さぁ ゆうしゃよ そのけんを ぬくがいい























The castle where a vampire is. 16


























「勇者じゃなくてごめんなさいむしろどっちかと言うと悪役の吸血鬼でホントすみません」


「何言ってんだお前・・・」


今日も清々しいお朝の目覚めと共に、おはようございます。
どうせいつもの如く何の変哲もない一日になるのだろう。そう思われた寝室での1コマ。

だが、ソレはの長ったらしい実は起きているのでは?と思わせる寝言により、破られた。
低血圧な三蔵は傍らで眠るこの少女に目を向け嘆息するのである。


「んあ・・?おはよう、三蔵」


起き上がった三蔵の気配で目が覚めたのだろうは、呑気なご挨拶。
なんともまぁ癇に障る奴だ、と三蔵は忌々しげに眉間に皺を寄せた。


「また何か見たのか?」

「ううん。ちょっと、思い出しちゃっただけだよ」


見たのか、それは夢の話だ。三蔵が問うとは首を横に振る。
一体何を思い出したと言うのか。三蔵には皆目見当もつかない。
それが顔に出ていたのだろう、は唐突に言い出した。


「昔話をしようか」
























むかし むかし

1人の勇者が居ました

それと同時に世に君臨する魔物の王様が人々の生活を脅かし、とあるお城に好き勝手やって暮らしていました

人々を恐怖に陥れる魔王は人間の肉を好み、次々と村などを壊滅させていったのです

それに立ち向かうべく現れたのがその勇者でした

勇者は己の背丈より幾らか大きい大剣を持ち魔王に挑みます

さながらRPGの様な物語ですが、実話らしいです

長い長い旅路を行き、漸くたどり着いたお城

困難な道のりでした

しかし勇者は屈することなくお城にたどり着き魔王をその大剣で見事倒すことが出来たのです

こうして世界は平和になり、勇者を称え、魔王の供養と称して大剣をお城があった地に封印しました



しかし物語りはこれでお終いなワケではありません

幾千の時を越え、再び人々に災厄が訪れたのです

老若男女問わず生き血を啜り、村を襲う魔物

それが吸血鬼でした

昔話の様な魔王ではなく、それよりもっと性質の悪い魔物です

自由に飛び回る蝙蝠の羽を生やした見た目貴族よろしくな吸血鬼

人々は嘆き苦しみました

また、世に混沌を齎す災厄がやってきたと

ですが、この時代にも勇者は現れたのです


それが今回の主人公。






































『玄奘三蔵伯爵様』
『お嬢様』

2人は人間からそう呼ばれていた。当時はまだお城が普通の王だと思われていてこの街の政権を行っていたからである。
良くが三蔵を『伯爵』と呼ぶ理由はここにあった。三蔵がその呼び名に嫌悪する理由は分らないが、知る人は皆口々に揃えて呼ぶ。

『まぁ!可愛らしいお嬢様ですこと・・・』
『娘さんかしら?それにしては伯爵様は聊かお若い様な・・・』
『きっとご兄妹か何かよ・・・』
『それにしてもいつ見てもお綺麗で・・・』

――まるで、吸血鬼のようだ

囁かれる声。このご時世吸血鬼を恐れる人々が目の前の吸血鬼に気付かないとは、ココはまだ平和なのだろう。
疑いもせず疑問にもせず、ただただその美貌を羨み世間話のネタに興じる。
このようにたちが暮らす城下はいつもの様に華やかに賑わいを見せていた。





舞台は現在から丁度91年程前にさかのぼる。数字が半端なのはちょっとあるのである。のである。
は100歳の誕生日を間近に控え今か今かと待ち遠しく思っていた。
そんな時だ。可愛い子には旅をさせろよろしく王から言い渡された命。
命令とは幾らか異なるが、は意気揚々と承諾したくなる程のおいしい話。

