ねぇ。この道をずーっと行けば、あの街にたどり着けるかな?





貴方と一緒に自転車で駆け抜けた、あの街に――。



















































「ふぁ〜寒い!」





手足が凍るような寒さ。都会の温暖化なんて微塵も感じさせない厳冬。

昨日の天気予報では今夜あたりに雪が降ると言っていたきがする。

なんで都会の癖に、などとどうしようもない自然現象には悪態を吐いた。





「はぁ…これじゃあまるで、田舎と同じだわ」





人混みの中、人の波に流されながらもは悴む指先を擦り、白い息を吐く。

これで本当に雪が降ったらどうしてくれよう。暖房機器と言うものは電気代が馬鹿にならないので切実に悩めるところである。






「今日もまた炬燵でお寝んねですか。いい加減風邪引きそうだよ」






困った困った、と独り言を漏らす彼女は傍から見れば不審者この上無いのだが如何せん、本人は気付いていない。

それが幸いしたのかどうかは知らないが、

と言うより都会の一角で独り言を行っている女性など誰も気にしていないので指摘する人なんて居なかった。






「アノ頃は〜ですよ。田舎は最高だったなぁ。こんな空気悪い都会なんて来なきゃよかったかも」






は高校卒業と同時に都会に出てきた、所謂田舎者だ。自分が望む大学が都会にしかないから仕方ない。

時たま実家が恋しくなる日もあったのだが、数年と暮らしていくうちに随分と落ち着いてきたと思う。

ホームシックなんて恥ずかしいと思っていたけれど、自分も体験するとなっては話が違うのだ。





「アイツもホームシックになってたら笑える。あはは…」





自分の事は棚に上げて1人寂しく笑うは何を思ってなのか。答えは一つしか無いのだが。

ともあれ、通勤でよく使う帰り道を地道に進み電車で2駅分程乗り継ぎ漸く今住んでいるマンションまでたどり着けた。

閑静な住宅街に位置する、都会と掛け離されたかの様なマンションの周り。田舎娘が気に入った理由は言わずと知れた物だ。

時刻は既に日を跨いで居たが月も出ていなければ星もまちまちで。其処らへんは田舎と随分違っていた。





「偶には公園で一息つこうかな。っていっても自宅は目の前だけど」





マンションの目の前に設立された公園。昼間は親子で賑わっているが、夜中となると暗闇が加算され不気味だ。

しかし田舎娘は暗闇なんてなんのその。平然と近くの自動販売機でコーヒーを買い、ブランコに腰掛けた。


ギィギィ。


ブランコ特有の錆が奏でる音を聞きながら、あたたか〜いコーヒーで悴む指を暖める。

吐いた息が白く、空気中に消えてゆくのを目で追いながらため息を一つ。

寒い。でもこんなの慣れっこだ。しかし都会に着てからと言うものの、寒さに弱くなってしまった。

分厚いコートを着込み、マフラーをぐるぐるに巻いても寒さはやってくる。会社の関係でスカートだから足元が隙だらけだ。

ストッキング1枚は流石に堪える。公園で寛いでないで早く炬燵に入るべきだったか、とは思い直すことになったのだった。




「今度、里帰りでもしようかな。ママンに会って、そして――」




寒さは耐えられないが、この感覚が心地よいと思うのも嘘ではない。久し振りの冬の外は改めて好きなのだと。

それと、真夜中を駆け抜けたあの日。あの時もこんな寒さだったな、と。思い出が甦ってくる。

歩きじゃなくて自転車だったから風の風圧が凄くて。でもあの大きな背中に抱きついたら全然暖かかった。




















「ねぇ三蔵。一体何処まで行くの?」





















「さぁな。着いてからのお楽しみだ、




































「ねぇ三蔵。もう一度見に行きたいよ」






風が通り抜ける。その湿った空気は予報どおり雪が降るのを教えてくれた。





「そろそろいい加減に戻ろうかな。風邪引いちゃ明日に響いちゃう」





このままココで待っていたら、見れるだろうか。たとえ明日が辛くても、見たらそんなモノ吹き飛んでしまいそう。

その前に風を引いてしまうかもしれない。今日は自分ひとりしか居ないから、風除けも無い。

コーヒーで温まった指をまた寒さに晒し、は公園を後にした。哀愁漂う背中はとても小さく、儚い。





「と言うか、今日って雪でしょ?見るも何もないじゃない」





馬鹿だなー、なんて自嘲の笑みを浮かべは予定通り炬燵に潜った。あぁ、暖かい。

昔の思い出に浸っていると眠気が襲ってくる。欲には勝てないはそのまま意識手放した。






















「わぁ…綺麗!綺麗だね三蔵!」


















「うるせぇ。大声で喋らなくとも聞こえてんだよ」





















「だってだって、綺麗なんだもん!騒がなくてどうするのさ!?」




















「ったく…。連れて来て正解だったな。にしてもうるせぇ馬鹿娘」

















「素直じゃないなぁー」


















「・・・・・・うるせぇ」



























「ははっ!…嬉しいよ、三蔵。ありがとう――」


































目が覚めた。なんだかとても懐かしい夢を見ていた気がする。

あの眩しいほどの金色に目が眩んで、でも隣の金髪の方がもっともっと綺麗だった。

私のほうこそ、素直じゃなかったなぁ。アイツは気付いてないんだろうけど、綺麗なのはアイツのほうだった。

全部全部、アイツが連れて来てくれた事が嬉しくて、全部全部、その瞳に写るもの全てが嬉しかった。

朝の独特の香りが新鮮で。真夜中に、朝っぱらに自転車で駆け抜けた坂道。初めてだったよ。

全てが初体験と共にその日初の朝焼け。私たちを包む優しい光は今も尚、忘れられない。

最高の瞬間だった。生まれて初めて、朝日を拝んで泣いたあの日。





「また、見に行きたいよ…三蔵」





都会の廃れた空気に犯されて、あの新鮮な空気が恋しい。


それと、アイツが、あの存在が、恋しい。


会いたい。今すぐ会いたい。


叶わぬ願いだと知っていても尚、その思いは止まる事を知らないかのように溢れ続けた。










「あ、部長?今日風邪引いちゃった見たいなのでお休みします」

『え。ちょ、マジで?さん、そりゃないよ…』

「すみません。もう話せる状況じゃないので、それでは」

『埋め合わせはこっちで勝手にシフト組んどくからな。身体に気をつけ、』




ピッ





後で部長に怒られてもいい。この衝動は抑えきれないのだから。


は仮病を使い、元気に家を出た。いつもの分厚いコートと、マフラーをぐるぐる巻きにしていざ、田舎へ。

実家は遠いが新幹線を使えばなんのその。この分じゃ明日の会社もお休みだ。

まぁ風邪と偽ったからには1週間程度休むのだが、リストラ覚悟である。

それでもいいと思わせる程の物とはなんなのか。を突き動かす源は全て、あの朝焼けにあった。


















ねぇ。この道をずーっと行けば、あの街にたどり着けるんだよ?





貴方と一緒に自転車で駆け抜けた、あの街に。





早く、早く。




あの時と同じ様に、朝焼けを見に行こう――。



































「あ…れ?なんで、なんでっ!?」










































「あ?居ちゃあ悪いのかよ…うるせぇ馬鹿娘」









































カントリーロードはどこまでも
(まさかアンタもホームシック?)(んなわけあるかっ)












ATOGAKI
唐突に、書きたくなった。元ネタは言わずと知れた(笑)すっごく改竄しまくったけど←
最後あっけないけど、これぞ真骨頂!ってことで。お粗末。