魔女がないた
























The castle where a vampire is. ]



























彼女は言った。この世に存在するモノは必ず死が訪れると。
吸血鬼といえど、死ぬ。それは魔女も然り。魔物も然り。


「助けて…くださっ」


玄関先で彼女は気絶した。その身は見るも無残な容姿をしていてとても痛々しかった。
大きな帽子、真っ黒なワンピース。ボロボロのソレは何があったか容易に想像できた。

『魔女狩りにあったんだ』

彼女は心身共に傷ついていた。身体に残る無数の傷跡。折れた杖。
彼女を見た吸血鬼の少女は愛馬に担がせ客間に寝かせることにした。
このままでは死んでしまう。見るからに衰弱しきった身体は限界を超えているだろう。
それでも必死にココまでたどり着いたのだから不幸中の幸いとも言うべきか。兎に角今は休養が必要だ。
早く目が覚めてくれればいいのだが。




彼女は魔女だった。その漆黒のワンピースを着て綺麗で大人しそうな娘。
きっと家族にも恵まれていて育ったのだろう。たまの様な肌は白く可憐だ。
スラリとした手足も同じ様に白く、そこに浮かび上がる生々しい紅い傷が一層映えた。
服には火にあぶられた様な火傷の後、そして切り裂かれたのか小競り合いになったのか所々破れている。
靴も履けぬ状況だったのだろうか。素足は細かい傷が多く見られた。
城の大きな門の外に箒が転がっていたから空を飛んできたのだろうか。それにしてもかなりのモノだ。
折れては居なかったものこれまた黒こげの部分が目立つ。
火をつけられたか。



『魔女狩り』にあった魔女の娘。
彼女が目を覚まさない限り憶測だけでは諮りきれないほどの惨劇があっただろう真相はわからない。
この子は運がいい方だ。こんなご時世、魔女狩りはかなり過激なものになってきている。
これも魔物達が村々を襲い、好き勝手にやっているから。どちらかと言うと大人しい魔女は罪無き罪を背負わされ次々と殺されている。

こんな事は許されない。吸血鬼の少女は唇をかみ締めた。

吸血鬼の少女も年行かぬ見目。魔女の娘も大して変わらない見目だ。
寿命から考えると吸血鬼の方が年上だろう。魔女は其処まで長生きではないから。
















魔女が来たよ

空から飛んできたんだ

半分くらい意識が朦朧としてたのかフラフラした足取りで落ちたんだ

『魔女狩り』にあったんだね

僕等の吸血鬼の王の住む城に来れたのは幸運だ

きっと酷い目にあったんだね

大変だ

大変だ













現在城の主は不在。滅多に出かけない彼は珍しくも1人で街に下りていた。八戒に用があるらしい。
1人で留守番を仰せつかったは愛馬のももしろ君と戯れながら主の帰りを待っていた。
そして外にでようとした出先の事だった。玄関の大きな扉を開いたら『魔女』が倒れていたのだ。
まだ意識は完全に失ったわけではなく苦しそうに言った。「助けて欲しい」、と。それをった瞬間彼女は意識を手放す。
一瞬吃驚して何がなんだかわからなかっただがももしろ君の嘶きに気付かされ大慌てで部屋に運んだ。

「許せない…自己防衛のためかもしれないけど、これは人間のエゴだよ」

人形に戻ったももしろ君はまるで擦り寄るかのように膝上で身じろぐ。
悲しそうな表情をしたはもももしろ君のお陰で表情が幾らか和らいだ。



彼女は『魔女狩り』にあった。普通に暮らしていて普通に生きていたにも関わらず、身に覚えが無い罪で殺されかけた。
何もしていない。でもそれは関係なくて。ただ『魔女だから』と言う理由で人間に襲われたのだろう。
きっと彼女以外にその場にいた魔女は生きてはいない。唯一生き残った魔女の娘。これからどうやって生きて行かなければならないのか。


「ん…」

「気がつきましたか?」

「貴方…は?」

「私はこの城に住むと申します。玄関先で倒れていた貴方を見たときは吃驚しましたよ」

「ご迷惑をお掛け、しました…」


魔女の娘はが見守る中目を覚ます。その閉じられていた瞼が開いたとき現れた瞳。
大丈夫。『光』は、まだある。

娘は体の至る所に包帯が巻きつけてある事に気付くと申し訳なさそうに目を伏せた。――綺麗な瞳、もっと見たいのに。
無理に起き上がろうとするのをはつかさず止めに入って安静させるように釘を刺す。――綺麗な身体に、傷が残ったら嫌だから。
服を着替えさして貰っていた事にまた、謝罪を述べた。は気にした風ではなかったのが娘の救いだ。――綺麗な貴方を放って置く事はできなかった。

