本当にどうしようもない人だよ
ま、オレ様も人の事言えないけどね♪
夜光狂想組曲 No.12
― 賽は投げられた ―
小十郎は立ち尽くした
今、救えるのは只1人目の前の君主伊達政宗だと思っていたからだ
小十郎自信も如何して良いかわからずただただ冷酷非道に戻った伊達政宗を見下ろすしかなかった
「政宗様…と一体何がおありになったのですか」
「…」
「政宗さっ…!」
「黙れ。小十郎、俺は早く帰って寝たいんだ。其処をどけ」
私は知っています。貴方が英語をお使いになれないのは余程余裕が無いことくらいだって事を
今もそんなに気が気じゃない表情を見せるのに、如何して、どうしてですか
そんなお苦しそうな顔をするくらいなら、今直ぐにでも、、、
「何?ちゃんがどうかした?」
何もいえないで居た小十郎から沈黙を破ったのは、店の奥から出てきた佐助だった
タイミングを見計らったように現れたその表情には歪められた口元と、鋭い眼差し
この男は会話を聞いていたくせにワザと問う。なんとも、なんとも不愉快な男だ
そんな小十郎の心境を知ってか知らずか政宗が座るソファの真後ろに立つと、ソファに手をかけた
それを心底嫌そうに見上げる形になる政宗。そんな彼の様子も知ってかしらずか、否分かっていてワザと見下したような表情を作る
言葉通り座る政宗を見下し、言った
「ちゃんが攫われたんでしょ?行かなくていーの?政?」
「聞いてたんなら聞くな。俺はしらねぇ。テメェが行けば良い話しじゃねェか」
そういった彼は立ち上がり、見下されていた視線とほぼ同じ目線にあわせた
交わる視線。まったく穏やかなものではない。2人ともにらみ合い、しかし口元には微笑みを。
一方は心底楽しそうに、もう一方は苦笑とも取れる嘲笑ったようなものだったが
「あーぁ。ちゃんかわいそー!あ、もしかして愛想でも尽かされちゃった?政この頃不機嫌だもんね」
わざとらしく発せられる言葉に政宗同様小十郎も怒りを露にした
「貴様、それ以上政宗様を愚弄すると…殺す」
「おー怖!ほんじゃま、オレ様はお姫様を奪還にでも行こうかなー?目の前の王子様は『似非』らしいからね」
真の王子様になれるのはオレ様かな?なんて言いながら持っていた車の鍵をチラつかせる
挑発しているのだろうか。それなら無駄だというのにも関わらず
佐助は政宗の本当の心を見透かすように歪めた口元と共に今度は目元も動かし微笑んだ
「…」
小十郎は内心、とても動揺していた
政宗が佐助の挑発にも乗らず、ましてや本当に無関心なのだ
ココまで心を隠すなんて事、しただろうか。コレは本当に本心なのだろうか。
分からない。分からないから悲しい。
あぁ。君主の右腕にさえ心を閉ざしてしまったのだろうか。政宗さま、…
「さぁ、政の了承もとったし、早く行かなくちゃやばいんじゃない?こじゅさん♪」
「しかし、政宗さま…!」
お許しください。私はこの時だけ、貴方に背を向けましょう。
帰ったら切腹でもなんでも致しましょう。
今はもう1人の、私の友とも呼べる彼女を一刻も早く、救出しなければならないのです
どうか、どうかお許しくだされ政宗様…!
