街から少し離れたところ。物静かな其処は1件のそれほど大きくない教会がある。
元気な幼い子供達が遊び、笑顔の神父に見守られ平和に暮らしていた。

その子供達は孤児。両親を吸血鬼に殺され神父に引き取られていると言う。

神父は自嘲の笑みを浮かべ、『皮肉なものだ』と悲しげな瞳を覗かせた。

神父もまた、吸血鬼なのだ。

























The castle where a vampire is. W




























「八戒ーこんにちは!」

「こんちには。おや?三蔵も一緒だなんてめずらしいですねぇ」

「…黙れ」


午後の日差しが降り注ぐ中、2人の吸血鬼は昔からの知人――三蔵に言わせると腐れ縁――が居る教会へと足を運んだ。
街の大通りを抜け少し歩いたところにソレはあり小さいながらも賑わいを見せる。
大きな扉が正面にあり、裏に周ると広い庭にたどり着き、其処に目的の人物八戒が子供達と楽しそうに暮らしていた。

彼は漆黒の服を着ていかにも神父です、な外見だ。
中身は吸血鬼なのだがその笑顔を見ると街の人達は気付かない。否、そうしなければならないのだ。
今の世の中、吸血鬼は人間にとっては敵であるのだから。それに先日の事件の事もあって、用心に越したことはない。

「立ち話も難ですし、どうぞ中へ」
「わーい!八戒の淹れた紅茶は絶品だよね!」
「そう言ってもらえると嬉しいですよ。ほら、三蔵もどうぞ」
「あぁ」

八戒に促され教会の中へ通され、案内されたのは一般の家と変わりないリビング。
暖かな家庭をそのまま表現した様な室内は2人にとってお城以外に心休まる場所と言っても過言では無い。

ココには八戒が神父として居て、他に孤児の子供達が住んでいる。
時たま悟浄や悟空が住みつくが今は数ヶ月前から観音にほのめかされグルメツアーに出ているらしい。
悟空は料理を目的とし、悟浄は…言わずと知れた不埒な考えから来るものだろう。
彼等もまた吸血鬼なので数年帰ってこないなど更で。
何処にいても馬鹿騒ぎして問題を起こすから保父さん役(?)の八戒にしてみれば心配事の種でもある。

「この前悟空から手紙が来たんだけど、吠登城に居るんだって!」
「ハァ…また問題を起こさなければいいんですけどねぇ」
「無理だな」
「無理だね」

「…貴方達も例外ではありませんよ」

苦労性、もとい器用貧乏さんな八戒を尻目には出された紅茶を飲んだ。
三蔵も我が物顔で居座り何故か新聞を読んでいた。本当に自由気ままな2人だ、と八戒は苦笑する他なかったとか。

「先日は僕も行こうとしたんですけどね。子供達を置いていけなかったんです。すみません」
「いいよ!八戒には八戒のやることがあるんだし、それに私達だけでも全然楽勝だったからね!」
「雑魚相手は面倒だ。これからは1人でやってくれるらしいからな」
「そうですか。それなら僕も楽できますねv」
「ちょ、マジで!?そりゃ無いぜこの野郎!」

冗談ですよ、といった八戒の笑顔が怖かったとか気にしたら負けだ。

窓から見える庭先で子供達が駆けずり回っている。その姿はとても楽しそうで。
は平和だと思う半分、この子供達は吸血鬼によって親を殺されたと言うのが―心苦しかった。
自分が守りきれなかったこの子たちの両親。何が『この街は守る』、だ。実際目を向けてみればホラこんなに、守れなかった者達は多い。
それでも、は守らなければならない。無論、全てを守れないのは解っている。
どうすればなんて愚問で。己が強くなればいいのか。そんな事ではない。
もうこんな悲しい目に合う人間を増やしてはならない。だからこそ。

「ねぇ、ねえちゃん!一緒にかくれんぼしようよ!」

この孤児の最年長、ケンがのもとにやって来た。
八戒と三蔵からしてみれば、ケンはに好意を抱いていて。
それを面白くないと大人気なく不機嫌になる金髪を横目にケンは早々にと外に繰り出した。

「まぁまぁ三蔵。子供ですから」
「何が言いたいんだ貴様は」
「そんな大っぴらに不機嫌にならないでくださいと言っているんですよ?」
「…何のことだ」
「貴方の命…なんでしょう?は」


 弱点は知ってるよ

それはなんだい?

