あぁ。恋の花が散った…。なぁ政宗さんよ?アンタに一体何があったって言うんだい?
俺は、やっと人間らしく恋ができたアンタがとっても微笑ましかったんだ。
なんていうか、嬉しかった。子の成長を見守る親みたいな、まぁ恋の話だけなんだけどさ。
「ん?どうした慶次。そんな悲しそうな顔してよー」
「元さん…だってさ、政さんが」
「んだよ。お前さっさと帰っちまったからしらねぇんだよな。政宗の奴は海見を奪還しに行ったぜ」
「…なん…だと…?」
慶次の中で恋の花が再び花開いたのが見えた。
夜光狂想組曲 No.15
― 本音と建前 ―
一目ぼれ。世間一般的に言えばそんなもん。別に運命感じたとか、電気が走ったとかじゃない
でも何故か惹かれた。そこら辺に着飾った美人ならゴミのようにいるのに
だけど俺はアイツを選んだ。そして遠ざけた。自分の弱さゆえにあいつを傷付けたんだ
佐助の野郎に言われて気がついたんだと思う。そして元就に教えられた。
俺はアイツを守れねェ。でも、守りたいと思ったんだ。初めての感情だった
知ってるか?俺はお前の前では只の男だ
どんなに頂上に君臨しても、ただの男なんだ
お前もそうなんだろ?おれ自身を見てくれてるんだよな?
こんなの自惚れだ。だが俺には自信がある。
だって俺も海見が好きだからな。loveだlove.
この思いは誰にも邪魔させはしねぇ。愛してるんだ、海見
政宗は次々に湧き上がる感情を胸に車を走らせた。
これを本当の愛情だというのなら、なんて心地よいものなのだろうか。
今までの本当の愛と言うのを知らなかった政宗は嬉しさと戸惑いが一緒になってパンク寸前だ。
早く海見に会ってぶちまけてやりたい。
先日の建前ではなく、本音を伝えたい。
走っても走っても遅く感じられる車内がとてももどかしかった。
「っかすが…!」
「くっ…何故、何故お前」
「……」
スパイ同士の戦いが行われているホール。どうみても小太郎の圧勝だった
膝を突いてうずくまるかすがは血はあまり出ていないものの、打撲や内面的な攻撃で動けないでいる
それを無言でただ見つめる小太郎。何を考えているのか、何も、分からない。
傍らには手当てをしてもらった小十郎。そして海見。2人の戦いを固唾を呑んで見ていたのだがそれもそろそろ限界のようだ。
かすががやられた。そして便りの小十郎でさえこんな状態だ。海見1人に何ができようか。
小太郎は必死に考える海見を傍目に一歩一歩近づいてきた。
「逃げろ海見!」
「何してんだ!」
海見には逃がそうとしているう2人のの声が聞こえなかった。
ただただ、無音で距離が縮まっていく小太郎との間が怖かった。
来ないで 来ないで
早鐘を打つ心臓は止まる事を知らないかのように脳内に警音を鳴らし続ける
そして、海見は小太郎に首をつかまれ、持ち上げられることとなった
「ぐぁっ…!」
「……」
頚動脈が押さえられて、器官も締め付けられ息ができない
苦しい。ココで死んでしまうのか?
「小太郎ぉぉぉ!貴様、許さぬ!海見から手を離せぇ!!」
かすがは必死に動かない足に力を入れ立とうとした、が。やはり無理で
でも諦めずにもがく。海見を守らなければ。謙信様に言われたではないか
守らなければイケナイのに。
「うぉらぁ!!!!」
ただ見ているだけしかできないのか。イヤ、そんなはずはない。
小十郎はまだ自分にこんな力が残っていることに感謝した。
手当てと暫しの休息で微量ながら回復した小十郎は起き上がり、小太郎にタックルをかましたのだ
色々と気を取られていた小太郎は瞬時に身をかわしたがそれでもダメージを食らってしまう。
小十郎共々床に倒れることとなった。
「小十郎さん!そんな身体で無茶なんてっ」
「これくれぇ…手当てしもらった分より遙かに安いもんだ、ぜ…」
「お前、」
「………」
攻撃を喰らう拍子に海見の首から手を離してしまった小太郎は受身も取れずに倒れた為、反撃に遅れた
それもで何故か、動かない。動けるのに、まだまだ余裕綽綽なのにどうしてなのか。
海見は思う。小太郎は手に力を 籠めていない?
なんで。そういえば、かすがの傷だって動けなくなる急所だけを狙っていた
それは彼なりの美学なのだろうか。なんか違うような気がする
彼は明らかに手加減をしている。これは侮辱など考えたものではなく、何か。もっと他の何かがあるのだと。
「やっと到着~ってアレ?何、この状況…俺様にも分りやすく解説していただけるとありがたいんだけど?」
「かすが!だいじょうぶですか?!こんなにけがを…わたくしのうつくしきつるぎ、むちゃをさせてしまいましたね…」
後を追ってきた佐助と謙信が追いついたようだ。
ホールへと続くドアを開けた途端に目を疑うような光景が広がっていることに戸惑った
佐助は表上は軽いが、その目は本気で驚愕していた。
謙信はすぐさまかすがに駆け寄るとその身を抱きしめる。羨ましいとか思ってないからね!
