拝啓
お父さま、三蔵。今までお世話になりました。今の私があるのは貴方たちのお陰です。
はなんの苦労なくココまで育ってきました。実の娘のように育ててくれて本当に感謝しています。
ご信用の体術も、お経を読む教育も、全て2人の賜物です。
元気に毎日駆け回った境内も見飽きることも無く、暖かな家庭も全部全部大好きです。
不束者ですがどうぞこれからもよろしくお願い致します。
より
彼と彼女の青春ストーリー 幼少編
桜咲く、境内に花びらが散乱する頃、私はこのお寺に引き取られた。
初めて見た広い敷地には色とりどりの草木が植えてあり、緊張していたものが全て取り払われたかのような感覚に自然と落ち着く。
私の両親は事故か何かで息を引き取り、親戚が居ないし、身寄りも居ない私は今のお父さま、光明様に引き取られたと言うわけである。
暗い私の心に光が差したような、太陽のようなお父さまに心を開くのはそう難しいことではなかった。
同時に、案内された私の新しい家に居た江流と呼ばれた、後の三蔵に心引かれたのもこの頃だと思う。
「江流、こちらのお嬢さんが新しい私たちの家族です。仲良くして差し上げてくださいね」
まだ幼かった私は両親を亡くしてからと言うものの根暗で、瞳に移るもの全てが怖かった。
今はまだ、優しげなお父さまの笑顔に救われ、そのお父さまの後ろに隠れる事しかできなかったのだ。
三蔵を紹介されてもその吸い込まれるような紫暗の瞳が怖かった。
自分が穢れてると言われているようでその綺麗過ぎる瞳は真っ直ぐに射抜くもんだから幼い私には少々刺激が強すぎたのだ。
最初は女の子かと思い、仲良くできるかも、なーんて思って声を掛けたら怒られたのでそれも後押しして怖いとしか思えなかったんだと思う。
…今思えば子供と言うのは怖いもの知らずなのかもしれない。兎に角最初に怒られたのでその恐怖心が身について近づくことさえも出来なんだ。
と言うかアレは三蔵が悪いんだ。ああも怒鳴られたら怖かるしかできないとおもうんですが。あの金髪野郎は相変わらずだったと言う事だ。
そんな初対面で仲良しこよしなんて出来るはずも無く、数日間私と三蔵は会話をする事も、近づくことさえもしなかった。
それを良く思ってなかったお父さまは気を使ってかお花見をしようと提案してきた。これで少しでも交流を深めようと企んで居たのだ。
私は純粋にこの綺麗に咲き誇る桜が好きだったので二つ返事で了承したが、捻くれた三蔵は面倒くさがって渋々と言った感じだった。
その態度も気に食わない私はちょっとブルーになりつつ決行された花見に参加したが心は晴れぬまま。
険悪ムードが続くぎこちない花見はお父さまにとって残念なことコノ上無かったと思う。そっぽを向き合う私たち2人に肩を竦めるとやれやれ、と言った感じで。
そんな私たちを見かねてか家の中に置きッぱだった団子を取りに席をたった。
これもあの人の計らいなのか、計画なのかも分らないが残されたガキんちょ2人は居た堪れなくなって。
最初に音を上げたのは私だ。時々聞こえる舌打ちやらため息やらに恐れをなしたのか…兎に角その場に居ることが無理だった。
桜の木下に敷いた茣蓙から出ると一目散に駆け出し、逃げるようにその場を離れたのだ。
見張りと言うか世話を任されていた三蔵も大慌てで後を追ってきたがそれはそれは鬼の如く、恐ろしい。
後ろから追っかけてくる恐怖に泣きながらも逃げていた私はなんて滑稽だっただろうか。イヤイヤ怖いものは怖いのだよ。
「待ちやがれ!この馬鹿娘ぇぇぇ!」
「いやだー!来ないでってばぁー!!!」
果てしなく続く追いかけっこ。その時間が長くて、マジ泣きしてしまう私。そして般若の形相で追いかけてくる鬼もとい三蔵。
多分、これもトラウマ決定だろうと思ったその頃、この延々と続くと思われた追いかけっこが終焉を迎えた。
怖くて怖くて怖くて、泣きながらの私は足が縺れていて躓いてしまったのだ。派手に。ズッコー、と。滑ったその長さ約1メートル。我ながらに情け無い。
痛さと恐怖で更に泣き喚く私。広い広い境内を2週くらいしてしまった三蔵は息を切らしながらあきれたようにため息を吐いた。
そして、何処からともなく出されたハリセンで――きっとこれが初めてのハリセンの餌食になった時に違いない。
ダブルパンチもといトリプルパンチ(鬼の恐怖、転んだ痛さ、ワケもわからぬ衝動)を食らった私はもう誰にも止められない。もう洪水の如く涙が止まらない私。
しかしそれは一瞬にして止まることとなる。三蔵の思わぬ行動で。
「煩い、泣くんじゃない。俺の分の団子もやるから」
「…え?」
よしよし、と撫でられる頭。そして包まれる体。目の前は真っ暗なのに何故か落ち着く自分。
あの怖い三蔵が以外にも優しかったのだと、幼い頭に刻まれた偏見を見事に翻した瞬間である。
あやす言葉は子供ならではのモノだったがそれに喜ぶ私も私だ。泣いたカラスがもう笑ったと言うのはこの事か。
途端にまんべんな笑顔を浮かべた私に三蔵は苦笑したのを今でも覚えている。…あぁ、あの笑顔は純粋だった。今ではもう――。
「うへへー。三蔵可愛い…」
スパーン!
「貴様、眠ってると思ったら何言ってやがる!犯すぞ!!」
「いったーい!何すんのよハゲ!」
「誰がハゲだ誰が!」
「三蔵なんて将来ハゲになるんだから潔く認めればいいんだっ!」
「…ほう。そうか……貴様はそんなに死に急ぎたいのか。安心しろ、その前にお前は生きちゃいねぇよ!」
あの笑顔はいずこへ―まぁ苦笑だったのだけれども―今ではホラ、そんな剣呑な笑顔…ではなく凶悪に歪んだその口元が。(その2つに変わりは無いが)
それはともかく私は幼い頃の夢を見ていたようだ。あの穏やかな日々を久し振りに見れてなんだかいい気分…イタッ!もう分ったってば!
「ゴメンナサイ許してくださいお代官様」
「チッ…そんな所で寝ていたら風邪引くだろうが」
まぁでも、あの優しさは今でも衰えていないようでナニヨリデス。やっぱ捻くれた根性はそのままだけども。
片手に持った毛布が三蔵の優しさを表しているようで、ニヘラと私の頬は緩み、またハリセンの餌食になるのはあと数秒後の話。
でもそんな日常が大好きなのですよ。さんは。これからも幸せと共に生きていけたらいいな。
「また閉まりのねェ顔してやがるとマジで犯すぞこの馬鹿娘」
やっぱ無理かも。
あの頃はみんな若かった
(戻りたいとは思わないけど)
ATOGAKI
幼少編です。1話にまとめることが出来てよかった。そんなワケで、2部を始める前に昔を振り返ってみよう!みたいな。コレ書いたの2部の1話目書き終わってからですが。
まさかの夢オチ。でもでも実際にあったことなので…ヒロインには苦い思い出…三蔵も然り。笑。まぁココからヒロインちゃんと三蔵サマの物語は始まったワケであります。
2人にとってファーストコンタクト(ルパソみたいだな←)かなりデンジャラス(爆)ではでは。これからも良しなに。