お城とはかなり離れた場所にある地。そこにお目当ての物があった。
それは伝説に語り継がれてきた『勇者の大剣』である。

近頃遙か昔の災厄が再び吸血鬼によって齎されていると噂されそれを確認、討伐を任されたのだ。
この頃腕が鈍っていたと悪態ついていたが王に目をつけられ、丁度良いですね、と。そういうことだ。
それに伴い建前上、が1人で行くのは嫌と言い出し三蔵がついていく破目になったとなっていた。
しかし本当の所、三蔵が1人で行かせるのが心配だったそうな。それにしてもバレバレである。

行く先行く先で街の人々の視線を浴びていた2人は、街を出てももしろ君に跨り爽快に駆け出した。
前にが乗り、その後ろで手綱を持つ三蔵。昔からこの乗り方は変わらないらしい。


「ねー三蔵。なんで吸血鬼の王が遙か遠くの所で恐れられてるの?」

「知るか。どーせ昔の伝説に悪ノリしたそこらの下級貴族の仕業だろうよ」

「そうだろうね。だって王は今出てきたお城に居るもの」

「口を滑らしてバラすんじゃねぇぞ」

「分ってますよーだ」


遠い道のりをももしろ君で駆け抜け早5日。そろそろ目的地に着く頃だろう。
その証拠に手前の村は噂で混沌とし、以前は賑わいを見せていたと思われる街並みは嘘の様に静かだった。
これは早急に対処しないとやばいな、と思った2人はとりあえず宿を取り情報収集に徹する事にしたのである。

廃れた村、フリア。
郊外にも関わらず立派な市場、草原に囲まれた平地。
その奥に問題の森があり、薄っすら姿を現す建物が見えた。きっと其処が根城だろう。
しかし、三蔵は疑問に思った。


――確か、あそこは。


「ねぇねぇ。まずは酒場だよね?早く行こうよ、喉乾いたー!」


三蔵が思案に暮れているとによって遮られでしまう。
納得は行かないものの己も長旅で喉が渇いていた事に気付き、考えを頭の隅に追いやった。

カランカラン

廃れた通りとは違い、まだまだ現役真っ盛りなベルが鳴る。
城下街の酒場にはちょくちょく顔を出すが、それとはまた違う雰囲気のどこかありもしない母国を連想させる店内。
カウンターにはどこか暗い様子のマスターと思われる男がグラスを磨いており、他には誰も居ない。
とりあえず、とマスターの目の前に座る2人は水を頼み早々に話を切り出した。

「奥の森で吸血鬼が騒いでいると聞いたんだが、何か情報は無いか?」

マスターは怪訝そうに眉を潜める。いきなり本題から入るこの余所者は一体何者なのか。
そんな疑問が見て取れ、は怪しまれないようにフォローに入る事にした。

「あ、私たちハンターで諸悪の根源を叩き潰そうと来たんです。決して怪しいモノではないですから安心してください!」

の言葉を聞き更に不審に思うマスター。そりゃそうだ。
こんな見た目10代前半の少女と若すぎる男がハンター?普通の人ならまず信じないだろう。

しかしマスターは光を見た気がした。なにか、とてつもなく大きな。
きっとこの人たちなら今の現状を救ってくれる。そう感じた。

「何処から話せば良いのか・・・まず、吸血鬼がこの村を襲ってきたのが3ヶ月前だ」

マスターは口を濁す事無く情報提供に協力してくれる様子。
たちは黙ってマスターの話に耳を傾けた。


約3ヶ月前。
突如として吸血鬼達はこのフリア村を襲った。
この村は伝説の大剣を守る為作られた村であり、昔は勇者が住んでいたと言い伝えられて来たと言う。
しかし時代の波には抗えず何の戦う術を持たない村の人々は次々に殺され、吸血されて。
それが第一波だ。この後も3ヶ月の間で数回、数十回と襲撃を受けてきた。
次第に村人は故郷を離れ非難していく中、残ったのはココのマスターと孫だけだそうだ。

