狼男は満月を仰ぎ 真の姿を現す
The castle where a vampire is. 15
近くにオオカミが来ているよ
仲間を探すオオカミが来てるよ
あの遠吠えはすっごく不気味だね
孤独のオオカミは寂しいんじゃないかな
一匹狼、現る?
響きはかっこいいけど、なんか寂しいね
近くにオオカミが来ているよ
仲間を探すオオカミが来てるよ
真夜中の静寂を切り裂き、王の下に集うオオカミが
僕等の睡眠を妨げる
僕等の王、早く黙らして
――”オオカミ【wolf】”
孤独を彷徨い、孤独に生きる。
このモノに群れなど存在しない。
ずっとずっと孤独だった。当てもなく歩き彷徨い、何モノにも近寄らず干渉せず。
――”人狼”=通称:ワーウルフ【werewolf】”
オオカミの巨大版。人型をしたオオカミ。
一般的には人間の血肉を食い、普段は人間の姿をしているといわれているがその真相は解明されていない。
説によると、オオカミの進化系、人間の負の部分が生み姿を変えたモノとされている。
それと、死んだ人間を生き返らせると言う禁忌を犯し魔物になった姿。と言う言い伝えも存在する。
もしかしたら人狼とは人間の成れの果てなのかも知れない。
「『こうして、人狼は月が詠うと同時に真の姿を表し、人間を片っ端から食い荒らした』…と、言うワケですv」
「神父怖いよぉぉ!」
「ははは…物語ですからね。僕はわざと怖い様に話したんですよ」
「狼男って悪い奴なんだな!」
「それは違います…。オオカミ男さんは、孤独な寂しいオオカミさんなんですよ」
「じゃあなんで人間喰うんだよ!やっぱ悪い魔物じゃんか!」
「さぁ。それは何故でしょうかね。魔物に詳しい専門家に聞いてみればいいんじゃないですか?どうなんです、三蔵」
「何故俺にふる?…第一俺は専門家でもなんでもねぇ」
「先生!専門家…もとい三蔵でもわからないことがあるんだって」
「そうなんですか…。いやぁ三蔵ならわかると思ったんですけどねぇ。僕の思い違いだったみたいです」
「貴様等……」
街外れのとある一角。其処には幻想的な教会が一軒建っていた。
周りが自然に囲まれ、神父の心の温かさと比例した花壇やそれぞれ思い思いに天に向かって咲き誇る。
その中の教会内でココの神父八戒と孤児の子供たち、そして吸血鬼の男女がなにやら雑談をしていた。
内容はまるで紙芝居をしているかの様に教師顔負けの神父の話に花が咲く。
絵本を暗記しているのではないかと疑う程の話術に皆、引き込まれていった。
内容は『オオカミ男』。コノ世界に恐怖を齎す魔物の一種だ。
実物を見たことのない子供たちは興味心身で耳を傾けるが、神父の巧みな話術に震え上がる一方である。
吸血鬼の少女はオオカミ男とやらを拝んだことは無いが話はよく聞いていた。
その孤独な魔物を哀れに思ったこともある。かといって血肉を貪る反面、あまり良い印象はない。
世界を震え上がらせる吸血鬼と言うことを棚に上げ、何を。
「オオカミ男ってのは、その姿に変化しちまったら感情も思考回路も全てなくなる。人格を失うらしい」
「だから、人間を食べちゃうのはそのモノの意思じゃないんだよ。本能のままに行動した結果、恐ろしい魔物になっちゃうの」
三蔵の言葉を補足しながらは子供たちに言い聞かせた。決して、オオカミ男は悪くないと言う様に。
実際のところ定かではないが同じ魔物同士、よく思われないのはいやなのである。
「でもさ、自分の意思じゃないとしたら一体誰がそうさせてんのさ?」
「うーん。それはだねぇ…」
子供と言うのは探究心旺盛なものだ。この質問に言葉を濁らせながらは考えた。
「フフフ…野生の本能みたいなものじゃないですか?」
「それはわかりやすい!」
八戒の救いの手が伸びたのはいいけれど、子供にとっては更にわかりにくくなった気がするのは…いや、なんでもない。
と言うか何故いきなりこのオオカミ男の話になったかと言うと、それは数日前にさかのぼる。
夜も深まった真夜中。城周辺の魔物たちが騒ぎ出すと共に聞こえてきた遠吠え。
それは静かな闇にやたらと響いた。月が眠るなか、その不気味な声は一層怪しさをかもし出す。
近くに来ている