 それはね、一緒に起きてきた綺麗な――




「自分の命を放し飼いにするワケがなかろう」
「ふふふ…意地張っちゃって。そのうちに愛想つかれても知りませんよ?」
「チッ…」

その両手に持った新聞がページをめくる事無く数十分。三蔵は渋々ながらも庭に出た。
まるで解っていたかのような八戒の微笑みは誰にも見られる事無く――気配ではバレバレだが――姿を消した。

「棺桶に2人は…さぞ窮屈だったでしょうね」

…何からツッコんだら良いものか。いや、気にしたら負けだ。



所変わって庭先。はケンに引っ張られじゃんけんで負けかくれんぼの鬼になっていた。
子供が隠れる場所といったら高が知れているのだが、ここで大人気なく見つけてしまうのもどうだろうか。
考えるより先に隠れ切れてない1人が眼に入るのだが、ココは。スルーしておく事にした。

まずは教会を一周して3人見つける事に成功。もちろん先ほどの子は最後に見つけてあげた。
後は八戒と三蔵が居る室内と教会内なのだが。…室内から先に行くことにする。

「八戒!誰か来た?って教えてくれるワケ無いか」
「そうですね。自力でかんばってくださいv」
「…ケチんぼ」
「何か言いました?」
「イエ、ナンデモナイデス」

もう少しで八戒の毒牙に…イヤイヤ、何も見えません。
こうしては八戒の横を通り過ぎ、ソファの影に隠れていた1人と、その奥のドアを開けたトイレに潜む1人を見つけ出すことに成功。
ちなみに全員で6人。あとはケンを探すだけだ。

はそのまま庭にまた出ると、ベンチに座る最初に見つけた3人と今見つけた2人を合流させてから教会に入った。
正面玄関から入るのは滅多に無い事なので一番奥に取り付けられたステンドグラスが珍しい。
その手前に祭壇があり、でかでと十字架が飾られてある。
聖堂には椅子が綺麗に陳列されており、八戒の潔癖さが見て取れるといった所だ。

吸血鬼は、十字架が苦手。そして教会に入ると妖力を吸い取られる、と聞いたことがある。
だが、魔外者のにとってはへではない。と言うか何にも変化は見られないのだ。
コレは首からロザリオを掛けている八戒を見ても解るように…と言うかたちに吸血鬼の一般常識を求めてはイケナイ。

「ケン君ー?あとは君だけだから早く出ておいで!」

そう言って出てきたら世話無いのだが。
一歩一歩と敷かれた絨毯を進む。神聖なる場所に吸血鬼が来てごめんなさい。
そんな事を思いつつ大きな十字架の前に着いた。その下を見ると…。思ったとおり。

「みっけ!」
「見つかっちゃったー!なんで解ったの?」

十字架の下を覗き込むと体育座りしてるケンを発見。潔く出てきたケンは不思議だ、と言う風な様子だ。

「さんはねぇ、なんでもわかるんだよ」
「そんな馬鹿な!」
「わはは。さて、みんなの所に戻ろう?」


外に出る為踵を返そうとした、時。ケンがの服の裾を引っ張った。
何事かと思って振り返ると、そこには子供は思えないほど真剣な目をした少年。
首から掛けた小さなロザリオを握り締め、頭上の十字架を見上げていた。


「俺、吸血鬼をやっつけるんだ。父さんと母さんを殺した憎い、あの吸血鬼を」

「ふーん、そうなんだ?」

「うん。俺、吸血鬼が 大嫌い だから。全部吸血鬼を、殺す」

「…じゃあ殺してみなよ。目の前に居るじゃない」


「え?」


『大嫌い』。少なからずは傷ついた。その吸血鬼は、自分もそうなのだ。
だったら、本当にこの子は自分を殺すのだろうか?
そんな無粋な考えが動ききれていない思考回路に入ってきた。


「私、吸血鬼なんだ。君の『大嫌い』な吸血鬼」

「な、何言ってんだよ!ねぇちゃんが吸血鬼なんて…!そんなワケあるもんか!」


「本当だよ?ホラ。そのロザリオの仕掛け刀で心臓、刺してみなよ。殺せるからさ」


先ほどの優しいは何処へいったのか。
ケンの目の前に居る人物は、先ほどとは別人な程、禍々しい妖気を発している…ように見える。
後ろから差し込む太陽の光が逆光となって、その姿はまるで――


「何してんだこの馬鹿娘。餓鬼相手にムキになってんじゃねぇよ」


呼吸さえも出来なくなるような検圧の中、ココには居ないはずの声が響いた。
天井が高い聖堂に耳に心地よく響くその声。それは三蔵で。は気付かないうちに気を張っていたことに気がついた。
そして、自信を見失っていた事にも少なからず驚く。

自分は何を言った?

ケンに何を、させようと――?