「それで、まだ吸血鬼は襲ってくんのか?」

「いや、もう来やしないさ。残ったのはこの老いぼれと孫だけだからね」

「なんでココを離れようとしないんですか?周りの人たちの様に逃げないと・・・危ない」

の疑問に影を落とすマスター。なにかあるみたいだ。
失言かと口を噤んだは慌て、だがマスターは悲壮な表情を浮かべ言った。


「そうもいかないさね。わしは待っとるんじゃ。出稼ぎに行った倅と、連れ去られた娘を・・・」


マスターには家族が居た。一人娘と出稼ぎに村を出た旦那。その間に生まれた孫4人で幸せに暮らしていたそうな。
もうそろそろ出稼ぎに出た旦那は戻ってくるらしい。しかし顔向けが出来ないと嘆くマスターは苦笑する。
孫の為には村を出た方がいいとわかっている。が、やはり連れ去られた娘1人残していく訳には行かない。
己は戦う術を持たないのだ。年の所為もあり、だからと言って幼い孫を向かわせても戦える筈が無い。
自分たちには待つことしかできないのだ、と。マスターは薄っすらと涙を浮かべ、しかし賢明に堪えていた。
手に持ったグラスを握りつぶす勢いで、心底悲しんでいるに違いない。

ならば、と。

「じゃあ私たちがその吸血鬼を討伐して、娘さんを取り戻しに行ってきますね!」

一見不謹慎と思われたの発言は、マスターには希望の光に見えて。
縋っていいのだろうか。この見ず知らずの人達に、頼んでも良いと・・・?

「俺達はそれが目的だからな。ついでだ」

2人の優しさに瞬く間にマスターの瞳に光が戻った。
こんな廃れた村にお金はないにも関わらず、無償で助けてくれると言うのか。
神は見放していた訳ではなかったのだというのならば。マスターはこみ上げてくる涙をそのままに泣き崩れた。

と、その時だ。

マスターに寄り添う、それと出された水を煽りもう一杯とせがむ三蔵の元に蹴破りそうな勢いでドアを開け誰かが入ってきた。
大きな音に吃驚した達は何事かと出入り口を見やる。そこに居たのは1人の、少年。

「おじいちゃん!!」

息を切らし少年は入るなり叫ぶ。そしておじいちゃんと呼ばれたマスターの元へ駆け寄ると、を突き倒した。

「いでっ」

「おじいちゃんに酷い事するな!おじいちゃんを泣かせるな!!!」

どうやら少年はがマスターを泣かしたと勘違いしている様だ。
まぁ実際に泣かせたのは事実なのだが。違う意味で。

「おい貴様、に何しやがる」

あーたは少年に本気になるな、と言いたいである。年齢は見た目よりかけ離れているくせに大人気ない。
人間の年齢的にいい大人(?)それと本当に幼い人間の少年の争いが勃発するかしないかの瀬戸際で、マスターが鶴の一声よろしく言い放つ。

「いいんじゃよ、その人達は恩人だ」

「まだ何もやってねぇケドな」
「それは言わない約束」

「嘘だ!!!」

三蔵の余計な一言がいけなかったのだろうか。そんな筈は無い、筈。
少年は嘘だと豪語し、一気に捲くし立てるのであった。

「そいつ等絶対吸血鬼だ!こんな・・・いかにも悪そうな顔の人間が居るかよ!!」

ここでが立ち上がる。あぁ殺気立って恐ろしい事この上ない。

「なんですって・・・このぷりちーでいたいけな少女捕まえて悪そうな顔?!失礼にも程があるわ!!」

「おい、大人げねぇぞ」
先ほどと立場が逆になり、自分の事を棚に上げる三蔵は呆れた様子でため息を吐いた。
いい加減ゲンナリ気味のマスターは、さっきの感動の涙はどうしたと言わんばかりに怒りを露わにするのである。

「この罰当たりが!この人達はハンターさんなんだぞ。この村を救ってくれる救世主さね」

「そんな・・・どうせまた賞金狙いの嘘っぱちハンターなんだろ!もう嫌だよ!!俺、俺・・・!!」

「『また』だと?何回かハンターがココに来たのか」

「あぁ、言い忘れとったが前にも来たんじゃよ・・・吸血鬼も真っ青な悪徳ハンターがの」

ただ金目当てに来る物。誰も居なくなった村を物色するもの。
この村には吸血鬼以外にもゴロツキがごまんと居るみたいだ。
マスターも何度か被害に合っていて今ではもう、そんな輩に襲われる方が多いと言う。

