「ねぇ、三蔵。」
「・・・なんだ。」
「綺麗だね。」
「・・・・・・そうだな。」
新たな年を迎えた冬空の下、目の前には母なる大地である海が小波を奏で、その大きな姿を日の出に彩られていた。
潮風が新鮮な空気を運び、突っ立って居るだけでも寒いのに、更に体を冷やし鼻腔を擽る。
・・・何故俺はこんな所にいるのか。そんな疑問はかき消される程、眼前に広がる風景は俺の心を魅了していった。
今日は元旦。新年を迎えたと言うことだ。
俺は彼女と共に初日の出を見に態々こんな糞寒ぃ所までやってきた、と言うワケである。
またこのパターンか。どうやら年を越しても俺はこの隣に居る女に甘いらしい。あぁ、忌々しい。
「・・・寒いね。」
「そうだな。」
「こういう時は即答かい。・・・ごめんね。」
「・・・何がだ」
「・・・ありがとう。」
はぐらかす、とはちょいとばかし違う俺の返答に、は微笑みと共に感謝を述べる。
本当にコイツと言う奴は・・・謝るのか礼を言うのかどちらかに絞れ、と言いたいところだ。
こんな海くんだりまで車を出させ、あまつさえこんな砂浜に立たせるなんぞ・・・靴に砂が入るんだよ、馬鹿娘。
だが、それも悪くはない。何度思ったかわからない感情を抱かせるのは隣に居るコイツだけだ。あぁ、馬鹿馬鹿しい。
「初日の出だかなんだかしらねぇが、普段となんら変わりねぇじゃねぇか。」
「それ車の中でさっきも言ったよ。まぁ、日の出だけど要は気持ちの持ちようなんじゃないかな。」
「・・・さっきも言ってたな。」
「三蔵が同じ事言うからでしょー。」
「ふん。こんな糞寒ぃ所に無理矢理連れて来られたんだ。文句の1つや2つぐらい言わせろってんだよ。」
「はいはい。」
寒さは変わる事無く、防寒してる筈の体を冷まし終いにはコートの中までも支配していく。
時下に出している両手なんぞ、とうの昔に感覚を失い顔も固まる程冷たい。
隣のコイツは毎回指摘しているのにも関わらず薄着だ。見ているこっちが寒ぃ。
仕方ねぇな。もしかしてワザとか?野暮な事を考える俺はそれでも手を伸ばす。
同じくらい冷たいものを触っても何も感じない。だが、次第に温もりを取り戻してくるから人体とは不思議だ。
「あったかーい。」
「・・・そう、だな。」
こんなこっぱずかしい事をさせるのもアイツだけで俺が自然とやってしまうのもアイツの所為だ。あぁ、暖かい。
日の出に染まった辺りはちらほらと人間が見受けられ、俺達の影も伸ばし煌々と輝いて――。
「そろそろ帰るぞ、。」
「そうだね。かえろっか、三蔵。」
繋いだままの手を引っ張って車に向かう。
もうこんな寒いのはこりごりだ、と言う俺を嘲笑っているのか背後には日の出が徐々に顔を現していた。
雲もなく絶好の日の出日和。コイツとのイベント事は毎度毎度、運が見方しているらしい。
俺にしては嬉しくともなんともねぇ幸運は今年いっぱい続けば良いんだが・・・どうだかな。
きっと砂に足をとられつつも必死こいて手を引く俺の後を追う幸運の女神が居るからこそ嬉しい事も楽しい事も、悲しい事もあるんだろう。
だからコイツを手放したら後は死神が笑うだけだ。まぁ、手放す気なんぞ更々ねぇケドな。
「・・・はっ。アホらしい。」
「んー?何が?」
「なんでもねぇよ。さっさと帰って寝るぞ、馬鹿娘。」
「その前に、新年初の乾杯はいかが?熱燗なら用意してあるよー。」
「やけに気が利くじゃねぇか。」
「あはは。なにより私自信が飲みたいからね。」
「・・・そうだろうと思ってた。」
「嘘嘘。私が望んでるのは、三蔵と、だよ。」
「・・・そうかよ。」
初日の出だかなんだかしらねぇが、俺にとってはどうでもいい事だ。
ただ、ものは考えようだな。俺1人だったら御免被りたい所だが、な。
あぁ頭の中がイカれちまったみてぇだ。コイツとだからなんぞ、口がすべっても言ってやんねぇ。
・・・言わなくともわかるだろうからな。
まったく。冬は外に出るのも億劫だっつーのにあろう事か海辺だと?ふざけんなって話だ。
こうなったら家で待ってる熱燗を飲み干してやる。そうだな、の分は一口で十分だろ。
乾杯して・・・あ?なんか忘れてねぇか?あぁ、そうか。アレだ。新年って言ったら。
「おい、。」
「なぁに?三蔵?」
「・・・あけおめ」
「!・・・ことよろ!」
ちゃんとした挨拶は乾杯してからだ。
新年
明けまして
おめでとうございます
(今年もよろしく頼みますよ!)
+++
1月いっぱいこれで突き通します。ずっと初日の出です。・・・いいのか、それで(よくはないわな)
えーみなさま。昨年は、かなーりお世話になりました。足を運んでくださった方々など本当にありがとうございました。
今年もどーか。えぇ是非。よろしくお願い致します!!
2009.01.01