trigger Act:57
彼女を庇いながらと言うのは以外にも苦労することがわかった。でも自分は守らなければならない。
でないとシスコン兄サマと、最も恐れる三蔵サマ達から本気で殺されかねないからだ。
本音を言うと、彼女の事は己が絶対守りたい存在なのである。だから、見失うなんてあってはならない事。
悟浄と悟空は2人だけしか居ない空間で、途方に暮れていた。
「オイオイ…これって何の冗談だ?」
「冗談じゃねぇって!コレ、マジでヤバイって!」
「とりあえず、落ち着け、悟空君」
「イや、お前が1番落ち着けよ悟浄君」
頭が真っ白になった2人は途方に暮れていた。暮れていたのだ。
何故こんな事になった?
それは、とりあえず一個一個部屋を調べようと言うことになって2人を探しながら歩いていた。
まさか1つの部屋のドアを開けたら敵がわんさか現れると思って居なかったので、不意をつかれてしまったなど…誰に言えようか。
背後からも敵の襲撃にあい、今に至る。なんて影形もない。
安全な場所に避難させたことがいけなかったのか。兎に角後悔に打ちひしがれる悟浄と悟空であった。
「だぁーーー!もう!後悔したって何にもなんねぇ!おい猿!探しに行くぞ!」
「言われなくたってわかってるよ、このエロゴキブリ!を見失いやがってさ!」
「んだとコラぁ!なんで俺の所為にされなきゃなんねぇんだよ!だいたいテメェが後先考えず敵に突っ込むからだな、」
お約束の口げんかもとい、殴り合いが勃発。何してんだコラ。
「ったく…こんな所で喧嘩なんてしてる場合じゃねぇっつうの」
「早くを探そうぜ!」
我に戻った2人は我先にと部屋を後にした。ちなみにが居る方向と逆方向へと駆け出している。
前にもこんなことがあったが、とりあえず、お約束なのである。無念。
「察も着てやがんのかよ!俺ら捕まるんじゃね?」
「エロガッパは厭らしい罪で掴まんな!」
「んでだよ!猿は大食いの罪だ!」
「んだとー!」
一大事に口げんかは収まらないらしい。兎に角早くを見つけてほしいものだ。
一方、はと言うと。
「あれ?ココ、何処?悟空?悟浄ー?」
例の部屋から随分離された場所に居た。逃げに逃げてワケもわからないところにきてしまったようだ。
途方に暮れるはとりあえず、部屋とは逆方向を行く。だから反対だって。
廊下には誰もいないものの、1人しかいないと言う孤独感に涙が出そうになった。
「イケナイイケナイ。こんな事で泣いてちゃ、三蔵を守れないよね」
くじけそうになる心を必死に縫いとめ、は震える足を進めた。
懐には一丁の拳銃。ソレだけが、今のを支えていると言っても過言ではないだろう。敵には当たらないけれど。
それでも、さきほどの決心は消える事無く、前に進もうと呼びかける。
「待ってて、三蔵。絶対守るから」
人一人居ない廊下の壁に手を着きながら手探りで進む。
さっきまでは明かりが着いていた廊下だったのに、何故かその廊下は下に下がり、まるで階段だ。
「ん?階段?アレ?階段んん!?」
無意識とは言え、階段を下がっていたは、天然でもなくただの馬鹿なのではないのだろうか…。
「ちょ、引き返さなきゃ!」
くるりと方向転換。来た道を戻らなければ、これ以上迷子になってしまう。それだけは避けたい。
それに階段を下っていると言うことはあの2人からどんどん離れてしまうと言うことになる。
なんとか三蔵の事で頭がイッパイだったは冷静さを取り戻すと階段を上り始めた。
しかし。前方、正確には頭上から足音が聞こえた。
ズルリ、カツ、カツ、カツ
悪寒がした。背中に不愉快な冷たい汗が流れる。全身の身の毛がよだつ感覚に冷静さを取り戻した頭は一気に真っ白になってしまった。
何かが、来る。怖い。怖い怖い。
その足音はだんだんが居る場所に近づいてくる。床に縫いとめられたかのように動かない足はガタガタと震えた。
逃げなきゃイケナイのに、動けない。
全身が恐怖に陥るは階段の上をなんとか見た。そこには、一暴れしたかのようなよれよれになったスーツを着込んだ、男。
はその男に見覚えがあった。あの交流会で三蔵が会話してた、――トイ・ダスト。
何故彼がココに?三蔵は?まさか三蔵っ…。
「殺して、やる。殺して、殺して殺して、殺して…」
トイから発せられる言葉に、は完全に固まってしまった。視線はそのままでまるで置物のように。
それ程この男から来る狂気はおぞましかった。恐怖しか、出てこない。
自分は、何のため、ココに来た?
