度胸だな」

「ふふふ…。だってホラ、炎なんて見慣れてるし?」

「ハッ。自慢できることじゃねぇだろうが…」


先ほどの爆発でまたしゃがみ込む2人は互いに笑い合った。こんな危機的状況なのに笑えるのは、何故だろうか。



「ずっと一緒だよ。三蔵」



燃え盛る炎は止まる事を知らない。体が燃えるような暑さに倒れてしまいそうだ。






ずっと一緒、だから。







「あぁ、そうだ。お前に言いたいことがある」



「なぁに?今じゃないと言えないこと?」



「そうだ。きっとココから抜け出せても後回しになるだろうからな…決心が揺るがねぇ内に言っといてやるよ」







――本当は、生きて帰れるなんざ、







「結婚するぞ。」







――思ってもみねぇが、今言っとかないと後悔する気がして。








「っ!…うん。する!するよ、三蔵っ!」








コレが最後の抱擁になるとしても、三蔵には悔いが無かった。


ただただ、最後に、その愛おしい存在を忘れないように精一杯抱きかかえるだけで何もかも良くなった。










 どうか、だけでも生きてさえ居れば何もかも、自分の命さえイラナイ。










「愛してる」

「私も、愛してるよ」

「そうか…」










――それだけで、最後の言葉なんざ十分だ。











三蔵は、を抱きかかえ立ち上がる。傷の痛みなんて感じて居ないかの様に平然と、しかし力強く歩を進めた。




そして。朝日が今にも昇ろうとしていた外と繋ぐ窓に、を投げた。




ガラスの割れる音だけが鮮明に聞こえる。 これで、全部お終い。




が意識を飛ばす前、最後に見たものは、炎の中、崩れ落ちる愛おしい存在、ただ1人。


















「三蔵!!!!」











「じゃあな。…」

















瞳を眇めて、少し、微笑んでいた――。






































いてぇ。今更傷がぶり返して来やがった。まったく、周りは熱すぎるし災難だこの野郎。

もう、何も見えちゃいねぇよ。最後に、の笑顔が見れたのが焼きついてる、それだけで満足なんだよ。

死に際なんざ見せられねぇし。またにトラウマ見せ付けちまった。ホント…俺もかなり馬鹿だ。大馬鹿者だ。

最後の最後にこんな辛い思いさせて、何してんだよ俺。…様ァねぇな。どうしようもねぇ。

こんな尻拭いなんざ、テメェでさえ納得していない。でも、これ以外に方法は無かったんだと思うことにする。

…こんなに火がありゃ、煙草点くよな?…点いた点いた。これが本当の最後の一服かよ。ははっ!柄じゃねえだろうが。

チッ…。熱いし痛てぇ。それになんだか、意識、が。








「プロポーズなんざ、やっぱ柄じゃねぇ…」










































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ATOGAKI
わかりやすい死亡フラグをたててみた。次回、最終回
…その前にもう1話入れようかなとか悩んだけど、やっぱ最終回。