「謙信さん?…貴方は一体、」
続きを言おうとしたの口に人差し指が宛がわれた
そのしなやかな指は本当に男性なのか疑いたくなる程の美しさを持っていた
「わたくしは、まだなにもいえませんが、しかし、あなたのみかただということを けっしてわすれないでいただきたい」
なにがあろうとも。と言う言葉と共に謙信は部屋を去った
残されたは誰も居なくなった喪失感が支配している。こんなとき思い浮かぶのはいつも1人だ
今はもう、会うことが無い只一人の存在
どうしてこんなことになってしまったのか。目頭が熱くなってきたのをこらえきれず、涙を流した
背中にかかる夜景の光はあまりにも人工的過ぎて、冷たくなった想いを暖めることはできなかった
人の温かさに触れてしまったのだから尚の事
BASARA店内
其処に1人残された政宗は何を、思うか
あんなに心底楽しそうに笑った佐助でさえ、小十郎が出て行ったドアに早足で着いて行った
その表情があまりにも滑稽で、反対に何か、胸を締め付けられる思いに駆られた
何だと言うのだ。突き放したのは己なのに今更如何しろというのか
「俺には…無理、なんだよ」
己を攻め立てるように呟いた言葉は誰もいなくなった店内に消えていった
と、思われたのだが、
「貴様は、そんなくだらない事でアイツを見放したと言うのか」
「元就…?」
佐助と同様奥から出てきたのは元就だった。そう。政宗の言葉を聡く拾ったのだ
気付かなかった己に驚いたが何より、先ほどのミーティングでてっきり出て行ったものだと思っていた政宗は眼を丸くさせた
最近、感情が保乏しくなった政宗には久し振りに見せる表情だ
そんな政宗を見据えて元就が言った
「無理とは、『守れない』などと言う戯言ではなかろうな?」
「そうだと言ったらどうすんだ」
「フン…下らぬ。誠に下らぬ戯言よ。マスターの言葉を拝借するなら『慢心するではない』、か」
「…」
黙って見つめ返す政宗を視界の端に捕らえ、元就はバーカウンターの中に入り、己の定位置だったところに立つ
そして徐に、棚からビンを2本取り出すとシンクの上に置いた
1本はカシス、もう1本は、
「貴様はカクテルと同じだ」
「あ?何言ってやがる。俺はれっきとした人間だ。それに、なんだ…りんごジュース?」
そう、もう1本はパックに入った市販のりんごジュース
カクテルには聊か不釣合いのものだ
なのに何故元就はそれを出したのだろうか。
仮にも否、本当の事だが、ホストと駆り出される前までは毎日其処に陣取ってカクテルを知り尽くし作ってきた元就がそんな奇怪な行動に出たのか
その真意を読み取れない無表情のままで元就は続けた
「本来りんごジュースはカクテルには使われない、別に合わないわけではない。コレは我が好き好んで飲んでいるだけだ」
意外だった。カクテルって言ったってお子様みたいなものを飲むなどと思ってもいなかったからだ
人前では飲んで居たことがないし、見たこともない。
「意外に合う」
そう言ってメジャーカップも使わず直接氷を入れたシェーカーに入れ始めた
「例えば、貴様はこのカシスだとする」
カシスの入ったボトル傾けながら己の好みにシェーカーに注いで行く
そして満足する量に達したらしく、ボトルをシンクに置き直した
次に持ったのはりんごジュース
「そして、今まで相容れぬと思っていたこのりんごジュース。貴様は飲んだことが無いのだったな」
「オイオイ、何が言いてぇんだ?」
今まで黙ってその行動を見ていた政宗が我慢の限界だと言うように横槍を入れてきた
そんな政宗をさして気にしない様で、元就は続ける
「相容れない、それは今の貴様だ」
「?」
「りんごジュースとカシス」
例えば、カシスが今の政宗の心境だとする。そしてりんごジュース。
それは今まで受け入れなかったモノ。そう『守れる』と言う自身だと思えばいい
「今まで貴様は『守れない』と思い込み、相容れぬすなわち正反対の事『守れる』と言う勇気をその心に入れようとは、合わせようとはしなかった」
「…」
「しかし『守れない』と己を卑下するのは構わん。だが、何が『守れない』なんだ?お前は正義のヒーローにでもなったつもりか」
その言葉が政宗におおきく突き刺さる
「貴様は何も守ろうと、守ってくれなどと言われたわけでも、ましてや『守れ』と言われてもそんな力があるとは思えぬ」
