ねぇお父さま?なんで捻くれた性格は直せないの?
え?
もう手遅れだからですよ?
…そっか。言われてみればそうですね。
そんな事よりお茶しましょうという言葉に私は当たり前の如く縁側に腰を下したお父さまの隣に座った。
気付いていらっしゃるのか、後ろの襖の奥には捻くれた性格を持った張本人が青筋を立てて居ます。
そんな彼にも声を掛けて3人で仲良くお茶会です。
彼と彼女の青春ストーリー
代々受け継がれているこのお寺。それは日本の古き伝統を損なわせず静かに、鮮やかに、そして穏やかに時を刻む。
夏間近な日差しはいつもより優しくて穏やかに綺麗に整えられた庭に降り注ぐ。
ひっそりと息づいているけれど見れば可憐な花達が心を込めて育てられそれに比例して美しく咲き誇っていた。
ココの住職の人の良さが滲み出ている境内の一つ縁側に腰を下ろしてお茶を啜るのが住職でもあるお父さま、時期後継者の三蔵それに挟まれた居候の私だ。
目の前には緑に色づく青々と茂った木々が植えられ、季節を堪能できる桜の木、紅葉の木、そのた色々とちょっと変わった風景がある。
松ノ木など植木職人達の手によって綺麗に整えられ純和風の庭園は見事な物だ。
広い広いこの敷地にはお父さまのご趣味な物がわんさか。時たまおかしなものまであるが其処はツッコんではいけないという暗黙のルールなるものがあったりする。
小さい頃から見てきたものだが飽きることは無い。むしろ年を重ねるごとにその風味が身に沁みてくる、と言ったら金髪野郎は婆か、なんていいやがりました。
そういうあんたの方が爺くさいわよ。いたっ!…殴ることないじゃない!ほのぼのした雰囲気をぶち壊してくれた小気味良い音は境内に響き渡った。
左隣のお父さまは『仲がよろしくて羨ましいですねぇ』なんて言ってるけど見てないで助けてくださいと言うのが私の心の叫びだ。
右隣の糞金髪野郎は清々したのかなんか満足げだ。そんな姿もムカツクんですけどっ。
「平和ですねぇ…」
隣の私と三蔵の喧騒を物ともしないお父さまは呑気に呟いた。
その言葉に静かになった私達は同時にため息。この人のマイペースぶりは今に始まったことでは無いけれどなんだか脱力感を煽る。
もしかしてそれが狙いなのかもしれない、と思ったけど笑顔の裏側は読めない。…侮れないです。
まぁ、本人はホント何も考えては居ないのだろうケドそれでも腑に落ちないと言った様子の三蔵は仏頂面でそっぽを向く。
これもいつもの光景だ。そして私が笑うとまた不機嫌になるんだろう三蔵は煙草を取り出し貪った。
煙い、なんて言葉は綺麗にスルーされ、終いには煙を吹きかけられた。…いつかホントにシメる。絶対に。
そんな報復を胸に私は用意されたお茶菓子を食べた。口内に広がるほどよい甘さがとろける感覚に自然と頬が緩む。
コレは八戒お手製の和菓子だ。いつもいつも遊びにくるたんびに持ってきてくれるのでお菓子目当てで呼び出した回数は数知れず。
それでも優しい笑顔と共に作ってきてくれる八戒に心が和むのも自然現象。私のお嫁さんになってくださいと言ったら引かれたのも自然現象…なのだろうか。
苦い思い出と共に口内の甘さが程よく飲み込まれ私の気持ちは天にも昇る気持ち。
そんな私に水を差すのが当たり前の三蔵。一言キモイって言われたけど八戒の優しさに免じて今は許してあげることにした。
「ねぇお父さま。今晩食事に誘われてるの。だから晩御飯は三蔵に作ってもらってね?」
「…そうですか。のご飯が食べたいんですが我慢しましょう」
「オイ。貴様勝手に押し付けてんじゃねぇよ!行く前に作っていけばいいだろうが」
「冷えたご飯なんてご飯じゃないわ!普段何もしない三蔵が作ってくれてもいいじゃない!」
「誰がやるか!面倒ごとは貴様がやれば十分だろう」
「…そうですねぇ。三蔵のご飯は大雑把でとても食べれたものではありませんよ」
「ぷっ!言われてやんのー!」
「父さん…!貴様!笑ってんじゃねぇよ!!」
フォローにもなっていないお父さまの言葉を聞いて三蔵は聊かショックを受けていたけどこの際抉ってやろうと思う。
だって今まで散々コケにされてきたからね!報復じゃあ!