「あ、三蔵…ごめんなさ、い」

驚きと後悔で大きく目を見開いたは、とても幼く見えて。自分でもわからないと言う感じで未だ混乱していた。
その姿を見てため息をついた三蔵はポンとの頭を撫でてやる。何が原因でこうなったのかなんて手に取るように解った。
全く、世話の焼ける女だ、と。またため息を一つ。

「ねぇ、本当にねぇちゃんは吸血鬼なの?ねぇ、ホントなの!?」

「ソレがどうした。――殺すのか?」

「三蔵…!」

紫暗の瞳が少年を貫いた。少年は莫大な恐怖に足が竦む。
ただの瞳なのに、この綺麗なまでの紫暗はケンを射殺してしまいそうなほど、強靭だった。
ゆっくりと近づいてくる三蔵。いつも気まぐれで、めんどくさがりな彼の印象とは極端に違いすぎていて。

 本当に、彼等は――人間?

しかし、三蔵は少年の横を通り過ぎると十字架に触った。自然な動きで、ペタリと。

「本当に吸血鬼だったら、今頃は死んでるだろ」

触ってみろ、といわんばかりにに手を差し出すと三蔵はの腕を掴んで同じように十字架に触れさせた。
吸血鬼は、十字架に触れるとその身を焼かれる。そんな話があったはずだ。自分には関係ないので記憶はあやふやだったが。

「ごめんね。ケン君。あまりにも物騒なこと言うから脅かしちゃった」

とても、笑えない冗談だとしても。も少なからず傷ついたのだ。だから、大人気なく挑発してしまった。

「報復もいいけど、私はケン君の、自分の手を汚して欲しくないな」

許して欲しいとは言わないけれど。コレは同属の者がやったことだからにも責任が問われているような気がして。
守りきれなかった親御さん達をケンに、本当は許して欲しかったのかもしれない。守りきれなかった自分の非力さを。
ただ悪戯にケンの古傷を抉るようなことまでしてしまって、謝っても懺悔しても許されない。

「ううん。ねぇちゃんは悪くないよ。ねぇちゃんは、この街を守ろうとしてたのに…疑っちゃった」

「守り、きれなくて――ごめんね。……本当に、ごめんなさいっ」

吸血鬼が神の前で懺悔とはこれ程滑稽なことはあるだろうか。
それでも、許してくれると言わんばかりに抱きついてきたケンの暖かさが、生きていると教えてくれる。
両親は守れなかった。でも、今生きているケンを守ることは出来る。己は己が出来ることをやればいい。そういわれた気がした。









その吸血鬼には、守りたいものがあった

それは自分の命である以上に大切な、美しい――











「自分で焚き付けといて何泣いてやがんだ貴様は」

「だって、だ、って…!」

「上級貴族がなんだ。やれない事は生きとし生けるもの、それぞれあるに決まってんだろ。
 それを考える暇が在るなら『今』しか出来ないことをやればいい」

「でも、目の前に、突きつけ られるとっ…自分の 無力さが、身に沁みて」

「『これから』だろ…過ぎちまったもんはどうにもならん」





その吸血鬼には、守りたいものがあった

自分より大切な存在を

そして大好きな者たちを





「『大嫌い』は流石に…堪えた」

「餓鬼の戯言だろ」

「知らないとは言え、本人を目の前にしてだよ…」

「守られる側に嫌われちゃ様ぁねぇな」

「どうして、上手く行かないんだろ。人間との共存なんて望んで無いけど、悲しいね」

「俺たちがバレなきゃ問題ねぇ。そのほかは…その時にでも考えろ。まぁ、お前のその足らん頭では高が知れてるけどな」

「ぬぁ!酷い!この薄らハゲェェ!」

「誰がハゲだ誰が!」


スパーン


「、泣いちゃう」

「散々泣いただろうが」








その吸血鬼達には、守りたいものがあった

それは命より大切なお互いを








「あの2人にはお仕置きが必要ですね」

「八戒ー?どうしたの?」

「いえ、なんでもありませんよ。さぁ、お眠りなさい。明日は早いですからね」

「おやすみなさい神父」

「はい。おやすみなさい」






その吸血鬼には守りたいものがあった

大事な小さな命たちと、大事な存在達を

神など信じていないけれど

偽りの神父は大事な存在に幸福を、と願う


















「今、寒気が!」

「気にしたら死ぬぞ。確実に」






















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ATOGAKI
またもや意味不明な産物ですね。考えがまとまりきれて居ないのが良くわかる。
今回は八戒さん登場です。神父やってます。どうぞお祈りをささげにいくなら是非おいでやせ。←
懺悔は八戒の手厳しく、優しい助言を得られることでしょう。…基本、やさしいですから。笑
それと蛇足。ケンは神を信じ、そして吸血鬼に報復を誓っていたので見方的な意味の十字架の下に隠れていました。
自分でもワケかわらん事になった/(^o^)\←