けしからん。全くもって、許せない。

無駄に正義感があったは憤怒し、まるで己の事の様に共感を示した。
それに魅せられたのか、少年は直感した。子供は大人には無い、純粋な心を持つからにして何かを感じ取ったようだ。
マスターと同様いつものハンターとは違う、何か光が見えた気がした。

「ねぇ、本当に本物のハンターならお母さんを助けてよ・・・」

少年は良く見れば武装していて、片手には小振りの短剣が握られていた。
子供の武装は高が知れてる。まさかこんな格好で母親を助けに行こうとしていたのだろうか。

「俺っ、弱いから・・・今までの奴等も・・・返り討ちにされて、俺、おじいちゃんが殴られてるのを見てるだけしか、出来なくてっ」

なんて健気で、強いんだろう。はそう思った。
今まで母親の為、おじいさんの為その小さな身体で戦って来たのだ。
こんな姿を見せられたら、一刻も早く解決しなければならないではないか。
もちろん、そのつもりで来たんだが。

「偉いね。自分を犠牲に出来るって、凄く勇気の居ることだよ?君はとっても強いよ」

「あんたは弱そうだけど」

「・・・・・・この糞餓鬼がぁ・・・」

「落ち着け。お前だってそう年はかわらんだろ(見た目だけはな)」

「どうか、お気をつけてください」



――少年の思い、しかと受け取ったよ



と言うワケで、早速吸血鬼討伐の任務+αを遂行する為2人は酒場を出た。
下準備なんて必要ない。だって強いもん。そう豪語するは意気揚々と村も出た。

「さっきマスターが言ってた・・・大剣伝説なんだけどさ。私貰ってっていいかなぁ?」

「心が純粋な勇者にしか抜けんらしいぞ」

「それって遠まわしに、私は純粋じゃないって言ってるよね?ね?」

「・・・さぁな」

「(殴っていいですよね)」

再びももしろ君に跨り森の奥深くへと進む2人は、鬱蒼と生い茂る木々を避け、うっすら見える建物目指して進行中。
ももしろ君は足が速いので直ぐ着ける筈だ。

「あーぁ。今回も準備運動だけで終わるのかな」

「こんな野蛮な女が大剣持ったら更に野蛮になっちまうな」

「あーぁ。耳聞こえない」

「はっ。・・・聞こえないと言えば、そこらに居る小モノの声も聞こえんな」

「本当だー。魔物たちなんか静かだね。まぁココには神聖な結界が張り巡らされてるって言うし?」

「じゃあ何故吸血鬼共は住めんだよ」

「うーん。なんか結界が薄れてるんじゃない?」

「そもそも結界が張ってあるかどうかも疑わしいな」

疑問は終始解決しないまま目的地に到着した。
目前に聳え立つ建物。森からも突き出る程大きな建物はどちらかと言うと遺跡に近い。

「やはりな。ココは結界なんぞ張ってねぇ。元から神聖な場所だったんだよ」

「何何?三蔵知ってるの?」

先ほど村に着いたばかりの時、引っかかっていた考えに合点がいく三蔵。
は当然の如く知る由も無い。

「お前も伝説を知ってんだろ。ココは大剣を祭った祠しかねぇんだよ」

三蔵は昔、お城の書籍で読んだ事がある。は大方の流れしか知らないのだろう。
詳しくは、webで。それは嘘で大剣は祭られたのはお城のあった地、すなわちココだ。
元はちゃんとしたお城があったのだろうが、幾千の時を経て遺跡になった。
当時の姿形もなく遺跡に見えるのはその所為だと考えられるのである。
そしてその大剣を封印したのは結界ではなく、魔王が浄化され何もしなくても神聖な場になった。そんなところだ。

