last
俺はこの時初めて、アイツの言葉の真意を理解した。
『裏も表も無く、素直にお答えしますよ。』
アイツは、引き返せる時点で話を持ち掛けた。
あの時、考えもしなかった俺は遠まわしの駆け引きに気付けず、受け流してしまったというのか。
俺の馬鹿さ加減はさぞ滑稽に映ったことだろう。
まだ戻れた。全部を打ち明けて、一線を引ける事だって出来たはずだ。
あの日のように、全てが手遅れになる前に。
この感情を、知りもしない『愛』なんぞ抱く前に、後悔、なんぞする事もなかった。
それ以前に、拾わなければ――。
それこそ、馬鹿げた考えだ。
「お久しぶりです。・・・三蔵さん。」
「・・・肩の傷は、完治していないようだな。」
「はい。ですが、八戒さんの治療は完璧で、頗る調子がいいですよ。」
「悪運の良い奴だ。」
「肩を打ちぬかれて、運が良いと言えるのでしょうか・・・。」
「だから、悪運だ。結果的には良かったじゃねぇか。」
「その原因を作った本人に言われたくありませんね。」
コイツは、は、記憶の中と一寸違わぬ顔で笑う。
恐怖を浮かべた表情の面影は、無い。それがとても不自然で、不覚にも胸を撫で下ろす自分が居る。
狂気に染まった者を見た時と同じ安堵感。――同じ?
「――っお前は、俺の言った事を理解していないのか?」
「『良心が残っている今なら、まだ戻れる』、でしょうか?」
「・・・・・・」
「良心なんて端からそんなもの、私は持ち合わせていませんでした。泣いたのも全部演技です。」
の体は、記憶と違う部分があった。銃創は記憶上に存在する。
そこじゃない。俺が言いたいのは、拾った時も、あの日も無かった筈の、傷。
少しばかり行き過ぎた、躾の後。
「演技、か。そのご自慢の演技の泣き落としでも効果は得られなかったようだが。・・・役者には向いてねぇな。」
「まったく、その通りです。お恥ずかしい話ですが。」
胸糞、悪い。
「・・・それで全て済まそうざなんて、考えるんじゃねぇぞ。」
そんな覚束ない腕で構えた銃なんざ、怖くもない。
そんな怯えた表情で凄まれても、動じない。
「また、拾われてしまいました。1人目に拾われた時、できなかった恩返しを、しようと思います。」
静かに侵食する狂気は昂り、蝕む速度を加速させていく。
俺以外の男に尽くすとほざくならば。
「この節操無しが。・・・俺はまだ、拾い物を捨てたワケじゃねぇ。」
あぁ、そうか。誰かに酷似していたの表情は、俺だった。
俺は今、と同じ表情をしているのだろう。溺れられきれていない狂気から中途半端に顔を出して足掻いている状態で。
捨てきれない拾い物を、手放したくないが為に必死に手を伸ばす。滑稽に。それこそ、狂気染みながら。
「もう、手遅れなんです。何もかも、『あの日』から――」
既にの狂気は消え失せていた。あの日からの出来事が、感情が全てが偽りだというのならば。
目の前に銃を構えて立っているコイツは、一体誰なんだろうか。
違う。最初からコイツはで、一度たりとも変わってなどいない。
変わったのは、俺だ。
「全部、終わらせてやるよ。」
先ほど感じた安堵感は、別の物に変わっていた。同じ言葉でも、違う種類の物へと。
酷似しているようにも思えた。しかし、ハッキリとわかる程に今の俺は陶酔感に満ち満ちている。
逃げずに、コイツを拾いなおすのだ。漸く受け入れられた感情と共に、ただ只管ろ過し続けた性質の悪い成分を処理して。
「巧くいく保障はありませんよ。今度こそ、逃げられない。」
「逃げる必要なんざ、ねぇよ。」
追われる日々は、今ココで断ち切る。
「望む、ところです。」
気まぐれで拾った拾い物に煩わされた感情が、摂取された綺麗な成分に当て嵌められることを知った時。
俺の狂気は、薄らいでいったのだと。それはただ、相違していただけの物で。
知りもしない物に気付くのは、至難の業だ。
その愛しいと思うと同時に湧き上がったどす黒い感情。それが、狂気。言うなれば、嫉妬。
邪魔だと感じていたのが変化した時に雨は止む。全てを受け入れた証拠。
コレが俺の、無謀ともとれる決断。果たして、本当に乗り越えられたのだろうか。
逃げる事に必死だった俺は、アイツに如何写っているのか。
「ねぇ、三蔵さん。全てを終わらせたらまた私を、拾ってくださいますか。」
それが知りたくて徐に手を伸ばす。
一度拾ってしまった物に責任を取らねばなるまい。
建前と本音を直隠し、最後に言い残す言葉を紡ぐ。
「当たり前の事をほざいてんじゃねぇよ。」
拾いなおしたを抱き、今一度貪った。
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(拾い物)
write:20090925
おしまい。最後のグダグダ感が半端無い。意味不明なところは脳内補完よろしくおねがいします。
ともあれ読んでくださった皆様に感謝と敬意を。配色は『もずく妖怪』をイメージしてみました。