賑やかな街並みは、俺の神経を逆撫でしていった。

イベント事なんぞサラサラ興味ねぇ。

それに寒いし人混みはうぜぇので最悪じゃねぇか。

なのに何故、世間はクリスマスなんぞ好むのか俺には理解不能だった。


 ――キリスト教徒でもあるまいし。


聖なる夜なんぞ、ただの騒ぎてぇだけのイベントじゃねぇか。





そう思っていた時期が俺にもあった。








「三蔵、25日は開けといてよね!デートしようデェト!」

「・・・あ?」

「だからっ、デェトよデート!!」

「何で態々混み時にでかけにゃなんねぇんだ」

「だってクリスマスだよ!?・・・そんな事も忘れちゃったの?」

「そんくらい覚えてんだよ。引っ叩くぞ」

「じゃあ決定ね!何処いこっかなぁ〜」

「勝手に決めんな!」




俺の意見を総シカトしたは勝手に話を進め、ニヤニヤ笑ってやがる。

何が楽しくて人ゴミの中に出かけなきゃなんねぇんだ。

どっかで言ったような台詞を言ったら、また情緒が無いと怒られた。

何故俺が怒られねばならんのだ。



「やっぱ巨大クリスマスツリーは見とかなきゃ損だよね!」

「よりによって一番混雑してる場所じゃねぇか・・・ざけんな。俺は行かん」

「そしてー、レストランでケーキ食べてシャンパンで乾杯するの!」

「聞け。俺の話を聞け」

「最後はお家でもう一回乾杯して、プレゼント交換!あぁ想像するだけでも楽しみだなぁ!!」

「・・・・・・」



もう何も言えなくなった俺は、仕返しとまでいかないがベラベラと独り言を喋る(そういう事にしておく)を無視してビールに口をつけた。

仕事帰りの酒は一段と巧い。

それにつまみがあればもっと極上なんだが・・・コイツの話はつまみにもならん。

いつもは巧いはずのビールが、どんどん不味くなるのを感じた。



「いい加減にしやがれ。俺は絶対行かんからな。それにその日は生憎仕事だ」

「・・・・・・夜だけでもいいもん」

「ふざけるな。そうでなくとも疲れてるっつぅのに出かけるなんぞできるか」

「そんなぁ・・・折角計画立てたのに・・・」

「俺の話も聞かねぇで勝手に立てるから悪いんだろうが。自業自得だ馬鹿娘」

「うぅ・・・酷い!三蔵なんて嫌いだー!!」

「好きなだけ言ってろ。俺は寝る」

「馬鹿ぁぁぁ!もう知らない!!!」

「あぁ俺もしらねぇよ!!」



不味いビールなんぞ飲めない俺は、まだ中身が半分以上入ってる缶を勢い良く机に叩きつけ、早々に寝室に入った。

無駄にデカイベットの端に横たわり、仕事で疲れていた体を休めると次第に意識は夢の中へと誘われていく。

まどろみの中で脳裏に過ぎったのは、涙を浮かべたの顔だった。



翌日。

朝、目が覚めると横には俺に背を向けたが未だ熟睡していた。

まるで倦怠期の夫婦のようだと思った俺は、気だるい体を起こし仕事へ行く為の仕度をし始める。

いつもは俺より先に起きて朝食の準備をしている筈のは一向に目覚める気配が無い。

それに小さく舌打ちをすると、スーツに腕を通し昨晩と同じく早々に寝室を出た。



「ったく・・・なんだってんだ」



以前は紅葉狩りやらなんやらに付き合わされていたが、今回ばかりはそうも行かない。

なんてったって、大嫌いな人ゴミの中に出かけねばならんらしいからな。

いい加減俺の堪忍袋の尾も切れる筈だ。

それに、アイツだって分ってるだろうに、なんだって仕事で疲れているってのに更なる追い討ちをかけるような事を・・・。



そこでふと、あるものが目に止まった。

それは昨日がメモっていただろう紙だ。

俺の疲労を増幅させる、んな忌々しい物など見たくは無い。

だが、気になるものは気になる。

一度目についてしまったのだから仕方ないとして、俺はその紙を手に取った。



「ハァ・・・・・・めんどくせぇ事しやがる・・・」



そこに書いてあったのは、昨日言っていた事。

それとその下に、書き加えられた文字だった。



『コレはフェイクで、実はお家でまったり過ごす!私ってば策士〜!』



馬鹿だろ。誰が策士だ誰が。

これはきっと一通り書きながら話して更に書いていたのだろう。

俺がキレなかったら後に続いていた言葉である事は明白だった。



「・・・馬鹿は俺か」



俺は計画表と書かれたメモ書きの一番下に「回りくどい」と書き足すと、若干の空腹を抱え家を出た。











