――仮面をつけるのは自分を隠す為
仮面は自分を隠してくれた
だから仮面をつけた
自分を隠す為には仮面が必要だった
The castle where a vampire is. 13
街に1人の旅人がやって来た。吸血鬼やらなにやらで混沌としている世の中にも関わらず。
その旅人は仮面を売る、仮面売りの女。
女が作る仮面はそれはそれは見事なもので街の人達は自分の顔の型をとった仮面を買う。
――仮面は、人の顔だった。作り物だけど、どこか不気味なまでの、偽者。でも、本物。
「ねぇ三蔵!街に仮面売りの旅人が来てるんだって!見に行こうよー」
「くだらん。1人で行け」
「そんなこと言わないでさーついでに八戒に会いに行こう?ね?ねぇぇぇぇ?!」
「うるせぇ!まだ朝じゃねぇか…静かにしやがれってんだ」
「じゃあ午後になったらいいの?」
「…」
無言は肯定。は自分の良いように解釈することにした。
布団に潜ってしまった三蔵を置いては寝室を出た。日は昇りきってない。辛うじて朝と言える時間帯、散歩でもしようか。
そう思い、城の外へと足を向かわせ片手にはももしろ君人形ver.だ。
別に乗馬するなら城の中でも怒られない。無駄に広いので駆け回ることもできる。
しかし今は三蔵がご就寝なので絶対怒られるだろう事を想定して…いや、考えなくてもわかるね。
パカラッパカラッ
蹄の軽快な足音が木霊する敷地内。薔薇園を通り、墓場を通る。そこではももしろ君を止めた。
軽やかに着地すると目的の場所へ行く。ココには、両親が眠っているのだ。久し振りにお墓参りをするのもいいじゃないか。
「お父さん、お母さん。は毎日元気に三蔵と暮らしてますよー」
先ほどもぎ取ってきた薔薇を1輪添えて墓石を眺める。もう両親が死んで何年になるのだろう。
時間間隔が普通の人間とはかけ離れている吸血鬼は思い出すのにちょっと苦労する。
でも、顔は覚えてる。自分と似た夫婦。幸せそうだった。それだけで自分も幸せになれる気がした。
「先代は旅に出てまだ戻ってこないし、おばさまだって悟空たちをたらしこむ始末。2人とも不在でのびのびとやってるよ」
いつ帰ってくるやら。あの2人はどこか似たような所があるから苦労する。隠居生活を満喫しすぎでしょ。
先代は三蔵に王の継承権を譲ったらさっさと旅にでた。きっと遊びたかったんだろう。気ままなお人だ。
おば様…観音なんて『2人っきりの方がいいだろ?』なーんて悪巧みした笑顔でグルメツアーだそうで。
全く。自由人過ぎてあきれるよ。
「毎日、楽しいよ。笑い疲れるほどに、みんな面白いんだ…」
両親を失ったとき、どんなに絶望的になったことか。そんな事さえ癒してくれるような周囲のモノたち。
救われた。そんな気がして、いつかみんなに恩を返せたらと思ってる。
「お父さんも、お母さんも幸せだよね?」
ココには亡骸なんて無いけれど、それでも。2人で今も笑っているのなら本望だ。
だって、自分だけ幸せなんて嫌だもん。娘の幸せは両親の幸せ。そう思ってなきゃやっていけないよ。
は心底楽しそうに微笑んだ。と、その時。屈み込んだの背後に1つの気配。
「寝てたんじゃなかったの?…三蔵」
「蹄の音がうるせぇんだよ」
「いつの話さ」
感傷的になった自分を、まるで知っているかのような三蔵。こんなときは必ず来てくれる。
それが嬉しくて。思わずは笑った。
「何笑ってやがる」
「いやー三蔵伯爵サマは薔薇がよく似合うと思いまして」
「…沸いてンのか」
と同じように隣にしゃがみ込んだ三蔵は手に持った薔薇の花束を墓石の前に添える。
先ほどが置いた薔薇をその上に乗せ直して火の点いた煙草も一緒に置いた。
風が吹き抜ける。まるで両親が、喜んでいるように思えた。
「そろそろ午後だろ。行くぞ」
暫くそのままで居ると急に三蔵が立ち上がった。新しい煙草に火をつける。