…なんて事できるはずも無い私はやっぱりハリセンの餌食になったけど、お父さまの影に隠れて2発目は免れた。後が怖いけど。
時は流れ夕方。西に傾いた太陽が赤く染まる頃、私は自分の部屋に居た。
先ほどのお茶会は三蔵の暴走によりあえなくお開きになった為後ろ髪を引かれる思いで八戒お手製の和菓子をしまった。
きっと明日にはお父さまに全て食べられてしまうと思うと諦めるほか無い。だって八戒はお父さまに、って言っていつも置いていくのだ。
私の性格を見ている八戒だからこその無言の圧力だ。…忌々しい。
残り僅かだったとはいえ私は学校と言うものがあるのだ。いつも縁側でお茶をしているお父さまに食べられるのは当たり前の事。
それでも時々残してくれるお父さまは優しい…ケド、私が食べているのを残念そうに見ているから敢え無く口に入ることは無い。
…そのまま和菓子をお父さまにあーん、と言って食べてもらうからだ。その時の笑顔は犯罪級。恨めしいことこの上ないのだがその笑顔を見ると綺麗サッパリ機嫌が直る私も末期だろう。
毎度の事ながら私もお人よしと言うかなんというか。まぁお父さまが大好きだから別にいいけれど。
そんな事は置いておいて私は今、迷っていた。今晩着ていく服が決まらないからだ。今日は休日で普段着(寝間着とも言う)だったので外行き用の服を選ばざる得ない状況。
全くと言ってもいいほど外食とか外に出ると言うことをしない私なのであまり服選びが上手ではない。
学校は制服でいいし、服装なんて二の次だからね。流行のファッションなんて、ナニそれおいしいの?なーんて悟空みたいな事言ってみるけどむなしさが広がるだけである。
小さい頃は何処からとも無く買ってきたお父さまが着付けてくれたけどこの年になってそれは無いだろ。乙女のプライドが邪魔をする。…忌々しい。
ま、私は言ってみればそこらの女より華がある。ぶっちゃけ言うと何着ても似合うし、美人だ。自分で言って虚しいなんて頭に無い。
だってその通りなんだもの。ホホホ。ひれ伏せぇ、愚民共。(コレはコレでウザイけども)
それにしたって、私がいくら美人とはいえファッションの欠片も無いなんて格好がつかないのかもしれない。宝の持ち腐れ?埋もれた花?
…こうなったら三蔵にでも相談してみようかな。実のところ仲良しなのである。
「入るぞ」
丁度いい時に。ノックもなしに乙女の部屋に入ってくることはいつもの事な三蔵。今は救世主と言うべきか、それとも変態と言うべきか。
「乙女って言う年でもあるまい。と言うより今更だろ」
言ってくれるわね。今更なのは認めるけど年頃のおんにゃの子の部屋に入ってくるのも問題なんじゃないかな。
ってかこの年は乙女で合ってます。だって華の女子高生よ?…聞き入れてくれることも無いだろうけど一応言ってみる。
「貴様のツラは女子高生にみえねぇよ」
「それはアンタもよ」
お互い様だ、と言う事で収まった言い合いは終焉を向かえ私は本題に入ることにした。
この男は家事はめっぽう駄目男だが、他の事に関しては女の私よりセンスがいい。…お父さまとは偉い違いだ(お父さまは一種のゲテモノ好き)
買い物も渋々と言った様子で付き合ってくれたりするのだが、私が目につけたものを悉く却下される。ナンセンスな私は従わざる得ない。
店員さんも私が選んで合わせた服に顔が引き攣っていたのはこの際見なかったことにしよう。そうしよう。
その他に1年遅れて入学した時の話もある。真新しい制服に身を包んでお父さまにお披露目していたときのことだ。
『この制服には似合わない』と言ってネクタイを外したり『お前にはこの色だ』なんて何処から出したのか不明なネクタイを器用に締めたのも覚えている。
そのせいで入学早々先生に怒られた事もあったし上級生に目をつけられたのも三蔵のせいでは無いのか。
まぁその時は『俺が仕立てた物に文句あんのか』なーんて先生を恐怖のどん底に落としたのは消したい記憶の1部だったりする。
あの時の事は今も伝説として学校の七不思議に…嘘嘘。こんなことを七不思議にしちゃったら七個じゃ足りなくなるわな。
そんなワケで前置きが長くなったけど本題。
「うーんとね、デートに着て行く服装?にしたいな」
どんなのがいいんだ?と聞かれた質問に正直に答えたつもりなんだけど、コレは三蔵のお気に召さなかったらしい。
眉間に皺を寄せて(いつもの事か)一気に不機嫌になった。アレ?どうしてさ?