+++











「・・・ったく」



重い足を動かし、仕事から帰ってきた俺は未だ寝室に篭りっきりのに苦笑が漏れた。

机の上にあった筈のメモ書きは跡形も無く消え失せており、ドアの向こうからは鼻歌が聞こえる。

家事もサボって何をしているかと思えば、上機嫌でツリーに飾りつけかよ。

ガキみてぇな事しやがってからに・・・と言うか、ツリーは居間に飾るんじゃねぇのか。

どうせ俺が運ぶ破目になるだろう1.8Mの豪華に飾られたツリーを思い浮かべ、今度はため息が漏れた。




「あ、お帰り三蔵!見て見て!綺麗でしょ?今日一日ずっと頑張って飾りつけしたんだよ!!」

「お前な・・・なんで寝室で飾りつけしてんだよ・・・誰が運ぶと思ってんだ」

「ぬぁ!ついつい・・・三蔵?お願い!!」

「ハァ・・・」




心底には甘いと自負する俺は、先ほど予想したとおりの展開を余儀なくされ、飾りを乱さない様に居間へ運ぶ。

まだ気が早いんじゃねぇかと呆れたが、満面の笑みを浮かべるを見てしまい何も言えなくなった。




「晩御飯は出来てるから座ってて!」

「あぁ」

「それと、今朝はごめんね?実は起きてたんだけど・・・最後まで話を聞かない三蔵にムカついて狸寝入りを決め込んでみた」

「それはいい・・・俺も悪かった」

「喧嘩両成敗だね!」

「兎に角飯だ」




元気に返事をしたはパタパタと足音を鳴らし、料理を運んでいく。

今朝読めなかった新聞を広げた俺の視界の端には、いつの間にか点けられた装飾の一部である電球が光っていた。

目障りでもあるが、なんとなく、悪くはないと新聞の活字を追う。

この彩られたイルミネーションは、次第に自然と背景に馴染んでいった。



「今日はイブだから本番の前夜祭って事で、乾杯!」




食事を終え、小気味良くグラスが音を立てる。

中身はいつものビールで、今回はとても美味く感じ気分は最高潮だ。

既にほろ酔いのは酒が弱い為か、一口でも顔が赤付く。

それと共に口からは止め処なく話が紡がれ、良いつまみにもなった。

もちろんの事だが本当のつまみもある。

だが、俺にはの話の方が、食せるものより断然良いと思った。




「あしたはクリスマスだから、早く帰って来てね?」

「あぁ。なるたけ早くする」

「ありがとう。お仕事大変なのに無理言ってごめん・・・」

「気にすんな。別に苦とも思っちゃいねぇよ」

「・・・えへへ〜。三蔵、大好き!!」

「昨日は正反対の事を言っていた気がするんだが?」

「それはもう水に流してよー!もうそんな事言わないから!」

「どうだか・・・」

「あ、そうそう!とっておきのシャンパンが手に入ったの!一杯あるから明日一緒に飲もうね!!」

「それは楽しみだな」










寒い町中を通り、賑やかな街並みを横目に俺は早足で家に帰る。

名物らしい巨大なツリーなんぞ目じゃねぇが飾り付けたツリーと、何処の店より格段に美味いが作ったケーキが待ってんだ。

それに、プレゼントも買った。中身は開けてからのお楽しみだ、バーカ。


クリスマスなんぞに浮かれてる世間はこの寒い中、しかも人が溢れ返っているってのになんて物好きな。

俺もその中に仲間入りすると言うのは、聊か癪に障るが・・・まぁいいだろう。


眩いばかりのイルミネーションに飾られた道なんぞ目に留めず、柄にも無く浮き足立っている俺。

思い浮かべるのは待ちかねているだろうと、用意されたシャンパンで頭が一杯だ。



 ――早く帰って乾杯しようじゃねぇか。



今年の聖なる夜は、確実に俺の考えを塗りつぶしていった。




仕方ねぇから帰ったら真っ先に言ってやるよ。この馬鹿娘。















Merry
Christmas!


(恥を捨てそう言ったら心底驚かれた俺はプレゼントを渡すのをやめようかと思った)













+++

三蔵はイベント事とかに疎いんだけど、ヒロインのお陰でってかヒロインに染まって行くのであった。笑

今気付いたってか後付なんですが、拍手はハロウィンから全部同じ舞台で繋がってる・・・のかな?

この頃普通の短篇より力を入れているような気がするよ・・・。いやぁすまんすまん←

なんか珍しい感じですよね。喧嘩とか、設定が。なんちって。


プレゼントの中身はご想像にお任せしますね!