なんだ、覚えていてくれたのか。それがわかっては満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。三蔵」
何に対して?それはモチロン。全部に対して。
「何のことだ」
「うへへーわかってるくせに!」
「知らんな」
どこまでも不器用な彼は、に背を向けて歩き始める。その背中が、大好きだ。
吸血鬼の少女には 悲しい過去があった
でもそれは 所縁のモノたちのお陰で立ち直ることができた
――みんな、みんな大切なモノたち
吸血鬼の王は 目の前で壊れかけた少女を守る
己が求めた存在が 愛おしい
――壊すのは 俺だ
2人の吸血鬼は 血の契約を交わした瞬間に互いのモノとなった
ずっと望んでいた 必然ともいえる瞬間
――後悔? するわけがない
女には仮面が必要だった
自分を隠す為には。
自分の――罪を隠す為には。
「私は、隠れなくてはイケナイ」
唯一愛した男の仮面を持って、隠した。全てを。己の顔を。
「私は、あの人とと共に」
愛しい人。女の手には男の、仮面。
「忘れない」
女が持っているのは、頭蓋骨。
愛しい男の、『顔』。
頭蓋骨に仮面をつけて、愛し続けた。
「わーいっぱい仮面があるよ!」
「…薄気味わりぃ」
「そんな事言ったら失礼だって」
2人は街に下りて噂の仮面売りを直ぐに見つけることができた。周りに群がる群衆が目印になったのだ。
旅の者は珍しいので野次馬の如く、人が大勢いた。
その中に入る勇気は無かったものの、人々は仮面を購入すると嬉しそうに帰っていったので今ではもう疎らになっている。
1人1人、自分の顔に似た仮面を持っている光景は傍から見るととても奇妙だ。
「いらっしゃいませ」
店の女店主が仮面が並ぶ台越しに微笑んだ。まるで、仮面を被ったような顔立ちの端麗なさま。
ちょっと、怖かった。
「えーと、仮面ください!三蔵もいる?」
「いらん」
「じゃあ1つお願いします」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って台の下を探す女店主の隣に、何かが見えた。
白い白い、仮面をつけた――頭蓋骨。正面から見ればスキンヘットの生首よろしくな、気味の悪いソレ。
ゾクリと背筋が寒くなった。なんだかわからないけれど、その頭蓋骨を見たら恐怖が襲ってくる。
しかしそれは目当てのものを手に持った女店主が顔を上げ、微笑んだ事で一気に吹き飛ぶ。今のは一体…?
「随分悪趣味だな」
三蔵がと同じものを見て言った。失礼なことを抜かす男に咎めようと口を挟もうとしただが押しとどまる。
自分も気になるのは同じだからだ。
女店主は顔色を変える事無く、その仮面を被ったような端麗な顔を三蔵に向ける。
「コレは、私のお守り…のようなものでございます。この商売の象徴ともいえますか…私の自信作なのです」
「よく、できてますね」
本当に、今にも動きそうな『仮面』。色は真っ白に統一されているのにも関わらず、血がめぐっているような錯覚に陥る。
「これのモチーフは私の旦那なのです。もう死んでしまったけれど、私の最高傑作として傍にいてくれているような気がするんですよ」
愛とおしむ様に仮面を撫ぜる女店主は、何を想ってなのか。亡くなった旦那の事を考えているのだろうか。
其処に本物が居るかのように、仮面だとわかっているのに、生きた旦那が見えた気がした。
「仮面は生きているのですよ。たとえ死んでも、生き続けるのです」
その言葉は何か引っかかりを覚えるものの、女店主の表情は極々普通。でも仮面を被っている。そんな印象を受けた。
その後たちは八戒のところへと足を運んだ。もしかしたら八戒も子供たちと仮面を買っているかもしれない。
それに実は昨日呼び出しがかかっていたのだ。仮面の事もあっては気分がいい。既に先ほどの恐怖など忘れてしまっていた。
三蔵は渋々と言った様子での隣を歩く。こちらもどうでもいいことは忘れる性質なので八戒の呼び出してきた内容の事で頭がいっぱいだ。
