今宵は新月
『月が眠る』その晩は、何が起こるかわからない
The castle where a vampire is. Y
「三蔵ー?ねぇってば三蔵ー!さーんーぞー?」
夜の城内はとても静かで、暗い。その中に1人、は廊下をさまよっていた。
新月の晩は月明かりなどあたり前だがなく、星の光も城内には届かない。
廊下の明かりをつけるのは容易いが、はこのくらい城内が好きだった。
三蔵の指定席がある広間にも、寝室にも、風呂にもトイレにも、食堂にさえ居ないかけがえの無い存在。
部屋は腐るほどあるが殆ど使われていないモノが大半を締めている為期待できそうに無い。
三蔵は何処へ。滅多に城外に出歩かない彼は『月が眠る』今日この日に限っていないなど、珍しい。
別に新月だからどうこうってワケではないのだが、いかせん、寝るときに1人だと眠れない。
彼女にとってそれは死活問題で。寝なくてもいいのだが習慣付いたソレは眠気を誘う。
フト、は伏せていた顔を上げ、耳を澄ました。
聞こえる旋律。コレは…ピアノ?
確かこの奥に随分使われていないピアノが置いてある部屋があるはず。
この棟の最上階にあるその部屋は、以前が好んでよく通っていた部屋。
今ではもう飽きて使わなくなったのだが。
本当に珍しい…。まさか三蔵が弾いているなど。天変地異の前触れか…いや、言い過ぎか。
それより、真夜中に聞こえる旋律など…学校の怪談でもネタ的には古い。
先日のリアルバイ●ハザードもそうだがこの城はホラーがありすぎる。…恐ろしい事この上ない。
心臓に悪いが、自分もまたホラーな存在だということを棚に上げ抜け抜けと。そんな事をは思った。
棟の最上階の奥。ソコから見える景色は絶景だと、思い出した。
そして、構造的にその部屋は楽器が良く響くのだ。綺麗に、華麗に。鮮明に。
少し開いたドアの隙間から覗くと、ソコには背中を向けた三蔵がピアノを弾いていた。
その姿は、魔魅かこの世のモノには到底見えない、美し過ぎる程の姿。
流れるように鍵盤を打つ指はしなやかに軽やかに音を紡ぎだす。
本当に珍しすぎて反応に困る。これで月の光があたっていたら、と考えるとゾッとする。いい意味で。
そんなの心情を知ってかしらずか…三蔵は止まる事を知らないかのように弾き続けた。
まるでピアノに取り憑かれたかの様に延々と。
美しいピアノの旋律は、三蔵の手によって更に美しく、儚くの心に直接響き渡るような、そんな音色。
心地よすぎて寝てしまいそうだ、と既に寝ぼけた頭で考える。否、思考回路など既にショートしているのかもしれない。
あぁ、ずっと聞いていたい。そう思わせる。
しかし、旋律は途端に途切れた。そして振り返る尊大なまでの態度な三蔵。
眉間には不思議がるように寄せられた皺。いつもの事だ。よかった。取り憑かれたわけでは無いらしい。
「…何してやがる?立って寝るつもりか貴様は」
先ほどの儚い姿はいずこ…。急激に冷える頭。あぁ、三蔵だ。
「三蔵こそ、こんな夜更けにピアノなんて珍しいね」
「急に弾きたくなっただけだ」
「じゃあ、あたしバイオリン弾くから一緒に弾こうよ」
「……気が変わらんうちに早くしろ」
本当に天変地異でも起こす気だろうか。先ほどの考えはあながち間違っていないらしい。
滅多に弾かないピアノ。そして滅多にしてくれない協奏。
満月で気が狂うのは知っているが新月で気が狂うなど…駄目だ早くしないと気が変わる。
夢の共演 かっこ笑い、な状況はとてもおかしくて、反対に何故か当たり前のような気がして。
月の光もない暗闇の中、ピアノとバイオリンの旋律は城内に響き渡った。
「三蔵、やっぱ今日変じゃない?」
「殺すぞ貴様っ」
「だって、楽器なんて随分やってないのに何で急に…」
「言ったろう。『弾きたくなっただけだ』、とな」
新月の日は、何が起こるかわからない。とは言ったものだ。
現に、天変地異さえも起こしてしまえそうなこの金髪の伯爵はおかしい。否、これが普通なのか…?
