あー散々だ畜生が。
おぶったと思ったら寝やがるし、しかもその後1人のそのそと起き上がってきたと思ったら同じ布団に入ってきやがる。
…襲われてぇのかコイツは!ヘビの生殺しなんて今後一切体験したくねぇよ。
家族としてしか思われてねぇのがマジでムカツク。本当に犯してやろうか…。
あぁ駄目だ。あの馬鹿娘のせいで寝不足になった頭を無理に回転させても碌な事しか出てこねぇ。忌々しい。
今はようやく寝付けたをこの腕に収めるだけが限度で。その限界がいつ突破されるか冷や汗もんだ。
俺はこれ以上の事を望んではいけないのか。…ふざけるな、俺は手に入れたいものは何が何でも手に入れてやる。
この馬鹿娘も例外ではなく、な。覚悟しやがれ。狙った獲物はぜってぇ逃してやるものか。
彼と彼女の青春ストーリー
夏の夕暮れ、夕日が照らす砂浜の、浜辺に佇む二つの影。
それは逆光を浴びて黒いシルエットとなるが小さな背丈と大きな背丈を見れば言わずと知れたカップルかな…。
なーんて事無いです。実はアレ、悟空と悟浄が夕日に向かって叫んでるだけです。何やってのかなーあの大馬鹿コンビは。
「綺麗なねぇちゃんと一緒に泳ぎてぇなこんちくしょー!!」
「腹いっぱい上手い食い物くいてぇなぁこんちくしょー!!!」
…それぞれの心の叫びを聞いてしまった私はどのような反応を示せばよいのやら。大丈夫、今三蔵がハリセン持って向かったから。
小気味良い2発の音は波打ち際に沈んだ2人と共に儚く音を響かせる。そんな様子を苦笑して眺める私と八戒は店の片付けをする手を止める事無く働いていた。
イヤイヤ、他の3人も手伝えよ。
まぁ何故こんな海辺にいるかと言いますと実はコレ、所謂海の家なるものの手伝いをしに来ているんです。
ちょっと遠出の海は1年ぶりに見ても変わりなくて、ココロオドルのも頷ける。すぐさま私と悟空と悟浄は水着に着替えると一目散に駆け出していた。
少々浮かれ気味の私たちは後で連れ戻され、説教をダブルパンチで受けたのは記憶に新しい。ってか数時間前のことです。
あぁ思い出すだけでもゲンナリです。悪いのは私たちでありますが公衆の面前で笑い物にされた事は黙ってられません。覚えてろよコノ野郎(面と向かって言えないのはご愛嬌)
それはそうと、説教を喰らった私たち3人と涼しげな顔した2人は頼まれた海の家へと向かいました。
確かお父さまが勝手に引き受けて私たちに無理矢理押し付けていったのですよ。あの笑顔に負けた私も私ですね。
折角の夏なんだから海にでも行って来てはどうです?なんて言葉に騙されたと言うのは秘密です。特に三蔵には。
そんなこんなで、浮かれる私たちとは違って心底嫌そうな不機嫌丸出し男の運転する車に乗って来ました海です!
やっぱこのシーズンになると人が沢山居て鼻の下を伸ばす悟浄は置いといて、海の家です!
ショートパンツ型の水着に上がビキニ。そしてその上から赤い指定のエプロンを着て早速呼び込みしました!
忘れてもらっては困る、私は美人なのよ。それはもう稀な存在の完璧なまでのボディーに男共は釘付け!あはは怒らないでくださいよ三蔵サマ。
八戒と三蔵は上にTシャツを着て下はジーンズと言った海に邪道な服装で。反対に大馬鹿コンビは膝丈くらいの海パンのみ。うん。それでいいのよ。
それぞれ赤い指定のエプロンを…笑っちゃ駄目よね。やけに似合ってる三蔵を。…駄目だ堪えきれない!
