妬まれることはそう少なくは無い。
今日だってなんだかんだと理由をつけられては罵られ、何故か突き飛ばされた。
その拍子で足首を少々捻ったのだが大したモノでも無いのでそのままだ。
予想通り数分したら痛みはひいて普通に歩ける。
こんなことを知ったら、アイツはどういう反応を示してくれるのか…わかりきったことだった。


そう、玄奘三蔵とは私に何かあれば鬼の如く対処してくれる少々過保護な同居人。
否。
私は彼の家の居候だ。







彼と彼女の青春ストーリー 01







まただ。また呼び出しされた。
今度は何さ?と思って来てみたら…案の定アイツの事だった。
一緒に登下校やなにやらしている私を嫉んだ醜い女達の襲撃。こんな事は慣れきった日常茶飯事と言っても過言ではないだろう。
まぁ嫉む気持ちもわからなくは無いが、だからといって私に八つ当たりなんて理不尽にも程がある。
そんな理不尽さを押し付けてくる恋する乙女…主に先輩達は同じ台詞を投げかけてくるのだ。
近づくな、やら、不細工、やら。
そんな言葉を聞いてもなんの効力が無いことをいい加減に学習して欲しいと思う。
現に今、私は耳を穿りながら聞いているのだが…それも気に障ったらしい先輩は私にビンタを一つ。

あー。怒ったよ。私は怒っちゃいましたよー。

私は私に危害を加えてくる奴が大嫌いだ。モチロン、アイツのハリセンはもう諦めているが。
でもでも、こんな♀豚にビンタを喰らうなんて…一生の不覚!とでも言う様にわたしは目を見開いた。
コレは驚きではない。悲しみでも、痛みを堪えているわけでもない。
そう、ただ私は怒っているのだ。そんな爪を伸ばしてチャラチャラしている女の手が私の頬を打ったと言う真実に。
それと、先ほどの言葉を訂正しよう。私は怒っているがそれ以上に恐ろしいことを考えている。この赤くなっただろう頬をアイツに見られる、と。
そうしたらこの先輩達は一生立ち上がれないほどの恐怖に出会うこととなる。あぁおそろしや。
御免ね。私は我が身が1番…でもないが可愛いのだよ。だからあんた等の事なんて構ってられません。
アイツに怒られるのは私なのだから、それ以降の貴方達が体験する出来事なんて知らん。知りたくも無い。
ましてや助ける気も、敬う気持ちもございません。潔く成仏してくれることを願うばかりであります。
そんな私を恨んで祟らないでね。これ切実。

「痛いじゃないですかー先輩。コレ見られて怒られたらどうするんですかねぇ?」

もしも、なんてことはありえないのだ。怒られたら、なんてそんな人事に考えてられない。
確実に怒られるのだ私は。『またワザと殴られたのか。そんなんで女の気が済むわけないだろう』、と。仰るとおりでございます。
現に殴られて、一旦は収まるものの明日になればまた呼び出しだ。…まぁこれから私がすることを考えれば当然なのかもしれないが。

「私、アイツに怒られるのが1番イヤなんですよねー。だって、知ってます?アイツってば乙女の頭を思いっきしハリセンで殴るんですよ?
 信じられますか?あの何処から持ってきたかもわからない正体不明のハリセンでスパーン!と一撃。アレだけは私も泣く思いですよ。
 ま、こんな事が知られたら貴方達は私の比じゃないくらいもっと恐ろしいことになるんでしょうが私は偉いので親切心で黙っておいてあげますが。
 だって私も知られたらやっぱ怒られるんだもん。だから、どっちもどっちって事で一発殴らせて?

あぁコレも理不尽と言うべきか。私の言い分は聊か文脈が無い上とっても理由になっていません。理論に反する回答です。
先輩達も何がなんだか、といった様子で私の事を凝視しています。殴られて狂ったかこの女は。と顔に書いてありますよ先輩達。
それでも私は口元を歪めて笑うのです。ご愁傷様、と。


それからの事は覚えていません。嘘です、はっきりとこの目に焼きついています。
5、6人で私の事を囲んでいた先輩達は次々に地に伏せていき、終いにはケバイ化粧を乱して、その綺麗に巻いたパーマを散らかして、必死に逃げ惑うのです。
負け犬とはこの事を言うんですか?幸運なことに何度もこの光景を目の辺りにしてきた私は負け犬になった事などございません。
ましてや、こんな醜い女共の気持ちも、心情も、恐怖も何もかもわかりかねます。
だって私は被害者であり、どちらかと言うと加害者なのですから。今この現場を見られたらきっと疑われるのは私が先です。
がによるのためのストレス発散現場目撃!と言う見出し付きで。
でも、この事は学校全体に知れ渡っているのでまず私が疑われることは無いでしょう。先に手を出したのは先輩達だ、と皆さんはわかってらっしゃる。
私は私に被害を加える奴はとことんぶっ殺しますが、反対に私に被害を被らなければ何もしない、と言うこの時代には珍しい正統派なんです。そうなんです。
どっかの誰かさんみたいに無意識だけれども不機嫌さを撒き散らす金髪生臭野郎とは違い、女なら誰でもいいと言うケダモノでも、黒い微笑で周囲を凍らすこともしません。
最後はむしろ出来ません。こんな事を言ったら絶対殺されます。誰に、とは言いませんが。
あの元気少年は私の癒しです。可愛すぎるのも犯罪的ですよね。
そんな男4人に囲まれた私はいわゆる逆ハー状態なのですが、実は違うんです。あいつ等の私の扱いなんて男同然ですもの。
女として見られて無いと言うのが悲しいですが、それも居心地がいいのはきっと気のせいじゃないでしょう。
ちくしょう。私は仮に華の女子高生。そして輝く乙女なのですよ!
…考えてたら腹が立って来た。
さっさとこのコンクリートに横たわる残骸を片してお昼ご飯にしなくては食いっぱぐれるのは目に見えていて。
それに遅れたら遅れたで眉間に皺を寄せる金髪野郎が怖いんです。逆らえないって…悲しいね。
そんなこんなで私は屋上に通ずる階段を下りて一目散に隣の棟の屋上に行きます!
きっと今の現場目撃されていたわ。だって金髪と手摺り越しに目が合ったもん。にらまれてたもん!
ま、言い訳やら理由やら言わなくて済むだろうし、今はハリセンをどう交わすかだけが私に課せられた試練だと思います。




準備運動はバッチリです!
(でもあの早業は避けられるワケがない)




TOGAKI
やっちまったよ。学園ストーリー。否青春ストーリ。もう青春じゃなくね?ヒロイン初っ端から呼び出しされてるし。あっははは←
今回は強気なヒロイン。そして三蔵サマには逆らえないお馬鹿な子と言う設定。喧嘩はめっさ強い。色々慕われて時には嫉まれる羨ましいポジションです。
これからそうラブストーリーに発展していくか謎なモノですが、どうぞお付き合いください。サラバ。