ホラ、また誰かが迷い込んできた。























The castle where a vampire is. U























「この匂いは…同属。しかも下級のモノだね」

「『餌』連れか…まだ生きている」

「吸血鬼に襲われ吸血鬼に助けられる。もう『餌』は何も信じられないんじゃない?」

「俺たちには関係ない」

「ごもっともです」


目が覚めた。それは月の光が雲に覆われ闇に紛れて近づいてきた同属の気配の所為。
気持ちよく眠りについていた2人は苛立ちを抱え寝台を出た。

この城は2人の縄張り。しかも上級吸血鬼の住むお城。簡単に言えば吸血鬼の親玉が居るお城。
こんな夜更けに。いや、普通の吸血鬼からすれば普通の行動時間帯なのだが。
そもそも吸血鬼は太陽の光が駄目な為明るいうちは眠りにつく。しかしこの特別な存在の吸血鬼達は寝なくてもいいのだ。
明るい時も暗いときも自由に行動できる。夜に眠るのは、なんとなくだったりする。

三蔵は寝起きがとことん悪いので不機嫌だ。は寝起きはそこそこ良いがこれまた不機嫌。
眠りを妨げるなど言語道断。切り捨ててすんぜようぞ。
しかも『餌』連れとは――。喧嘩売っているのかと言いたくなる。

『餌』――人間の事だ。吸血鬼にとって人間の血は餌でありご馳走でもある。
何処からともなく人間を掻っ攫っては誰も居ないところで食す。下級の物がやる手で多くのモノはこの手段を使う。
中級ぐらいになるともっと上品な食べ方をするのだ。だからコレは下級。


「ホラ、近づいて来るよ。『餌』が街の人だったら少々厄介だね」
「そん時はそんときだ。姿を見られる前に気絶でもなんでもさせればいい」
「手荒なマネは紳士じゃないですよ伯爵サマ」
「くだらん呼び名で呼ぶんじゃねぇよ」


マントを顔が隠れる程度まで引き上げて。三蔵はこの城の主の定位置に鎮座した。
見事なまでの彫刻を施してあるシンプルで且つ大きな椅子。その肘掛けには座り、お出迎え準備は万端だ。

そして大きな音を立ててて開かれる扉。暗い城内に其処だけ光が射しこみ入って来た人物の影を伸ばす。
卑下た笑いを浮かべながら1歩1歩と深紅の絨毯を進み腕に抱えた『餌』を置いた。
まだ、気付いて無いのだろう。数メートル先にはココの城主が居るのだ。その事には思わずクスリ、と笑いを漏らした。

「だ、誰だ!」

勝手に人ん家入って来ておいて随分な物言いだ。仕方ない。入ってきたモノはココに住んでいる存在など知らないのだから。


「貴様、誰の了承を得て入ってきた」


威圧感をのせた声がこの城内に響いた。その声を合図に次々と明かりが灯り、城内を明るく照らす。
そして広間の一番奥。数段高い位置に見えるは、椅子に鎮座した城主の姿。
その姿は漆黒のマントを羽織り、隠れた顔から射抜き殺そうまでの紫暗の瞳を向け、金髪――。
男の顔色が瞬時に青ざめた。一気に押し寄せてくる、妖気。それは邪悪なものではなく、むしろ上品なまでのもの。
考えなくても分かるくらい男は感じ取った。この『方』は上級貴族―なのだと。

「ようこそ。――吸血鬼の最高位を誇る、玄奘三蔵伯爵のお城へ」

クスリ。の甘美なまでの微笑で男は奈落の底へ落とされた気分になった。そして視界はフェードアウト。




「…どうすんだ、アレ」

男が気絶した後、三蔵がめんどくさそうに指を差しながら呟いた。

「まさかこれだけで気を失うなんて思ってみなかったもん。私しらなーい」
「貴様…!」

はただ、ココの場所を教えてあげただけである。したがって非は無い――?
それに気絶までさせたのは三蔵が発した盛大な妖気の所為なのだが。

「転がしとけばいいんじゃない?」

なんともまぁ無責任である。

「『餌』はどうすんだ」
「起きたら私がなんとかするよ」

気絶した男の直ぐ傍でこれまた気絶している『餌』。詳しくは女性だ。
何処から連れてきたのやら。厄介な者この上ないのは確かだ。

「俺は寝る。起こすなよ」
「この白状モノー!」
「なんとでも言いやがれ」

三蔵は興味など端から無かったが如何せん、たたき起こされたと言っても過言では無いのだ。
まだ眠いのだろうか早々に立ち上がると己の寝室へと足を向けた。
後ろでが喚いているがこの際シカトするらしい。こちらも無責任なものである。