「…!」
「慢心するな。誰も守って欲しいなどと、守れるなどと思っていない。
『守る』と言うのはそれこそ正義のヒーローが口にして良いもので、何もチカラを持っていない凡人の貴様は縁も無い言葉よ」
傷口に塩を塗られている気分。しかし、一見きついことを言っている元就だが内心はとても穏やかだった
その証拠に鬱向き気味の、現実をたたきつけられた政宗を見て、口元を緩めた
「しかし。そこでとある隠し味を入れるとしよう。…蜂蜜だ」
振り向き棚から隅っこにあった蜂蜜を取り出し、シェーカーに少量垂らした
蓋を閉めシェイクし始める元就を見、本当に本業はバーテンダーと言うことを再確認させられた
いつもは無口で作るカクテルも、今までとは何か違う雰囲気に政宗は息を飲んだ
用意されていたグラスに慣れた手つきで注ぐと政宗の前にズズイと出した
「貴様も馬鹿ではあるまい。我が言った意味が分かるであろう?なぁ、竜よ」
「…」
「蜂蜜=を貴様の心に入れると、どうなる?」
気付かされた。
不本意だがこの普段は無口の男に気付かされてしまった、否感謝するところであろうか
一口飲んだそのカシスサンデー(元就命名)はりんごのサッパリとした甘さと蜂蜜が絶妙に絡み合い、ほろ甘い味に出来上がっていた
疲れた体と、心までも癒すようなこの味は政宗を覚醒させた
そうだ。自分の中に隠し味、すなわちを思い浮かべると、
「守りてぇ」
そんな衝動に刈られる
蜂蜜と言ういかなる物が生み出すこの感情、それはとても暖かいものである。
愛おしい気持ちがあふれ、反対に気持ちが急いだ。
『守れる』『守れない』ではなく、『守りたい』
その感情を呼び起こしてくれたのだ。
「分かったならさっさと行け。我が態々極秘のモノを作ってやったのだから無駄にするでない」
「…Thank you!!」
そう言って背を向け店内を後にした政宗を見て、元就はため息をつく
実のところ、に出会って変わった政宗を気に入っている
何処と無く雰囲気が変わった彼の様子をバーテンカウンターで見ていて本当に微笑ましく思ったのだ
心なしか場の雰囲気も和やかになり、―過去を知っている元就にはそれが酷く気に入ったものであった
「珍しいじゃねぇか。お前が『カシスサンデー』を作ってやるなんてよぉ…」
「フン…本当に、如何したのだろうな。我は」
出来れば、あの政宗が幸せになれるように
これしか出来ない己に不甲斐なさを覚えたが、この目の前に陣取る先ほどと違った無駄に馬鹿でかい元親を見据え、
コヤツの下品極まりない笑いも居場所を居心地良いものにしたのだと、しみじみ思った
「本当…滑稽だな」
あのとか言う女を助けに行った政宗を、これまた微笑ましいと思う自分は…年だろうか
そんな事を想いつつ元就は目の前の男元親に『カシスサンデー』を作ることにした
「さぁ、まずは誰がこの『囚われのお姫様』を迎えに来てくれるんだろうね?」
「あらかた、”竜”と言ったところか」
「ふふふ…いがいに ちがうひとかも、しれませんよ?」
「あー楽しみだよ!政宗君も、君も、みんなみんな壊れてしまえばいいんだ!あっははは、はあはははhhhhhhhhhhh!!!」
「半兵衛、どうやら客がきたようだ」
「さて、いよいよほんばん、といったところでしょうか」
「さぁ迎え入れるよ2人とも」
後戻りは
できないのだから
(この茶番劇もみんなみんなもうおしまい)
続く
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ATOGAKI
カクテル系の話は全て私のでっち上げです笑
分かり難い話ですが、元就は政宗の背中を押したんです。一応言っておきますが、実は元就、政宗の先輩である。
この世界に入ったのはバーテンダーとしてで、結構有名なのである。バーテンダーのOKRAと言えばBASARAの元就なのです!
そしてカシスサンデーも思い付きです。サンデー毛利だし(なんだよ)ちなんで命名してみた☆
カシスサンデーは元親だけが飲んだことあります。ホラ、古い付き合いだし。イヤイヤ、こっちは健全だよ!!(なんの弁解?)
そんなわけでですねー、政宗さんも対半兵衛に参戦!ホント話って生きてるよなーとしみじみ思った回でした。