明日からは待ちに待った夏休みだ。実を言うと私は待っていなかったんですが、そうも言ってられない業況。
…あぁ笑顔が眩しい悟空は私の目の前でキラキラと瞳を輝かしてその犯罪的な笑みを向けるのです。
それで逃げられないと悟った私は諦めて了承してしまった。つくづくこの少年に弱い私はきっとコレは治せない物なのだと思います。
毎年恒例の…きもだめし大会なんてこの世から消えてしまえばいいんだ。
彼と彼女の青春ストーリー
真夏の世の夢。あぁ素晴らしき夜空の星ぼし達は永劫なる輝きを持ってしてそのレクイエムを謳う。
モチロン私の為にね。鎮魂歌なんて縁起でもないです。勘弁してくださいホントマジで。
あぁなんか言ってることがグダグダになってきた。心なしか足もガクガクいってるのは気づかれたらお終いだと教えてくれる。
馬鹿にされるものか。この年になってお化けが怖いのだと。しかもお寺に住んでる癖に何ほざいてやがるなんてあの金髪鬼畜野郎は馬鹿にしたように言うんだろうな。
想像するだけで忌々しい。むしろ想像しなくてもわかってしまう私の頭も忌々しい。難しい世界史の長ったらしい名前の偉人より忌々しい。
あ、化学式とかも忌々しいな。アルファベットなんて覚えてられるかってんだ。ちなみに私は2学年の主席です。三蔵は3年の主席。次が八戒。
こんな無駄知識なんてどうでもいいのさ。今はそれど頃ではないはずよ。何悠長に構えているの。試練はこれからよやっぱ勘弁してください。
怖いよー怖いよー忌々しいよー恨めしいよー。三蔵くたばってくれないかなー。三蔵ハゲてこないかなー。そうしたら面白いのに。
おっと。ご本人が隣にいる事を忘れていました。当たり前だけど気付かれた私はハリセンの餌食です。もうそろそろお墓の下のゾンビさんの仲間入りになりそうだ。
ウイルスはまず三蔵に感染させてやりますよー。あ、でも三蔵っておいしくなさそう。確かゾンビに噛み付かれてウイルス感染するんだよね。アレ?記憶が曖昧だ。
きっとコレ目の前にある、今回のきもだめしのスタート地点にいるからだよ。なんだいつの間にこんな所に来てしまったのか。
これでは逃げられないではないか!一生の不覚!私の一生は何回あるんだろう。イヤイヤどうでもいいってば!
「何だ怖いのか?情けねぇな。何年寺にすんでんだ貴様は」
「う、うるさい!知ってるくせに態々言わなくてもいいじゃない!」
思ったとおりの事を口にするこの男に殺意が沸いたのも確かなのだがいかせんきもだめしの真っ最中。置いてかれたら私は帰れまい。
それでも私をからかう金髪野郎は怖がる私に満足したのか手を引いてくれている。やはりこの男、究極のサドである。鬼畜だ鬼畜。
こんないたいけな乙女を怖がらしてなんて悪趣味な野郎なのかしら!今度は味噌汁をお吸い物に見せかけて味噌抜きの味噌汁にしてやる!
あ、やっぱ後が怖いから早くハゲる様に髪の毛を引っ張るだけに留めておきます。あ、ハリセンで殴られた。なんて理不尽なの私。(低レベル)
「ったく、いきなり髪を引っ張るんじゃねぇ馬鹿娘」
「だって三蔵が悪いんだよ!脅える乙女に追い討ちをかけるなんてイジメかっこわるい!」
「校内流行語大賞受賞してよかったじゃねぇか。それを俺に使うな」
「もうヤダー!怖いよ三蔵!早くお家に帰りたい!」
「家はココの敷地内だろうが!何処が怖いってんだ」
「こんな墓地なんて別次元だよ!ココはこの世とあの世を結ぶシャーマ●に任せてればいいだんだよ!」
「…アホか貴様は。別のジャンル持ってくんじゃねぇ!恐怖で頭までイかれちまったか?」
この上なく失礼な発言をかます三蔵はこの際どうでもいい。だって恐怖に染まる私の頭はそれどころではないのだから。
毎年恒例行事になっていたこのきもだめしは幼い頃からよくみんなでやっていた。もう数年と繰り返し、人によっては飽きるコレは私は全く慣れないのだ。
大きくなるに連れ薄れていくんじゃないかと思われた恐怖と言うのはきっとトラウマと連携して私を追い詰めているんだ。
笑顔の男が何処からそんなネタを仕入れて来るんだと聞きたくなるほど毎年違う怖い話をきもだめし前に語るのが恒例で。
その後必ずと言っていいほど一緒に周る三蔵は私を怖がらせることに快感を得ている。このど変態鬼畜生臭坊主、見習い!
