朝起きるといい匂いがした。
朝食、と言うか家事全般は私の仕事なのに漂ってくる香がやけに落ち着かなくて。
2度寝が当たり前の私は不本意だけど完全に目が覚めてしまった。
それでも早すぎると言う時間帯。あの寝起きがいいとはいえない三蔵が起きているわけが無いと思うし
早起きのお父さまが何かしているとは考え難い。だってお弁当作る時間にはまだ十分余裕があるからだ
のそのそ起き上がって身支度を整えて私は今に下りた。
彼と彼女の青春ストーリー
驚いた。正直コレ、現実だとは思えない。失礼な話だけどそのくらい私は吃驚していたのだと思う。
その証拠に台所に居るはずの無い男2人は気まずそうに目をそらした。笑っちゃ失礼かな?
「おはようございます。お父さま。三蔵」
「あぁ」
「おはようございます。」
無愛想な男はいつも通り一言だがお父さまはいつも通りちゃんと返事をしてくれた。目を見て言わないところが親子揃って微笑ましい。
何も気にしないように装って私は挨拶をしたが気になるのが人ってもんでしょうか。
どうやら昨晩の事を彼等なりに気にしていたようで吃驚サプライズ…朝食を作ってくれた様だ。
居た堪れなくなったのかそそくさと台所を出てきた三蔵は片手にお盆を持って居間の炬燵に座った。
並べられた料理に感動した私は手伝うことも忘れだされた料理に釘付けだ。あぁこんなところが大好きだ。
2人で試行錯誤して作られたのだろうその料理は男の手料理だったが見た目程味は悪くは無い。腕前を上げたなお主達。
3人家族団欒といった感じで座りいただきますの言葉と共に私は箸をつける。視線が痛いのは気のせいだろうか。
「おいしい…!」
自然とニヤケる頬を気にせず感想を述べると男2人は安堵の息を吐いたのがわかる。あらまぁ大の男2人揃って結構なことで。
私は全くキッパリ昨晩の事は気にもしていないのだが、変なところで気を使うお父さまと三蔵のそんな所が嬉しかったりする。
しょうがない。今晩はちゃん特性カレーライスを…え?手抜きじゃない、よ?(目が泳ぐのはご愛嬌だよね)
「、今日は何時ごろ帰るんです?」
「うーんと、早めに帰れると思う。何事もなかったら、の話ですが」
「また碌な奴に捕まらなければな」
「困ったものですねェ…女性の嫉妬と言うものは性質が悪いですから気をつけて下さいよ?」
「フフフ…返り討ちにして差し上げますよ」
「お前実は男だろ」
「逞しく育ってくれて親としては嬉しい限りですよ」
まぁまぁ。言ってくれるじゃない2人とも。昨晩の事を思い出させて差し上げましょうか。
まぁ、自分でも女っぽくないとは思うけども。けどもね。今はこの美しい美貌に免じて許して差し上げますよ後で覚えてろよこの野郎ども。
大体必要なさ過ぎるほど護身術を教えてくれたのは何処の誰なのよ。はいそうですお父さまと三蔵サマです。
小さい頃から仏業の合間に稽古させられた私はそれはもう男顔負けの腕前にもなってしましましたとも。お陰で恐れられて彼氏もできません。悲しきかな。
役に立つ方が多いのもまた然り。感謝するべきなのでしょうか。性質の悪いナンパ男とか赤ゴキブリとか♀豚共とか撃退できてこの上なく嬉しいですよ。あはは。
黒光りするゴキちゃんは苦手だけどね!え?赤い奴?楽勝ですね。(悟浄さん悲しいぜ?)(誰も悟浄だなんて言って無いよ?)(墓穴掘ったな)
「ごちそうさまでした。もう行きますね。学校に遅れちゃうわ」
「お粗末さまでした。気をつけて行ってくださいね。貴方は可愛いんですから薄汚い男共に集られちゃいますからね」
「大丈夫だよお父さま!頼りにならないけど三蔵が一緒だもの」
「オイ。頼りにならないってのは聞き捨てならねぇなコラ」
さーて遅れる遅れるー。と言って私は逃げたけど後が怖いのでごめんなさいの合図を忘れない。あ、合図と言うのは手を合わせる、見ようによっては拝んでる感じ。
慌しく玄関を出ると朝の香が気持ちよい。これから夏が始まるのが嘘のような涼しさに身を委ね、風と共に私は学校へと歩みを進めた。
衣替えをした制服。ブレザーの私は今はベストに半袖。そしてこれまた三蔵御用達のリボンをつけて短いスカートを翻し通学路を歩いていた。
隣には朝が弱い、しかも今朝はなれない早起きをしたため聊か不機嫌な三蔵が同じ歩調で歩いてくれている。
コレは暗黙の了解みたいなもので、コンパスが違う三蔵のほのかな優しさだったりする。
そんな彼に腕を絡めると機嫌がよくなるのはきっとこれも七不思議の一つだと密かに思っていた。コレも微笑ましい兄妹だと思われるのだろうか。
そこら辺は身辺調査などしていないので解りかねる物だがどうでもいいと思うのも本音だ。
学校に近づくにつれ同じ制服の学生たちが多くなる中、私たちは見世物状態だった。当たり前よね。こんな美男美女が歩いてるんだもの。気にならないほうがおかしいわ。
まぁ。私たちの関係は学校中に知れ渡っているのだけれども。
「ねぇ三蔵。お弁当、持ってきた?」
「今日は父さんが忙しかったからな。購買行くしかねぇだろ」
「悪いことしちゃったかなぁ…」
「…お前は悪くねェ。うじうじしてんじゃねぇよ気持ち悪い」