悲痛なまでの遠吠えは孤独に苛まれるオオカミ男の悲しい訴え。
『人間に、戻りたい。死にたい――』
あのモノは何故そのような訴えを吠えるのか。人間に戻りたい、とは如何なるものなのか。
もしも、言い伝えが本当だとしたら?そうだったら納得はできる。が、は途端に怖くなった。
――人間を生き返らせようと、禁忌を犯した罪深き罪人。
その成れ果ては悲惨なもので。目も向けられぬ程の禍々しい怪物になったとか聞いたことがある。
成功例は聞いたことが無く、行ったもの全て苦痛に苛まれ次々に『死にたい』と口にしたそうな。
言い伝えとはあやふやなもので確かではないが、は知っている。未遂だったが確かに眼に焼きついていた。
実際、吸血鬼の少女はやろうとした事があったのだ。
大好きな両親。死んでしまった2人を生き返らせたい。その思いが禁忌に手を伸ばさせる。
しかしソレは三蔵によって阻まれることになった。凄い形相で少女を怒鳴る彼はとても、怖くて。
禁忌だと知りながらそれを実行に移そうとした少女を容赦なくハリセンで叩き――。
思い出すだけでも後悔と恐怖に身が縮む。怖かった。何より三蔵が、怖かったのだ。と、は言う。
その時は無我夢中で行動したから詳細までは覚えていないが、妖気は確かにあった。
あの不快なまでの、気。全身を取り巻くこの世のものとは思えないほどの死の臭い。
自分はなんて愚かなのだろう。あの時彼が止めてくれなかったら――。
「ねぇ三蔵。あのオオカミさんは、どうして悲しそうなんだろうね」
「さぁな。人様の事なんざ俺が分るワケねぇだろ」
「ごもっともです」
「しかし、『人間に戻りたい』なんぞ――」
まるで禁忌を犯された様な口ぶりだ。
身勝手な人間によって甦らされたモノ。それならば、『彼』は今も苦痛に苛まれているのだろうか。
「三蔵、あの時止めてくれてありがとう。両親を苦しめなくて済んだよ」
「…なんの事だか、知らんな」
「感謝しきれない、よ…ごめんねっ」
「ったく…この馬鹿娘が」
一時の気の迷いなんかで許されない行為。叱ってくれたのも、罪を宥めてくれたのも嬉しかった。
――――…。
遠くで鳴いた声。ソレは街周辺一帯に聞こえて、街の人々は恐怖に震え上がった。
もちろん八戒も例外ではなく、珍しいオオカミに警戒する。
しかし通常の人間には分らない言葉を聞き、戸惑った。
孤独なオオカミの慟哭――それは孤独と戦う一匹のオオカミの声。
胸の内に秘めた叫びを押し殺し、さまよう孤独なオオカミ。
「一体、何を訴えているんでしょうか…」
――死にたい
――人間に戻りたい
――殺してくれ
「残念ですが…僕には貴方を殺す術をしらない」
知らない、とはただの言い訳に過ぎない。むしろ嘘言である。
本当は知っている。しかし本当に殺めてよいものか。
死にたいと訴えるオオカミ。反対に人間に戻りたいと願うオオカミ。
もし、禁忌に犯された身なのであれば後者は不可能。ならば。
「きっと・・・あの2人がなんとかしてくれると、信じたいものです」
彼は一介の上級貴族である。あの2人のように王族でもなければ凄まじい能力など無い。
そんじょそこらの下級吸血鬼よりは数段強いが王からしてみればそれも足元にも及ばないのである。
一時期は王族の直属に就任したことがあるがそれは遙か昔の事。きっとアレはお情けであることを彼は感じていた。
まぁあの傲慢ちきな三蔵はそんな事これっぽっちも思って居なかったと思うが。
「やれやれ。僕も情けないモノですね」
ただあの2人に任せることしか出来ない自分に腹が立つ。
「加護ぞあれ。どうか…戒めの鎖に苦しむオオカミ男さんに――」
外面は神父。それなりの言葉を呟くが効力があるのかは定かではない。
しかし、その言葉に乗せられた思いは誰よりも優しく、憂色を帯びていた。
「さて。そろそろ2人が動き出す頃ですね」
神父の格好をした青年は、先ほど帰っていった吸血鬼たちの事を思い浮かべ苦笑を漏らす。
彼もまた、吸血鬼だ。
『あぁ、何故死んでしまったの?私を残して』
『私ね、教えてもらったの。禁断の法だと知っているけれど、それでも貴方が愛おしい』
『よみがえらせてあげる。今すぐ、貴方は私のもとに帰ってくるの』
――嬉しいでしょ?
