trigger Act:28 間幕
紅該児はとある部屋の前で立ち止まった
立派なつくりをしているドアはこの中に居るであろう人物がそれなりの地位に位置するのだと苦虫を噛み潰したような顔になる
胸糞悪い
それでも呼ばれたので入らないわけにもいかず、1つ間をおくと躊躇う事無く押し開けた
無駄にでかい部屋
そこには大理石で出来た床に客人用のソファと机が置いてあり
1番奥の窓の手前には木で出来た立派な机が備えられている
其処に座る人物が紅該児が入って来たことを確認すると革作りの椅子を回転させた
「遅かったじゃない」
「…用件はなんだ」
「フフフ…そう硬くならないでちょうだい?時期長官の愛しい私の息子…」
「手早くしてくれ。俺は忙しいんだ。それと昇進する事に同意した覚えは無い」
「まぁ困ったものね。貴方しかこの掃き溜めのような組織を束ねる人は居ないと思っているのよ?」
「興味ないな」
「貴方に権限はないのよ。そんなんじゃ本当のお母様が可愛そうだわ」
「黙れ。お前に指図を受ける筋合いは無い」
「フンッ。そう言ってられるのも今のうちよ?紅該児」
「それはこちらの台詞だ玉面」
「だからお義母と呼んでったら…まぁいいわ。今回呼び出したのは他でも無い、あの脳無しのマフィアの事」
「それがどうした。マフィアなんて腐るほどいるだろう」
「違うのよ。アレは別。私も色々と利用させてもらっているの。でもね、邪魔する虫がでてきたのよ」
「虫?」
「なんていったかしら…桃源郷?そんなふざけた名前の組織が大事な取引先を潰そうと考えているらしいのよ」
「…」
「邪魔だから排除して頂戴。今回の事といい、後々面倒になりそうだから」
「…御意」
胸糞悪い
紅該児は早々に立ち去った
桃源郷と言えばあの金髪がいる所だったか
紅該児も結構世話になっているあいつ等を今更消せとあの女は言った
一体なんだと言うのだ
マフィアといいわけのわからないことを言う玉面公主を思い浮かべ、紅該児は早足に廊下を進む
「…調べてみるしか無いな」
己を待っているだろう部下2人を考え今後の行動を練ると共にただよらぬ不安が沸き起こってくる
従うべきか、従うふりをするべきか
それとも…
そう悩み、紅該児は思考を振り払った
全ては母上の為
今は囚われの身であろう愛しい存在を胸に
紅該児は建物を出た
雨は止まない
まるで全てを洗い流すかのように、戒めるかのように…
***
所変わって桃源郷
最上階に位置する部屋に、この建物の主と男は居た
空気はいたって穏やかだが話す内容は正反対である
「全く厄介なことになりやがってきたぜ…」
「そう気を立てずにお茶でも飲みましょうか」
「ったくお前はかわんねぇな光明。少しは心配でもしてみろ」
「おや?私は心配でたまりませんよ観音。大事な息子がマフィア討伐なんて任を任されているんですからねェ」
「嫌味か。お前の息子は柔じゃねぇってこと、お前が1番良くしってるだろうが」
「もちろんですよ。でも心配するのが親心ってものです」
「ハッ。その息子は1人の女に骨抜きにされてんじゃ世話ねぇな」
「そうですね。一体どのような女性なんでしょう…あの子が決めた人ですからきっと可愛らしい娘ですよ」
「資料見るか?面白そうだから調べてみた」
「なんと…そんな事あの子が知ったら怒られちゃいますよ?」
「ククク…それがまた可愛いんだろうが」
「そうですね。私も見せて貰いましょうか」
「お前も性格悪ぃな」
「お互い様ですよ」
「けっ。いってろ」
「ふふふ…。っこれは!…大変なことになっちゃうんじゃないですか?」
「だろうな。でもあの生意気な奴はそれさえもぶっ壊すんだろうよ」
「この娘が可愛そうです…あの子が守って差し上げられればいいんですけどねぇ」
「大丈夫だろ。なんてったって元エリート軍人玄奘三蔵サマだからな」
「それもそうですね。…それにしてもとても愛らしい娘です。早く実物と会ってみたくなっちゃいました」
「俺もまだ見た事ねぇんだ。抜け駆けはさせねぇぞ」
「競争しますか」
「望むところだぜ」
観音は不適に微笑むと、おっとりとした男、光明に向き直る
資料を片手に、と言うか写真を見て待ち望んで居るかの様に胸を躍らせていた
そんな光明に苦笑すると雨が叩く窓に目を向けそろそろ帰ってくるであろう笑顔の青年と不機嫌丸出しの男を思い受けべた
それと、そんな不機嫌の塊が愛する女性も
一体どうなることやら
観音はこれからの事を想像してクツクツと笑うと楽しくてしょうがなかった
を守ることが出来るのはただ1人三蔵だけだ
それを言ったらあの男はさも当然のように鼻で嘲笑うだろう
『当たり前だ』、と
簡単に想像できてしまう眉間の皺を濃くした三蔵にまた笑がこみ上げてくる勧善音菩薩であった
「さて。私はやることがあるので行きますね」
「あぁ」
「最近寒くなってきましたからねェ。風邪には気をつけて下さいよ?」
「お前もな。さっさと行けよ」
「フフフ…お邪魔しました。ではまた後程」
そう言って光明は部屋を後にした
観音はその後姿を見送ると己の椅子に腰掛ける
雨脚が数段と激しくなりつつある中
慈悲と慈愛を込めた瞳で何を思うか
それは本人にしかわからない
To be continued.
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ATOGAKI
間幕と言う事で紅該児サイドと観音サマサイドを書かしていただきました
正直書くつもりはなかったんですが、折角思いついたので笑。前にチラッと話しに出て来た光明さんも登場です
それにしてもわかりにくい。2場面とも2人ずつ交互に会話させましたがお分かりになりましたでしょうか。
この話は今後の物語に関係してくるような気がしないでもないような…な感じなので頭の隅にでもほっぽいてやってください
ちなみに言いますと、シリアス苦手な管理人なので誰も死なず(敵は別)
尚且つ仲良しな話にするつもりなのでそのことを踏まえてお読みくださるとうれしいです
ではでは。次から三蔵サマ達に戻ります。
photo by clef 様