大通りを抜けて小道を少し進んだところ。其処には変わりなく、教会が一軒佇んでいる。
静かだ。閑静なその場所は穏やかに時を刻む。いつもは庭ではしゃぐ子供たちは眠っているのかもしれない。
「八戒、こんにちっ」
ドアを叩いてあけようとしたとき、隣の窓が割れた。
「三蔵!その仮面を壊してください!!」
宙に浮いた仮面が地面に落ちると同時に中から聞こえた切羽詰ったような八戒の声。
何事だ。そう考える前に三蔵は反射的に懐から出した銃で仮面を撃った――。
見事粉砕された仮面の破片は庭の土の上に散乱している。そして音もなく、消えた。
「な、何さ!?八戒?」
慌ててはドアを開ける。其処には汗が浮き出る八戒と、泣いているのかうずくまる子供。
その光景はこのいつも穏やかな教会には不自然で。察しがつかない。
八戒は中に入ってきた2人に気付くと心底ホッとしたように汗を拭った。けれどの片手にある仮面を見てまた慌てる。
「!その仮面を早く壊してください!それは大変危険なものです!」
「え?ちょ、なんで!?」
「いから早く!」
尋常じゃない八戒の様子にワケもわからずは仮面を外に投げる。それを三蔵が撃つ。…見事な連係プレーだ。
お見事ーなんていってられない雰囲気に粉砕された仮面を見つめていたは八戒に向き直る。
八戒は手を顔に多い被せ、安堵の息をつく。そんなに慌てることだったのだろうか。も三蔵もその理由が皆目検討も着かない。
「どうした。あの仮面が何かあったのか?」
「えぇそうなんです。この子が仮面を買ってきたと喜んで嵌めようとしたところ…」
疑問を投げかけた三蔵。八戒は子供を見つめ、悲しげに表情を歪めた。
「仮面から何か…邪悪な妖気を放ったものですから咄嗟に投げちゃいました。2人が居てくれて助かりましたよ」
危ない。そう思って仮面を投げて窓が割れた所に2人が見えた。だから『壊して欲しい』と頼んだ八戒。
多分、壊さなかった大変な事になっていただろう。そう八戒は言った。
「なんか…気持ち悪い」
うずくまっていた子供が顔を上げて呟いた。どうやら泣いていたようでは無いらしい。
「危なかったですね。少し、休みましょう。妖気にやられてしまったようです」
まだ小さな身体を持ち上げると八戒は奥の扉に向かった。あっちは寝室に通じる扉だ。
幼い子供には強力すぎた妖気。気分を悪くするのは当たり前だ。暫くは安静にしていた方がいいだろう。
ぐったりとした体は八戒によって寝かしつけられた。こんないたいけな子供に危害が加わったとなると放っては置けない。
それに、この仮面は街中の人たちが買っている。早くしないと危険だ。
「すみません。どうぞ椅子に座ってください。今紅茶を淹れますね」
「お邪魔します」
「…」
釈然としてないが2人は進められるまま椅子に腰掛けた。直ぐに紅茶を持ってきた八戒も座る。
「昨日僕が呼び出したのは…仮面売りの女店主の事です。話す前にこんな自体になるなって思ってなかったんですが」
「八戒は街に住んでるんだもんね。異変にも直ぐに気がついたって事?」
「そうです。街に居たから気付けたんですよ。あの女店主の妖気は微弱なものでしたからお城からは気付けなかったと思います」
「でも俺たちが行った時は何にも感じなかったぞ」
それもそうだ。今日、その微弱な妖気を放つ女店主に実際に会って来ている。それも数分前の事だ。
それなのに、どうして気付かなかった?
「多分、『仮面』の所為だと思います。
先ほども見たように仮面をつけた人間の中の『気』…妖気などを食べるみたいなので何も感じなかった、そういうことです」
先ほどの子も『気』を喰われかけて具合が悪くなった。あの子は人間なので妖気は無い。だから普通の『気』
そして女店主は『気』の中の『妖気』を喰われることによって妖気を隠した。と言うことはあの女店主は魔物…?