「それなら貴様が選べばいいだろうが」
遠まわしに恥を掻きに行けと、そういうことですか。
納得いかない私は反論を試みるが無駄に終わる。そそくさと出て行ってしまいそうになる三蔵を引き止めることで必死だ。
何よ。冗談言っただけじゃない。アンタは冗談も通じない男なのか!…そうです通じないんですこの男。
これは真面目に答えた方が良さそうだ。
「嘘!ホントは普通でいいの。友達に誘われてるだけだしね」
「端からそういえばいいだろうが。貴様は無駄口が多すぎる」
だって三蔵の反応を見てみたかったんだもん。なんていえるわけが無いので黙るけど視線で感じ取ったのか呆れた様子の三蔵サマ。
ペシッと軽く叩かれた頭が心地よいのは何故?イヤイヤMじゃないですよ。そうですよ。
そんなこんなで根は優しい?三蔵が選んでくれた服を着て私は玄関を出た。
寂しそうなお父さまには申し訳なかったけどどうせあの寂しそう、と言うより三蔵のご飯を食べさせられる事が悲しいのだあの親父は。
仕方ないけどお父さまに内緒でビーフシチューを作ってあげたのは三蔵に任せて私は心置きなく街に繰り出した。
お土産は無しよお父さま。私の心配よりご飯の心配をした報いだと思えば軽いものでしょう。まぁお父さまの笑顔に弱い私はちゃっかりお土産を選ぶのだけれども。
ヒールを響かせお寺に通ずる階段を下ると目の前には車。しかも見覚えがある物だ。待て待て、もしかしてこれは…
「乗ってけ。送ってってやる」
「イヤイヤ、アンタ何言ってんの!?」
乗りなれた車の助席をあけると尊大な態度で運転席に座る金髪野郎。
アレ?私の思い違いでなければまだ免許取れる歳じゃないわよね?アレ?どういうこと?誕生日の2ヶ月前でも無ければ無免許になりますが。
「ちいせぇことをグダグダと抜かすな。送っていかねぇぞ」
「イヤイヤ、捕まるよりマシなのでは?」
「そうか。のらねぇのなら車庫に戻すか…」
「嘘です冗談です乗せていただきます!」
「…早くしろ」
そうです。この男、実は数年前から無免許でお父さまの車を乗り回しているのです。そこらの初心者マークつけた人よりベテランでっせ。
良い子は真似しないでね!
運がいいことに捕まったことは無いらしい…その容貌を見た人なら納得いくからあえて突っ込まないことにする。そうじゃなきゃ命が無いのが本音だ。
それより来るの早くね?と言う疑問は愚問なのですよ。
物静かなお父さまのご趣味な曲が流れる車内で私は三蔵の上手すぎるハンドル捌きに釘付けだ。誰がこの男に教えたのだろうか。
ま、この男は見て覚え技術を吸収したのだろう。眼鏡を掛けた横顔がやけに様になっている。
日中はサングラスをかけていることもあるのでスモークがかった車ではとても堅気には見えない。あ、怒らないでね。片手運転は危ないから。
良くお盆の時に家を回るお父さまが送迎を頼むのはどうかと思うが、今更である。犯罪だと知らないのかな。そんな馬鹿な。
細かいことは気にしない性質なので私も当たり前の様に助席に身を委ねて行き先を告げてい無い事に気がついた。
「今更だけど、待ち合わせがロ●ホなんですが」
「…そういう事は早く言え。過ぎちまっただろうが」
ってか聞けよ。と言うのはこの男の機嫌を損なう恐れがあるので言わないけれどもね!過ぎたからってそのまま帰ることも無いじゃないか!そうは思わんかね皆さん!
帰る準備はして無いけど!
(あー。明日友達になんて言い訳しようかな)
ATOGAKI
ホント青春そっちのけだな。そんな感じで、今回は三蔵サマの特技?公開です。そのことを後悔しても時既に遅し。あ、上手いこと言ったんじゃね?←
最終的には何だこのオチはてな感じですね。場所過ぎたからって家に帰るのもどうなのよ三蔵サマ。そんな所が彼らしい…なんちゃって。
コレ実はお父さまの陰謀です。晩御飯は一緒に食べたいと言うお父さまの願望…。どんな家庭だ。笑
うん。ヒロイン毒舌なだけです。実は三蔵の気まぐれもお父さまの我侭も好きと言うか、本人なんとも思っちゃいません。友達との食事だってどうでもよかったんですね。
大好きなんですよ家族が。ヒロインの世界は三蔵達中心に回っているので哀れとかそんなんじゃないです。一部抜けてます。苦笑。