彼女は狂ったように笑う。彼が死んだ事に衝撃を受け、やせ細った四肢が痛々しい。
彼女は知らなかった。禁忌とは、ただ生き返るだけではないと。
だから禁忌と言うのだが、彼女は深く考える事無く、ただただ最愛の彼が生き返ると言うことだけを信じ、禁忌を犯す。
むき出しの床に陣を描き、己の血を媒介に言霊を。
『 汝帰す者、汝死する者、汝甦る者―― 』
彼は生き返った。彼女の禁断の法を受けてその身体を再構築させ。
しかし、その姿は魔物。とても人には見えず、禍々しい邪気は膨れ上がる。
彼女は歓喜した。どんな姿であろうと、彼女には生前の彼の姿でしか写っていなかった。
その身を震わせるのは喜びから来るものだと思い込み、とても人間とは思えない姿に飛び込んだ。
しかしその刹那。彼女は一瞬のうちに――喰われる事になる。
そして『彼』は半端な姿から完全な姿へと変貌を遂げた。
その見目はまるで、オオカミ男。稀に見ぬ禁断の成功例の見本となったのだ。
『俺は一体、誰だ――?』
「貴方はオオカミ男。禁忌を犯され成功した、哀れな魔外者」
グルル…と地の底から押し出すような響きを含め目の前のオオカミは唸る。前方に突然現れた少女に警戒して。
「これまで完璧な成功例は無いと聞く」
そしてその少女の背後にこれまた突然現れた男にも警戒する。
――苦しかろうに
その身に受ける痛みと精神に走る激痛。彼は甦らせた女を喰らい、完全に甦った存在。
生き返って間もないうちにその事実を叩きつけられたと言うのはどのくらいの痛みを伴うのか想像もつかない。
『殺してくれ』
己もそうしたように、あの女の様に己も殺されたい。
こんな姿に、こんな痛みを抱えるくらいなら死んだほうが遙かにましだと言う事だ。
「その痛みから解放してあげる」
オオカミ男は何故か心から安堵し、反対に恐怖を覚えた。
目の前のこの素性も知らない少女に全てを託しても良いものか。
しかし、オオカミ男は知った。
自分は元は人間で、最初から魔物ではないから。彼女等が一体何者なのか知る術を知らない。
しかし、このひしひしと伝わる強く、暖かい気はなんなのだろうか。
――魔外者の吸血鬼、今宵も甦る。
『吸血…鬼』
「私はその痛みから解放させる術を知っている。それでも後悔しないと言うならば、今すぐにでも」
生前に聞いた吸血鬼の言い伝え。それとはあまりにもかけ離れた存在。
『魔外者の吸血鬼』
別名
『光を持つ吸血鬼』
彼女等はその吸血鬼なのだろうか。
『王、なのか』
「一応ね」
「一応じゃない。正真正銘だ」
「はいはい」
「貴様…後で覚えていろ」
「すみませんでした!」
『俺は、この苦しみから解放されるのか?』
ずっとずっと1人だった。この孤独を背負い、苦しみを抱え、幾年も。
そしてたどり着いたのがこの街。深い深い森に囲まれた街。
彼は迷い込んだといってもいいだろう。全てを飲み込む闇のように暗いこの森に。
誰か。
誰か、居ないのか。
俺はまた、1人…?
「貴方が望むのなら。殺すことも出来る。生かすことも出来る。しかし元の人間には戻せない」
この男の身体はとうの昔に朽ち果てているだろう。
言ってしまえば今の状況は魂だけが彼のもので肉体は邪悪なものが寄り集まって出来た完全に見える不完全なモノ。
その証拠に、オオカミ男は本来のオオカミ男には見えないまでの醜い姿となって生きながらえていた。
誰からも忌み嫌われ、魔物からは虐げられ。
人間には恐れられ、誰も、何モノも近づくことさえ無かった。
誰か。
誰か、居ないのか。
ココには誰も居ないのか。
自分を救ってくれる、誰かは。
俺はまだ、1人…?
