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喜ぶべきところなのか、自嘲するところなのか。
飼い犬はどう足掻いても、所詮飼い犬に過ぎないのだと。
俺は解りきっている事実をろ過し、ろ紙に残った性質の悪い成分をなめとるのに疑問を持たない。
苦味を帯びたそれは体内に広がり、やがてもう一度ろ過する。その行為は生きていく上で何度も何度もし続けてきた行為。
では、ろ紙に残らなかった綺麗な成分はどこから来るのだろうか。
銀色の小銃。それは見慣れた物で、皮肉だと笑うほかなかった。
いつもと逆の立場に立たされている俺は、雨音が銃声をかき消してくれる事を祈る。
そう、俺の常套手段のように、密やかに。
「わ、私は、『こういう仕事』を生業としてやってきました。売られてからずっと、毎日訓練をさせられて、ずっと。」
震える両腕は照準を合わせようと必死に足掻き、射撃慣れしているとは到底思えない。
口調も焦りを現し、艶めかしく濡れた唇が紡ぎだす言葉はちぐはぐで。
怯える表情が、誰かと酷似していると思い、記憶を辿った。
「5ヵ月待ちました。仕事より遙かに過酷な生活が、生きることに必死になって、それでっ・・・」
「もういい。」
俺は涙でぐしゃぐしゃになったの頬に指を滑らせた。自ら喉仏を銃口に押し付けて。
銃を逸らそうとは思わない。死ねるなら、それでいい。コイツに殺されるなら、それもいいかもしれない、と。
室内には雨音が鳴り響く。開け放たれた窓から見える空はどんよりと曇り、朝の訪れを遅らせていた。
湿っぽい空気は古傷を抉り、警告する。
これ以上進めば、戻れなくなるぞ、と。
俺は興奮を覚えた。殺される事に。生と死の間で絡み合う、さながら蛇の如き執拗さを併せ持つ快楽。
真っ黒に染まったろ紙に残る、性質の悪い成分。いつかきっと、綺麗な成分といわれる良心は採取できなくなるのだろう。
常人の心を失えば、戻れなくなる。それを伝える雨が、邪魔だった。
「お前はまだ・・・戻れる。」
恐怖心があるうちは、まだ引き返せる。泣ける純粋さがあれば、まだ救いようがある。
「貴方も、同じで――」
「違う。確かに仕事は同じかもしれねぇが、違ぇーんだよ。」
お前の中に良心は、残っているだろう。だが俺の中には、良心はもう少ない。
あと数回ろ過すれば、完全に消えるだろう。下に落ちる綺麗な成分は1滴も、残らない。
「こんなイカれた野郎なんざ相手にしてねぇで、。・・・お前は抜け出せ。」
窓から吹き込んだ雨は、乾く間もなく広がっていく。それに比例して俺の狂気が疼いた。
write:20090916