「でもおかしいよ。私が持ってた時はあの仮面、何も反応しなかったよ?」
「アレは顔に一定の距離に近づかせると喰おうとする。あの子もそうでした。持ち帰ってきたときは何も起きてなったんです」
女店主の事は気がかりだったけれど、何も変化無い仮面を見ると思い違いだったのかと思った。
嬉しそうに笑う子供の顔を見ると何も疑問に思わなかったのだと。しかし仮面を顔に近づけた瞬間、妖気を放った。
何故、自分はあの時止めなかったのかと、悔やまれる。
「八戒が悪いんじゃないよ。もし普通の人だったらそのままつけて大変なことになってた。八戒は阻止できてよかったじゃない!」
「…ありがとうございます。そういってもらえると僕、」
「、貴様は1度喰われた方がよかったんじゃねぇか?そうしたらそのうるせぇのが少しは静かになるだろう」
「なんですと!三蔵こそ喰われちまいな!スネークバイt」
「何処の奪還屋だ」
全く、この2人には適いませんねぇ。と八戒はココに来てようやく本来の笑顔を見せた。
その場の雰囲気がガラリと変わったのだ。当人たちは無意識だと思うけれど。それでも救われた気がした。
「じゃあ、早く街の人たちの仮面を壊さなきゃ、」
が立ち上がろうとした瞬間、『気』が一斉に――消えた。
「喰われたな」
慌てて街に駆けつけると、シンと静まり返っていた。不自然に、誰も居ない。
否、『気』だけが無いのだ。家の窓の中には人影が辛うじて見える。
唖然と立ち尽くすを促して三蔵たちはこの事態の原因、仮面売りの女店主の屋台に向かった。
広場に出ると隅の方で女店主は先ほどと変わらぬ様子で座っている。
その表情は仮面を被っているかのように、端麗な顔つき。
その女店主の前に3人は立つ。は怒り心頭といった面持ちで1歩前に出た。
「貴方は…何が目的なんですか」
3人の存在に気付いていながらも女店主はただ薄っすらと微笑むだけだ。
――その仮面を、剥いでやる。
「街の人たちに危害を加えないでください」
大きな音をたてて叩かれる台。並んでおいてあった仮面が数個落ちる。
ソレを見て女店主はこの時初めて声を出した。
「別に…私は仮面を売っていただけでございますが?」
「惚けないで!…その仮面の事はわかっています。人間の『気』を喰うことも、貴方が――魔物だって事も」
女店主のは笑った。その端麗すぎる表情は見るものの背筋を凍らせるには容易く。しかしこんな事で怯みはしない。
は尚も詰め寄る。その瞳には憤怒の念と、悲しみが入り混じっていた。
「何が、目的なんですか?」
最初に言ったもの同じ言葉を口にする。原因は、ココだ。
「しらばっくれても意味ありませんよ。実際僕のところの子供が1人、被害に遭っています」
八戒はの隣に並ぶ。大切な者を傷つけられて平気なワケが無い。彼の瞳も怒りに満ちていた。
そんな2人に睨まれても動じない女店主。ただ唇を引き上げるだけで、本当は感情なんてないのではないか。
それか、その顔は実際に仮面なのだろうか。
「私はただ…『生気』が欲しいだけでございますよ」
おもむろに立ち上がる女店主。同時に後ろに詰まれた仮面が不気味に崩れ落ちた。
その時。
「危ない!」
咄嗟に飛びのく2人。目の前には仮面が宙を舞い、女店主を取り巻くようにカラカラと音をたてている光景。
何かに操られているような、それか自身で動いている仮面の群れ。それが放つのは明らかに妖気。そして、悲しそうな、生気。
「この人を、生き返らせたいだけ。ソレを拒むと仰るのですか?」
女店主の片手に持たれているのは、あの気味が悪い仮面をつけた頭蓋骨。いとおしむように撫ぜる姿はどこか狂気染みていて。
一層不気味さが増した。不意に女店主はニコリ、と笑った。
取り囲む妖気が濃くなる。背後には街の人々。いつの間に来たのかさえわからない。
「みんな…仮面をつけてる。あの仮面だ!」
「こんなに買った人たちが居たんですね」
3人の周りを取り囲むように迫って来る街の住人。それは子供からお年寄りまで様々である。
「チッ…めんどくせぇ」
人間相手は骨が折れる。しかもの大切な、街の住民だ。迂闊に手は出せまい。
三蔵は懐から取り出した銃の標準を女店主に向けた。臭い匂いは元から断つ。正しい判断だ。