オオカミ男は吼え続けた。
助けを求めるように、誰か己を殺してくれるモノが現れるように。
「さぁ、どちらか選んで。生きるか、死ぬか」
『早く、楽に、』
嘘だ。
『死にた――』
嘘だ。
一度、死を味わったことのある彼は途中で言葉を遮った。
違う違う違う。自分は死にたいわけではない。
もうあんな思いはいやだ。正直に言うと、いきたい。もっともっと生きてみたい。
これからは、この苦しみを抱えてではなく、自由に、そして気高く――魔物として。
『どうやら、俺は幾年も不完全とは言え魔物になっていたから、思考まで魔物になってしまったようだ』
死にたいわけではない。すなわち。
「後悔するなよ」
三蔵の掌が、不完全な魔物の額に添えられた。その瞬間。
眩いばかりの光が、その肢体を包み込んだ。
まるで、何か暖かいものに包まれているような、優しい光。
オオカミ男はその場で意識を失った。
このまま死んでも後悔しない、と言う思いを胸に抱きながら。
「おはよう三蔵!今日も天気は良好!洗濯日和ですなぁ!」
「朝っぱらからうるせぇんだよ貴様は…!」
スパーン
「…ま、周りには怪しいものも居ないし、いたって平和です!三蔵のハリセン以外は!!」
「ほぅ・・・もう一発、逝っとくか?」
「ホントスミマセンデシタユルシテクダサイ」
ちゅんちゅん、と小鳥のさえずる声を聞き、はガバリと未だ寝ていた三蔵の布団を剥ぎ取り朝から騒がしかった。
それに対して不機嫌真っ只中の三蔵はハリセン片手に寝台に胡坐をかいて座る。
目はまだ覚醒しきっていないのか半眼だ。その剣呑な眼は恐怖を一層倍増させた。
正座して高級そうなカーペットの上ににひれ伏す。顔が上げられないのは怖いからだ。
朝から調子に乗りすぎたかと後悔しても時既に遅し。三蔵は見事にご立腹である。
そんなに怒らないでもいいじゃんかーと悪態つくが、目の前の男は札付きの低血圧。自分の行動が浅はかだったのだ。
「それに…怪しいものは居るだろうが。直ぐソコに」
「え?何処何処?ココには可愛いオオカミの姿をしたオオカミ男さんしか居ません。三蔵、寝ぼけてるの?おきろー!」
スパーン!
一度目と数段違う小気味良い音が、城内に響き渡った――。
『お前ら、本当に飽きないな』
うずくまっている、その前に鎮座する三蔵。もちろんハリセンは常備。
そんな2人に三蔵曰く怪しいもの。曰く可愛いオオカミの姿をしたオオカミ男がはんばあきれた視線を投げかけた。
彼はオオカミ男だ。正真正銘、完全なオオカミ男。元は不完全な禁忌を犯された身であったが三蔵のお陰で晴れて完全な魔物になれたのだ。
それは数日前になるが、目が覚めたときはとある豪勢な一室のベットに横たわっていた。
そして己の状況を把握するとともに涙を流したのは記憶に新しい。救われた。その事実だけがオオカミ男を歓喜の渦に追いやった。
感謝してもしきれない思いを胸に、オオカミ男は今、ココに居る。
「私はさ、どんなモノでもあろうと、殺すのは嫌なの」
感謝を述べたオオカミ男にはそういった。その瞳は心なしか憂いを帯びていて正確にオオカミ男を貫く。
こんな、魔外者のだった己を救ってくれた。この優しい吸血鬼の少女は綺麗な光を宿し、何もかも許してくれるような暖かな瞳で。
「実際に救ってやったのは俺だがな」
「はいそこで水を差さなーい」
「事実だろうが」
「でも提案したのはこの私よ!そのままだったら確実に三蔵は殺してた!絶対に!」
「それは否定できん」
一歩間違えれば己は死んでいた、としても。あぁでもちょっと怖くなってきたかも。
『兎に角、礼を言う』
「それは聞き飽きたよ。それよりさ、私の使い魔になりなさい!!」
『…はい』
こうして、はオオカミ男と言う助っ人をゲットしたのであった。アレ?こんなはずでは。
「こき使われるのを覚悟しといたほうがいいぞ」
哀れんでくれるのか。イヤ、しかしこの男も不敵な笑みを浮かべている。
なにかしらに漬け込んできっとこの2人にいいように使われているのは目に見えているオオカミ男は、これも恩返し、と言い聞かせる事にした。
あぁ、ある意味哀れ。あぁ哀れ。
あのオオカミ男、よかったね
姫の使い魔、かぁ
僕達もそんなものの様だと思うんだよね
そうだね
また王は救ったよ
あの方もなんだかんだいったってお人よしだからね
いつ足元をすくわれるか僕等はひやひやしてるよ
ねぇ僕達の王
明日は何をしてくれるの――?
神父は不安を胸に抱き、朝日に照らされた十字架を見上げた。
「何事も、無ければそれに越したことはないんですけどね…」
何を思うか、それは王か、姫か、はたまた。
「あの光は途絶えることが無いと、信じていますよ…僕は」
両手を祈るように組み、神父は祈り続ける。
彼女の闇を彼の光が打ち砕いてくれるその日を想い――
MENU
ATOGAKI
すみません。眠かったのでいろいろグダグダです…反省はしている。←
そんなこんなで何故か使い魔になってしまったオオカミ男さん…そろそろ名前を付けてあげないと。
オオカミ男さんは、森の中の魔物たちが居る巣窟に住むことになったようです。城は居心地が悪いとかで。笑
鷹さんとかと一緒であんまり出てこないと予想。語られない中で日々こき使われています。HAHAHA