「って事は吸血鬼はココに居ない?デマだったってワケ?!」

「大方、もう少し離れた所を根城にしてんだろ。マスターも森から突き出てるココだと言った訳じゃねぇからな」

「じゃあ、ある意味無駄足踏んだって事か・・・どうせなら大剣拝んで行こうよ。お参りー」

「験担ぎの様なもんか」

は我先にと軽快に遺跡っぽいのを奥に進み、三蔵は後からめんどくさそうに後を追う。
ちょっと寄り道的な場所は結構歩いた所にあり、開けた場所に出た。
予想ではもっと奥深くの地底か洞窟にあると思っていたのだがなんと祠は吹き曝しのまま。
跡形も無いお城のどの場所かさえハッキリしない。まるで森の中心に建ててあるみたいだったのである。

「うわー立派な大剣ですこと・・・」

「まぁ・・・壮観、だな」



なにやら口を濁す2人。彼らが見たものとは。



「・・・なんてボロッボロなんでしょう、か」

「こんな吹き曝しの所に置いておけば、こうなるだろうよ」

「とても罰当たりな気がしてきたよ」

大剣・・・は、当時の威厳を僅かに漂わせてはいるが如何せん、が言った様にボロボロだった。
刃こぼれし所々が錆付いてとても現役時代の様に戦えるとは思えない。
と、いう事では伝説の大剣ゲット!は諦め、本題の吸血鬼が居る場所に向かうことにしたのであった。

「期待ハズレにも程があるよ!私のワクワクを返せ!!」

「お前も相当罰当たりな奴だな。それと勝手に持ち帰ろうとした自分が悪い」

憤怒の念を燃やすは己の無粋な考には触れず、今見てきた大剣に悪態を吐く始末である。
こうなったらこの納まらぬ怒りを全部吸血鬼共にぶつけてやる、と意気込んだ。

こうして寄り道しつつやっとたどり着いた2人。なんか道のりがやけに長く感じたのは気のせいではあるまいよ。
未だ怒りが沸々と湧き上がるは道場破りよろしく真正面から殴り込みだ。
先に行ってしまった建物内では喧騒が聞こえる。出遅れた三蔵は渋々後に続いた。

「たのもー!下等吸血鬼共、神妙にお縄につけぇぇぇい!!!」

「なんかごっちゃになってんぞ」

中には十数匹?の吸血鬼が屯っていて、の突然の来襲により動揺している模様。
慌てふためくのは好都合、と言わんばかりには中央突破で吸血鬼達をなぎ払ってゆく。

「こりゃあ相当頭にキてるな」

三蔵はどうせ直ぐケリがつくと思い、高みの見物を決め込んだ。
のだが。

「三蔵!逃げるよ!!」

「あぁ?」

突如出口に走る。扉付近の壁に寄りかかっていた三蔵はの行動が理解できず、またしても出遅れる事となる。
数泊遅れでを追いかける三蔵はふと、の腕に何かが抱えられていることに気がついた。
人間だ。あれは確実に人間でしかも女である。一体誰だ。

「匂いでわかるでしょ?!あのマスターの娘さんだよー!!」

「そういう事か」

人間ではない、吸血鬼だからこそわかる匂いとやらは正確に本人だと教えてくれた。
だが本来の目的は吸血鬼討伐だ。では何故逃げる必要があるのだろうか。
人間1人抱え込んだってあれくらいの数なら余裕の筈。では、何故。

「三蔵ー!後ろ後ろ!!」

「あ?――ってなんだアレは!!」

が逃げ出した理由。それは後ろを振り返れば来る。きっと来ーるっ!季節は白おおおくううううう!!!
馬鹿でかい怪物であった。それに見たことも無いような・・・お化け?
ホラー物が大嫌いなはきっと怪物よりこの世の物とは思えないお化け?を見たから逃げ出したのであろう。
合点承知の助!三蔵は呆れつつ、の横にならんだ。