銃口を向けられても物ともしない女店主。ソレばかりか未だ頭骸骨を撫でていた。
後ろには人間。目の前には奇怪に女店主に取り巻く仮面の群れ。
突破口は、無い。
ならばやるしかないではないか。
「もう直ぐ、もう直ぐ集まる…この人を甦らせる為の『生気』がっ!」
その言葉と共に押し寄せる仮面と、群集。と八戒は素手で対応するしかない。
三蔵は引き金を引いた。しかしソレは仮面によって遮られる。こんな無数にある仮面一つ一つを打ち抜いたって意味がない。
けれど女店主を取り囲む仮面は尚もうごめき続けた。埒が、明かない。
「みんな、その仮面を取って!死んじゃうよ!!」
軽やかな身のこなしで人の攻撃を避けながらは悲痛な叫びを上げた。
次々と襲い掛かってくる人々は攻撃を止めない。それが、辛かった。
「、仮面を壊しましょう!そうすれば止まる筈です!」
「でもどうやって!?」
「顔には衝撃が届かない程度に殴るんです!」
「できるかぁっ!!」
器用な八戒は手刀で見事に仮面を割って見せた。…凄い。ってかにそんな芸当できるとは思えないのだが。
は試しにやってみるが、言うまでもなく殴り倒してしまう。倒れた人がとっても痛そうだ。
それでも仮面は砕ける事ができた。他の人も同じように試みる。あぁ、哀れとしか言いようの無い光景だ。
みなさん、無事で居たかったら八戒の所にいってくださいと言いたいところである。
「…お前、本当にこの街の奴らが大切なのか?」
「うるさいわね!三蔵はさっさとあの人を倒してってば!」
「、後ろ!」
もうこうなったら仕方がない。みんな殴るしか…しかしの前に立ちはだかるのは年行かない子供。…殴れない。
狙っているとしか考えられない子供の出現には苦戦を強いられることとなった。
「痛いかも知れないけど、ごめんね!」
まさか殴るのか。そう思っていたがそうでは無いらしい。はおもむろに子供の顔の横を両手で包み込むように添えると、引っ張った。
仮面を剥ぎ取る形になるのだが、傍から見ているととってもむごい。
しかしの作戦勝ちで仮面は呆気なく取れた。
「やったー!成功!」
「…見ていて気が気じゃないですよ」
「…アレがあいつなりの労わり方なんだろうよ」
男2人はちょっとゲッソリ気味である。
「邪魔をしないで頂きたい!私はこの人を甦らせるのです!!」
余裕の面持ちだった女店主は状況が一転すると声を荒げた。仮面のような顔は変わらず、しかし狂気に満ちている。
白刃の様に鋭い光を放つ視線に射抜かれながらも三蔵は正面から見据えた。この吸血鬼の光にはそんな狂気的な光は赤子も同然だ。
周りの喧騒さえも聞こえないほど静かに対峙する2人。銃の標準は女店主に向けられたまま。
「貴様の事情なんざしらねぇよ」
眼を眇めると、三蔵は引き金を引いた。ソレは周りを取り囲む仮面を突き破り、女店主の頬に掠る。
その瞬間。掠った部分から女店主の仮面が砕けた。そして街の人たちの仮面も習うように砕け落ちた。
一気に放たれる『気』。どうやら媒介は女店主の仮面だった様だ。
「あ、あ…わ、私の、仮面、がっ」
仮面の向こうには放心した表情の女主人の素顔。どれ程その仮面が上等なものなのかわかった。
そう、その素顔は仮面そのものだったのだ。否、仮面が素顔そのものだったと言うべきか。
崩れ落ちてその場にへたり込んだ女主人は、地面に両手をつきうなだれた。
その傍らには頭蓋骨。ただの仮面をつける飾りではなく、本当に旦那の頭蓋骨だった。
「私は…この人を甦らせたい、だけなのに…!」
「死んだ人は甦らない。それが自然の摂理だよ」
はうなだれる女主人の傍に立った。
――死んだモノは生き返らない。
その言葉の重さは誰よりも重く、平等だ。
「そんな事はない!この人は、きっと生き返る!人間の生気を吸って、甦るっ!」
「いい加減にして!…あなたの旦那さんは、そんなことして喜ばないよ!他の人を犠牲にしてまで、生き返りたいとは思ってないっ!」
「違う!違う違う!この人は生き返りたいと願ってる!」
「駄目なんだよ…!人間は生き返ったら、魔物になってしまう。それだけは絶対、駄目!
貴方のエゴで、生き返らせて、その身が魔物だったら、もう1度死にたいと思う。そんな悲しい思いをさせて貴方は満足なの?