でも我慢できなかったのは私だけではなかったようで、4人揃って一斉に吹き出してしまった。もちろん三蔵はブチギレましたとも。
そんな三蔵の怒りの矛先は大馬鹿コンビと何故か私で。1番笑っていた八戒が涼しげでとっても忌々しかったのは今でも心に焼き付いてます。いつか彼に災難が訪れればいいのだ。
目立つ私たちは当然の如く客を引き寄せ、この海一番の儲かり具合だったに違いない。お店の店長も吃驚してました。
本領発揮といわんばかりに私は呼び込みに専念して、悟浄は女性を口説きながら逞しく焼き物を焼いて、悟空は楽しそうにカキ氷機を回していました。
八戒は奥の店内で運びを中心的にやり、三蔵は…新聞を広げて1人楽しています。でも座ってるだけで客寄せパンダのような彼になんだか複雑な気分ですよ。
寄って集ってくる♀豚共を適当にあしらいながらうざったそうにする三蔵は見ていて楽しいのですが、なんだ、この気持ち。なんかもやもやする。
えぇい、考えていても仕方ないので私は我武者羅に客の呼び込みです。悟浄は女を中心に。私は男と家族連れを中心に。
そんな安直な作戦が項を成したのか商売繁盛した海の家、タイトル後の冒頭に戻り、夕日が眩しいです。
「アンタ等手伝いなさいよ!…そうだ。島流しってのもいい案だと思うでしょ?」
「えぇ、素晴らしい提案だと僕は思いますよ」
「あーた等ナニ物騒なこと言ってるワケ?」
「なぁなぁ島流しって美味いのか?!」
「んなわけねぇだろコノ馬鹿猿!」
片付けも無事に終わり、後は店長にあいさつしに行くだけです。1日限りという条件だったので暫し寂しい気もしますが、お陰で素敵な思いで作りが出来ました。
最初こそ面倒くさそうだった三蔵も今では機嫌が直っている模様。他の3人は元から楽しんでいたので今は私と同じ気持ちかな。
最後の悪あがきするため海に走っていった大馬鹿コンビにはこの際目を瞑りましょう。
実は私も参加したかったけど途端に眉間に皺を寄せた金髪男に慄いて踏みとどまりました。危ない危ない。私までハリセンの餌食になるところだったわ。
「ったく。馬鹿共が。こんな所この先いくらだって来れるだろうに」
「じゃあずっと、一緒に来てくれる?」
「…あぁ。来年も再来年も、この先ずっとな」
「約束だよ?三蔵」
「…当たり前だ」
その言葉を聞いて先ほどまでのもやもやした心がすっきりした様な気がした。今までのように三蔵は私たちと共に、居てくれるのだ。
それなら、寂しくないよ。
「いくぞ。馬鹿共は放っておけ」
「まさか置いていくつもりじゃ…」
「戻って来ないのが悪い。つきあってられるか」
「ま、いっか」
八戒は私たちの代表で店長さんに挨拶しに行ったからもう車の所に居るだろう。だけどあの2人は…まぁ何とかなるでしょう。
私たちが車に乗り込んだ所で居ないことに気がついた2人が慌てて走ってくるのはもう少し後の話。
今は、手を繋いでくれてる三蔵の掌を離したくなくて砂に足をとられながら歩くことに専念する。
ねぇ、その赤く染まった耳は、夕日のせいなのかしら?
帰る準備は既に整っています!
(ホントはね、帰りたくないって叫んでる。でもこれからもずっと来てくれるって言うんだから、我慢したんだよ?)
ATOGAKI
これでもまだヒロインがloveな感情に気がついていないって言うのは無理がある様な気がする。でも私は頑なに言い張ります。ヒロインは気付いて無いよ!
青春、と言う事で悟空と悟浄に夕日に向かって叫んでもらいました。いや、お前らが青春しても意味が無いよ。←
なんか台詞的にヒロインに死亡フラグが立ってしまっている様ですが、安心してください。死ネタは無理ですのでハッピーエンド大好きな管理人には悲しい結末は書けません!
そして夏の物語はこれで終わり、次回から早いけど新学期です。やっぱり青春といえば学園なので学校に戻ってもらわなくちゃね!(だから青春できてねぇって)