「どどどど如何しよう!!お化けなんてなーいさ☆」

「よし。冗談言ってる余裕があんだったら倒して来い。お前ならやれる。その女は俺が預かってやるから」

「そんな事言って疚しい事するんでしょ!?ってか三蔵も怖いんかい!!!」

「んなワケあるか!あんな意味不明なモノ相手にできる度胸は持ち合わせてないだけだ!!」

「それ結構マヌケな事言ってるから!意気地ないと思われるだけだから!!」

「兎に角、あの遺跡の所に行くぞ」

「あそこなら魔物も近づけないもんね!ないすあいでぃーあ!」

そうと決まったら速攻。たちはマスターの娘さんを抱え、先ほどの遺跡へと進路を変えた。





「ももしろくーん?なんで君はそんなところにいるのかな!」

ヒヒ〜ン

遺跡にやっとの思いで駆け込むと、呑気に休息を取るももしろ君が寛いでいた。
まぁ5日間走りっぱなしだったのでしょうがないとして、
ももしろ君が居てくれたらもっと早く連中を撒けたのでは、と思わずにはいられないである。
兎に角ココなら安全だ。はももしろ君同様地面に腰を下ろし、娘さんを横たえさせた。
冷静になって辺りを見渡すと、近くに大剣がある。これじゃあ戦力外だし、とは策を練った。
が、お化け相手に手段など浮かぶ筈が無く事態は難航を極めた。

「塩・・・とか無いよね」

「んなもんあるか」

「三蔵の大技で一発ドカーン、と・・・」

「王権を受け継がない限り使えん」

「じゃあ・・・どうしろと!!」

「それを今考えてんだろうが!」

「うわーん!私お化け苦手なんだよー!」

「喚くなうっとおしい!!」

が案を出しては却下されーので堂々巡りである。

「じゃあ逃げる!?」

「本末転倒だろうが」

「もー!なんかこの大剣役に立たないの?!ここに祭られてるだけでお前はいいのか!!!!」

「大剣に怒鳴るな」

一向に突破口が見出せない2人は知恵を絞るがコレと言った方法が思いつかない。
そりゃそうだ。敵は相手にした事がない、お化け?なのだから対処法など知る由も無い。
厄介なモノを見方に隠し持っていたとは。どうやらあの吸血鬼は一筋縄では行かない様だ。まぁ吸血鬼だけなら高が知れるのは確かだが。

「もう・・・この人差し出して、」

「其処まで腐るか」

「う、嘘だよ〜」

「どもってんぞ」

そろそろいい加減痺れを切らす頃合だ。丁度妖気も間近な様ですし。
ただ徒に時間を喰っていても仕方が無い。たちは腹を括ると同時に立ち上がった。

「ってなんで神聖な場所なのに来れるの?!」

「チッ・・・さしずめこの土地の力は衰えてきてんだろうよ」

自分たちはなんの隔たりもなく来れた。それは最上級吸血鬼一族だからだ。理由はそれだけじゃなさそうだが。
しかし三蔵達と同じように下級吸血鬼は難なく入ってこれた。
この場所は三蔵が言った様に幾千の歳月を経て力が衰えてきていたのは事実である。
それに近くを根城としていた吸血鬼共の妖気にやられ、更に老朽化は進行した、と言うわけだ。

「もうやけくそだぃ!!懸かって来やがれってんだこんちくしょー!!」

巨大な魔物。それに正体不明なお化け。に煽られたのか最悪な事にいっぺんに襲い掛かってきた。
1人で相手にできる奴等じゃない。しかし矛先はだけに絞られているので瞬く間に絶体絶命の窮地に立たされてしまう。
三蔵も加勢しようと飛び出すが、怪物の長いリーチによりはいとも簡単に吹っ飛ばされた。

「!!」

返事が無い。ただの屍のようだ。

「死んでません」

三蔵は気絶したを見て頭に血が上り、素早く銃を懐から取りだし撃った。
不安を他所に魔物は物理攻撃が効く様だ。しかし問題はお化けにあってだな・・・。

「本物・・・か?」

お化け相手に銃を撃つが効いた様子も無く、ただ突き抜けるだけである。

「マジでか」

これは流石の三蔵も吃驚だ。まさか本当にお化け・・・幽霊がこの世に存在するとは。
衝撃の事実に口元を引き攣らせた三蔵は意識が遠のく思いである。
相方は気絶してるし、ももしろ君はを庇うようにして威嚇してるし。
それに・・・それに。