ソレさえも忘れ去られてしまうくらい、には考える脳も、動く足も全て解けてしまったかのようだ。
「玄奘、殺して、三蔵殺してやるのだ…殺して殺して」
「三、蔵…?」
三蔵。その言葉がを突き動かした。まだ、生きてる。大丈夫だ。
は懐に仕舞ってあった拳銃を取り出すと、トイに標準を向けた。
引き金を撃つときは、三蔵を守るとき。
今、この男は三蔵を殺そうとしている。ならば自分が阻止せねばならない。
衝動がを動かす。
指に引っ掛けた引き金が引かれるのは―――。
「女、貴様は、あの、玄奘三蔵と居た女」
目が合った。その血走る瞳と、の決意に満ちた瞳が交差する。
ビクリと身体が飛び跳ねる。心臓が身体の中から飛び出してしまいそう。
喉が渇き、声が出ない。全身に嫌な汗が吹き出る。
――あぁ。もう、駄目なの?
突きつけられた銃口はの眉間をしっかりと狙っていた。
トイは水を得た魚の如く、喜びに口元を歪ませると引き金に指を掛ける。
「女も、殺してやる…あの。玄奘の、女、うぇっひ、ひひひ、これで玄奘も、絶望する…殺す。殺す」
コレが死と言うのならば、なんて己は無力なのだろうか。
彼を守ると言って、ココで死ぬのだ。こんな足手まといで役立たずな自分。
大口叩いた割にはあっけなさ過ぎる。
「そんなのは、嫌だよ」
イやダイヤだ嫌だ。死にたくない死にたくなんてない、死なない!
三蔵は、殺させない!!
トイが引き金を引くより先に、は構えたままだった拳銃の引き金を一気に引いた。
静かな階段と廊下に鳴り響く銃声。その余韻さることながらはその場にへたりこんだ。
無意識だったのか、先ほどとは違った反動が全身に痺れをきたす。
腕が痛い。肩が痛い。脱臼したかもしれない。
壁に当たった衝撃とともに襲い来る傷み。でもの中には引き金を引いた罪悪感と不安が支配していた。
撃った、撃ってしまった。
先ほどは当たらなかった銃弾は、今はトイのわき腹を掠ったのだ。
掠っただけでも、血が、溢れてる。血が、血が階段の上から滴り落ちてくる。
真っ赤で。悔やみなのにその色だけが、の視界を全て奪った。
「殺して、殺して、殺して殺して、痛い、痛い痛くない…私はまだ、やれるのだ…まだ」
ズブリ…ズル、ズルル
は階段上を見て驚愕に目を見開いた。
トイは、まだ立っている。わき腹を真っ赤に染めながらも、何事も無かったかのように平然と下りてくる。
「う、そ…」
見上げる形になるは、目と鼻の先に銃口を見た。
今度こそ、殺される。
動かない腕は本当に脱臼してしまっていた。持ち上がらないのなら、意味が無い。避けられないのだ。
目の前の銃口を振り払うことも、もう一度拳銃を構えることも、出来ない。
「殺して、やる…貴様なんぞ、死ねば、いい…」
生きて三蔵を守らなきゃイケナイのに、ココで終わりなのだろうか。
は、自然と瞳を閉じた。瞼の裏には赤が広がった。
「!!!」
光が、見えた。
「三、蔵?」
死を覚悟してしまったの耳に、心地よい声が聞こえた。
ソレは、随分聞いていなかった彼の声。
やっと、会えた。今度は、私が守るから。
To be continued.
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