仕方ない。は三蔵に何言っても無駄と解ると数段しかない階段を下り転がる2人に近づく。
街の女性なら姿を見られると厄介だ。は街に結構繰り出しているので正体がばれてしまう。
この城に住んでいること、しかもこの城は人々にとって誰も住んでいないと思われている。
それに言い伝えもある。ここには吸血鬼が住むのだと。
実際には住んでいるのだがそれを本当の意味で知る者は同属か、僅かな人間だけなのだ。

「顔隠せばいいか。起こしてみよう!」

実はこういうことは何度かあった。にとっては朝飯前である。
そうと決まればとは女性を優しく揺り起こした。華奢で綺麗な人だ。

「貴方、は?」
「私はココの城に住んでいる者です。大丈夫ですか?お怪我とかは(だみ声)」
「…はい。大丈夫です。えと、救っていただいたのでしょうか。ありがとうございます」

の変な声にちょっと驚いた女性だけれども状況を理解すると共にお礼を述べた。
なんとも礼儀正しい女性だ。そしてなんだか神経が図太い。泣いたり喚いたりもしないからも驚いた。

「いえいえ。災難でしたね。下級吸血鬼に襲われるなど…見目美しい貴方はいい『餌』になってしまうのは当然でしょうけれど」

綺麗だ。吸血鬼のも綺麗だがこの女性も綺麗だった。
髪の毛をポニーテールみたいに縛り揉み上げのところをミツ編みにした瞳の綺麗な女性。

「私は八百鼡といいます。主君に頼まれて使いをしていたところを恥ずかしながら不覚にも拉致られてしまいました…」

八百鼡と名乗った女性は恥ずかしいのか赤くなった顔を俯けた。

「まぁ、それはそれは。怖い思いをしてしまったのですね。ではこの近くの街の方では無いと?」
「はい。もっと西のほうから来ました。このような立派なお城には見覚えが無いので随分遠くに来てしまったかと」

それにこの近くのものでは無いと。どうりでこんな綺麗な女性を知らなかったのだ、とは思った。
主君とは。八百鼡は誰かに仕える者らしい。そうとなれば早く帰らなければ叱られてしまうのではないかとは考えをめぐらせた。
事が事なだけ八百鼡には非が無い。でも主君が厳格で横暴な人だったら?…どっかの金髪がそうである。
ならば早急に帰さなければしけないのでは愛馬を貸すことにした。

「そうですか。大丈夫です。私の馬をお貸ししましょう。この子は優秀で魔物など近寄らせません。安心してお帰りできますよ」
「助けていただいたにも関わらず馬まで…ありがとうございます」

の愛馬は名前を『ももしろ君』と言う。前回腕に抱えられた人形がソレである。
コレは魔物の一種で普段は人形でと仲良くやっている。そして馬になった時、見た目は普通の馬だ。
しかし性能はとても高性能で魔物を近寄らせないし、襲ってきた敵を蹴散らすことも出来る。便利なものである。

「モモ、ちゃんと送り届けるのよ。大事なお客様なのだから」
「(お客様…?)ももしろ君、大変だと思いますがお願いしますね」

ヒヒ〜ン

茶色く美しい毛並みのももしろ君は嘶きを響かせ、に答えた。
城外に出た2人と1頭はそれぞれご挨拶。とても愛らしい見目だ。
そして八百鼡をのせ、の愛馬は闇へと姿を消した。ちなみにちゃんと1人で戻ってこれます。

「さて。私ももう一眠りしよっかなー」

うーんと伸びを1つ。は見送った背中が見えなくなると城に振り返り、城内へと入っていった。
なんか忘れている様な気がするが気にする事無く三蔵が先に眠る寝室へと向かう。

今夜は月が隠れている。辺りもとても静かでゆっくり眠れそうだ。


「あの八百鼡とか言う人…綺麗だったなぁ。あ。私名乗ってないよ。不躾な…!」

変なところで律儀なはちょっと心残りを残しつつ、再び眠る。

隣の金髪が規則正しい寝息をたてて眠る傍ら。も同じ布団にもぐりその安息の地に身を委ねた。



――明日は何をしようか




















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ATOGAKI
2話目にして八百鼡登場。何故だ。本当は『餌』は普通の女性にしようとしたんだけど、なんとなく八百鼡導入。いやぁ綺麗な女性って言ったら八百鼡でしょう。←
それと愛馬の事はツッコまないで揚げてください。ももしろ君…前サイトの名前です。好きなんですね管理人は!見た目は私のお気に入りの人形です。
馬大好きです。さて。次回は誰を出そうかな!