こういうことが幼い頃からのトラウマとなって、年を経て回数を重ねる度にトラウマが強く刻まれているようにすら思える。
コレきっと気のせいじゃないよ!気にしたら負けだなんてこの際言ってられる状況でも何のが現実。切実に誰か私を助けてください。
喧嘩とかめっぽう強い悟空と悟浄も苦手な幽霊だけど、こういう時は面白がって率先して行うのが不思議でたまらない。
「さんぞー!怖いもう無理ヤダヤダ助けてお願い!!」
「手間のかかる女だな。しょうがねぇ。ホラ、乗れ」
お言葉に甘えて私は三蔵の背に乗った。おんぶしてくれる彼には感謝するがしてくれるならもっと早くしてくれ、なんて言ったらもうしてくれなくなるのは目に見えていて。
気が変わらないうちにそそくさと身を預ける私はいつの間にか広くなった三蔵の背中が心地よくて。そのまま眠ってしまいそうな意識を必死に引き戻した。
そんな最終的には優しい三蔵が、好きだ。それまでの過程がとてもじゃないが意地が悪いのだけれども。憎たらしいなこの野郎。
「三蔵…離さないでね」
「フン。離せといわれても離してやらねぇよ」
「うん。今手を離されたら落っこちちゃうもん私」
「…そうだな」
なんか脱力してる三蔵。アレ?私なんか間違ったこと言ったかな?
なにあともあれ、無地ゴールにたどり着き夢の中の住人になった私を背負っていた三蔵はいまだ戻ってこない3人を置いて敷地内にある自宅へと一足先に帰ったのだと言う。
数分して戻ってきた3人もそのまま私が眠る家に泊まり、きもだめし大会は無事に幕を閉じた。
いやー眠っていた間に怖いことが終わっていて私は大満足なのですが、三蔵はゲンナリした様子だった。私ってそんなに重かったですか?
「あらん。三蔵サマったら手も出せずに寝かせちゃったの?折角俺たちが気を使ってやったのにも関わらずよー」
「黙れ貴様」
「ふふふ…残念でしたね三蔵」
「ぐっすりねむってらー!」
「うるせぇ!起こすなよ馬鹿猿!」
「1番うるさいのは三蔵だろ!」
「はいはい。いい加減にしないと本当にが起きてしまいますよ?」
「チッ…貴様等も早く寝ろ。もちろん廊下でな」
「マジで!?ひっでーよ!!」
「僕は兎も角悟浄はと同じ部屋で寝かせるわけにもいきませんし、悟空はいびきが煩いですからね。当然の結果でしょう」
「俺はケダモノって事?馬鹿言え、よりによって三蔵のもんに手を出すワケねぇだろうが!」
「悟浄は兎も角、俺、いびきかかないようにすっから廊下は勘弁!」
「お望みなら、先ほどの墓地に永眠させても構わんぞ」
「「廊下で結構です!切実に!」」
「あっははは。さて、もうそろそろ丑三つ時です。僕の怖い話が聞きたくなければ寝ましょうか」
こうして、私の知らぬ間にひと悶着あった様だが直ぐ寝付いたみんな。早めに寝てしまった私は真夜中に寝付けなくて怖い思いしたのは秘密です。
これも天罰なのでしょうか。イヤイヤ、三蔵が眠る布団に潜り込めたのだから幸運ともいえるでしょう。
それにしても、なんで悟浄と悟空は廊下で寝ているんだろう。ま、いっか。
寝る準備は人一倍早いんですよ!
(そして起きるのも人一倍早かった私は勝手に潜り込んだ三蔵の隣で2度寝を試みて失敗したのは言うまでも無い)
ATOGAKI
夏と言えばきもだめし。この話を書いている時点で季節はずれなのだがこの際突っ込まないほうが良さそうだ。
ヒロインの弱点は黒光りするGとお化け。乙女とは程遠い最強ヒロインはこれでやっと乙女らしさを見出せた気がします。よかったね。←
布団に潜り込んだ時、三蔵サマは起きていたと言うのは蛇足ですが、2人して寝不足になったのも蛇足です。まぁ互いに抱える問題は違うのですが。
実は両思いなんだけど、恋心に気がつかないヒロインと、随分前から自覚している三蔵サマ。文中のヒロインが好きだ、と言いましたがまだ、likeの方だと思っている模様。
早く気がついてこの哀れな三蔵サマとくっついてくれヒロイン。笑