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女はと名乗った。唯一胸を張って教えられるのは名前だけとも言っていた気がする。

何のことだかわからなかったが、追々話を聞くと驚きはしたが納得できた。



は相変わらず、この家にいる。出て行こうともせず日々適当に居座っている。それにとやかく言うつもりは毛頭ない。

コレはもう、アレだ。完璧ペットのようなものと認識されてしまっているから、気にならないのかもしれない。



一度だけ聞いたことがあった。なぜ、あんな場所で暮らしていたのか、と。

その答えは冒頭で言った事だ。『胸を張っていえるのは名前だけ』。

は捨てられたと言う。金目当てで親に売られ、使い物にならなくなったから捨てられた。

とってもシンプル且つ、それ故に非道な人生。

治安が悪いこの国ではそう珍しくも無いのだが、いざ目の当たりにするとなんだか胸糞悪くなった。



 「世の中は、結局金ですよ。」



最初の頃は短い単語を並べるだけの言葉遣いだったが、慣れてきたのか捨てられる以前のものに戻っていった。

いや、昔の事はしらないが。ただ聞いただけだ。



 「・・・なんだ、いきなり。」



唐突に、妙なことを抜かすに俺はたっぷりと間を置いて問うた。

するとは壁を見たままこう続ける。



 「お金の為に売られた身ですが、そんな私もお金の為に働きました。皮肉にも親と同じ様な事をして。」



だから、面白い。と、は言う。自分を売った親の事を恨む事無く、今までの人生が楽しかったと。

俺は瞬時に悟った。あぁ、コイツは乗り越えたのだと。

そして開き直りにも似た意志。自我。自尊。



 「売られた、と言うのは殺されると同じ事ではありませんか。人を殺すと言う事はその人の人生を奪うと言う事ですし。」



強ち間違ってはいない、と思った。コイツは身をもって知っているのだ。その上でそんな表現をしている。

政治家やらなんやらの下手な偽善の言葉より、説得力があった。



 「お前は、一度殺されたとでも言うのか。」

 「その様なもの、と言う事です。一時期は死人みたいでしたからね。」


ただ与えられた仕事をこなすだけの日々。売られてから仕事の為に生きてきた。

死人の様に自我を持たず、目を濁らせて。慣れとは怖い物で、仕事をこなしていくにつれ先ほどの言葉通りに思うようになっていたという。

だからか。だから、初めて会った日、拾った日のコイツの目は死んでいなかったのか。



 「で?…今は、どうなんだ。」



少しだけ、気になった。あの日と、今では纏う雰囲気も髪の毛の艶も変わったがどんな風に思っているのかを。

どんな風に生きているのか無性に知りたくなった。



 「生きることの喜びを知りました。パラダイスです。シャングリ・ラです。」

 「・・・ふん」



何故か、口元の端がつり上がった。











write:20090912くらいだった気がする。