魔物も身を隠すほどの豪雨
轟く雷鳴
視界の先は 何も見えない
The castle where a vampire is. Z
稲妻が光った。この怪しい雰囲気の城外共に城内も一層怪しさを引き立たせる。
神の怒りか、鉄槌か。未だ鳴り止まぬ雷と共に雨足も一段と強くなった。
こんな天気は珍しく、年に1度あるかないかの瀬戸際だ。
その所為で1人、この状況に脅える姿があった。
華奢な肩を震わせ、吸血鬼らしからぬ吸血鬼。魔外者のは寝台で丸くなっていた。
いつもの元気さはいずこへ。今はただの脅える子供のようだ、と三蔵は思った。
「―手を、離さないで。1人にしないでね…三蔵っ」
「あぁ。俺はココにいる。何処にもいかねぇよ」
三蔵の手を握る小さな手はこれほどに無く震えていて。いつか壊れてしまうのではないかと思わせる。
ガタガタと音を立てて、バラバラに、崩れ落ちるのでは、と。
窓に叩きつける雨が、怖い。大きく鳴る雷が怖い。
そう、は言った。原因は――知っている。ソレは、の命の灯火が儚くも消えそうになったときの事。
幼いは、まだ十数余りの年の頃だ。眼を離している隙に森に迷い込んだ、あの日。
その日は夕方から雨が降ると、大嵐になると言っていた。が、無邪気で破天荒な小さいは気にもせず森に入っていった。
あれは己の所為でもある。どうしてあの時、眼を離したのか。手を、放してしまったのか。悔やんでも悔やみきれない後悔が押し寄せる。
チカラも、術も、何も持たなかったは迷い込んだ森で吸血鬼狩りに出会ってしまった。
未熟で妖力も抑えられなかった彼女は、吸血鬼そのモノの姿で出会ったハンターに襲われ、生死をさまようことになる。
銀の弾丸を心臓近くに打ち込まれ、瀕死の姿で見つけた頃にはもう、助からないとさえ思ってしまった。
死ぬのかと、思った。思ってしまった。そしてソレを――受け入れてしまいそうになった。
その時握った掌が小さくて、冷たくなりかけていて。三蔵は頭が真っ白になる。
あぁ、このまま一緒に死ねたら――。
轟く雷鳴。体温を急激に奪う豪雨。泥沼に横たわる少女は人形のように動かなくなった。
彫刻の様な真っ白い顔。それと、不気味な程紅い、深紅の唇。
額に張り付いた漆黒の髪が一層白さを際立たせる。なんともおぞましい、死に様。
胸からは止め処なく流れる紅い血が水溜りと共に広がる様は、不覚にも綺麗だと思った。
これが、…?
手を握る方とは逆の手が生暖かい血に触れると、三蔵は一気に頭が冷えた。
僅かに聞こえる心臓の音。まだ、は生きている。
死なせない。死なせてたまるか。――己から離れるなど許さない。
三蔵は、己の手首を噛み切ると流れてきた血を口に含み、の唇に触れた。
これが、血の契約の始まり。時期王の命となり、伴侶となる為の儀式。
それは雷雨と共に交わされ、一閃の光が2人を照らし出した。
嵐の夜は死への恐怖を味わった日
嵐の夜は生き繋いだ喜びをかみ締めるべき日
嵐の夜は将来を約束した神聖なる日
幼いながらも交わした儀式は、暗雲と雷と、雨だけが見ていた。
森の魔物たちが騒ぐ
ホラ、死に損じた吸血鬼が眼を覚ますよ
時期吸血鬼の王と血の契約を紡いだよ
死に損ないの吸血鬼の小娘が
上級貴族の子が時期王と結婚するんだ
王の息子と貴族の娘が婚約をはたしたよ
滅びを呼ぶか
はたまた新興を呼ぶか
未来は直ぐソコに――
「には恐怖以外の何者でもない日だろうが、俺にとっちゃこの上なく好機な日だったな」
静かに眠りにつくの頭を撫ぜながら三蔵は柔らかな瞳を覘かせ、指に絡めた髪の毛の人房を掴み、口付ける。
漆黒の髪は艶やかで直ぐに滑り落ちそうだ。妖美な細い糸状の漆黒。ソレを散りばめ正反対なまでの幼い寝顔。
その極端すぎるメリハリが逆にそそるものを感じる。
どんな状況だろうと、彼女を失うことは出来なかった。
咄嗟の事とは言え契約を交わした日。遅からずその日が来るのを待ち望んでいた三蔵はそれが少し早まっただけだと言う。
手に入れたい存在は早くも思わぬ状況で手に入った。だから。離してなんかやらない。
絶対的な契約はまだ、続いているのだから。
ソレが無くても、己はを縛り付けるであろう。どんなに、嫌がってでも無理矢理…。
鎖を繋いで、閉じ込めて。一生外になど出さなくて。自分だけの、存在。自分しか求めてこないまでに、己の存在を植えつけて。
「必要ないだろうがな」
嵐が止むよ
全てをかき消すほどの豪雨は神の怒りか、魔物に対する鉄槌か
はたまた少女を戒める為のモノなのか
嵐が止むよ
僕等も君も眼を覚まし
また光を求めてさまよう
僕等は魔物
王は光
姫は命
それじゃあ、おかしいね
魔物が光を求めて自ら灰になることを選ぶのか
それも違う
光があるからこそ、闇がある
僕等は光でできた闇を求めるけれど
姫は光を求めて安らぎを得る
安息に眠れる光に包まれ今日もまた
光は姫を包み込み己もまた安息に眠る
光を浴びて甦る
命の源月の光
愛しい存在の太陽
光を求めて甦る
今宵も吸血鬼は甦る
「マヌケ面しやがって…呑気なもんだなコノ馬鹿娘」
そう悪態ついて己もまた、華奢な存在を抱き寄せ眠りにつく。
何モノにも縛られない――否、互いだけに縛られた存在。ソレがまた、心地よい。
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ATOGAKI
今回は短め。そしてヒロインの過去の出来事。数十歳余り…で少女。またもや笑いをかみ締める。笑←
原作では三蔵サマが雨に悲しみを背負うがこっちではヒロインが悲しい眼にあっています。だってお父さま生きてるもん。(お前はしねばいいとおもうよ)
なんか好き勝手かけると思うと楽しいです。わぁ愉快愉快。そして私は遊快犯←
階級的には王は絶対の存在で、ヒロインは元から王に近い存在。伴侶にふさわしい貴族でした。それだけは蛇足として書いておきます。
ってか契約とかwwwオリジナルすぎて、暴走しすぎな管理人ですみません。嵐の夜は城に篭るので行っても相手にされませんので、気をつけて。