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 「貴方は、どこまで狂えば気が済むんですか。」



男は言う。笑顔を剥がし、感情を曝け出した悲痛ともとれる表情で、滑稽に。



 「・・・戻ってきて下さい。僕達には、貴方が必要なんです。」



全部、聞き飽きた。結局のところ、俺はただの道具でしかなく、世間体におけるお飾りでしかないのだと。

そんな所にもどるなんざ、真っ平御免だ。それに、俺はもう――。



 「クッ・・・・・・ざまぁ、ねぇな。」



自嘲的な笑いは雨音にかき消される事なく、鼓膜を震わせる。

むせ返る程の悪臭に感情は高ぶり、全身が呼応するように震えが止まらない。

腹の底から湧き上がる衝動はなんなのか。答えは見つからず俺は手に力を籠めた。






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血の匂いが充満した部屋に、戻る気は起きなかった。

狂気を抑える唯一の拠り所は俺を興奮させるだけのものになったからだ。

雨はまだ、止まない。あの日のように、あの日を忘れさせないように延々と。



ふと空を仰ぎ見れば、その眩しさに目を眇めた。

己の頬に滴る水滴は、いつかの記憶を甦らせる。

少なからず、背徳感はあった。

少しの間でもいい、使えないように打ち抜いたの肩。

そして、不思議な事に罪悪感が湧き上がってきた、あの日。



アイツは、過去を克服している。『売られた事実』と『仕事の内容』を。開き直りにも似たそれを、羨望する。

己には出来なかった事。俺は、過去の現実から目を背け続けた。その結果が、コレだ。



アイツは、俺との暮らしで『生きる実感を得た』と言っていた。

自分が自傷する置かれた状況よりも、楽しいと。『楽園』だと。




一生芽生える事は無いだろうと思っていた。否、思い込むことで自身を保っていた。

揺らぐことが無いように、必要ないとさえ思っていた感情を押し殺して。

なのに。



 『私がどのような仕事をしていたのか、聞かないのですか?』



アイツの真髄は未だわからないまま、思考の渦へと溺れていく。













erite:20090917
説明の回。笑