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今日は生憎の天気だった。しとしと、なんて可愛気のある擬音ではなく、ざーざー、と気の滅入るような音。
そのお陰で、聞かれたくはない音が紛れて良かった、が。
「おかえりなさいませ。夕飯の用意はできてますよ。・・・いや、お風呂の方が先ですね。」
ずぶ濡れな姿に順応して対処するは、脱衣所からタオルを1枚持ってくると、火が点けっ放しのキッチンへ戻っていった。
とりあえず髪の毛を拭いてから、俺は風呂場に直行。冷え切った体に熱湯をかけて、温まる。
リビングに入るとタイミングよくが食器を持って現れ、そのまま晩飯にしゃれ込むことにした。
は器用でなんでもこなした。どこでそんな事を覚えたのかと聞きたいくらい、色々な事ができた。
尚且つ効率的に、素早く動く。さながら八戒のように気が利いて、器量良し。文句の付け所が見当たらない。
拾った当初のように怠惰に過ごしていたなら、考え物だったかもしれないが、それは無いと考え直した。
が無能でも有能でも、どちらにせよ手放す気は毛頭ないのだと自覚しているからだ。
別に、家政婦として拾ったワケでもないし、というより何も考えないで拾った。
我ながらに計画性が無い。しかし、拾って得た物は予想よりおおきい。目から鱗だ。
女運に恵まれていなかった俺だが、漸くツキが回ってきたとでも言おうか。例え話だ。
そんな事を、食後の一服をしつつ考えているとが突拍子も無い事を言って来た。
本当にコイツは、いつもいつも意味不明で、俺を楽しませる。
「私がどのような仕事をしていたのか、聞かないのですか?」
「聞いて何になる。それに、お前は素直に答えるのか?」
「もちろん、お世話になっている身です。裏も表も無く、素直にお答えしますよ。」
「・・・そうかよ。」
その時の俺は、コイツの質問の真意を深く考える事はせず、いつもの戯言だろうと高を括っていた。
は何を訴えていたのか。今となっては知ることのできない、謎。
ベットに入ったのは、晩飯から3時間後の午前1時半。頭もとに置いたライトの明かりが室内をぼんやり照らしている。
隣、と言うには近すぎるかもしれない。は、俺の腕の中で眠っていた。
猫の様に丸まってただ寄り添っている。俺は腕枕をするでもなく、頬杖をついて反対の腕はの頭を撫ぜた。
興味が無いといえば嘘になる。無邪気な顔をして眠るコイツの事。生い立ち、仕事の内容とやら。
いつ売られ、どういった人生を送ってきたのか。なぜ捨てられあんな場所に5ヶ月も暮らしていたのか、など。
予想に過ぎないが、仕事に関しては大方の検討がつく。一目見たときから思っていた事、それは同じ匂いがしたという事でもある。
まだまだ使えそうな体をして、なぜ捨てられた?心的外傷でもないだろう。判断力も神経もずば抜けていて、衰えていないと言うのに。
ならば、もしかすると――
「っ・・・・・・。・・・らしく、ねぇな」
ふと、考えが脳裏を過ぎる。
それは憶測の域から出てはいないものの、考え出した脳内が悲鳴を上げる程に威力は、十二分に備わっていた。
――もしかすると、俺を殺しに来たのかもしれない、なんて。
自分の脳内は馬鹿げている。何より馬鹿げているのは、それに対して少なからずショックを受けてしまった自分自身だ。
思わず眉を顰めてしまった眉間に指をあてがい、そのまま両目を覆い被せるように動かすと、真っ暗な闇になった。
もしこれが本当だとしたら、己はどうするのだろうか。途方も無い自問自答を繰り返し、俺は瞼を固く閉じた。
暗闇に支配された視界は、どこまでも昏く、思考を奈落の奥底へと誘っていくかのようだ。
write:20090913くらいだった気がする。