兎に角走った。もし本当にアイツが馬鹿な真似をしているんだったら俺は止めなければならない。
どうか間に合ってくれ…!
あの家はお前が居てこその、











彼と彼女の青春ストーリー2










帰った家は暗くて静まりかえっていた。昨日からお父さまは用事があると、泊りがけで出かけているから当然だ。
何年間も暮らしていた家。今ではなんかよく分らない。私が存在していた大きな家。
でも、私は居てはいけない存在だったのだ、と。この妙な静けさが追い立てているようで、怖かった。
よく掃除して、出掛ける時も帰ってきた時も必ず足を踏み入れる玄関。この前倒れちゃった階段下。毎日料理をした台所。
落ち着く和室。駈けずり周った廊下。私が入っていると気付かなくてうっかり覗かれたお風呂。夜中怖くて寝に入ったお父さまの寝室。
どれもこれも私が毎日生活してきた家、部屋――居場所。
それも今日でおさらばだと思うと切なくて。苦しくて。本当は居たくて、このままこれからもココに住みたいと叫んでる。
でも、駄目なんだよね。私の本当の家はココじゃなく、手紙をくれた祖母の家だから。
ずっとずっと一緒に暮らしてきたお父さまも三蔵もこんな厄介者が居なくなって清々するかもしれない。
―だけど、少しでも寂しいと思ってくれるだろうか。こんな仕方なく身を預かってくれた私と言う存在を。

自分の部屋に入って、荷物をまとめる手が震えた。そんなに物が多くない部屋なのに、無駄に大きくて。
毎晩のようにお月見とかした手摺りのない危険なベランダも三蔵の部屋と繋がっていて、勝手に出入りが許されていたと思うと結構不思議だ。
そういえば2階はトイレが無かったんだよね。小さいころ間に合わなくて漏らしたことを必死に隠したりもしたなぁ。
今ではもう良い思い出と言えるのかな。私は何も、何も分っていなかったんだと、気付いてしまった今でも。
居候なんて、煩わしいことこの上ないよね。なんで気付かなかったんだろう。ホント私って馬鹿なのね。ははは…否定出来ないわ。


『仕方なく、貴方を預かったのよ。そんなことも分らなかったの?ホント見かけ通りの馬鹿ね』


一つ一つ丁寧に鞄に詰めてゆく、思い出。
三蔵に買ってもらった物も、それを♀豚共に壊されたりしたけれどちゃんと残しておいた。
不器用にも治されたソレはなんだか今の私みたいだ。治してあるんだけど、頼りなくて今すぐにでも壊れてしまいそうな直りそこない。
大事にしてあげられなくてごめんね。こんな格好悪い姿にしちゃって…自分の不甲斐なさに反吐がでるよ。
洋服も、全部三蔵が選んでくれて家具もお父さまの用意してくれた…とっても不思議なデザインの物も、全部全部愛おしい。
もう縁も何も断ち切るように私は置いていくことにしたわ。未練がましい女なんて滑稽の何者でもないから。
だから荷物も全然軽くて、私は与えられるばっかりだったんだと今更気がついた。

ねぇ、私はみんなに何か与えられたかな。私の今の気持ちのように喜べるようなもの、いっぱい――。

そうだったらいいな、と思いつつ私は最後の挨拶をした。玄関を出て、お寺に続く階段の手前で深く、もう二度と帰って来れない場所にお礼するかのように。

今まで育ててくれてありがとうございます。私はもう二度と来ることはないだろうけれど、どうかお元気で。


「様。車の用意が出来ました」
「…分りました。今、行きます」

頬に伝う涙を気付かないようにして私はそう長くも無い階段を下り祖母の用意した迎えの車に乗り込んだ。本当にこれで、さよならなんだ。











「!!!!」



全力疾走で家にたどり着いた時、はまさに車に乗り込む寸前で俺は必死に手を伸ばした。
俺の声が聞こえているはずなのにアイツは見向きもしないで、その頬に涙を流して振り切るように車に乗り込んだ。
ふざけるな。お前は俺から離れると言うのか。そんな事はさせん。絶対に。

「待ちやがれ!!!」

こんなに走ったのはアイツと初めて花見をした時以来だ。面倒を見てろといわれていた俺を振り切って逃走した、小さな背中。
それを必死に追いかけた。――今も、追いかけた。あの時と同じように転ばすことなんてしない。その前に俺が捕まえてみせる。

「出して、ください」

俺はがそんな言葉を言いながらドアを閉めようとしているところに割り込んで、こじ開けた。
させるかよ。行かせるかよ。お前を1人で――行きたくもねぇ所なんざ行かせてたまるか。

「いい加減にしろ。お前の居場所はこの家だろうがっ!」

「三蔵…!私の本当の居場所は、祖母の家なの!ココじゃ、無いんだから!」

案の定、コイツは隠してる。全ての感情を――行きたくないとその驚きと悲しみで見開いた瞳が全部全部物語ってんだよ。
往生際が悪い?お互い様だろ。

「思ってねェ事なんざほざくな!いつものお前なら我侭言って、困らせるくらいしたらどうだ…この馬鹿娘ぇ!!」


スパーン!