ただ貴方の感情だけで、幸せになれる?…絶対なれないよ。苦しみは、イラナイ。苦しんで欲しくはないでしょ!?」
悲痛な表情で、は言う。その手は悔しさか、悲しさか、怒りか。力が入って震えていた。
「私は…この人を殺してしまった…。だから、罪滅ぼしの為に、」
女店主は泣き崩れた。どんな過去があったか知らないけれど、にもその思いは伝わった。
――悲しかった。辛かった。生き返って欲しかった。そして、罪を許してもらおうと、思った。
もう一度、自分に微笑んで欲しかった――。
「罪滅ぼしなんざいくらだってできる。それに、貴様の旦那とやらは…貴様の”中”で生きてんだよ」
の隣に立ち、三蔵は言った。その言葉は、直接心に入ってくる様に、自然と沁みこむ。
「貴方が忘れない限り、その人は貴方の”中”で生きているんです。それを忘れてしまったら、全てお終いになってしまうんですよ」
八戒も優しく語り掛けるように言葉を紡ぐ。
周りに散乱した仮面も、微笑んだように見えた。
女主人の悲しみを受け止めながら作られた仮面たちは、誰よりも女主人の事をわかっているのかもしれない。
その女は仮面が必要だった。
自分の罪を隠す為仮面が必要だった。
愛した男を殺してしまった罪の意識から仮面を作り続けた。
自分を隠して隠して、わからなくなってしまったのだ。
仮面の暗い内側から光が消えると共に、何も見えなくなった。
自分の『本当の顔』を見失ってしまった。
女は愛しい男の頭蓋骨にその男の顔から型取った仮面を被せた。
これで、甦ると信じて已まなかった。
仮面を売り、人間の生気を集めた。
生き返らせたかったから。
罪の許しを請うために、もう一度微笑んで欲しかったばかりに、自分のエゴで人々を犠牲にしてまで掻き集めた。
それ程愛していたのか。
自己意識の中で悶え続けた。
いつかきっと、甦ると信じて――。
「私はもう、魔物になってしまった。人間には戻れない…!殺して。殺してください!」
泣きながら叫ぶ女はとても悲痛で、痛々しかった。
は目線を合わせるようにしゃがむと女の横っ面をひっぱたく。
「ふざけないで。貴方が魔物になろうとも、死んでしまったら罪は償えない」
最もな意見だ。女は叩かれた頬に手を添えながらを見た。
その表情は驚きと困惑。そして。
「今度は、旦那さんにも喜んでもらえるような仮面を作ろう?こんな辛気臭い顔ではなく、生き生きとした顔を」
――あの人は面白い仮面を作るのが好きだった。ソレを生きがいとして幸せそうだった。
私は、そんな彼を見るのが、好きだったのだ。でも、次第に仮面に嫉妬して、殺してしまった。
「魔物になった、こんな私でも、貴方のような顔は作れると言うのですか…?」
「できるよ!…だから死のうなんて事、考えちゃ駄目だよ?」
女の顔が仮面のものでもなく、元の端麗さを帯びて、柔らかな微笑みに変わった。
うん。素顔の方が断然いいに決まってる。
「の顔は馬鹿面だからな。コイツをモチーフにすんだったら誰でも喜びそうな仮面つくれんじゃねぇか?」
「本当に見ていてこっちが幸せになれるくらい、マヌケ面ですもんね」
突然、隣の三蔵がを指差しながら言ってくれた。言ってくれちゃった。
それに八戒も便乗…性質が悪いぞこの2人。
「ちょっとぉぉぉぉ!?何いい雰囲気をぶち壊してくれちゃってんのさ!!!」
振り返ると人の良い笑顔の八戒と。隣には不敵な笑みを携えた三蔵。
もう、どうにでもしてくれ。
ゲンナリ顔のは口では適わないと知っている。この2人に勝てたためしが無い。
おまけに女店主さんまで笑う始末だ。恥ずかしいにも程がある。
「ありがとうございました。貴方たちのお陰で道が開けた、と思います」
そういってぺこりとお辞儀をした女店主は、街の人々が起きたら謝罪して街を出るそうだ。
短い間だったけれど、女店主の素はとても優しいものなのだとわかった。
魔物になってしまった彼女だけれども、きっと強く生きていける。そう感じた。
それから一週間後。の元にがモチーフになった仮面が送られてくるのはもう少し先の事。
その仮面は、とてもユニークで、は自分の部屋に飾ることにした。
ソレをみた三蔵と八戒に笑われたのは言うまでも無い。
MENU
ATOGAKI
長っ!これこそ、だよね。前後編にするべきだったorz
なーんか。ちょっと、ってかかなり、おかしいな。ってかこんなほのぼのな終わり方は初めてでは無いでしょうか。
魔物たちも一言も喋ってません。今回はお休みてことで。次回は、過去編。あまり出したくなかった人物たちが出てきます。(嫌いなワケではない)
焔はもうちょい後にでも出せたらと。そのほかの人です。司教様です(言ったな)
こちらはギャグ路線で突っ走りますね!大阪弁とか無理無理無理。でもがんばりまっ。
ってか主要人物が殆ど出てきてない…。名前だけで終わってる悟空たち。ごめんね。←