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偶然にしては出来過ぎで、冗談にしては性質が悪すぎる。












 「貴方にしては、往生際が悪いのではないですか。正直、格好悪いですよ。」



何度来ても無駄だというのに、男は性懲りもなくやってきた。

おまけに胸糞悪ぃ事を抜かしやがる。交渉しに来たワリには喧嘩を売ってんのかと言いたくもなるだろう。



 「意外でした。まぁ、頑固な事は重々承知でしたが、ココまで来てもまだ引かないだなんて。」



呆れた様に肩を竦める男の正確な意図はわかっている。その戦略に乗るツモリは毛頭ない。

態と逆上させ、冷静さを欠いた上で一気に攻め込む。互いを知っているからこそできる巧みな駆け引き。

だが、俺たちは互いを『知りすぎている』。だから簡単に見破られる。



 「ふふふ・・・僕もまだまだ修行が足りない、ですね。だからといって引き下がりませんけど。」

 「・・・ふん。今まで散々尻尾巻いて逃げて行ったのは、どこのどいつだ。」

 「おや?そんなツモリはなかったんですけどねぇ。そう見えてしまったのなら、貴方の頭を心配しますよ。」

 「いつまでも人を追っかけまわすストーカー野郎に心配される謂れはねぇ。まずは自分の頭を心配しやがれ。」

 「まったく、あぁ言えばこう言う・・・相も変わらず、ですね。貴方の言動や行動はワンパターン過ぎてさすがの僕でも飽きてきますよ。」

 「なら一生そのうぜぇ面を見せんな。そうすれば貴様も俺も、清々するだろうが。」

 「出来る事なら真っ先にそうしてますよ。こればっかりは上司の命令、背く訳には行きませんからね。」

 「糞喰らえだ。」

 「・・・そうですね。どっかの誰かさんは根を上げて、負け犬の如く逃げ出しましたもんね。」

 「ハッ・・・命令される立場なんざ、俺には合わねぇんだよ。」

 「やてやれ・・・これだから貴方は社会的不適応な負け犬なんです。自覚無しとは、益々救いようの無い『馬鹿』ですね。」

 「その馬鹿を追ってる貴様も、大概だな。」

 「一緒にされては困りますよ。僕を見縊らないでください。なんなら、強硬手段に出たって良いんですよ?」

 「やれるもんなら、やってみろ。」

 「ハァ・・・。」

 

男は言う。今戻れば、命令する立場になれるのだと。だが、俺からしてみればそんなくだらない立場も、命令の上で成り立つものだ。

結局、どうこう言われようが、戻ろうが、命令な事には変わりは無い。それが無性に腹が立つ原因であると、理解しているのか、この男は。



 「やはり、貴方を出し抜くのには修行が足りませんか・・・本当に勿体無い人ですね、貴方は。」

 「わかってんなら、巣に帰れ。俺は・・・戻る気はねぇ。」

 「ふふっ・・・僕の事を気にしている貴方にはまだ、良心が――」

 「うるせぇんだよ。それ以上ぐだぐだと御託を並べるんだったら、貴様といえども、殺すぞ。」

 「おぉ、怖い。まぁ、貴方に良心が残っているなら、僕の為にもさっさと戻りますよね。安心して下さい。全部理解しています。」

 「・・・失せろ。」

 「言われなくとも、ですね。」



ふざけた野郎だ。コイツは口先だけの男では無いと知っているからこそ、ムカツク。

全てを見透かした上で焚き付ける。自分の立場なんぞお構い無しで、強硬手段に出てもいいところを態々引き伸ばす。

上司であるあのババァも悪趣味だ。この男の事も、認めたくないが俺の事も、弄び楽しんでやがる。

そんなところに戻るなんぞ、死んでも御免被るってんだ。



俺は自分の事しか見えていなかった。一時期はアイツが居て、フリーで殺し家業を営んで、それで。

だが、あの日を境にアイツを失ってからは、また元の生活に逆戻りした。

それはそれで良いと、思った。余計な荷物が無くなって清々したのだ、自分は。



逃げるように飛び出した部屋には、アイツはまだ居るのだろうか。

俺を殺し損ねて今頃、躾し直されてるのだろうか。



捨ててきた筈の過去に思考を巡らせ、記憶を辿るなんぞ、馬鹿げている。俺にはもう、関係の無い事なのに。

それなのに、男が去り際に放った言葉で、再びアイツを思い浮かべる事になった。



 「あぁ、言い忘れていましたが、僕の立場もそろそろ本格的に危うくなってきましたからね。それに、上司の『命令』でもあります。」

 「まだ何かあんのか。」

 「えぇ。」






それは、俺を揺さぶるには十分なまでの現実。





 「僕、拾い物をしたんですよ。肩を打ちぬかれて負傷していたんですがね。」





男は振り向き様に嘲笑う。本心なんて知ったこっちゃねぇ。今ココで、殺してやりたい。





 「その子、物凄く銃の腕がいいんですよ。まるで――殺しをやっていたみたいに正確な腕で。吃驚しちゃいました。」

 「・・・何が、言いたい。」



 「あはは・・・コレが僕の『強硬手段』と、いう奴です。」





記憶全て、崩れ落ちる音がした。













write:20090917
ちょっと会話が続いてしまいました。いやはやこの2人のやりとりを書くのが楽しくて、つい。
男=八戒。ちょくちょく名前だけは出ているのに、いざ登場シーンになると三人称しか出てこない不思議。
ババァ=観音。三蔵が属していた組織?の社長。本編では説明できなさそうなのでココでさせてもらいました。
またもや改行癖が出てしまった・・・反省。