「………」
「なるほどねー♪でも小太郎、アンタやりすぎってもんでしょーがっ」
「海見さんも、くびにあとがあるではないですか!」
「私は大丈夫です・・・でも小十郎さんが」
「こじゅさんはそこら辺に寝かせておけば問題ないって♪」
「んの猿…後で殺すぜ」
小太郎は未だ座ったまま、静かに、黙り込んでいた。とはいっても喋れない(?)ので違う気もするが。
「海見ちゃん。遅くなってごめんね?政はあんな腰抜けだけど俺様が着たからには大丈夫♪」
「政宗様は断じて腰抜けじゃねぇ!」
「え?政、宗さん?」
「だってそうでしょー?海見ちゃんほったらかしでさ。見てらんないよ」
分っていた。あの部屋を出て行く間際に言われた時点で分っていたのだ。
政宗は来ない。自分なんかの為に来るはずがないのだから。
でも、少し期待してしまった。そんな自分がとても哀れで。
「私、ほんと足手まといですよね。私さえ居なければみんな、こんな事にならなかったのに…」
あんなに守って貰っていたのに。あろう事か人質に取られ、みんなのお荷物になってしまった。
それがとても腹立たしくて、自分が許せない。
「そんな事はない。お前は、政宗様にとって必要な存在だ」
「そーそっ。それに海見ちゃんが捕まらなくともコレは避け様のない出来事だし?ねぇ、謙信さん」
「はい。わたくしもかすがも ここのうごきを かんししていた み ですから いつかはこうなると おもっていました」
「海見、確かにお前が捕まるとは予想外だったがな。そして私もバレてしまうとは…やはり悪いのは全て私だ!」
「皆さん…ごめんなさい。そして、ありがとう、ごさいます」
「…………」
若干1人空気になりかけているが、なんとなく戦場だと言うのにほのぼのしてしまうのはご愛嬌。
しかしそれは、新たなってかまたしても…な人物の所為で崩れることとなる。
「君たち、僕等を差し置いて何談話しているんだい?」
「小太郎…貴様何をしている。早くそ奴らを片付けぬか」
「半兵衛に秀吉…。お宅らしつこいねぇ~」
「………」
同じくホールへと続くドアを開け放ち、ボロボロの身なりで登場したのは半兵衛と秀吉だった。
多少見目が痛々しいが、その偉そうっぷりは健在だ。
「見縊ってもらっては困るよ君たち」
「…アレきっと寂しいんだよね?ヒソヒソ」
「かまってちゃん、なのでしょう。ヒソヒソ」
「どうしようもない連中だ…ヒソヒソ」
「お前らには緊張感と言うのがないのか?ヒソヒソ」
「あっははは…。ヒソヒソ」
「………」
なにやら固まって内緒話をする5人が気に食わない。そんな半兵衛は怒りを必死に絶えるのであった
「ふん。君たちには失望したよ。もっと僕等を楽しませてくれると思ったんだけどね」
「どうやらそろそろ真の決着をつけねばならぬらしいな」
みんな、目つきが変わった。そして空気もガラリと変貌する。
冗談で済まされない相手なのだ。これは真剣に向き合ったほうが良さそうだ。めんどくさいけど。
半兵衛と秀吉は徐に戦闘態勢に入った。それに合わせ謙信と佐助も身構える。
第2ラウンドが始まった。
「まーった懲りずによくやるねぇ!」
「我等はまだ終わらん!復讐をやり遂げるまではな!」
「そうさっ!僕達はあの竜や君たちを倒さなければいけないんだ!」
「そうはさせませんよ!それに、わたくしたちは あなたたちなどに まけません!」
苦しい激闘の最中、互いに言い合いをしているのがなんとも余裕に見える。
が、会話と裏腹に攻撃など全く隙がない。殺す気で戦っているのだ。
見ているだけで手汗握る思いである。こんなとき何もできない自分たちが忌々しい
「何をしているんだい小太郎君!早くその女を始末しなよ!その女を殺せば竜に大打撃間違いないんだからね!」
「………」
「そうは、させないよー!」
「貴様等は己の無力さを味わってみているがいい。目の前であの女が殺される瞬間を」
「なに、を!?」
小太郎が再び半兵衛の言葉により、海見を襲った。
今度は首を絞めるのではなく、小太刀を突きつけて。
見上げる海見。見下ろす小太郎。
近くのかすがが止めに入るが届かない。小十郎も力を振り絞って阻止しようと錯誤するが足りない。
「………」
「小太郎…くん」
「海見ちゃん!」
「海見さん!おにげなさい!」
海見は先ほどの力の入っていない締め付けに疑問を抱いたが、今回は本当に死ぬことになるらしい。
小太郎の真意は計り知れないが、受け入れるしかないのだ。殺される。でも恐怖はない。
あぁ、政宗さん。死ぬ前にもう一度貴方に会いたかった。だってまだ気持ち伝えてないんだよ?
もっともっと多く遊んで、お金を貢いで溺れて。
たとえ貴方に嫌われていようが関係ない。一夜限りの一時を過ごしてもらえるのなら、なんだってする。
だって夢を見させてくれるのが貴方のお仕事でしょ?私は少しでもいい。貴方のお姫様になりたいの。
そして貴方は私の王子様になってくれれば、全然文句無いんだよ。
周りの声も聞こえない。佐助と謙信の行く手を阻む半兵衛の高笑いも必死に叫んでるみんなの声も何もかも。
そして、小太郎は隙など微塵もない動作で小太刀を滑らせた。その白い海見の首へと。
ひんやりと伝わる刀の冷たさ。
全てがスローモーションに見えた。実際は一瞬の事だったのだろうケド、海見には結構な時間に思えた。
「さよなら…政宗さん」
これで貴方とは会えなくなるけれど、貴方との少ない時間はとても楽しかったです。