言葉は悪いけど彼なりに気にするな、と言いたいらしい言葉は私の心を軽くする。いつもは朝食は私の担当でお父さまがお弁当をこしらえてくれるのだ。
そんなお父さまに――ぶっちゃけ彼等が悪いのだが――余計な手間を掛けさせてしまったことに申し訳ない気がする。
まぁそんな事気にしたらお父さまの努力が無駄になるのが目に見えているので素直に甘えることにした。
…思ったのだが朝食は三蔵が作ってお弁当はいつものようにお父さまが作ればよかったのでは、と思うが気にしたら負けだと思え。私。
少々負けず劣らず抜けているこの男2人は気付いて無いのが幸か。え?私も人の事言えないって?…んなことないやろーチッチキt(は自重と言う言葉を覚えた)
校門を潜ると緩やかな坂道が桜の木を両脇に植えられ伸びている。横からグラウンド全体が見渡せて其処に見知った友を見つける。我ながらに目聡いと言うのは褒め言葉ですよ奥さん。
サッカー部に助っ人として呼ばれている悟空は元気にグラウンドを駆け巡っていた。なんて微笑ましい光景なのかしら。
同じクラスの彼とはこれまた小さい頃からの幼馴染であり、私の癒しだったりする。うん。可愛い。
遠くの方に赤い髪の毛が見えるからきっとサッカー部のマネージャーを口説いてるんだろうな。いい加減その癖を直したらどうなんだ、と前に言った事があるけど
反対に『ナニ?ちゃんやきもち焼いてくれてんの?悟浄さん嬉しいワw』と言われたので床とお友達になってもらいました。
後で八戒からのお説教を思えば軽いものでしょうね。二度と近寄るなエロガッパ。
そうだ八戒と言えば今日生徒会の会議に呼ばれてるって言ってたっけな。朝早くからお勤めご苦労様です。ちなみに八戒は風紀委員長だったりします。
人の良い八戒は勝手に推選された挙句見事当選してしまったので…犯人は言わずと知れた大馬鹿コンビなんですが道ずれに彼等も風紀委員です。
あの時のすさまじい光景といったら…見なければよかったと言う気持ちの方が大きいですよ。えぇそれはもう恐ろしいことこの上ないです。
ま、難を逃れた私と三蔵はニートもとい帰宅部なので結構自由人だったりします。でも時たま手伝わされるのはご愛嬌ですかね。(別に八戒の笑顔が怖いなんて言ってませんよ?)
大馬鹿2人は自業自得としてどうでもいいんですが、あの大馬鹿2人の尻拭いをさせられる私達は理不尽過ぎる。三蔵はバックレることの方が多いのでコレもまた癪に障るんだなー。
怒ってない怒ってないよ。殺意は沸いてるけど怒っては居ないよ。え?同じ事だろ?…三蔵あんた良くそんなことが言えるね。ぶん殴るぞ☆
私が三蔵に敵わないことを知っているので言いたい放題の三蔵ですが、この前晩御飯のときこっそりマヨを特性辛子檄からマヨネーズに摩り替えておきました。
…こっ酷く怒られたけどね。でもそれに懲りたらしい三蔵は言葉に気をつけています。成長しましたね。おばさん嬉しいよ。
思い出に浸っていると隣を歩いていた三蔵は急に立ち止まり、私に向き直って言いました。
「靴を履き替えろ馬鹿娘」
…どうやら昇降口に着いたようです。指摘されなくてもわかってるやい!
それぞれ教室に向かうため別れる…と思いきや私たちはそのまま風紀委員室に直行です。八戒と共に。
何もしなくても歩いてるだけで目立つ私たちは生徒会室の窓から登校するのを運悪く見つけられ連行された、と言うのが正しい。(もしかして私より目聡いのは八戒だと思う)
八戒の話によると、悟空は大会が近い為助っ人が忙しくて仕事が出来ない為(と言うより仕事自体普段できないのですが)その代わりに私たちに白羽の矢が立ったと言うわけです。
風紀委員室に入るとゲンナリした様子の悟浄が居たんですが、きっとコレ、マネを口説いてるとき携帯で八戒に小言言われたんだよ。
ゆっくり歩いていた私と三蔵より早く居た事が何よりの証拠です。自業自得だね。
そんなワケで仕事を押し付けられた私達は朝のホームルームそっちのけで仕事に専念することになりました。サボりの口実にはもってこいですが仕事の量が半端無いんですね。
これも普段問題を起こしているこの男たちのせいなのでありますが私も人の事言えないので黙って作業をこなします。
あわよくば…ですが八戒が風紀委員室を後にしたのを見計らって悟浄を生贄に私と三蔵は屋上に行きたいと思います。
逃げる準備は既に整っている!
(当然ですが見つかってお説教を喰らったのは言うまでもないですね)
ATOGAKI
ホントに何が書きたいんだ私は。夢ではなくなっている気がしますが、気のせいではないでしょう。都合の悪いことは目を瞑るのが得策かと。←
前半は前回のお詫びに…と言う光明さんと三蔵サマの心遣いです。何度か繰り返す2人は学習能力が欠けていると思うのは私だけでしょうか。
イヤイヤ抜けているんですね。普段は完璧なのに不器用。そんな2人が大好きです。ヒロインと管理人は。(黙ってろ)
悟浄は弄られキャラなので(哀)八戒への生贄はもってこいです。そして悟空は可愛いのでヒロインが庇います。素晴らしい贔屓です。(笑)
まぁ、基本仲良しなので弄り弄られ戯れる。そんなほのぼの青春ストーリー。だから青春になってないって。