「絶望的、だな。こりゃあ・・・」

横たえられた人間を横目で見て、思う。自分に王だけが取得できる魔を浄化させる大技があれば。
しかし不可能な事を考えていても道は開けまい。
思わず過ぎった考えを振り払い、仕方ないので巨大な魔物だけでも、と三蔵は幽霊を横目に魔物に向き直ることにした。


一方サイドでは。

「痛い・・・このまま気絶した振り、とか。バレたら絶対後で殺されるよなぁ・・・」

三蔵が苦戦を強いられていると言うのに起き上がらないで居た。
お化け怖い。お化け怖い。
意気地なしなのは果たしてどちらなのだろうか。結果は一目瞭然である。
強く打ち付けてしまった頭を抱え、そろそろヤバイなと思いは起き上がった。
その時。

の耳に聞いた事も無い声が届いた。












――ゆ・・・しゃよ その・・・ん・・・ ぬ・・・・・・いい













「ん?」









――さぁ ゆうしゃよ そのけんを ぬくがいい








「勇者・・・剣?もしかして、このオンボロな大剣の事?」




直接頭に囁かれるような声に導かれ、は自然に大剣の柄を握った。
なんだかワケが分らないけれど、この状況で藁をも掴む思いだ。
何か突破口を見出してくれると言うのなら、喜んで勇者になってみせます道!



「抜けてくれー!」



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聊かマヌケな音を立て、大剣は簡単に抜けた。
そして見る見るうちにあのボロボロだった刃が見違えるように綺麗になって行く。
当時の事は知らないが、きっとコレは前の勇者と共に戦いぬいた大剣そのものの姿なのだろう。
壮観なまでの本来の姿をが抜いたことにより取り戻した大剣は、どっしりと重く全てを物語っていた。

「あのボロボロな姿はカモフラージュって事ですかそうですか。馬鹿にしてごめんなさい」

律儀に謝罪するは手に馴染む柄の感触を味わいながらバトンの様にクルリと1回転させる。
物珍しそうに軽快に振り回し、最後に両手で持ち掲げ下から見上げる。
その姿は少女+大剣と言う異様なのものなのだが、木々の隙間から零れ落ちる陽の光を浴び大剣は輝きを倍増させた。
人間では大男でない限りそう簡単に扱えない重さだろう。だがこの少女は見た目幼いが吸血鬼なのだ。
決して交じり合わないそのセット。だが、何故かしっくりくるもの確かで。

こうして大剣は見事の武器になったのである。


「三蔵ー!ってアレ・・・?怪物は終わっちゃったのね。切れ味を試そうとしたんだけどなぁ」

「お前・・・それ、まさか・・・!」

「どんなもんよ!私は勇者になれたのさ!」

「・・・マジでか」

「私ってやっぱり心は純粋だったのね・・・!」

「・・・自分で驚くな」

ともあれ、幽霊の金縛りで身動きが取れなかった三蔵に助太刀する為、は大剣の矛先を幽霊に向ける。
触れた時から大剣の全ての知識が脳に直接叩き込まれた。その中の一つに幽霊撃退法もある。

