「やっちゃった・・・」
目の前には、大量に買い占めた袋の数々。
は1人大通りに面した道の隅っこで項垂れた。
冬の寒さが身に沁みる季節。突っ立っているだけでは体温がどんどん奪われていく。
どうにかしないと、と考えを巡らすが一向にいい案は浮かんでこず、途方にくれるしかない。
「このお店のカートが大きすぎるのが悪いんだ・・・」
理不尽なの言い分は白い息と共に大通りの喧騒に紛れて消える。
と、そんな時。
「何やってんだ、お前」
救世主とも言える男が、不意にの背後から声を掛けた。
は満面の笑みを浮かべ嬉々として振り返り、待ってましたといわんばかりに瞳を輝かす。
そんなを見て、男は声を掛けた事を心底後悔するのだ。
――もう、逃げられない。
「三蔵!丁度いい所に来たね!いやぁ買いすぎちゃってさー運ぶの手伝って!!」
「・・・ハァ」
嘆息する三蔵と呼ばれた男は短くなった煙草を投げ捨て、渋々に従う。
ポイ捨て禁止!と注意するを横目に、もう一度ため息を吐いた。
「いくらなんでも買いすぎだ・・・馬鹿娘」
「だってさー、年末バーゲンと聞いたら買うしかないじゃん!これは使命なの!!」
「大掃除も碌に終わってねぇ癖してゴミ増やしてどうする」
「ゴミじゃないもん、必需品なの!」
変な使命感に闘志を燃やすは比較的軽い荷物を両手に持ち、三蔵に豪語する。
三蔵は重すぎるくらいの荷物を両手っており、外気に触れ冷たくなってゆく指に痛みが容赦なく蝕んでゆく。
しかし男のプライドと言うものを持ち合わせている為、何も言えず早く帰りたいと願うだけだ。
――あぁ、しくった。
忌々しそうに煙草が吸えないため代わりに何度目になるか分らないため息を吐いた。
「今日はね、お鍋にしようと思うの。明日は年越し傍だから・・・その前にお鍋は必須だね!」
「そうかよ」
「すき焼きでもいいかなーと思ったケド、三蔵が鍋奉行過ぎるから普通の豆腐鍋なんだー」
「・・・どっちも対してかわらんだろ」
「あの口の煩さは年に1度くらいが丁度いいの!」
「お前な・・・」
本人を目の前にして良くそんな事が言えるな、と思ったが鍋ならどれでも一緒だ。
お望みどおり、意地でも口うるさくしてやる事にする。
「三蔵手が冷えてるね。早く帰ってお鍋一緒に食べよう?」
「それはお前も一緒だろうが。早く帰るに越した事はないがな」
「それって嫌味だよね?安心して、部屋の中はあったかいから!」
「つけっぱなしか?電気代を無駄にするな。エコだろ、エコ」
「ううん、ちがくてもう先客がいらっしゃるからさ!」
「先客・・・?」
「着けば分るよー」
「嫌な予感しかしねぇ・・・」
大通り沿いは交通量が激しく、風が強い。
この厳寒の中好き好んで何故こんなにローペースで歩かなければならないのか。
自然との歩調に合わせてしまう己を忌々しく思いながら、それでも早める事無くそのまま三蔵は歩き続けた。
一体家に誰が居るのかとか、そんな事より若干寒そうなをチラリと見て眉をしかめる三蔵は、
早く家に着けばいいと思う自分と、このまま一緒に歩きたい気持ちが入り混じり、だが、考えを振り払う。
がこちらを見たから。笑顔で、嬉しそうに。先ほどとはまた違った格別な微笑みを己に向けていたから。
「酒はあるんだろうな」
「もちろん、十分用意してあるよー」
「そうか。なら、いい」
「心身ともに暖まろうね、お仕事で疲れてる三蔵サマ!」
寒くても、この先に待っているのは酒と鍋の楽園、暖かい部屋。
その前にと共に歩く家路を堪能するのも悪くは無い、と三蔵は人知れず口元を緩めた。
冷気or暖気
(どちらでも変わりは無い)
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年越し前の家路。
今年もお世話になりました。来年もよろしくお願い致します!