「一体…何があったんですか?」

本当はある程度までわかっていた。傷を抉るとわかっていても、知りたかった。彼女の事をもっと知りたかった。
――数少ない『友達』になりたかったのかもしれない。

「…突然、『魔女狩り』に遭いました」

悲痛に歪めた表情の彼女は、言葉を淡々と紡いだ。綺麗な瞳から涙が零れ落ちるのを見守っていたは思わず手を差し伸べる。
もう、大丈夫だ。と言うように。優しく。労わるように。そして勇気付けるように。




魔女の娘は『魔女狩り』に遭った。それまでは幸せに家族と、村の人々と暮らしてきたと言う。
しかし、それは唐突に。森を出て少しはなれたところにある人間の村人が大勢で押しかけてきたのだ。
手には武器を持ち、顔には憎悪の表情を浮かべ、憎々しげに言った。

『忌まわしき魔女は、全て死ねばいい』

『我々に災厄を齎す魔女は、この世から消えればいい』

狂気染みた様子は何かに脅えているような、人間の弱さをかもし出す。それでも殺意は消えない。
火を放たれ、寝静まる頃の時間帯で反応が遅れた。そしてほぼ壊滅状態に陥った彼女の村。
何人もの、血が流れた。何人もの人間と魔女が死んだ。
魔女の中で唯一生き残った彼女は最後の力を振り絞り箒に跨り逃げてきたと言う。
その直前まで追いかけられた。殺意むき出しのおぞましい人間たちに。
それが、とても怖くて。

とうとう泣き崩れてしまった彼女の身体を支えるととても華奢で今にも折れそうな。消えてしまいそうなまでの身体。

ゾッとした。この幼い命が消えてしまうと思うと、全身の血の気が引くような感覚。


「ここにいれば、安心だから。大丈夫だよ」


彼女が力なく笑った気がした。













魔女がなく

悲しみを帯びたその様はとても脆く儚い

魔女がなく

瞳から零れ落ちる雫はとても純粋

魔女がなく

――ねぇ、何で私は生き残ってしまったの?















魔女には魔力があった。それはとても強大で。でも無闇に使ったりはしなかった。
魔物の中で最も争いを好まずひっそりと森の奥に暮らすという。
は幼い頃そういう話を聞いたことがあり、当時の王から聞かされた話にとても興味を抱いた。

『友達』になりたいと思った。

心優しき魔女は人々に災いを齎すとして迫害されてきた。本当は、何も、危害を加えなかったのに。
それでも人々から恐れられてきた存在。とても、悲しかった。
吸血鬼は人々の生き血を啜り生きている。でも魔女は人々には優しかった。
それが災いしたのか。逆らえない吸血鬼とは違い、温厚な魔女に人々はここぞとばかりに殺していった。

無実な魔女は、その身を焼かれるとき、何を思っただろうか。

悲しんだのか。怨んだのだろうか。それとも、哀れな運命に嘆いたのだろうか。
魔女に生まれた自分を――。


















「魔女を拾ったの」

「その魔女は魔女狩りに遭ったって言ってた」

「とても可愛くて、儚くて。綺麗な子なんだよ」

「友達になってくれるって。約束してくれたんだ」


約束して、しれたのに。約束、――








『ずっと、友達でいようね』








魔女が、ないた

















































彼女は魔女だった。魔女狩りに遭い唯一生き残ったモノ。

その子は瀕死の状態で吸血鬼の少女に拾われ、暫くして――死んだ。

死因は魔力の使いすぎか。傷ついた精神の問題か。

少女にはわからなかった。最後に交わした言葉は、最初で最後の友情の証。


『ずっと、友達でいようね』

『約束、だよ』


幼い頃から夢見ていた『魔女と友達になる』という夢。

それは儚い彼女と共に、消えた。















「約束、したんだろう」

「うん…」

「だったら、そいつが死んでもお前は『友達』だろうが」

「う、ん」

「お前が生きている限り、その友情は消えない」

「っうん」

「お前が一生『友達』と思っていればそいつも答えてくれる」

「う、んっ」

「約束なんだろ?」

「うん!約束、したんだっもん!ずっと、ずっと友達でいようって、指きり、したんだもん!」

「だったら、それでいいじゃねぇか」

「三蔵っ…」


「忘れてやるなよ。その『友情』を。思いを」




























彼女は魔女だった。そして吸血鬼の少女と友達になった。

その絆は、永遠だ。































MENU





ATOGAKI
うっは。自分には珍しく、バットエンドです。いや、ある意味、ハッピー?そんな感じ。
魔女出してみました。これまた名前さえもでてこなかった彼女。ずっとヒロインと友達です。永遠の友情を最後に手に入れたんですね。
三蔵サマ最後しか出てこなかったな。でも、ヒロインを慰めると言う大事な役目を果たして貰ったのでいいんです。
さて。次回はどうしようかな