「でも念唱を唱えるのは恥ずかしいから以下省略ぅ!」

大剣を振り切ると目に見えぬ攻撃が幽霊に襲い掛かる。
そして瞬く間に消える幽霊。ボロかった大剣が大した物だ。関心の意を示す三蔵は金縛りから解かれた。

「うわっ。凄い威力・・・」

「どうやら使いこなすには鍛錬が必要のようだな。木まで吹っ飛ばす事ねぇだろうに・・・」

「でも大剣は私の手に渡ったようだし?この場所もやっと封印から解き放たれるって感じだね!」

「綺麗にまとめようとすんな」

漸く任務も無事完了した様なので、たちは森を後にした。
ももしろ君の嘶きを聞き、3人と1匹は村への帰り道を来た時同様爽快に駆け抜ける。

「ってなんで!なんで私が飛ばなきゃなんないワケ!?」

「定員オーバーだ。悔しかったら馬の一つでも1人で扱えるようになるんだな」

「もー!コレ見られたらどーすんのっ!」

「走ればいいだろうが」

「このひとでなしー!!」

「残念なことに俺は人じゃないんでな」

「じゃあ、この鬼畜ハゲー!!」

「誰がハゲだ誰が!」


余談だが、麻酔で眠らされていたオーナーの娘はこの時、空を飛ぶを朦朧とした意識の中で見て『天使だ』と思ったらしい。





























吸血鬼の少女、その剣を僕等に向ける事なかれ

吸血鬼の少女、元から強いのに更に強い武器を手に入れたよ

吸血鬼の少女、一生大事にすると誓ったその宝物はちゃんとお手入れしないと刃こぼれしちゃうよ

吸血鬼の少女、いつか僕等にその矛先が向けられる時がくるならば僕らは喜んで斬られるよ


それって嫌じゃない?

そんなことないよ

だって勇者の大剣なんだよ?

僕らは勇者と戦った勇敢な魔物の称号を得ることができるんだ

まぁ、一生そんな称号を得られるような状況にならないだろうケドね

手厳しい事を言うね


吸血鬼の少女、折角いい気分なのに水を指して悪いようだけど

吸血鬼の少女、この後その身に降りかかる悲劇を心しているといいよ

吸血鬼の少女、91年前と言う半端な数字の意味を知ってるかい?

吸血鬼の少女、今はまだしらない奇劇の幕開けと共に

吸血鬼の少女、カーテンコールは願っても始まらない

吸血鬼の少女、どうか己を見失う事なかれ――




























「ねぇ三蔵。帰ったら王様と叔母様と皆に自慢しようよ!」

「勝手にやってろ」

「なにさ。もしかして・・・羨まし、」


スパーン


「んなワケあるか」

「っ――!非道いよ非道いよ!三蔵の、」

「落とすぞ」

「マジごめんなさいゆるしてくんざましょ」

「ふん。土産の一つも買わない奴は城から締め出しされろ」

「あー!忘れてたっ・・・どうしましょう?」

「・・・土産話でいいんじゃねぇか?」

「三蔵も忘れてたんだね」

「るせぇ。ホラ、そろそろ着くぞ」

「やっと故郷に着いた・・・かれこれ半年とか。我が家が恋しいよ」

「ホームシックか」

「そー言えば、明日は何の日か覚えてる?」

「・・・忘れたな」

「嘘つけやぃ!」

「耳聞こえんな」


「えへへ・・・私ね、誕生日プレゼントは」


「――静かにしろ。なにか・・・様子が変だ」

「え?何?三、蔵・・・?」

























おかえり

吸血鬼の王、吸血鬼の少女

血ぬられた歴史の幕開けと共に――


































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ATOGAKI
ケン=孤児院にもいましたが全くの別人です(笑)話の流れからしてやばい!と思ったけどそのままにすることにしました←。(マスターのお孫さんの事)
それと、ケンの母親とかマスターとか、どっかで出てきたあの人物です。隠す必要はどこになるんだって感じですが、ぶっちゃけtrigger連載の登場人物の使いまわしです。笑
今度は幸子か・・・いやはや、なんとなく嫌だ←


すごく長くなりましたが、ヒロインが持ってた大剣の正体がサブストーリーだけど漸く明らかになったと思います。
そして最後の締めがとっても後に続くよーって感じなのはこの大剣伝説が序章だから・・・なんだろうね←
次回は現在のヒロインの誕生日から90年前に繰り上がり、吸血鬼の王族のターニングポイント?的な話に入っていきます。
珍しく長篇になりそう。あまり形になってなかった話なんですが設定を整理してたら出来上がっちゃいました。
頑張って文章にするぞ、と意気込みながら短くなりそうな悪寒が走る今日この頃。笑

勇者と共に幾度の困難を乗り越えてきた大剣。握り締めた時からそれは伝わり、ヒロインはその語り継がれる事の無い
記憶と共に大剣の軌跡を一生大事にしようと心に決めた。後付だがこれが大剣を大事にする真相。

ではでは。次回に続く