小気味良い音がドアが開けはなれた車内と外に響いた。
ハリセンを喰らったはただただ、唖然としていて、涙をためた瞳が困惑気味に揺らめく。

――捕まえた。俺は一瞬の隙をついてドアを閉めようとしたをこの腕に抱きこんだ。
その拍子に道路に倒れこんだがそんなの気にする暇もねぇ。今はただ、腕の中にある確かな存在を手放さないよう押さえ込む事に必死だった。
もう、離さん。離せと言っても離してなどやるものか。

「私は、私はっ」
「もう黙れ。耳元でうるせぇんだよ馬鹿娘」
「っ三蔵…!」

座り込んで、足の間に押さえつけてこの腕で逃げないように抱きこんで。


「お前の居場所はここだ。ここ以外の何処でもねェ――どっか行こうとしてんじゃねぇよ…」


「ここに居て、いい、のっ?」


「当たり前だろうが…今更なにほざいてやがる。お前の家は今までもこれからも、ここだ」


泣きじゃくるを抱きしめて、俺は深く安堵した。もう大丈夫だ、と言う様にの頭を撫ぜる感触がが確かにココにいると教えてくれる。
この馬鹿がまた血のつながりだとか、居候だとか引き目を感じる事のないように、考える間さえ与えてはやるまい。
逃げて、追いかけて。転ぶなよ。
その前に必ず俺が受け止めてやるから。もう、何処にも行こうとするんじゃねぇよ…。


「無礼者!様に何をする!」

今までの一連を唖然と見ていた運転手が慌てて気付いて、車から降りてきた。どこぞの時代劇の台詞だ。
威嚇するように拳銃を持って駆けつけるソイツは俺からを離そうと襲い掛かってきやがった。
俺は咄嗟に座り込んでいたを抱き上げ立ち上がると攻撃を避ける。まで巻き込む気かコイツは。
某馬鹿3人と違って動作が遅くみえる男の攻撃など俺には通用するわけがなく、軽々と攻撃をかわしていく。

「三蔵、降ろしてよ!私重いからさ!」
「お前の体重なんぞ屁でもねぇ、よっ」

軽口を叩けるなら上等だ。やっと今までのに戻ったと思う方が今の業況の中で嬉しいとさえ思ってしまう俺は単純なんだろうか。
拳銃を向けてきたからと言って一般人に打つワケがねぇ。と、その時。

「わりっ!遅れた!」

一陣の風の如く、横切った小柄な体。ソレは目の前に居た男を簡単に蹴り上げ伸すと軽やかに着地をした。

「ご、悟空!?」

「よかったー間に合ったんだな!いやさ、学校での話…その、聞いちゃってさ。追っかけてきたんだけど道にまよっちまって」
「貴様はなんどこの家に来たと思ってやがる!迷うなんて本当の猿だってんな馬鹿なことになんねぇよ」
「俺は猿以下かよっ!」
「あぁ、猿だったな。大馬鹿がつく大馬鹿猿だ。普通の猿より格下だ」
「結局猿かよっ!」

かっこよく、俺からしたらそうでもないが突如として現れた正体は馬鹿猿で。遅れた理由が更に大馬鹿猿ときた。
全く…俺の周りは馬鹿ばっかりだ、などと悪態をつくがココはしょうがねぇから大目に見といてやることにする。
と言うか俺は助けなんざ待った覚えは無いから一発くれといてやると恨めしそうに睨んできたが俺はしらん。大目に見とく?何のことだ。

「ありがとう悟空…それに三蔵」
「へヘッ…こんなの礼言われる程のことじゃねぇって!」
「俺はついでか」

の言葉に納得はいかないが…らしいのは確かだ。期待するだけ無駄だった。
いや、正直そんな言葉なんざなくたってわかっているつもりだ。後でゆっくり(以下略)(略すな!)

ハァ…全く人騒がせな奴だ、と改めて思い知らされた一件だったと思う。それもまた酔狂。
兎に角俺はを手放さずに済んだ事を喜ぶべきだろうか。



ここに居るべき 存在

(お前は俺から離れない。その逆も然り。よく覚えとけ馬鹿娘)



ATOGAKI
うん。…うん!(何)最後はギャグでおわってしまった。そういえば悟空の存在を忘れていた、と言うか物語の流れがこんなはずではなかったので悟空が出る場所が大いに代わったと言うか。
兎に角。一件落着という所でしょうか。否そう思いたい笑。やはり展開がはやすg(ry)次回きっと最終話。