朝の日差しにおはようを言って、隣に眠る彼にもう一度おはようを言う。
やはり少し肌寒い。冬を迎えようとしているこの時期には、暖房が必要だと文句を言ったけれど、相手にされなかったのを覚えている。
彼曰く、暖房が無くとも暖かいから、だそうだ。彼なりの愛情表現だったなんて、極一部の人にしかわからないと思う。
もぞもぞと布団をかき集め、二度寝に洒落込む。久し振りの休日に私の堕落ゲージは絶好調、我慢できない。
温もりを求め、腕の中に再び納まるのも捨て難い。そうしないのは気分だ。
ちょっとだけ意地悪をしてみようと思っていたのかもしれない。ここぞとばかりに普段の仕返しをしてやろう。うん。
そんな事を考えつつ、夢の世界へもう一度踵を返そうとしていた時。
「…くしゅんっ」
布団を全て剥ぎ取られた彼が、小さくくしゃみをした。
ふつふつと湧き上がる罪悪感。睡魔に襲われていたはずの目は、異様に冴えていく。
隣を見るのが、聊か怖い。シーツの擦れる音に過剰に反応してしまう自分は根っからのチキンだと再確認させられる瞬間である。
どうしようどうしよう。このまま潔く布団を返した方がいいのだろうか。
でもそれは負けと同じだ。だけど、このままだと彼は風邪をひいてしまうことになる。
でもでも、そうしたら珍しく弱った彼を看病できる…なんて邪な考えが脳裏を過ぎった。
「…観念したか」
「わざとかい」
布団を返そうと隣を見たら、バッチリ目が合った。
ちくしょう。全部仕組まれていた事だったのか。くしゃみの演技は見事なもので、ちょっと卑怯すぎやしないか。
何でもお見通しな彼は、自由自在に私を掌の上で躍らせる達人だ。
「覚えてろよ」
「すみませんでした」
この彼にものっそ凄まれて謝らない人間なんて、この世に存在するのだろうか。
そう思わせる雰囲気で、睨まれた。蛇に睨まれた蛙は、こんな気分なんだろうな、と納得。
もそもそ。ぱさっ。・・・ぎゅう。
寒いのは本当らしく、そんなに放置した覚えは無いが既に冷たくなっている彼の体。
私の寝起き+ぬっくぬくだった体には、聊か酷だった。でも自業自得である。
それ以前に、最低だ。ごめんね、と謝ると彼はくぐもった声で言った。
「…あったけぇ」
力が強まる腕に抱かれながら、なんか可愛いなコイツ、と思ったのはココだけの話。
温もりというのは不思議なもので、冴えた瞳はいつの間にかうつろになってくる。
ココがベストポジションだと主張するように、私も腕をまわした。
もっとくっ付きたいから、もっともっと温もりが欲しいから、めいっぱい力をこめた。
「・・・苦しい」
なんか聞こえたが、この際シカトだ。ぶっちゃけた話、自分でも苦しいのだから。
こうして、違う方法で悪戯と言う名の意地悪を成し遂げた私は、優越感に浸りながら彼と一緒に眠る。
どうか夢の中で仕返しされませんように――。
にどね
(魘されたのは言うまでも無い)
TOGAKI
珍しくほんわかな感じにしてみました。・・・出来たかは謎。