「ハァ…今日はなんの日か気付いてないみたいだな」
呟きにも似たため息に紛れて聞こえてきた声。それはを驚かすには十分で。
理解した時、喜びが湧き上がってくる。そうか。三蔵は覚えてくれていたのか。
「私の誕生日…だよね?覚えててくれたんだぁ」
「何百回祝ってきたと思ってやがる・・・イヤでも忘れられねぇよ」
「うはー!私も今日で192歳かぁ!あっはは!時の流れとは早いものですなぁ」
「中身は相変わらずだがな」
「一言多いですよ三蔵伯爵サマ?」
見た目はまだ年行かぬ少女なのに、実際にはもう190余年だそうだ。吸血鬼とは恐ろしい。
ってか詐欺だろ。お前ら詐欺だろ。
そろそろ魔物も眠るとき、即ち朝が近い。また今回もちゃんとした時間に眠れなかった三蔵。
これもの為だと思うと、本当、とことんに甘い三蔵である。
ちなみに弾いていた曲はが大好きな曲で。そんな気遣いさえも気がつかないではない。
心の底から、愛しさがこみ上げてくる。
「ありがとう。三蔵」
「ふん。何のことだ」
「もう!照れちゃってー!」
「…張り倒すぞ」
「ふふふ…いい誕生日だったよ。本当に、ありがとう。嬉しいっ」
ガバリ。体当たりよろしくな抱きつき方は、の照れ隠し。三蔵より照れているのは自分だったりする。
そこもまた、愛おしい。
この行動がわかっていた三蔵はよろける事も無く、難なくそのかけがえの無い存在を受け止めた。
腕の中に収めるとその華奢な姿が身に沁みる。こんな小さいのにホント詐欺だろ。と言いたくなるのも無理は無い。
抱きついて更に擦り寄ってくる彼女は、穢れを知らないかのように無垢で純粋。――だからこそ、守りたくなる。
たとえ己の手が血に染まろうとも手放せない存在。これが己の命なのだ。しかしそんな事関係なく、愛おしい。
「まだ、誕生日は終わってないから、我侭言いたい放題だね!」
「それで何百年苦労させられたか…計画犯だろ、お前」
「でも聞いてくれるんだもんねー?お優しい三蔵伯爵サマv一生着いていきますわよ」
「…手放してやんねえよ。たとえ貴様がどこかへ行こうとも、絶対にな」
「それは私も同じだよ。…三蔵」
「同じじゃなきゃ、許るさねぇ」
月が眠るよ
詠う刻に備えて、チカラを蓄えてる
月が起きるよ
明日はまだ、来ない
魔物たちもチカラを待って眠るよ
詠う刻に備えて 眠るよ
早く起きて――僕等の命の源
早く起きて――僕等の母なる満月
奏でる旋律は 魔物たちのものか
それとも―――…。
「…眠い」
「まずは寝てからだな」
「おんぶーもう限界」
「人の背中で寝るんじゃねぇよ」
「じゃあ抱っこー」
「ハァ…好きにしろ」
「わぁ、い…zzz」
「早すぎだろ。コレは流石に」
吸血鬼の王様、姫を抱いて眠りにつく
その大切な存在は、誰のもの―?
「俺のもんだ。誰にもやらん」
吸血鬼の王様、姫を抱いて眠りにつく
そのかけがえの無い存在は、何?
「俺の――命だ」
吸血鬼の王様、姫を抱いて眠りにつく
その命は、本物?
「本物でも偽者でも、命に変わりねぇな。…色んな意味で『命』だ」
吸血鬼の王様、姫を抱いて眠りにつく
愛おしい存在もまた、眠りにつく
「しいて言えば――命より大切な存在だ。この馬鹿娘は」
今宵は新月
でも、もうすぐ朝が来る
魔物が眠る、朝が来る
月は眠りから覚め、魔物たちに詠う
子守唄、それとも目覚めのうた?
さぁ、君もうたを詠おう
目覚めの刻が迫っているよ
さぁ、君もうたを詠おう
朝日はもう直ぐ、顔を出す
さぁ、君もうたを詠おう――
「zzzzz・・・」
「流石にココまで来ると…眠気も起きんな」
「へへへ…三蔵…ハゲてるぅ…zzz」
「…起きたら殺してやる」
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ATOGAKI
何ぞコレww三蔵サマの特技紹介。一応楽器は一通り弾けます。ホラ、240年も生きてると暇なんですよ笑
何処で間違ったか、誕生日ネタになりますた。アレ?ただピアノ弾いてる三蔵サマが書きたかっただけなんだけどなっ!まぁいいや←
ってか誕生日を数えるのに『何百回』て違和感ありますね!思わず笑った。自分で言ってちゃ世話無いぜ。
さて。運がよければ三蔵サマのピアノ演奏が視聴できます。気まぐれに立ち寄ってはいかがでしょうか。ま、次はまた何百年後になりますが。